2024/03/09 のログ
ご案内:「タナール砦」に天ツ鬼さんが現れました。
天ツ鬼 >   
「くく。さぁて、今日はどちらが優勢かのう」

月明かりの下、怒号の響くタナール砦。
隠れて様子を伺っていた女鬼はさて今宵はどちらに加勢しようかと胸を踊らせる。

夜闇に紛れての奇襲。
不意を突かれ、形成が不利なのは人間側か。
相手はおそらく夜目も効くことだろう。このままでは敗走も近いか。──ならばどちらに加勢するかは明らか。

口元に笑みを浮かべ、牙を剥く女鬼が戦場の真っ只中へと飛び込んだ。

天ツ鬼 >  
獲物は持たず徒手空拳。
身に纏うは襤褸布のみ。

突然の怪物の乱入に戦場は更なる混乱に包まれる。

「どおれ!骨のある魔物はおるか!?」

咆哮をあげ、兵士に襲いかかる魔獣を蹴り一つで壁へと弾き飛ばす。
人間の軍が、女鬼をどうやら味方らしい──と、判断するのも束の間。
その場で暴れはじめた鬼の巻き起こす暴風に飲まれるのは魔物だけでは飽き足らず、逃げ遅れた兵士までも巻き込まれ吹き飛ばされてゆく。

「呵々っ、オークでもオーガでも良いぞ。正面から喰らってやろう──!!」

王国側にとって一助となっているには違いない、が…ただただ傍迷惑な乱入者であることに変わりはなかった。
既に暴れはじめた女鬼にとってはそのようなこと、然程も気にするような素振りもないのであるが。

天ツ鬼 >  
拳で殴る。脚で蹴る。爪で切り裂く。
ただただ五体。己の肉体のみを武器として暴れまわる女鬼は否応なく魔物達の狙い目となる。
無論、目立つことは大いに歓迎。
木端の如き魔物なぞは一蹴し、歯応えのありそうな者を探す。

ただの群れによる襲撃にしても親玉が。
そうでなければ率いている何者かがいるはず。

引っ掴んだ魔物を振り回し、数体を巻き込みながら薙ぎ倒す。
あたりに血風が舞い散る中、女鬼の笑みはより深まってゆく。

闘争の欲が満たされれば満たされる程に高揚し、発奮した状態になってしまうのは鬼である以上致し方のないこと。
徐々に敵味方の見分けもつかぬように見え始める、そんな暴れ様に人間の軍は速やかに撤退を始めようとしていた。

天ツ鬼 >  
「フー……ッ…!」

白煙のように荒く吐息を吐き溢し、ギラついた視線で辺りを睨め回す。
最初のうちは片端から襲いかかってきた魔物達も今や、自ら襲いかかってくる者は稀であった。

知性のある者は怖気づき、知性のなき魔物は本能的に恐れ、襲いかかれずにいる。
群れの主は既に危機を感じ逃げ果せたか。
あるいはこの群れをけしかけた者がいるならばまだ様子を見ているのか。

「……ふむ。終わりか? 些か喰い足らぬが」

戦場の中央、堂々と文字通りの仁王立ち。
ところどころ魔物の牙や爪で切り裂かれ負傷してはいた。
しかし辺りに散らばる屍の数を鑑みれば十分過ぎる程の戦果と言えるだろう。

気がつけば砦を守っていた人間の兵士達も撤退しいなくなっている様子。
依然自分を取り囲むように一定の距離を保ったまま動けずにいる魔獣達を睨めつけ、嗤う。

来ないならばこちらから征くぞ、と。

ご案内:「タナール砦」にゲイリーさんが現れました。
ゲイリー > (――ついていない、全く持ってついていない。
 浮かんだのはそんな感想だ。

 紋章院の依頼で紋章官として、自分は敵の魔族の紋章を確認しに来ただけだ。
 危険な場所だから、冒険者としてはフル装備。

 結果として兵士達は敗北し、撤退していた訳だが……

――女の大鬼が、魔物の前に立っている。
  明らかにあの血の気の多い鬼が、原因だ。

 溜息をもう一度零しながら、ゆっくりと彼女に近づく
 ああ、本当に――)

 「――援護は必要無さそうですね、御仁。
  逃げた兵士達に代わって、感謝致しましょう。」

(――呟いた言葉は、鬼の耳にも聞こえるだろう。
 同時に、ゆっくりと歩く。


 一歩、
    二歩、
       三歩。


 彼女へ近づく男の顔は――


             ――唇の端を釣り上げた、笑みだった。
 まるで、酷く楽しいものを見ているかの様な、そんな笑いを浮かべていた。)

天ツ鬼 >  
残った魔物達は鬼を取り囲みつつも、攻めあぐね逃げる隙を探そうとしているようにも見える。
襲いかかる様子のない魔物の群れに、鬼は痺れを切らしたように襲いかかる───寸前であった。

「む…?」

投げかけられた声、耳に届いた男の言葉に女鬼は振り返る。
無数の魔物をやりあった直後とわかる容貌。元から申し訳程度に羽織っていた襤褸布はところどころ裂け、
そこから覗く浅黒い肌にも爪や牙によるものだろう傷が刻まれている。
だと言うのにまったく弱ったように見えぬ女鬼は自身に声をかけ、近づいて来る男の様相をまじまじとその翆の瞳で見据えていた。

「まだ残っている者がおったとはな。
 いらんいらん。感謝なぞもらっても仕方がない」

呟きはひらひらと手を振って不要と示す。
女鬼の視線が外れた隙に、残った魔物たちは背を向け、逃げ始める。
女鬼にとっても、戦わずに逃げるような魔物を背中から殺すことが楽しいとは思わず、それを見過ごし…。

──得物や服装を見るに魔法使いのようにも見える、が。
人間の女から見れば多少大柄な女鬼から見ても見上げるような上背。
肉体に恵まれず魔法を修めたという者には見えんな。と、男を見ながら女鬼は思う。

…丁度一戦が落ち着きクールダウンしはじめていた女鬼でなければそんなことは思わず、見境なく殴り込んでいたかもしれないが。

ゲイリー > (手をひらひらと振るう彼女。
 それに頭をもう一度下げる。

 彼女の問いかけに、訂正をする為だ。)

「いえ、撤退を見届けた後で私は此処に来ました。
 感謝もありますが、一番は――」

(そこで区切る、さてこの感情をどういうべきか。
 別に散っていく魔物を追いかける気は無い。
 逃げるならば逃げればいいのだ。


 ――自分には、それよりも、大事な用事が、出来た。


 だからこそ、彼女に対してはっきりとした声を返す。)

「――これは、私自身の、『私欲』です。
 東方の鬼と、見える機会等は過去の冒険でもありませんでしたし。

 私自身が一度、手合わせをしてみたいと思っていたんです。
 ――落ちこぼれが、頂点の一つに君臨する『ヒト』に何処まで通用するのかを。」

(――魔術師が、鬼に挑む。
 正面から臆面も無く、堂々とした姿で言う。
 それこそ、彼女の知る言葉で言えば臍で茶を沸かす様な言葉だろう。

 しかしその表情に浮かんでいるのは、疑いようも無い歓喜だ。

 ともすれば、自殺志願者とも思える言葉を発しながら。
 『錫杖』が、地面に突き立ち静かな音を響かせる。)

「――これは私の望み、私の我儘です。
 断っても構いませんよ、その権利を貴女は持っている。

 ……後、怪我が気になるのでしたら水薬渡しますけれど。」

(――返答は如何に。 そう、静かな声で魔術師は鬼へ問いかける。
 尋常な挑戦を、彼女に行いたいのだと。)

天ツ鬼 >  
「呵々。撤退を見届けたのであれば我が此処で暴れていることは知っていように。──ふむ」

わざわざやってくるとはもの好きな人間、と言葉を返そうとしたが次なる言葉に女鬼は思案する。
東洋の鬼、が何を差すものかは女鬼自身にはわからないが。
どうやら自分を珍しいと見に来た口か、と。
額に悠然と伸びる角を一撫でし、視線を戻す。

以前、人里に暮らす同族とも出会ったことはあるが、やはりそういった存在は珍しいのだろう。
単なる好奇心であれば、この場に最早要は非ずと去るつもりの女鬼ではあった、が──。
その後に続いた男の言葉は、女鬼をこの場に留めるに十分過ぎるもので。

「──ほう」

ニタリと嗤う。
正面きって挑まれる、それも怪物ではない、人間に。
此方の傷のことまで気にかける様子に女鬼は咲い、それを要らぬと言葉を飛ばす。

「この程度傷のうちにも入らぬ。
 面白い。人間に挑まれるのは久しいぞ。
 相手が戦士であろうと術師であろうと、歓迎しよう」

両手を大らかに拡げ、そう応える女鬼。
互いの間の空気が張り詰めるのは、その直後。
女鬼の笑みの種類が代わり、獰猛な獣のような貌へと変化すると同時。
ビリビリと空気を震えるような緊張感が、膨れ上がる──。
火蓋を切るのは、どちらでも、と。

ゲイリー > (――好奇心?
 否、元より肉体の強弱は元より明確だ。
 再検証するまでもなく、彼女の圧勝である。

 鬼が珍しい?
 是、それもこの様な場所にまで単身来る相手だ。
 その強さは疑うべくもない。

 その強さならば――比べたい。
 脱落者の積み重ねてきたものは、果たして通用するかどうか。)

「――貴女に、感謝を。
 私の挑戦に無謀だと切り捨てず、受け止めてくれた事に。」

(もう一度、礼をする。
 ――戦士であろうと術師であろうと、歓迎すると言ったのならば。

 この相手にこそ、自分の全力を出してみたい。
 まるで子供の様に、何も考えずに、全力で。)

「では、参ります。

 術式:展開――『人体:再定義』」


(――やる事は、簡単だ。
 鬼には遠く及ばない、この身体。


 人 体 の 許 容 限 界 ま で 強 化 す る 。


 必要なのは9892個の魔術式を破綻無く人体に納める事。
 神経の一本、血管の一本、血の一滴に至るまでを強化する。

 脳内で全てが循環する事を確認する。
 式が成立し、回答を出したならば)


「では、征きます。」


(――小さな言葉と共に、飛び掛かる。

 その速度が、音を置き去りにしているのでなければ普通だろう。
 錫杖で上段より、打ち据える動きだ。)

天ツ鬼 >  
「斬り結ぶ前から無謀と嘲る者なぞたかが知れておろう。
 くく。我とて鬼共の中に在れば矮躯も良いところであるしな」

雄の鬼と混ざり並べれば尚の事。
巨躯の雄鬼と互角に渡り合う膂力を持つ女鬼だからこそ、見た目での戦力判断をすることはしない。
そもそも、戦い始めればするに理解ることである故に。

再び一礼する男。
礼儀を重んじる性質なのか。
内なる何かを覆い隠すための姿なのか──。

男の纏う雰囲気が変わる。
その口から紡がれるのは何らかの術を展開する言葉。
女鬼にそれがどのような術か理解する頭はないが、何かしら戦いに必要なものならば邪魔する道理もない。

──程なくして、場が動く。

「──! ッ、疾いな」

その飛びかかり一つとって、人の身がもつ瞬発力を越えている。
しかし鬼の反射神経はそれに十分に反応することが出来た──そう判断した鬼は右腕に力を漲らせ、上段より打ち据える錫杖目掛け、振り上げる。
鋼の肉体、と形容しても良い女鬼の腕がその一撃を弾き返すか、あるいは打ち砕かれるか、それとも。
結果は、男…ゲイリーの繰り出した一撃の威力如何程に委ねられる。鋼すらも打ち砕く一撃ならば、通用して然り故に。

ゲイリー > (自分が使ったこの術は、本来ならば軍勢用のものだ。
 それを、たった一人の人間に『嵌め込む』形となる。

 細胞一つ、血の一滴に至るまで、『個人』を『軍勢』に変える為の術。
 難易度に関しては言うまでもなく、誰かに教えようと思った事も無い。

 元よりこの術式。
 強化で補助した傷つけないと言う、必ずあるであろう保護の式。
 それを全て削らねば成り立たないのだ。

 ――僅かでも躊躇えば、一瞬で身体が耐えきれなくなる自壊を秘めた諸刃の剣。
 制御は全て己の肉体で行う、後は意志で不足を補う。
 意志と気合と根性、足りないものを補うものは三つもあるのだ。

 そこまでして手に入るのは、速度だけか?
 そうではない。)


「受けてくれると、信じていました――!」


(――杖術、と言う技術がある。

 突かば槍、払えば薙刀、打てば太刀。

 杖は斯くにも在らざりけり。


 太刀の様に打つが、残念ながら打ち砕くには至らない。
 本物の鬼の膂力には、身を削ったこれですら届かない。

 だが、人間の力では明らかに出せない膂力を叩きだした。
 受けた彼女の身を、弾き飛ばす程に。


 相手へ向ける。
 右足を軸に左足を踏み込む。
 身を捻る事で自壊しかねない衝撃を逃がしながら、恐ろしい速度で錫杖が翻る。

 両手で持つべきそれを、片手――右手で。
 伸ばすように、弾いた鬼。 その左の足元を『払う』。

 如何に頑健な鬼であろうと、既に破壊力は判って居よう。
 狙うは足首。
 当たってしまえば、砕き得る一撃だ。)

天ツ鬼 >  
激しく打ち合う音が無人となった戦場に響く。
瞬間、弾かれたのは女鬼の身体。
地に足をつけての打ち合いで人間に力負けするなど、まさに久しからずや。

「ぬ…ッッ!」

その人ならる膂力に僅かの間、その翆の瞳を大きく見開き驚愕の表情を浮かべる。
みしりと軋みをあげる己が強固なる腕骨。
打ち砕かれはせぬまでも、その体を大きく後ろへとズラされ、姿勢が揺らぐ──。

揺らいだ姿勢を戻す、その時には──既に相手は次の攻撃へと移っている。
流れるような、美しい身の熟し。
人間が磨き上げる、武器術が持つ独特の美。
女鬼は、その美しき技の数々を尽く力で屠ってきた。
──故に。

「面白い…ッ!!!」

嗤い、腕を振り上げる。
錫杖の狙いの先など気にも留めず。
薙がれるならば薙がれるままに、鬼の剛爪による一撃を繰り出す。
文字通りの肉斬骨断。
己が肉体の頑強さと生命力に防御の全てを任せ、脚が砕けようと攻撃を振り切る──。
自らの細まった脚頸から鈍い音が肉体を伝わり聞こえ──、僅か、大地すら抉らんとするその一撃の狙いは外れるか。

ゲイリー > (文字通り砕く気で打った一撃だったが、しかし届かない。
 自分の力が足りなかった、ならば技巧で補えばいい。

 だが、驚愕を与える事は出来た。

 ――ああ、そうだ。
 自分を見ろ。 自分だけを見て欲しい。

 貴女に届き得る可能性のある肉体で、私は此処に立っている。)

「……し――ィッ!」

(零れる声は蛇の呼吸が如く。
 必殺が来る、鬼の剛爪が来る。


 ――ああ、今こそ生きている。
 生きているなら、這いつくばってでも足掻く――!


 その剛力に基づいた、肉斬骨断。
 当たれば必殺のそれは、外れはしたが――己の左脇腹を浅く抉る。

 痛みに対し、思考で蓋をする。
 苦痛程度には、慣れている。

 故に、この程度は邪魔にもならない。
 衝撃を肉体の動きで逃がして、やや離れて構え直す。

 ――裂けた法衣、そして灰色のシャツは最早意味を為さない。
 舞って落ちた事で、上半身が露わになる。

 その下で露わになるのは、活性化して赤銅色が深紅に染まった肉体だ。

 その右胸にある大きな穴の後は、馬上槍で串刺しにされた時のもの。
 その左首から鎖骨まで伸びたのは、薙刀による両断。
 その右腕を覆う輪の様な傷痕は、剣で両断されたもの。

 無数の傷痕は、魔物よりも明らかに人から付けられたものが多い。
 拷問を受け続けたかの様な、半裸の男。
 ――その無数の古傷が、赤く赫く燃えるように色づいている。

 そして今、左の脇腹を浅く裂いた痕を見もせずに。)

 「――ああ、全く。 これだから、挑むのは愉しいんですよ。」

(あまりに強く、美しい鬼。
 その肉体に全て任せて受ける事すらしなかった。


 その姿の、なんと気高き事か。
 そしてその様な相手へ挑める、自分がなんと幸運だろう。


 ――ついてないと口にしたのは、この本性と向き合わない為だ。
 その意味は最早無い、ひたぶるに力比べをせんと錫杖を再度構え直す。)


「――次手、参ります」


(左半身、そこより左足で踏み込む。
 鬼の身体は強靭無比、なれど人体と似ていると聞き及んでいる。

 破壊力をそのままに、選ぶのは『突き』。
 真っ直ぐに水月へ向けて、錫杖が矢の様に向かう。

 同時に、気付くだろう。
 先程よりも間合いが遠い。
 互いとなる右足での踏み込みよりも順の左足での踏み込み。

 僅か半歩、然れど半歩。
 鬼の間合いを僅かに狂わせながら、その水月を穿たんと伸ばす)

天ツ鬼 >  
「──、くくッ。惜しい、のう」

右足首を砕かれ崩れたバランス。
振るった爪はその肉体を掠めるに留まった。
晒された男の肉体に刻まれた傷痕が否応なく眼に入る。
──唖々。死に近しい闘争を繰り広げてきた雄の肉体である、と。
同じく只管に戦いを臨む鬼には一目で理解る。

「──随分と礼儀正しい仕草に言葉遣い。
 しかしてその内は…、まるで鬼のようじゃな」

ダメージがないわけではない。が。
骨を砕かれることなど闘争に身をおいていればままあること。
狼狽するほどのことでもない、
が…やや斜に構えるは、次なる攻撃に対して、踏ん張りの効く姿勢が変化した為か。

「一々知らせずとも受けて立とうぞ。人間──」

その構えから、真っ直ぐな攻撃が来ることを直観する。
人間が正面から来るのであれば、鬼が正面から受けぬことなどあろう筈もない。
その勇猛を正面から打ち砕かんと、要たる脚を使わぬ姿勢にはなろうが、力を溜める様子が容易に見てとれる。
腕に、腹に、そして脚に。
力が漲っていることが一目で理解る、筋骨の隆起。
そして放たれた、閃光のような一撃。
女鬼はそれを振り下ろす手刀で以って分断する───そうするつもりで、腕を振り下ろそうとしていた。

「───、ッッ、ぐ、ゔッ…!!」

瞬間、漏れた女鬼の埋き。
一撃を振り下ろし、迎え撃たんと背が伸び切った、その腹を。
文字通り、閃光が貫き穿っていた。
易易と…ではなかっただろう。
並の刀剣程度の一撃なら容易に跳ね返す程度の強度はあった筈である。
己の下肢を砕いた力が一点集中された突きであると考えれば、納得の結果である。

「か、はっ…、ぅ… …やる、のう…」

女鬼の口元からは臓腑を逆流した胃液が溢れ、強靭な四肢までが痺れ、力が入らぬ程の一撃であった。

ゲイリー > 「ええ、でも――それしか能が無いんですよ、私はね。
 だからこそ、貴女に挑まずにはいられない。」

(挑ませて貰うのが礼儀であり、彼女に対する敬意。
 だから、そんな小さな言葉を返した。

 若かりし頃は、生き延びる為に必死だった。
 同じ冒険者に生命を弄ばれた事も、数えるのも億劫な程にあった。
 目前の死を回避し続けて、今の自分がここにある。


 そしてだからこそ、この鬼の女性の姿が酷く眩しい。

 自分はこれほどまでに、真っ直ぐに在れただろうか。
 自分はこれほどまでに、真摯に向き合えただろうか。

 竹を割ったよう、と言うべき彼女に笑顔を零す。
 心底嬉しそうな、まさしく子供のような顔。
 抑え込んできたものを、振るって良いと言われた様な。
 心からの笑顔だ。

 故にこそ全霊に応じる彼女に、心から感謝を。
 気持ちを込めて、突く。)

 「……は、ふ……」

(僅かな差。
 間合いを狂わせ、狙ったのは一点。
 無論、易々と狙えるような余裕はない。

 全力で鉄を突いた様な手の感覚があった。
 痺れを全力で抑え込み、逃がす。

 事実として今の一撃で、錫杖の芯が曲がった嫌な感じがした。
 一点に収束したが故に、耐えきれていない。

 恐らくは後一回か二回、そこからは素手しかないか。
 さてどうする、幾つものパターンを考えるも。

 鬼が胃液を零すのを見て、錫杖を引いた。
 告げられた言葉に、頭を下げる。

 賞賛の、言葉。)


「――ありがとう、ございます。」


(――頂点に、自分の練り上げた技を認めて貰えた事。
 それが嬉しくて、素直に告げる。

 同時に、四肢が痺れている彼女に近づいて。
 その身体を、そっと抱き上げる。)


「……では、連れて行きますよ?」


(治療もありますし、と言う。
 勝てた、と言うより認めて貰えた、と言う方が感情は近いが)

天ツ鬼 >  
他愛もなく貫かれたわけではない。
その一撃に、この人間の雄のそれまでの費やした時間、犠牲…あらゆるものを感じた。
まさに鉄の意志。そう在った故に挑めずにはいられないのだと。
その言葉通りの鉄槌だった。

錫杖を引かれ、崩折れる肉体を男が抱き支える。
筋密度の関係か、人の身よりもずしりと重いはずの体躯を、己を打ち据えた男が受け止める。

「──この程度ならば治療は不要。…が、まぁ…勝者の好きにするが良い」

僅か、咳込みながらもそう応え…一時、その身を委ねるのだった

ご案内:「タナール砦」から天ツ鬼さんが去りました。
ご案内:「タナール砦」からゲイリーさんが去りました。