2025/05/03 のログ
ご案内:「無名遺跡」に影時さんが現れました。
影時 > ――これだから厄介だ。

俗に無名遺跡と呼ばれる、山脈の麓に点在する遺跡たち。
迷宮、または迷宮同然ともされるそこは、どれほど探索し尽くされていても、危険地帯であることに変わらない。

どれだけ魔物を退治したとしても、不思議に魔物が棲み付く。
何度も何度も踏破した筈なのに、奇妙に構造が変わっている――等々。
踏破済みであると冒険者ギルドが認定した遺跡でも、まるで誰かが思い出したかのようにありようが激変している。

数日前、複数のパーティが突入したと冒険者ギルドの記録簿に残る遺跡もまた、どうやらその例に漏れない。
まだ経験が浅い者、実力があってもまだ実績が足りない者が入り混じっていても、数日には帰ると見積もられていてもなお戻らない。
そうなると、冒険者ギルドはどのように対処するか。至極単純。救出も兼ねた探索依頼を出すのである。

「……――っ、あー、ったく。まだ浅層のハズだってェのに、なんつぅ変化だこりゃ」

延々と続く石組みの壁と、時たま除く洞窟を組み合わせた構造の迷宮。点在する玄室のひとつで、ぼやく声がある。
湧き水を湛えた水場があるそこは、さながら休憩場のよう。
ぼうと天井全体が淡く輝く下、傍らに刀を転がし、壁に背を預けつつ水袋を呷る男の声だ。
連れはない。否、小さな連れ自体は居るのだが、道程の幾つかの罠と敵との遭遇に、腰に付けた雑嚢の中に避難させた。

毒気がある。それは珍しくない。
触手の類が出ている。それもまた、珍しくない類である。
触手に当たると、恐らく色々と嫌な変化を押し付けてくることだろう。

例えば、そう。やーらしい気分にされて悶々と疼き出すような類は、大変面倒だ。

影時 > この水場も、前々から――あっただろうか?

この依頼を請けるに辺り、遺跡内のマップの写しは受け取っておいたが、正確だったのはほんの一層目だけだった。
元々何度も足を踏み入れている類の場所ではなかったが、まるっきり役に立たなくなっている。
その恐れが高い、ではなく、実際役に立っていない。そう判断できる程に状況は全く深刻である。

要因はー……と考えるだけ、無駄だ。

この手のことは判明したためしがないではないか。探索者として考えることはどうせ決まっている。
如何に上手く開拓するか。そして、どのように安全な踏破の道筋をつけ、見つけたものを粗方持ち帰るか。
だが、この探索行でそうした発見物を狙い、持ち帰るのはきっと難しい。何せ、だ。

「きっちり鍵開けが出来ねェと、恐らく速攻で詰むなこりゃ」

ちらりと前を見る。この玄室は学院の講義室位の広さがあるが、向こうの壁際に開かれた宝箱がある。
中身は空。男が開錠して中身を持ち去った、のではない。宝箱の底に奇妙な粘液の跡が残っている。
触手の束のようなものが詰まっていたのだ。正しく開錠できなければ、忽ちに宝箱が魔物に変じたことだろう。
開錠しつつ異常に気づき、蓋を開けた瞬間に短刀を叩き込んで中身を殺したら、詰まっていた肉色が揮発し、空になった。

(ここで下手に寝ていたら、……やられてたろうなァ)

――と。そう思うような仕掛けが、この先、この奥にひしめいてそうだ。