2023/08/19 のログ
ご案内:「タナール砦」にネヴェドさんが現れました。
ネヴェド >  
その日、タナールの砦は夜襲を受けた
寝ずの警戒を堂々と突破し、遅まきながら戦闘態勢を整えた砦の布陣に正面から穴を穿ち──それは現れる

「天や地から来たる軍勢のみと高を括ったか…脆い」

漆黒の嵐が吹き荒れ、女を取り囲んでいた兵達が散り散りに吹き飛ぶ
夜襲の伝令は遅れに遅れた
それは攻め込んだものが軍勢ではなく、たった一匹の魔族だったからに他ならない

冷たい輝きを宿した蒼玉が立ちはだかる者を一瞥し、次の瞬間には放たれた魔力の暴風がそれを木端のように吹き飛ばす

「…我が主に力を示すには良い余興かと思ったが……宛が外れたか」

取る足らぬ者ばかりであると少々の落胆を表情に落とし、どれほどで切り上げようかと辺りを眺める

ネヴェド >  
──我が主たる力ある魔王には虚栄がない
野心・我欲はあれど、栄光を求めぬ
何よりも求めるのは、力と闘争
魔族の中でもあれほどの純血は珍しいと思える程の純粋なる力の虜囚
さりとて武人や求道者とも違う
その純然たる闘争者、捕食者たる姿は眩ゆく……──戴かれる宝冠として在るならば、その鮮烈な程の輝きに埋もれては見窄らしいというもの
なれば、自身もまた力によって磨かねばなるまいと
かつては降りかかる火の粉を払う程度にしか力を使うことがなかった、
しかしその在り様を変えたネヴェドは魔王に比肩する力を余すことなく破壊に向け、今この場に立っていた

「──しかし試割りがこの程度では、呆気ない。
 …矢張り戦乱の渦中、強者の跋扈する最中に槍を手向けるか」

どうやら気骨の在る者はいないか、と
砦の───暗雲立ち込める魔族の国を臨む、開け放たれた門へと踵を返す

ご案内:「タナール砦」にルーシアさんが現れました。
ルーシア > 運が悪かった、そうとしかいえない。
周期的に求められる魔術師、そして奉仕係としての貸し出し。
それが、まさに今日だった。

明日になれば貸し出しも終わり、解放される。
そんな事を考えながら、これから行われる駐屯兵への奉仕活動。
それを行おうと部屋に移動させられた、その時を狙うかのような夜襲。
そんなタイミングだったからだろう、戦場への到着は遅れに遅れてしまった。
それはある意味、この惨状に巻き込まれずに済んだ、ともある訳だが…

「うわ…なにこれ…」

そして、到着して目にしたのは、ほぼ壊滅した自軍の状況。
残っている兵達は、ほぼ自分と共に遅れてやって来た兵達だけだ。
だが、そんな状況だろうと…いや、そんな状況だからか。
そんな兵達は、自分に向かい怒声を飛ばす。
お前のせいでこうなった、とか、責任持ってお前が相手しろ、とか。
本当に勝手なものだ。

「……好き放題に…これだから、身勝手な役立たずはっ…!」

そんな言葉を投げ掛けられようと、言い返せる立場ではない為に、そう聞こえないような愚痴を零し。
本来ならば前衛を前に、後衛を後ろに、と配置すべき陣形なのに、自分だけを前にされる。

こうされてしまっては、相手をするしかないだろう。
そんな自分とはよそに、後退し始める兵達から、この状況を作り出した原因へと目を向けて。
口ずさむのは魔術の詠唱、正面に巻き起こる巨大な炎の塊を、それを対象にして打ち放つ。

ネヴェド >  
他愛のない防衛線に価値なしを背を向け、数歩
新たな動きがあったのか、振り返り喧騒と共に現れた一団と、なぜかその先頭にいる少女へと目を向ける

逃げずに向かってきた──というよりもどこか投げ遣りな

「──捨て駒か?」

眼差しを細める
臆して逃げるならまだしも、己の生存と立場のために同族に犠牲を強いる…
そんな風にすら見えたその光景は、己が心酔する魔王の在り様から見れば愚劣で救いようのない、人間の悪徳だった

燃え盛る紅蓮の火球
それを避けるでもなく耐えるでもなく、弾くことすらせず、魔力を纏った右掌で握り潰すようにして掻き消してしまう

「……気に入らないな」

それは、立ち向かう少女にではなく、その背後で逃げを打つ男達に向けての言葉
故にネヴェドが右手を振り翳し、放たれた魔力の塊は少女の脇を擦り抜け──爆音と共に、背を向けていた男達を方方へと吹き飛ばしていた

ルーシア > 「……なっ…!?」

牽制の一撃としても、それなりの威力はあったはずの炎の塊。
それが、あっさりと片手で掻き消された。
それを見れば、僅かな焦りが生じてしまうのは仕方の無い事だろう。
そしてその焦りが、守るべき兵達への攻撃に対する反応に遅れを生じさせた。

ただ、自分にとって幸いな事は、今回主と指定する相手が居なかった事だ。
もし今回の依頼で1人でも指定した相手が居たのなら、自分がその身代わりとなっていたのだから。

詠唱もない、ただ純粋な魔力の塊を放っただけ。
その一撃によって、逆に自分を除いた兵達を吹き飛ばされてしまう。
あまりにも早い事の成り行きに、少女の反応は、遅れに遅れてしまっていた。

「ああもうっ、今日は厄日なのかしら、こんなの一方的じゃない…!」

後ろを見たりしなくたって、どうなったのかなんて予想が出来る。
兵達の足音がしなくなって、背後からは静寂しか感じられないからだ。
となれば、ここからどうすべきかを考えなければいけない。
戦えば、間違いなく負ける。
逃がされたとしても…きっと、自分だけ逃げた事を責められ、罰せられるだろう。

あれこれと頭の中で考えを巡らせながらも、油断無く、目の前の存在を睨み付けているのだった。

ネヴェド >  
「………」

小さく吐息を吐きながら
魔力を放つ為に差し向けた掌をゆっくりと下ろす

相対する少女は、睨めつけるようにこちらを見ていた
数瞬のうちに起こった出来事に混乱する様子も、畏怖し絶望する様子も見せない
人間でいっても、年端のいかぬ少女であろうに
このような扱いに慣れているのか

「反抗的な眼ね──」

「──自分の意思での攻撃ではないと判断して、今の一撃は逸らしたのだけど?」

火球を掻き消した右手に残る魔力の残滓
それは人間の魔術師としては十分に戦力足るものを感じさせるものだったが…
状況や色々なものが妙に不自然で、怪訝な視線を女は向けていた
人間にしろ魔族にしろ、こういう状況で魔法使いが前に出ることなど在りはしない

「続けるなら次は当てよう。…人間相手に容赦はしない」

今の一撃は、女にとって容赦ではなかったらしい。一応

ルーシア > どうやら、目の前の相手…間違いなく魔族の女だろう、彼女はこの惨状を加減した上で作り上げた、そう考えるべきか。
それが正しければ明らかな実力差は否めない。

そんな彼女の言葉を聞けば、自分の考えた間違っていない事を知る事は出来るのだけれど。
そんな差があろうとも、その言葉に素直に逃げ帰るか…なんて考えは起こせない。
理由は簡単、首に嵌められた首輪によって自分の持ち主に全て漏れてしまうからだ。
自分が砦を攻撃した相手に何もせずに逃げ帰ったのだと。

女を睨み付けたまま、無意識に舌打ち。

「そりゃそうよ、こんな事をしてくれた相手を前に、そうならない方がおかしいでしょ?
それに…あれくらいなら、不意打ちされなきゃ防げなくもない。
もう、次は無いわよ?」

手加減されている攻撃だから、次は不意打ちではないから、今なら同じ攻撃をされても防ぐ事は出来る。
もう少し威力があっても、なんとかいけるだろう。
だけど、それ以上となったら…その威力によってはかなりマズイ。
そんな考えが頭の中をグルグルと回るのだけど。

「……私としても、そうする訳にはいかない事情があるの。
こっちだって、次は手加減なしでぶっ放す。
そうしないと…いけないのよ!」

最悪、絶命するレベルの攻撃が向けられたら首輪によって強制帰還させられる。
死なずともかなり痛い目を見る訳だけど、後の仕置きを考えれば…

精霊との意思疎通により、注意を逸らさせる為に一瞬だけ足元に絡めさせ。
自分は再び詠唱を開始する。
さっきの魔術は火系中位のもの、そして、今から向けるのはその上位の攻撃魔術だ。

ネヴェド >  
驚いた
自らの意思でなく、戦うという
事情とやらの重要性を計り知ることは出来ないが、人間の短い命を賭すに値するらしい
惜しむらくは、目の前の少女の繰り出そうとしている次の攻撃も…そのままでは、恐らくはネヴェドに通用しないことか
それが理解った上で、女は悩む
眼の前の少女を屠ったところで、己の力を示すことにはならないだろう
我が主ならばどうするかと思考を巡らしても、応えは出ず…

「決死のようだけど──ふん、小細工を……」

足に絡む精霊の干渉を感じ、足元を蹴り払う
それが一瞬の隙となるかどうかは微妙なところ
何せ女がとった行動は…

「(あれが最大の攻撃とも思えないが…妙な違和感を感じる)」

もっと強大な力を奥底に秘めているような…それを使わない不信感
もう少し、試してみるかと
自らに施すは、魔力を練り上げ霧のように発露させた特殊な呪法
まとう魔力の質が変化し、魔術干渉を反転させる性質を発現させる
恐らく人間の魔術にも存在はするだろう、反射魔法(カウンターマジック)

ルーシア > 相手は間違いなく強者だ、力でも、魔術でも。
今の自分の魔術でさえほぼ通用しないだろう。
だけど、彼女はきっと自分をただの魔術師と思ってる。
だから、そこに抜け穴がある…はずだ。

「ふんっ、実力差なんてものは、やり方次第で埋められるんだって。
それを思い知らせてやるわよ!」

この言葉はただの虚勢だ、そんな事は分かってる。
でも、やれる事はやる、それしかない。

精霊を払うために、足を蹴るように振る。
その動きに合わせ、完成した詠唱と共に魔術の発動。
女の足元から…ではなく、その周囲に巻き起こる炎の渦が、その視界を完全に覆い隠す。
攻撃に使った魔術だと勘違いしてくれれば、きっとそちらにも注意が向くはず。

そして、次に彼女が自分の姿を見るのは、彼女自身の背後となるのだ。
炎の渦は目くらまし、魔術防護を張った自分は背後に回り、彼女のその背に直接手で触れる。
それが叶ったならば、そこへと直接、爆裂の魔術を発動させるのだ。
小さなものとはいえ、その体に直接与える爆発の衝撃だ、無意味だとは思いたくない。
なにせ、それは自分の手も巻き込み、自分自身にも痛手を負わせるから。

効いたとしても、効いてなかったにしても。
そこまでの戦略が通用したのなら、ちょっとばかりの抵抗にはなったと満足すべきだろう。
相手の裏をかく事が出来た、程度の満足感だが。

ネヴェド >  
「…其れは、面白いな。叶えてみせるといい」

埋められぬ差があることを理解した上で
やり方によってそれを埋めることが出来る、と宣う
そんな少女に向けた視線を細める
魔法の影響を反射させる霧を纏った自分に、魔術師に出来ることが、打つ手が在るというのなら
去勢であるならば一笑に付そう
そうでなければ、称賛と共に一つ、勉強することが出来るだろうと

少女の詠唱が終わり、周囲に爆炎が巻き起こる
砦の夜闇を灼く紅蓮が立ち昇り、己の視界を完全に塞いだ

「…成る程。これで逃げを打つのか…。なし、ではないが…些か切った啖呵に見合うまい…」

振り払ってやろうと、右手に魔力を集中させる───よもや、少女が背後に移動しているとは知る由もない
その身に魔王が如き戦力を宿していても、女が自らの主に感化され、戦場に自ら出るなぞ数百年の間も無かったことである

「───!?」

背に触れられる感触に感づき、背を振り返ろうとした時には、少女の作戦は完了しているも同然か

背なに炸裂した魔力爆発
魔法の作用こそ反転させようが、物理的な衝撃を反らせるものではない
燃え上がる爆炎の轟音の中で響く炸裂の音と共に、ネヴェドの肉体は弾かれるようにして、吹き飛び───

「ッ、グ───!」

空中で翼を翻し、態勢を整え着地し

「やって、くれる…私の身体に、傷を─── がは、ッ…!」

体内に残響のように響いた爆発の影響か、喀血し、少女を睨めつける
──素晴らしい攻撃だったと言える
虚勢とも取れる言葉を現実のものとしてみせた
結果を見れば、やられたことは単純、しかし…それを一介の少女が臆することなく迷わずに実行した
故に警戒も薄く、成立する──結果を呼び込んだ臆さぬ意思力こそが、称賛に値するだろう

魔王に次ぐ力を持つ自身の肉体に損傷を与える程の爆発力
当の少女も無事とは言い難いか、とやや注視するように、ルーシアへと視線を向けて

ルーシア > 絶対的な強者を相手取るなら、本来なら命を掛けるぐらいの気構えをすべきだろう。
そこまでしないのは強制帰還という最後の切札があったから。
本当にそれを使うまでになってしまったら、傷を癒すのに高額な治療費を吹っ掛けられ、それはそれで仕置き案件ではあるのだが…

「っ…ぐ…」

痛い痛い痛い、分かっていたけどやっぱり痛い。
これまで受けた仕置きや折檻で痛みに慣れてない訳ではないのだが、腕の損傷はやっぱりかなりのもので。
そんな傷を治すのに、自分の軽症を治す程度の回復魔術では全然足りない。
そもそも、痛みの感覚が少しでも引いてくれないと、腕の痛みで回復も、動く事さえままならない。

それなりのダメージを与えられたものの、その結果を確認する為に彼女を目視する余裕さえなく。
爆発によってかなり酷い怪我を抱えた腕を抑え、蹲ってしまっていた。
しかし、これでは強制帰還が発動するまでのダメージには届かない。
戻る事も出来ず、完全に無防備な姿を彼女に晒す事になっているだろう。

ネヴェド >  
「………」

少女は、この一撃を自身に与えるため、相応以上の損傷をその腕に負っているようだった
女、ネヴェドの方と言えば…ダメージは受けたものの、既に治癒が始まっており…すぐに動ける状態にはなっている
少女の負ったダメージを鑑みれば、得た報酬が大きいとは女にはどうしても思えず──

撤退が完了したらしく閑散とした砦にカツ、カツと踵を鳴らす音が響く
それは紛れもなく、蹲った少女に歩み寄るネヴェドの靴音に他ならない

やがて少女を見下ろすようにして眼前に立てば、その右手の掌を差し向ける
先程、少女の背後にいた、情けない男どもを吹き飛ばした時のように

「──名は?お嬢さん」

降り掛かったのは、意外な言葉だろうか
そしてその右手から放たれた淡い碧色の魔力のオーラが少女を包むと…すぐに傷が回復とまではいかずとも、痛みはいくらか和らぐだろうか

「興味がある」

「なぜ逃げず、一矢報いようとしたのか」

畏怖で動けぬようになることもなく、臆さず機転を利かせる判断力があれば…逃げることも出来たはず
なぜあえて、僅かな成功報酬のために逃げることなく立ち向かったのか、女にしてみればあまりにも理解のし難い行動だったのだろう

ルーシア > 痛みで動けず彼女へと意識は向けられずとも、近付いて来ればそれは分かる。
傷を負わせたんだ、最後の一撃でも与えるつもりなのだろう。
今以上の負傷を覚悟し、目を閉じてその瞬間を待った。

「……?」

だが、次に掛かる声は自分の名を求めるもの。
それは確かに自分にとっては予想外のものだった。
と同時に与えられるのは、高位の回復魔術とまではいかないが、自分よりは遥かに高い治癒の能力。
引いていく痛みに、その問いの意味を少し考え、そして。

「ルーシアよ」

言葉短く、その答えだけを彼女に伝える。
その間にも引いていく痛みに、少しずつ意識ははっきりとしていき、続く質問もすぐに耳に届く様になっていた。
その意図は分かる、自分がどんな存在で、どんな扱いを受けているか分かっていないなら、当たり前に浮かぶ疑問だから。

「仕方ないわよ、それが今の私だもの。
倒せって言われたら、倒せないと分かっても挑まないといけない。
守れって言われたら、私は自分の身を犠牲にしてでも守らないといけないの。
だから、そうした、それだけよ?」

どこか諦めを含むような物言い。
自分は奴隷だ、偶然とはいえ力を持っているから、他の奴隷よりも優遇され、良い様に扱われる。
もっとも、優遇なんていったって使い捨てにされない程度の扱いだが。

こんな首輪さえなければ、そんな話をする時にいつも頭を過ぎる考え。
無意識に、首に嵌められた自分を縛る首輪に指先を這わせる。

ネヴェド >  
ルーシアと名乗った少女を蒼玉の瞳がじ…と見つめる

「その物言い。単なる立場上の束縛ではない、か。
 成程、選択の余地ないのであれば、合点がいく…」

何がどうなってそうなっているのかはわからないが
女は憐れむような視線を落とし、言葉を続ける

「勿体のないことだな。その力をより良い環境で磨くことが出来たなら、稀代の術師となったかもしれぬというのに。
 主の才気の無さがありありと知れる」

自分で主を選べるわけでない、というのなら不憫としか言いようがない
───主がいなければ存在を確立できない存在…自身とどこか重ねられる部分を感じた

…自分は、主に恵まれているのだということも実感する

「問いに応えてもらった報酬だ。命を拾わせてやろう。
 …良い主に恵まれたなら、また合うことも在るかもしれないな。…いや、その逆か……」

ルーシア > 僅かに生まれた余裕からか、見詰める彼女を確かめる様に見詰め返してみる。
傷は…渾身の一撃も、既に治っている様子か。
そんな差を見せ付けられた上に、回復まで行う様な余裕さえある様子で。
ここまでくると、もう抗う姿勢さえ無意味だと感じさせられた。

「お褒めの言葉、ありがとう、とでも言っておけば良いのかしら?
それに、アンタの意見には概ね賛同するわ、これを通して聞くだろうクソジジィには良い気味ってものよ」

彼女が自分の事をどう思っているかは分からないが、少なからず憐れんでいるのは分かる。
今迄、何度も向けられた視線…だからか、つい答える言葉には棘を持たせた雰囲気を漂わせ答えてしまう。
ただ、主の話が挙った時の賛同はサラリと吐き出された事と、その内容から。
余程嫌っているのも見えてしまうだろうか。

「そ、もう手出しも出来ない状況だったし、十分な言い訳も立つから私としてはありがたいわ。
ま、その時がきちゃったら本気で抵抗しなきゃいけないから、その時はよろしくね?
やるならやるにしても、魔法合戦じゃ勝てる気がもうしないけどさ。
……あぁ、でも魔法もダメなら、私の勝てる手段ってなさそうね。
いっそ身を捧げて勝ちを譲って貰うしかなさそう」

気分としては、まさに命を拾えたといえるものなのだろうが。
それを素直に言えないのが自分の性格だから、こんな時には少し嫌な気持ちになる。
この後の事も考えると少し気持ちが重くなるが、最悪の事態は避けられたのだから良しとするべきだろうと、そう思う事にして。

ネヴェド >  
「………」

眼を、細める
クソジジイ、と吐き捨てるのは恐らく彼女の主のことに違いない
いかなる制約かは知れずとも、主に忠誠を誓っている自分とは、真逆
しかしその在り様ゆえに、彼女のように不本意な主に従うことも可能性としてはなくはない
自身は魔王に従う者、自然とその風格と素質を兼ね揃えた者に傅くこととなる
しかし主となる者の条件が緩ければ…無論、忠誠を尽くすに値せぬ者に従うこともあるのだろう

「──憐憫は不要か。で、あろうな…非礼を詫びよう」

「さて、僅かな機転で一矢報いたルーシアを過小評価はしないが、そうだな…。
 その身を捧げられて勝ちを譲るような冒涜はするまい。我が主もそのような勝利は望まぬ方だ…」

背を向ける
抗うことの出来ぬ運命の渦中にいることは理解も出来る
しかし敬意を評したとして、手を差し伸べることは出来ないだろう
自らが魔族であり、彼女が人であるのだから
敵とは、敬意を払いつつも再び刃を交える間柄であるものだ

「私は魔王の戴冠(グルゴレト)。今現、我を戴く主は戦鉄火を好む魔王…故に私もこの場にいる。
 次に会えた時は、そうだな……次こそ本気で相手をしてもらおう。私も、お前も」

一目負いた少女にそう名を告げて、背なの翼を羽撃かせ、飛び上がる
女の姿は砦の空へ、瞬く間にその姿を消していった──

ルーシア > 「理解してくれればそれでそれで十分よ。
変に気を遣ったり遣われたりなんて、それこそいざとなった時に気が入らなくなりそうだからさ」

いつどこでどんな立場で合間見るかなんて分からない。
特に自分と彼女は人間と魔族だ、それらを考えれば変に気を持たない方が良い。

「ええ、そうしてくれると私としてもやり易いってものよ。
それにしても、アンタの主ってのは私と違って良さそうで、羨ましい限りね」

ちょくちょくと話の中に挙がる彼女の主。
聞いた感じで考えても、その主に従う彼女を見ても、自分の主と比べて月とスッポンらしい。
そんな考えを素直に伝えながら、背を向ける彼女を見詰めたままに立ち上がり。

「ふぅん、その名前、覚えておくわ。
そうね、次までにはまた何か対策でも考えて、その時には人の底力ってのを見せてあげる」

そのまま、飛び立つ彼女へと向けてそう締め括る。
自分だけを残し、ほぼ無人になったタナール砦。
この後をどうしようかとも考える事となるのだが、それはまたもう少し後の話。

ご案内:「タナール砦」からネヴェドさんが去りました。
ご案内:「タナール砦」からルーシアさんが去りました。