2024/02/19 のログ
イェルド > ――雪が降る。

砦が見てきた守りの情景は常に晴天ではない。
雨であり。曇天でもある。また、嵐に見舞われることだって珍しくもない。
よくあることだ。季節外れの暴風が吹き荒ぶことも、大雪が積もることも。血の雨が降りしきるより随分と穏当だろう。

そして、夜のタナール砦の一角は寒風と雪、そして氷の嵐に見舞われる。
満月というにはいささか足りない半端な月が顔を出し、光を投げ掛ける空自体は晴れている。
上がる火の手は夜陰を焦がすように眩く、資材と貴賤と聖魔も問わぬ命が燃え燻る炎は禍々しい。
だが、そんな光も熱も全て凍えて潰えろ――と。大気が温度を喪う領域が少しづつ、拡がってゆく。
その起点は砦の中庭に立つ一人の姿を中心に生じ、風を渦巻かせる。

「……一先ずはこんなものか。ここまでは事前の取り決めの範囲であったが、さて?」

風に金糸で装飾された白いローブを揺らし、はためかせる姿の風貌は年若く見える。
褐色の肌に長い耳朶をしたダークエルフの青年と思しき姿は、振り翳した手を下ろし、は、と息を吐く。
極端すぎるまでの温度差に陽炎が立つ中庭には、幾つもの姿がある。
人間の兵士が居る。傭兵と思われる姿がある。だが、動けない。足先ごと地面を凍らされ、身動きを取ることが出来ない。
動くことを予め許されたのは、ローブ姿のダークエルフが従えた獣と魔物だ。
青銅色の皮膚をした獅頭羊身蛇尾のキュマイラと、粘液質の表面を照り光らせた肉色の触手の塊と。
彼らは主から注がれる魔力により、氷結への耐性を与えられている。故に凍土に変じた地面に足を取られることも、凍えることもない。
そんな獣が食らい付き。四方に走る触手が貫き。零れる血はすぐに熱を失くし、血を染める。

イェルド > 砦攻めは魔族の一派、一群にとっては狩りであり、娯楽のように扱われている。
盗っても盗られ返す連鎖、その繰り返しは幾度もなく、果てなく続けばその中に何らかの楽しみを見出すものたちが居る。
得た奴隷の数。奪った命の数。指標の例は個々の嗜好を始め、その時その時の内容にもよる。
今回はどれだけ早く砦を占拠し、占有した面積を競う……といったものであったか。
事前の取り決めを記した契約書を思い返すのも馬鹿らしいが、少しでも勝ちたい魔族が声をかけてきた。

それが事の発端。
兎に角広い面積となるだろう中庭を真っ先に占有して欲しい。その代わり捕虜を始め、敵は好きにしてよい、と。
先払いとして積まれた財貨に納得したのだから、已むをえまい。その分の仕事を果たさねばならない。

「ここを陣取っておきさえすれば、文句はなかろう?
 オレとしては満足の行く獲物やら何やらあれば、特に文句をつけようもないが」

魔物たちの動き、働きを見聞きしながら、凍土に変じた中庭の地面に手を付ける。
何事かを呟き、魔力を走らせれば、赤い光が生じる。生じた光は瞬時に奇妙な文様を描き、円陣を記し上げる。
人間たちが使う旗印の代わりだ。何某の信任を受けた魔大公が成り代わり、このエリアを確保したと。
術者がこの場を退いても記した円陣はすぐには消えない。朝の光を受けるか、特定の符牒を知るものが解呪しない限りは。

「……オレの目に適う者、つわものの一つや二つはおらぬのか?」

獲物を食らい、啜り、満足したと云わんばかりの魔物たちを見れば、立ち上がりつつ指を鳴らす。
そうすると、魔物の足元に生じた黒い穴が彼らを音もなく引き込み、彼方へと送り込む。
麾下の魔物を居城へと送還し、白い凍土に残る姿はひとり。退屈げに金色の双眸で周囲を見遣り、声を放つ。

ご案内:「タナール砦」にコルチカムさんが現れました。
コルチカム > ―――ヒタ、ヒタ、地面を踏みしめる足の音。裸足の女が、凍り付いた地面を歩く。
裸足でも、雪でもしもやけにならないのは、魔法の紋様による守りの力故で、靴を必要としない。
主は、靴を履け、服を着ろ、そう言うのだけども、従者は余り望まない、それは入れ墨が見えなくなることが嫌だから。
左の手には、血の色に染まった棍棒が握られていて、右の手には、息絶えた人間が引きずられている。

「主、戦士は居なかった。」

隠しもしない落胆のため息を零しながら、右手に持っていた血袋を、キマイラの方に投げる。
餌が足りなかった彼らに、餌の代わりと、投げたのである。
主に言われた指示を熟して戻ってきた、その間に、強い相手(戦士認定できる人)が居ることを期待したが、居なかった。
只の弱い者いじめでしかない攻撃を繰り返して戻り、それを報告。
主も見て居れば、欲求不満―――暴れたりない様子。
言葉を放ちながら、餌を投げたが満腹だった様子のキマイラ。
そして、それを送還する主、タイミングが悪かった。
死んだ兵士が其処に転がるだけという状況。

「どの程度、此処に居る?」

確か、今回の目的は占領、だったか。
それなら、ある程度の時間は居ないとならない、それを確認するために、問いかける。
細かいことは、覚えてなかった。

イェルド > 凍土を踏み締める音がする。鉄靴、具足の音ではない。裸足が紡ぐ足音だ。
ローブ姿のダークエルフが使役する魔獣、魔物には、魔力供給による加護を与えることで耐性を与えている。
だが、この裸足の女は違う。主からの加護もなく凍傷を得ないのが、予め守りを得ているからだ。
その分だけ、主たる青年は得意とする魔法に魔力を回せる。
服を着ろという命は何度も行っているが、既に諦めた。ほとんど諦めムードと言っても良い。

「御苦労。……つまらんな、居なかったか」

ともあれ、探索も含めて自由にさせていた従僕の女が戻ってくるのを認めれば、労いの言葉を投げ掛ける。
土産というわけではないだろうが、持っていた血袋(シタイ)が投じられくれば、既に遅い。
先に餌を齧り、ひとまずは満腹した様子のキュマイラの送還と入れ替わりとなってしまう。
結果、無造作に地面に転がってしまう兵士の死体はすぐに霜に覆われ、凍土の色合いと大差なくなる。
野晒しになるのと氷漬けになるのは、どちらがましだろうか。腐乱して爛れるよりはまだ、見れたものではあるだろうが。

「……――暁の光が差し込むまでだが、この分だとさっさと引き上げたい処だ、ん……?」

事前の取り決めには、ゲームの大まかなルールと言うべき条項が明記されている。
占領し、確保したエリアは何時何時までに保持せよ、という内容も然り。今回は朝まで保持することではあるが、さて。
この分だと退屈しそうだな、と思っていれば、中庭を囲う砦の中や周囲から、他に滲み出るように生じるものがある。
今回の遊戯の参加者の中には、死霊術士で名高い何たらという魔族が居た。
そんな魔族が手勢とするのは勿論、死体である。現地調達した即製の動く死体から、地響きを挙げて寄ってくるのは巨大な骸骨兵か。
余りの呆気なさ、防備の薄さのあまり、参加者同時の競り合いにシフトしたのだろうか。

コルチカム > 「ああ。此処には、戦士が居ると聞いていたはずなのだが。」

流石に、自分たちのような一流の戦士が居ない……とは思えない。そうだとしたら、主や自分で、此処がもう滅んでいる。
そして、魔族の国というのは実力主義故に、魔王と呼ばれるレベルの存在もいる。
彼等が襲い掛かり、持つ物だろうか、いや、持つ事は出来ない、此処はとっくに魔族の国となっている筈。
だからこそ、このあっけなさが不思議に思える。
その程度の思考は主は、答があるのだろう、何も言わないのなら、それは当然の状態。
自分が何かを言う必要は無いのだろう、と考えていて。

「――――。」

左手に握る棍棒を、背中に。
そして、弓と矢を直ぐに手にする蛮族。
短弓とは言え、射撃武器を扱う程度の知能はある。
射程と言う物は大事だ、先に攻撃する権利を持つという事なのだ。
遠くの方で、立ち上がろうとしていた死霊に対し、弓で矢を放つ。


ヒョウと、風を切り、木製の矢が飛んで、死霊の頭を打ち抜くと、不死であるはずの死霊はそのまま崩れ落ちて動かなくなる。
驚くべきことに、コルチカムの武器は、聖属性であり、死霊などに対する優位を持つ。
短弓を構え、秒で二射の、連射を繰り返し、遠くから、立ち上がろうとする、歩き始めようとする、死霊を打ち抜いて行く。
矢が無くなるまでの間は、それこそ、的打ちのように、淡々と弓を射かける。

イェルド > 「居る時は居るし、居ない時は居ない。
 今日は後者だったのだろう……とは言え、この遊戯もそろそろ打ち止めか?
 兵が枯れず、尽きずとしても――上澄みもいい加減枯れ果てる頃だろう」

王都マグメールに冒険者に扮して足を延ばす、または密かに設営したポータルで転移して逍遥する限りでは、兵が尽きた風には見えない。
冒険者ギルドの幾つかを除けば、それなり、またはそれなり以上の実力者が幾つも見ることが出来た。
それと同じ力量を雑兵に求めるのは酷が過ぎる。せめて気概をとは強請っても、今回の駐留兵や騎士たちには見るべきものだなかった。
占領に手間取らないのは良いにしても、強者を望む心理としては運が無かった。そう思わずにはいられない。

骨がある雌ならば、持ち帰り手籠めにする――という心理を突くのかどうかは知らないが。

「……あからさまな嫌がらせだな。全く、その内話でもしに行くか」

死霊、または死体の雑兵が湧いてくる。
個体として文字通りに骨があるものも見えないわけではないが、ただただ数を寄せてくるのは余興、ないしは嫌がらせのつもりだろうか?
そんな内心をダークエルフの青年は、面倒だ、と言わんばかりの顔つきで露骨に表す。
だが、死兵を寄せてくる指し手は一つ失念している。魔獣以上に重用する若き魔大公の従僕の得物は、死したものによく効くのだ。

棍棒を背に回し、弓に番える矢が放たれれば、射抜かれた死霊が崩れ落ちる。
淡々ととはいえ、短弓の売りの速射が続くなら、近寄ってくる死霊、または死体の雑兵のほとんどが動きを止める。
この呆気なさは恐らくは威力偵察、ないし露払いのつもりだろうが――さて?
首をひねりつつも青年が手を挙げ、ぱちん、と指を鳴らす。奔る魔力が無数に細く分かれ、女が放った矢と繋がる。
続く光景は、糸のように分かれた魔力が矢を捕まえ、引っ張ってゆく。その先は矢筒だ。
矢の損耗、破損状況は戻せないが、これで矢のほとんどは拾う手間もなく回収できるだろう。

コルチカム > 「屹度、魔王クラスが居るはず、だ。此処に何時も常駐しないのだろうな。」

この場所は、奪い奪われしていると聞くし、その奪う方に参加することも多々ある。
そして、奪う事が可能な時も有れば、撤退するときもある。
そんな時には、決まってここには何某かが居るのだ。
戦士と呼んでいいレベルの兵隊とか、竜騎士、とか。
師団長と言ったか、そのクラスの、上位の魔王クラスの人間が。
時折、何を考えているのか、他の魔族が邪魔をするが其れは其れとして。
判らない。大事なら護ればいいのに、護ろうとしているように思えないのだ。

「主、これじゃ暇だ。」

主の魔法が矢を回収してくれる。
本数を気にしなくてよくなるから、連射速度も上がるし、命中もあがる。
しかし、だ。
命中するにしても、当たり所が悪く、矢が折れてしまったり矢羽根が削れる時もある。
そうすると、自然と矢が目減りするし、ヘタった矢は、確り命中もしなくなる。
近づいてきた所で、棍棒で殴った方が、長く早く大量に処分することができるのだ。
弓の練習と考え、もくもくと連射速度を速めて打つ。
終わりがなさそうな連射は、本当に退屈を感じさせて、欠伸を一つ。

イェルド > 「いつもそうだったら、オレも楽しいのだが。
 ……今がそうじゃないのなら、そうなんだろう。全く、間が悪い」

臨む戦いが常に無敗、連戦連勝ではない。敗北もある。快い敗北も苦い大敗も。
そういう時は往々にして英雄、あるいは魔王に匹敵する何かが此処に立つ。
その最たる例が師団長と呼ばれるものであり、一部の冒険者や傭兵、その他もろもろの綺羅星である。
或いは同格もしくはさらに上位の魔王、爵位持ちといった魔族であることも多い。
だが、この砦に攻め入るときに、常に思うことがある。
無駄に兵が死ぬのも、守る側はいつものことと慣れていないか、マンネリと化していないか、という感想を。

「喜べ、コル。見てみろ。どうやら多少は楽しませてくれるようだぞ?」

都度矢を回収すれば、まるで永久機関さながらに無限に近く射かけることができるだろう。
だが、無限ではない。矢は消耗品だ。弦もまた然り。鏃が破損したり、当たり所が悪くて折れたというのも生じる。
次第に黙々といった作業になりかけたのを、向こうが売れ居てくれたのかどうかは――分からないが。
砦の一角を突き破るように、石やレンガの破片を撒き散らし、現れてくるものがある。
およそ5メートルくらいはあろうか、と言う巨躯のヒトガタである。
白目しか見えない目に禿頭に申し訳程度の衣を着せた巨人だが、所々が腐乱し、白骨が見える箇所がある。

巨人の死体を再利用した、という類の兵だろう。
従僕の武器の属性は効くにしても、元々は頑丈な躯体は聊か骨が折れるだろう。
そう思いながら、ローブ姿のダークエルフは手を翳す。ぱちん、と指を鳴らせば、総身を氷が覆って爆ぜる。
刹那、変じる色は白から黒銀。ローブから鎧へと装いを変えた青年は、腰から剣を抜きつつ女の傍まで進み出る。

コルチカム > 「狩りは好きだが、戦は良いが。
 弱い者いじめは、戦士としての誇りが許さない。」

勝つ事もあれば、負ける事もある、勝てば喜び、負ければ鍛錬する。
生きていれば、それで良いのだ、負けても、生きていれば、良いのだ、と戦士は考えている。
だからこそ、魔王クラスにでも、食らいつくように、暴れる。
戦いは、楽しく、純粋にワクワクできて、だからこそ、戦いたい。
競い合うのと、同意着、なのである。

「その程度、としか言ってないぞ、主。」

多少という表現な事態、主は鼓舞していることを理解する。
本当に楽しいのならば、主の方が嬉々として前に出るから、だ。
それを言い返しながらも、大きさから弓のダメージでは威力が足りないと知る。
アンデッドでは、痛みでの元帥はないから、殺すか殺すか、浄化しかないのだ。
弓矢では流石に足りないので、棍棒に切り替えた。

ゾンビで、骨がむき出しというならば、スケルトンと同じように足を折る、腕を折るの順で良いだろう。
左手に棍棒を握り、ぎり、としっかり握りしめて。

「さて、暇つぶし、だな。」

そう言いながら、主に先行し、まずは足を折る様に。
蛮族は、戦いに入っていく―――。

イェルド > 「狩りは生活だからやるが、戦いは止むを得ずやるものだ。
 どうせ嫌々ながらと覚悟を迫られるなら、――派手で楽しくなきゃ駄目だ」

領地たる闇の森は良きも悪しきも等しく懐に呑む。そこに住まう闇のエルフは混沌とした森との付き合い方をよく知る。
森を庭師の如く剪定し、整えるのであれば、適度な狩りは生活の一部となる。
まして、直轄の牧場に住まわせる獣、奴隷を食わせるにも、狩猟は必要だ。農耕栽培だけでは滋養が不足する。
無駄な戦いはすべきではないと識者は言うが、魔族同士の抗争はそうもいかない。
舐められたら実力行使を以て報いるしかない。だから、戦いが起こる。
そんな戦いは鬱々としながらやるべきではない。勝てるものも勝てない。だから、楽しく、愉しむに限るのだと。女の主たる青年は嘯き、嗤う。

「おっと、口が滑ったな!だが、潰しがいがないより、在ることに感謝を捧げてやろう。滅びを以て!」

見抜かれているな、と。従僕の言葉に苦笑交じりながらも笑い、黄金の剣を片手に提げて歩き出す。
従僕の棍棒の打撃か。それとも、剣撃を以て動きを止めてからか。どちらでもいい。どちらでも、多少は歯応えがあるだろう。
巨大な敵というものはそんな楽しみ方がある。技巧に凝る魔法戦より、白兵戦の方が歯応えがあって楽しめる敵だ。

先行する姿を認めれば、一呼吸遅れて鎧姿が続く。
楽しみ、或いは惜しむように巨人のゾンビと刃を交え、倒せば近くで様子を見ていた術者に問い詰めついでに刃を向けただろう。
説教か。偶々女だった術者を二人がかりで犯し、愉しんだかは――やがて来る夜明けのみが知る。

ご案内:「タナール砦」からコルチカムさんが去りました。
ご案内:「タナール砦」からイェルドさんが去りました。