2024/01/08 のログ
ご案内:「タナール砦」に影時さんが現れました。
影時 > ――数が唯押し寄せるのは面倒だ。

表沙汰になる戦いもそうでない戦いも色々と経験してきたが、一番面倒な状況とはおのずと決まってくる。
止め処なく敵が押し寄せてくる、という状況だ。
何らかの切れ目、途切れるタイミングが見えてくれば小休止、一休みすることも出来なくはない。
だが、ただただ雑兵が押し寄せるというのは、長く続けば続く分だけ言葉もなくなってくる。

「いい加減、途切れてくれねェもんか……な!」

煙に曇る寒空の下、差し込む日光に照られるタナール砦。その壁面の上を駆ける姿のひとつが愚痴のように零す。
壮麗な鎧に身を纏った騎士でも杖を掲げた魔法使いでもない。顔の下半分を覆面で隠した男の姿だ。
その手が振るう刀が閃き、壁を上り切りかけた亜人の首を刎ねる。
首が地面に落ちるのを見届けることなく高く跳び上がり、次に刀を振るのは飛来したワイバーンの胴。
ワイバーンは乗り物でもあったのだろう。落ちてくる乗り手らしい姿を見溶ければ、着地しながら左手を振ろう。
空中にある魔物らしき乗り手の額、喉、胴に、続けざまに十字状の刃物が突き刺さり、命を奪う。

一連の動作は素早く、残心と共に周囲を見回すさまは淀みない。
だが、それでも魔族の国側に面した壁面に押し寄せてくる魔物の群れは絶えない。斬っても斬っても尽きぬ、とばかりに。

影時 > 「地形を変えるか? ……あー、いや、……あンまりやりたかないが、やっちまうか?」

駐留する騎士やら軍師やらに聞けば、何か腹案でもあるのかどうなのか。
分からない。聞きに行くのも考えるが、無理だろう。ここは誰かが抜けるだけで其処に穴が出来る状況だ。
小川に土や砂利を投げ込んで、一時的に堰き止める遊びを考えてみればいい。
川の流れは止め処ない。堰き止めれば水は溜まり、堰に少しでも穴が開くだけで決壊するだろう。
今この近くに派手に大群を吹っ飛ばせる者でも居るのならば、この状況は多少はマシになるかもしれない。

――居ないわけではない。

ただ、遣った後を考えると何かと面倒臭くなりかねないのが、引っ掛かる。この場合の術は何があるか?
手持ちの火薬を全部使って吹き飛ばすか? いや、それでは駄目だ。敷設と着火の手間を皆無に出来ない。
道具で駄目ならば、術だ。道具で対処できないことを求めるのが術である。
近づく新手を切り伏せれば、刀にまつわり付く血を振り払い、一旦刃を腰の鞘に納める。そうして自由になった手を構える。

「……――土遁、でいいか。土塁返しの術。」

戦場で事欠かないのは火であるが、土は世界のどこにでもある。それを使わない理由は無い。
ぱ、ぱ、と連続して指をくねらて印を組み、氣を走らせる。ぱんと踏み締める石床に手を叩きつければ、壁の下の地面が震える。
そこの土が震えて盛り上がり、波打ち、ひっくり返す。押し寄せる魔物の群れを埋めて、即席の土塁と堀が出来上がる。
土塁と堀が出来れば、その分だけ進行速度が鈍る一角が生まれ、矢玉や魔法を射かけ易くなる。

影時 > 「火よりは目立たなくて良いなァ、やっぱり」

火も水も同様に扱えるが、土はよく使う。よく術の起点とする。この大地で生きる限り何処にもあるからだ。
術者の認識としては派手な部類だが、効果や見た目は地味そのもの。だが、それで良い。
如何に見た目が派手であったとしても、用を成さねば意味がないのだから。
二度、三度と同じ術を重ねる。半円形の土塁と堀が放射状に連なり、拡がる。
かくして進軍を遅滞する一角が出来れば、そこに射線が集中したのが幸いしたのだろう。

「……ようやく休めるか。ったく」

敵軍も愚直な進軍が意味がないことを悟ったのか、損耗が増えだしたのを今更ながらに気づいたのか。
未練がましげな所作を垣間見せながら、魔物たちが退き出してゆく様に眉を上げて息を吐き、暫し注視する。
ありありと目にわかり始めた撤退の光景を見届け、距離が開けてゆくと、やれやれと肩を上下させよう。

影時 > 「……一端中庭にでも降りるか。悟られるとちぃと面倒だ」

さて、少しでも落ち着きと安息が得られる頃合いとなれば、ありありと残る痕跡の詮索が始まるだろう。
戦のざわめきが静まり、別の騒がしさが生じ始める様子に纏う羽織の下に手を伸ばす。
羽織の下、腰裏にある鞄より、ずるり、といった風情で取り出す茶色いフード付きローブを頭から被ろう。
この格好で砦の中に降り、小休止やら手当てを始める姿に紛れてしまうとしよう。

少なくとも、仕事はまだ終わらないだろうとも思いながら――。

ご案内:「タナール砦」から影時さんが去りました。