2023/08/27 のログ
ご案内:「タナール砦」にラストさんが現れました。
ラスト > (砦の奪還、意地は、己にとって何の意味も無い
同盟を結んだ魔族の軍、其の約定に従って協力して居るだけの事だ
故に、只進軍するだけでは無く、其の戦闘を自領の兵の訓練とみなして居る
戦術理解度を上げ、胆力を育て、戦場と言う物に慣れさせる為の

だが、今回は少し事情が異なる。
砦を奪還する、と言う目的以外に、軍から要請された事
――囚われた魔族の、奪還。)

「―――――……小手先の戦術は執らん。 一瞬で終わらせて良い。
目的は囚人や奴隷の確保だ。 敵の逃走は放っても良いが、輸送部隊は徹底的に潰せ。」

(突如現れた無数の魔兵達、その後方にて、示した号令
"演習"では無い――目的を持った戦争、そして蹂躙で在ると

――其の言葉に呼応する、最早歴戦と鍛えられた魔軍が、動く
波濤の様に、全てを飲み込み蹂躙する、災害と化して、砦へと襲い掛かった

敵も馬鹿では無い、此方の襲撃に気付き、直に防衛体制を取り始めるだろう
だが、其れでも――戦力差は明らかだ。 何時も通りであれば。
何事も無く、何時もの様に戦いが終わりを迎えるか、否か
其れは、直ぐに判る事だ)。

ご案内:「タナール砦」にユンジェンさんが現れました。
ユンジェン > ──いつもと異なる事態が、発生した。
軍勢の殺到する砦が、自分から城門を開いたのだ。
彼我の戦力差を考えれば、城外での迎撃戦なぞ一考の余地も無い選択肢。
最善とは言えないまでも籠城を続け、王都からの援軍に一縷の望みを──というのが、人間側の選ぶべき戦術であろう。

城門の先に居たのは、人間の軍勢ではなかった。

それは、軍装ですらない魔族の群れ。
タナール砦や近辺地域で捕らえられ、王都へ送られる筈だった筈の者達が、人間から奪い取ったのだろう雑多な装備を身につけていた。

「この砦は落とした。……けど、守るには向かない場所。
 早々にこの地は放棄して……拠点は別なところに作ります……が、その前に」

そして、軍勢の先頭には。
ただひとり、専用の武装として誂えたのだろう大ぶりの得物を手にした少女。
魔力の類いは感じ取れぬ、ただひたすらに頑丈で重いだけの複合斧槍を、彼女は箒のように軽々と振り回し。

「ちょうど良かった……私はユンジェン。
 あなたと……あなたの軍勢を、私に引き渡してはくれませんか……?」

ぴたり。
磨かれた刃の先端を、遠方に立つ貴方へ向けた。

ラスト > (――以上に最初に気付いたのは、先頭を走る魔族であった
砦である以上、其処に魔族の、同胞の魔力を感じられるのは当然だ
だが、扉を開けて出て来た其の先、自らに相対するのが
同じ魔族の気配である、と言う事に、僅かな困惑が奔った

軍勢の気配を察知し、遠方を凝視する
まだ、接敵までは僅かに距離が在るが――困惑によって、進軍速度が僅かに遅れている
始めは、人間側が捕虜や囚人を人質に取り、肉の盾として運用し始めたかと考えたが。)

「――――――……先客が居たか。」

(――人間の軍では無い。 其れが、第三勢力であると。
"人間の気配"が僅かも残って居ない事で、勘付いた。
片掌を振る。 軍の侵攻を一度停止させ、距離を取らせる
遅れて姿を現した、同胞では在る筈の娘、其の姿を捉えては

――ゆっくりと、前へと進み出て行く。
側近や兵達が、危険だと掛ける声を片手で制しながら。)

「――――――其れで軍門に下る輩が、これまでに居たのか。」

(一蹴。 相手も、其の要望が通るなどと欠片も思っては居まい。
次第に、警戒を続ける軍の先頭にまで歩み出れば。)

「魔族の奪還が目的だ、其れが適わんのなら、貴様に用など無い。
――――本来なら、な。」

(――そう、事を構える意味など無いのだ。
横槍が入った、と言う理由で、軍には言いつけて置けば良いだけ
ならばあとは、全軍を其の儘退却させるべきだ。 将であるならば。

だが――そうはしなかった。 其れだけでは済まなかった。
女が発した、其の名が。 ――捨て置けぬ物であったが故に。)

「―――――……欲しいのなら、奪って見せろ。
……奪われる覚悟が在るのなら、な。」

(其れが、娘に対する返答。 ――力で捻じ伏せるのが魔族の流儀だろう、と)。

ユンジェン > 接敵。雑多な装備の魔族達は、特に身構える様子も無かった。
魔族同士では軍勢の争いにはなるまい──と言い含められていたからであろうか。
或いは最低限の武器だけ持ったまま、相手方の軍中に見知った顔を見つけてか、歩み寄る者さえもいた。
その一切を少女は統治しない。
野放しにして、ただひとりの敵だけを見据え、進み出た彼の方へ歩み始める。

「いいえ……生憎と言葉の通じる方が少ないようでして……。
 ですから仰る通り……叩いて、組み伏せ、犯して奪う。そう、してきました」

人間の騎士などからすれば、遠すぎる間合いで立ち止まる。
高位の魔族同士の戦いであれば、既に互いの射程距離の内だろう。

「欲しいものはたくさんあります。グレイゼルの土地も、兵も……。
 ……あなたは、どうです。〝奪われる覚悟〟があれば……こんな小娘ひとりにムキになることもなかったでしょうに……」

いつでも開戦し得るその位置で、少女は整った顔立ちを、品良く微笑ませて、言う。

「……宝冠の使い心地は、なかなかに良かったですよ」

ラスト > (動揺の中で仕掛けたとて、真っ当に兵は動かぬ
其れを熟知しているからこそ、此方は兵を軍令として留めた
もし、相手が動くのならば、話は変わろう
明確な戦端は、動揺を消す。 其れが敵であるならば、刃を振るえるのが己が兵だ。

二軍の狭間、僅かな間隙に、将であろう二つの影が相対する
此方を挑発でもする様に言葉を選び、投げ掛けて来る娘を
ふ、と、何処か愉快な物を見る様に、口元へ弧を描き。)

「―――……当然だ、悦い女だろう、あれは。
十全に愉しんだ様だとは聞いて居る。 ……だが、勝者の権利だ。
其れを一々咎めはしない。 戦場とは、そう言う物だからな。」

(――仇討ち、復讐。 そう言った物を予想して居たのだろうか。
だが、其れは違うと、否定しながら嗤って見せる。
己が、立ち去らなかった理由は、そうでは無い。
例え彼の時の王冠が、魔力が底を尽く程の衰弱から回復したばかり
決して万全では無かったとは言え、其れを打倒し得る程に強き存在を――)

「――――暇潰しくらいには為るだろう。 貴様ならな。」

(――楽しみにして居たのだ。 期待して居たのだ。
闘争の渇きを、僅かでも癒し得る存在に

空気が変わる。 ぱちりと、乾いた周囲に静電気の様な破裂音が混じり出す
其の場から動く事は或るまい。 ただ、娘を見据えた儘に佇みながら
――来ないのか、と、一言を投げた)。

ユンジェン > 「……ふむ。激昂して飛びかかってきてくれたら……楽、だったのですが。
 人間相手の戦ばかりしていると……どうにも、同族相手の勝手を忘れますね……」

数歩、歩を進める。
腕を伸ばして得物を振り回せば、切っ先がちょうど届く、長柄の兵の為の間合い。
瞬き一つの合間に眼球を左右に動かし、大気に混ざる破裂音の原因を探ろうとして──止めた。
一目見て判断の付かないものは、何かが起こった際に都度対応すれば良い。そう考えた。

「では。……暇を感じる脳を、まずは潰しましょう」

そして、動いた。
魔力の変動や集束の気配は無かった。……魔術、魔力による肉体強化、その類いの発動は皆無。
適切な間合いより更に一歩、風をも置き去りにする速度で直進する少女。
初手。
膝。
前身の勢いそのままの飛び膝蹴りは、鍛えられていない人間相手なら、兜ごと首を跳ばす刃の如きものだ。
人間相手には使わない技──一撃で殺してしまっては、後の楽しみが続かない。
これで死なない相手と分かっていればこそ存分に。
戦闘狂と呼べるほどではないが、この少女も十分に、戦そのものを好む生き物である。

ラスト > (――挑発に易々と乗せられるなら、当に死んで居る。
我を忘れた者から、一歩死に近づくのが戦場と言う物だ
特に、判り易く此方を乗せようとして来るのだ、判らぬ筈は無い
故に、先手に対して、奇襲と言う様相には為らぬであろう

――放たれた膝蹴り。 突進の勢いを僅かも殺さぬ其れは
只愚直に速い、其れ故に、術を知らねば避ける事も、防ぐ事も出来ずに首が飛ぶ
だが――其れは、其の攻撃は本来、あくまで相手が”対処を迷う”事を期待した一撃だ
判って居れば、術を知って居れば。 ――其の膝頭を、横から片掌で払い除けて矛先を逸らし。)

「――――……では、俺も狙わせて貰うとしよう。」

(――刹那、女の眼前に一瞬、閃光が爆ぜる。
感覚に長け、観察眼の鋭い女であれば其の一瞬、奔る魔力と
術式の構築すら無く、其の魔力が直接、雷へと変換されて弾けるのが感じられよう

問題は、其れを知覚出来たとて、避けられるかは別と言う事
直撃すれば、脳髄に奔り抜ける電撃が、女の意識を飛ばしかねぬ
雷か、或いは魔力其の物かへの、耐性の程も影響はするが

――確かなのは、この男が。
戦いを愉しみこそすれ――一瞬で終わる事を、惜しむ類では無い、と言う事だ。)

「――――奔れ。」

ユンジェン > 先手を取った一撃の速度がまだ鈍らず、落下にも転じるより、先。
周囲の大気に変化が発生する──それがなんであるかを言語化し理解するほどの時間は無い。
咄嗟に行った行動は二つ。
左肘に目を埋めるような形で、左腕で頭部を庇ったこと。
両脚を開き、男の首へ巻き付ける──組み討ち術の絞め技のような形で、彼我の固定を図ること。
爆ぜたのは、その次の瞬間だ。

「──っ!」

ぱぁん、と音を聞いたような錯覚。頭部を撃ち抜く雷撃は、脳がある生物全てに等しく有用だ。
この少女が魔族でなければ──十分以上の魔力量を所有し、他者からの干渉に耐性を保たなければ、その一撃で終わっていただろう。
一瞬、思考が止まる。一瞬というのはつまり、このレベルの戦いに於いては〝十分に長い時間〟だが──

「なる、ほど」

両脚に力が込められる。彼の首を絡め取り、そのまま軋ませ、へし折る為に。
この動きは、思考ではない。技術行使を反射のレベルまで引き上げた反復、修練の成果だ。

「これ、は、防げない。……私の技と、違って。
 でも。……組めば、私、が」

脳への衝撃がまだ抜け落ちないからか。言葉は辿々しい。
かろうじて閃光から庇った両眼ばかり、愉悦の色濃く貴方を見る。

ラスト > (己が力を知らぬであろう女にとって、其れこそ奇襲
其の上で行われた一瞬の対処は――判断力で済む速度では無かった
身体に染み付いた物、弛まぬ鍛錬の先に積み上げられた技
只の魔族が、己が王冠を組み敷くなぞ出来る筈が無い

この一瞬に詰め込まれた、女の"強さ"は、確かな物
雷撃を耐える程の恵まれた素養を、決して無駄にせぬ努力の跡は本物で在ろう
首筋に巻き付く女の両脚が、呼吸を、血脈を締め、骨すら折らんと力を籠める
其れこそ、女が万全で在ったなら、もっと有効な状況であったろう

――だが。)

「―――――違う、な。」

(――絞められて居る筈の男から、声が漏れる。
同時に、両掌が、女の胎と、女の首裏を共に捉えんと触れるだろう
刹那に、気付く筈だ。 怖気立つ様な、危機感を。

中空にすら発生させる事が出来た雷撃は、魔力が変換された物
触れる事無く放たれた其れが、今、触れて居るこの状況ならば、如何なるか
女が組みついたこの瞬間、女は自ら、回避と言う選択肢を手放したに等しい
首を折るよりも早く、逆に掌が、女の身体を掴み取れば

――ばちり、先刻よりも更に苛烈な、破裂音が鼓膜を揺らし。)

「――――……遡れ。」

(両腕より、直に流し込まれる魔力が雷撃へ変じる
空中に弾けた一瞬の閃光では無い、其の身体を遡り続ける、苛烈な電流
一瞬の雷撃に対しては抵抗が適った女の身体は
果たして、流れ続ける雷に対しては、どれ程耐え得るだろうか

ぐぅ、と、締め上げる両脚を引き剥がそうと力が籠められる両腕
だが――女の身を払いのけようとはしない。 あくまで――両の腕に、捕らえ続けようと)。

ユンジェン > 思考の速度では間に合わない。経験則、反射、身体能力に任せた戦い方は、獣のそれとも共通点を保つ。
道具を掴む手を所有し、道具を扱う技術を学ぶことのできる獣だ。
その獣が何故──近接戦闘の間合いで、その右手にある得物を用いない?
……ひとつには、白兵戦を相手が避けて後退したら、その追撃の為──と図っていた、というのもある。
だがそれは飽くまでも、初手に選ばなかった理由でしかない。
では、現在は?

「いいえ、なにも──なにも、違わない」

ハルバードを保持したままの右手が動いた。
振り回すのではない。刃で突き刺すのでもない。少女はただ、自分が捕らえた獲物の身体に、その金属の柄を触れさせただけだ。
……次の攻撃は想定できる。ただ、対応する術が無いだけだ。
対応できないなら──この武器は、武器としては使わない。

「我慢比べ、と……参りましょう、か……?」

そう囁いて、少女は艶やかな笑みを浮かべた。

──ばぢん!
強烈な電流が直に肉体を流れ、身につけていた金属が火花を飛ばし、破裂音を炸裂させる。
或いは落雷の直撃の方が、まだ幾分か手緩いだろう。あれは地面に抜けていって、もう戻っては来ない。
この雷撃は、いつまでも続く。術者である貴方が手を緩めない限り。
……いつまでも。少女の身体を駆け抜け、金属製の得物を伝い、ふたつの肉体をひとつの回路に見立てて。

「ぎ、ぐっ、く────は、あは、はははっ、は、はは……!
 にげ、るなよ、グレイゼルの王──!」

殊更自分の無傷を主張するような、空元気の哄笑。それもきっと、長くは続くまい。
そう遠からずこの笑声も、脚に込められた力も尽きる。だが、それまでの間──
万力の如き両脚は、首の肉も血管も骨も、纏めて潰して切断せんとばかりに絞め上げる。
巨大な金属を通じて両者の肉体を駆け巡る雷撃は──術者と対象という差異こそあれ──互いの力を削り続ける。
この誘いに乗ってしまえば、つまりは少女の言うとおり、我慢比べだ。……どちらが長く、意識を保てるか。

ラスト > (――電気を発する魚や獣が存在する
自らの魔力で、或いは進化の収斂によって、電撃によって身を護る其れらは
されど、自らの雷には焼かれないのか――?

応えは、是だ。 自らが発した電撃によって、其れらは自らもまた焼かれ得る。
故に、女が、自らをも犠牲に仕掛けた其の勝負は
数ある選択肢の中で、決して悪い選択では無かったのだろう
電撃の直後、刃が触れる。 金属を通じて、自らの放った雷撃が逆流するのは
自然の摂理としては何も間違っては居ない、当然の結果だ

もし、閃光の一撃を食らった瞬間から、其の一手を思いついて居たのなら
掛け値なしに、その発想を、知識を、判断力を、賞賛すべきだろう。)

「――――――……悦い狂い方だ。 ……応えて遣る…!」

(嗚呼――故に、嗤うのだ。 女には見えぬだろう、だが、締め上げられて居る其の中で
確かに、獣の如き鋭い瞳が、女の姿を見下ろして居た筈だ

――雷撃が瞬間、強さを増す。 自らに逆流する雷が増そうと関係が無い
刈り取らねば、この女は何時までも、しぶとく耐え忍ぶだろう
とは言え、雷撃を止めれば別に何の事は無い
勝負に応じず、力一杯其の身体を地面に突き刺せば、其れで済むと言うのに

――応じたのは、刹那。
勝利を、と、誓った己が王冠の姿が、過ったからやも知れぬ。)

「―――――……見せて遣ろう…王冠を戴くと言う事が、如何云う事かをな…!」

(雷撃が、大気を裂き、閃光の柱と化す
立ち昇る膨大な魔力に、グレイゼルの軍は側近の指示で距離を取る
巻き込まれては――命すらも、燃え尽きかねぬ其の光が、収まった時

勝敗は、決して居る筈だ

――電撃を放つ獣が、感電こそすれ死ぬ事が無いのは
自らの電撃で死ぬ事が無いよう、其の身に、強力な耐性を有して居るからだ
なれば、より、其の苛烈な電撃を耐える事が出来るのは――)。

ユンジェン > 長く続く雷撃の中、ようやく思考の速度が戻ってくる──と言おうか。
或いは死をも考慮すべき局面において、思考が平時以上に活性化している、と言おうか。
そのいずれであれ、少女は──
逃げの手は、選ばなかった。
その代わり、両脚の力をひたすらに強め、ただただ獲物の首を締め上げる。
……そうしながら、思考する。

(想定外はあったが、十分な手を打った。
 この間合いで長物は使いにくい──今の使い方で正しい。
 そもそも徒手格闘に持ち込んだことは? ……魔術が得手の相手なら、悪くはなかった。
 ……脚を離して、改めて間合いを取る──これは愚策、今の形で良い。
 言葉も使った。
 王と呼ばれたなら、誇りに拘る類いの男なら、逃げの手を選びはしない筈……)

みしみし、ばきばき。雷撃の炸裂音に混ざり、異音が鳴る。
それは締め上げられた獲物の首の音か──或いは脚の方が、己の筋力に耐えかねているのか。
痛みはあろう。が、それに怯んでいられるような、正常な精神状態ではない。
見開いた両眼は、白光ばかりを見る。

(私は怠らなかった──それでも、尚)

笑った形のままの口が、一度、空気を思い切り吸って。

「足り、ません。足りません、のに……く、ふふ。
 〝もっと〟とねだる方法、そういえば……知りません、でした」

ふっ……と、両脚の力が抜け、少女は地面に落下する。
倒れてしまえば小柄な、ハルバードどころかナイフすら持てそうにない華奢な身体は仰向けに倒れ伏し、
地面に四肢をくたりと投げ出して、空を見上げてからりと笑っていた。

ラスト > (雷の閃光が止まると同時に、風が流れる
充満していた魔力が、雷が、空気の流れを押し留めて居た其の間隙を埋める様に

地面に落ちた女の姿を、見下ろす瞳には未だ、爛爛とした獣の光が宿り続ける
僅かに、首が伸びて居る様に見えるのは、締め上げられて居たが故だろう
其れも、首に手を押し当て、緩く振る事で元に戻される
――ごきん、と言う、嫌な音が微かに響いたろう。)

「―――――……貴様は、強請り方が不器用に過ぎる。
……強請った勝負に負けた気分は…、……ふん、悪くは無い、と言う顔だな。」

(女が槍先を押し当てて居た場所は、肌が焦げて居る
全く以て手が届かなかった、と云う程では在るまい。 差は、在るが。
敗北しながらも、この期に及んで満足そうに笑っている姿を見下ろせば
女が携えて居たハルバードを拾い上げ、其の喉元に突き付けて。)

「――――……俺の軍門に下れ。
……或いは、此の儘死を選ぶか。 其れとも、敗北者に相応しく、奪われるかだ。」

(敗者に本来、選択肢などは在り得ぬ。
だが、力尽くや洗脳で、忠誠を誓うような女では無いだろう
自ら認め、選ばなければ、だ。

始めに女が、己へと投げた言葉を其の儘返せば
切っ先を、其の胸元に――心臓の上に、滑らせる。
脅しでは無く本気で在ると、理解出来る筈だ)。

ユンジェン > 自分が扱う得物の切っ先が、自分の胸に当てられる。
その鋭さは自分の身で試さずとも、数えきれぬこれまでの敵が教えてくれている。
魔族であろうが──自分自身であろうが、十分に殺せる強度の凶器。
それを前に、まず最初に女が言ったことは、

「……次に戦えば、今回より更にあなたの傷が増えましょう。
 その次に戦えば、その時は腕のひとつも頂いてみせましょう。
 自分より強い相手との戦いは、初めてですが……その分だけ、伸びしろは私が上、でしょうから……ふふ」

それから──よいしょ、と起き上がるようなそぶりをする。
……刃に止められるまでもなく、四肢がろくに動かない。少し顔の角度が変わっただけだ。
仰向けに倒れたままの少女は、どうにか視線だけ貴方に向けて、戦いの前の静かな顔に、少し柔和な色を混ぜて言う。

「部隊をひとつ、くださいな。
 ……軽装で機動力があり、欲深く、勝ち戦には強くとも負ければすぐに逃散するような、ならず者の部隊を。
 その〝おねだり〟を聞いてくれる、なら……と、言うのは……?」

特に渋る様子は無かった──その代わりに、具体的なビジョンは有った。
降る、降らないという話ではなく、降るのは前提としてその境遇を──という段階の話だ。
少女の胸の内は既に、先に力尽きた時点で、誰が主かを定めていたのだろう。
とは言え戦いに負けた直後、その勝者に堂々と交渉を持ちかけるのは、当人の肝の据わり方──と言うべきか。

ラスト > (脅しでは無い、ただ、突き付けた事実。
其処に、女の決断が返るなら。 向けて居た刃は、ゆっくりと外される。
外されると言っても、もし其処で女が、隙を窺い最後の一撃を狙うなら
其の時は、最早選ぶ事すら出来ずに其の首は、地面に転がる事と為って居ただろう、が。)

「――――其れは強請って居るのではなく、厚かましいだけだ。
……なら、貴様の連れて居た者達を引き入れろ。
共に俺の元に下るか、其れとも新たな主を探させるかは、選ばせれば良い。
其の上で、必要ならば、兵を付けてやる。」

(其の位の胆力が在った方が、将として、兵として、良いと言えば良いのだが。
少しばかり呆れたような視線を向けた後、其の要望には応じよう
兵の中でも、本隊には向かぬ気性の者達だ。 放って置けば盗賊にでも身をやつしそうな。
其れでも――己が鍛え上げた、勇猛さは折り紙付きの、兵達を。

手にしたハルバードを、側近を招き寄せ、預ける。
女の前で踵を返し、傍の医療兵達へ、女の手当てをするよう指示を送れば。)

「――――俺が求めるのは絶対の忠誠、其れだけだ。
好きに奪い、好きに挑め。 人も、魔族も。
但し…、……王冠と出会った時は、余り虐めてやるな。
余り虐めると、今度は貴様が痛い目を見るぞ。」

(何せ――今は、万全なのだから。
かつて女が地面に縫い留めた時の様には行かぬだろう
其れを踏まえて挑むならば、好きにすれば良いが。
其の物云いの時点で、或いは――王冠が、この雄にとって
決して、只の"飾り物"ではない事が伺い知れるやも知れぬ

――医療兵が、動けぬ女の元に担架を運び、乗せようとする
どうせ致命傷とまでは行かぬと判って居るからか、少々扱いは荒いかも知れないが
其の辺りは、敗北者として甘んじて、我慢させよう)。

ユンジェン > 横たわったままの少女が、今度は首を仰け反らすようにして後方を見る。
タナール近郊で捕らえられていた魔族の群れは──そうなる程度の戦力しかない、ということもあるが、
皆一様に、眼前で繰り広げられた戦いの余波に恐れおののいていた。
思考するまでもない。……多少脅しを混ぜて口説けば、あの群れはそっくりそのまま軍門に降るだろう。

「……容易いこと、です、えーと……………………我があるじ、とか?」

気取った答えを返そうとして、慣れぬ呼称を探すのに、少し間が空いた。

……さて。医療兵が近づいてくる。少女は、彼らに手の平を向けて静止しながら立ち上がった。
すぐに戦えるような様子──とまでは行かない。が、横たわっている間に少なくとも、自分の手足で動ける程度の回復はしたようで。
愛用の得物がどこかへ運ばれていくのを横目で見ながら、踵を返した貴方の背へ歩み寄り、

「……痛い目、とは?」
 はて……確かに、あの女を虐めてやったのは確かですし……もう一度、機会があれば……
 今度はもう少し手酷く、それこそ孕むまでくれてやろう、とは、思っていましたが。
 その懲罰に〝痛い目〟というのが、有るのでしたら……
 ……その中身次第では、やぶさかではない、のですが……あるじ様……?」

 少女は小声で囁いた。周囲の兵士には聞こえぬ程度に。だが貴方には、はっきりと聞かせるように。
 甘ったるい、そして戦いの中とはまた異なる意味で挑発的な声。

ラスト > 「……今更ながら、アレは嫌そうにするだろうな…。
……だが、俺から奪えると思うな。 ……あの女を初めに孕ませるのは、俺だ。」

(――宣言、した。
自軍の方が僅かに動揺を見せたのは、気のせいでは無いだろう。
だが、そんな事は気にも留めずに、自ら起き上がった女を肩越しにちらと見れば
刹那、僅かに届いた女の、己にだけ向けられた言葉には――目立った反応こそ、せぬ儘。)

「――――――……なら、名を上げろ。 其の力を示せ。
其れに足る価値を示せたなら、其の時に考えて遣る。
何れにしても……、……先ずは、傷を癒す所からだ。」

(拒絶は、しなかった。 褒賞として其れを、勝ち取れ、と。
幸い、タナールからはそう遠くは無い領地。
薬湯を用意させると一言告げれば、同時に其の指示を汲み取って
伝令兵達が、一足先に、領地へと向かって移動を始める

何れにしても、もう、この地に用は無い。
女が連れて居た兵達を共に、自軍の隊列の中へと取り込めば
後は、"わすれもの"が無いかだけを確認して、撤収を始める事になるだろう)。

ユンジェン > 「ぶー。吝嗇屋ー。……けど、わかりました。
 手柄のひとつやふたつ、明日には上げて……ああ、いや。
 やっぱり明後日以降に……割と、身体の方が……」

口を尖らせて不平を告げながらも、気が抜けてしまった為か、ぺたんと地面に座り込む。
もし手足が十分に健康ならば、こちらもバタバタと子供のように動かして、もうしばらく〝おねだり〟を楽しんだことだろう。
……並行して巡らす思考は、近隣の村落の位置関係や、賊徒の類の拠点を列記する。
手柄のタネは幾らでも其処にあるのだから、早々に積み上げて主君を困らせてやろう──
──そういう、誰かに仕える者としての資質と、部隊を率いる才覚と。
少女はどうにも勢力の首領というより、将のひとりに向いた性質であるらしい──これも血筋が故か。

「……病床の部下のお見舞いに、足繁く通ってくれてもいいんですが。……あるじ様……?」

厚かましさが故か、先程追い返した医療兵を躊躇わず呼び戻した少女は、担架の上でまだ嘯く。
とは言え頑丈な魔族のことだ。さほど時間も掛からず回復した後は、馬の一頭も駆り出してグレイゼルから出撃するのだろうし。
二日後にはきっと、近隣領地の小村落を調練代わりに襲撃する少女の姿が見られることだろう。

ご案内:「タナール砦」からユンジェンさんが去りました。
ラスト > 「―――…俺の雷撃を受けて、其の程度で済んで居るなら僥倖だ。
期待はして居てやる。 貴様の様な将も、群れには必要だからな。」

(――王、を標榜するのであれば。 王、を目指すのであれば。
必要な人材を、受け入れる度量が無くばならぬ物
そう言う意味では、この女を自軍に引き入れられた事は、収穫であったろう

――代わりに、この事実を知った王冠は、大いに不満がるやも知れぬが
其れは其れとして、言い含めるしかない。

再び女が後ろで倒れれば、無言で医療班に手を振り、担架を向かわせる
只運ばれるだけでは無く、得られる情報は根こそぎ糧にしようとするなら
其れは大いに襲撃へと役立つ事だろう。)

「―――――……ラスト。 主の名前くらいは覚えて置け。
グレイゼルの領主、ラストの名において、貴様を迎え入れて遣る。」

(呼び方は好きにさせる。 だが、部下が名を知らぬのでは示しにもならぬ故に。

――後に、災害の様に他領を荒らし回る女将の存在が
グレイゼルへの苦情として殺到する事になるが――其の時は
其れを鼻で笑い、一蹴する男の姿が在るだろう――)。

ご案内:「タナール砦」からラストさんが去りました。
ご案内:「タナール砦」にリシェラさんが現れました。
リシェラ > 今は夜、どちらが占領をしているのかも知れぬタナール砦。
夜空に輝く月明かりに照らされた砦の屋上に、一匹の蝙蝠が羽音と共に飛来する。

其れは屋上の一角に降り立てば、其の身を翼で覆う様に包み込む。
蝙蝠の小さな体は瞬き一つ行う間に膨らむ様な闇の塊と成り…
其処には人影が一つ佇んでいた。
此の屋上に置かれる荷物を収めた箱等と見比べてみれば、其の人影はどちらかといえば小柄で在る事に気付けるか。
今知れる情報としては其の程度のものだろう。

其れは静かに屋上の片隅に佇んだ侭、ゆっくりとした足取りで魔族の国側を見渡せる場所へと移動をし。
後は眼を向ける先に広がる光景を只眺める、其れ以上の事をする様子は今の処は見せていない様だ。