2024/01/21 のログ
ご案内:「タナール砦」にクレイさんが現れました。
クレイ > 「……これは……なんというべきか」

 彼は非常に長い間戦場に身を置いてきた。それこそ経験してきた場面は並大抵の人間には負けない。
 しかし、しかしだ。いくら彼でもこの状態は初だった。いや、普通はあり得ない。

「……」

 ちらりと中庭に目をやる。魔族がいる。ちらりと廊下を見る。人族が歩いている。
 こうなったのには理由がある。つまりは……超大規模な激突だ。人族側にも凄まじい大軍が控えている。魔族側にも凄まじい大軍が控えている。しかし双方が双方、保身に走る大将だった。
 その結果、こうして先方部隊が砦に送り込まれたものの、お互いがお互い理解してしまっている。これは勝った方が負ける戦だと。
 もし魔族が先に手を出したとする。そうしたらそれを口実に相手の戦力を報告されさらに大軍に膨れ上がった人族が攻め込んでくる。そうなっては魔族は砦を占拠した所で壊滅させられるし、後衛に控えている魔族部隊は損耗を恐れて出てこない。砦に残された魔族は壊滅するだろう。
 人族が手を出した場合、全く逆の構図になる。

「……なんだこれ」

 その結果、がっつり戦争中なのに砦の中は戦う気0という不思議な構図が生まれる。実際これは彼が魔族から聞いた話。
 たぶん砦に送り込まれたお互いの大将クラスが優秀で逆に本隊を指揮する大将が役立たずなのだろう

クレイ >  
「まぁ、俺は良いんだけどさ」

 こいつは別に魔族に偏見なんて無い。ただ襲い掛かってくるから攻撃するだけで、相手に敵意が無いなら普通に仲良くする。部下に魔族だっているし。
 というか、内容に問題が無ければ別に魔族からの依頼だって普通に受ける。
 なのでこの男にとってはこの状態は別に恐れる事でもない。というか、人族同士ではたまにある。協定をした訳でもないのに色々な要因が重なって現地で休戦になるというケースが。
 休戦が突然終わる場合もあるが、大体の場合は”そもそも戦い等無かった”という結末に陥る事が多い。
 結局誰だって死にたくはないのだから。今回もそうだろう。時間が経てば双方の本隊が撤退する。そうすれば砦を叩く必要がなくなる。つまり尖兵として送り込まれた彼らは”戦闘したが砦の奪取には至らず”そんな結果を双方に報告する事になる。
 場合によっては兵に被害を出さない事を前提にどちらかの無血開城もありえる、というかこの方がお互い嬉しい。
 砦を手に入れた側は被害0で砦を奪ったと報告できる。砦を明け渡した側は砦は奪われたが人的被害は0と報告できる。どっちも大戦果を報告できるのだ。
 どちらにしても傭兵である自分の領分は終わった。

「どうするかな」

 クアーと欠伸をする。こうなると今度は退屈が襲い掛かってくる。不謹慎だが、完全に場内の空気は戦争ではない。

クレイ >  
 そうして不思議な休戦は続いた。その結果がどうなったのか、それは闇に葬られる。
 それを知っているのはこの戦場に居た当事者のみ。
 とりあえずひとつだけ確定しているのは……この戦場。お互いの上司がこう報告を受けた。
 当方に被害なし。

ご案内:「タナール砦」からクレイさんが去りました。