2023/08/03 のログ
ご案内:「タナール砦」に影時さんが現れました。
影時 > ――ああ、こりゃ駄目だ。

そう悟り始めた時が逃げ時だ、と。戦い慣れた傭兵たちは囁く。
世間は広いが、命あっての物種ということが良く分かっている人間は、恐らく彼らのような人間のことを指すのだろう。
幾つかの条項を踏まえて契約を交わすにしても、戦線が崩れだすと突出せず、及び腰になりだすのは、どのあたりの層、位置のものたちか。
識者が書に曰く、傭兵である、と嘯く。否定が出来ない。観察していても、そうであると否定がし難い。

「……督戦の依頼なンぞ請けちゃいねぇし、その義理も無ぇからなァ」

夜のタナール砦。昼間より上がり始めた戦火は絶えず、消耗の連鎖の果てに趨勢は次第に攻め手側に傾きつつある。
臨時の傭兵、冒険者の参集を以て、巻き返しを図ろうとしても既に遅く。
幾人もの力量者、騎士も含めた歴戦の猛者たちが力を尽くしたとしても、やがては擦り切られることだろう。
斯様な情勢を悟る中、攻め入られた砦内部を馳せる影が一つある。
柿渋色の羽織を纏った黒基調の装束の男だ。顔の下半分を隠す覆面の下、思うのは移動中、すれ違った者達のこと。
傭兵らしい不ぞろいの風体の者たちが、必死の二文字を顔に貼りつけ、一目散に王国側の方角の門を目指して全力疾走していた。

何故か。その理由については知りようもない。
何か強敵が居たのかもしれないし、抗いようもない猛攻に耐えかねてのことだろうか。

仮に前者であれば、どうだろうか。これ以上に面白いこともあるまいに。
考えると考える程――逃げ延びようとする彼らとは違い、愉悦がふつふつと煮え滾る。
故に進む。血に汚れた、または煤に汚れつつある通路を走り抜け、中庭を目指そう。其処に何かが居るかもしれない、と。