2025/04/14 のログ
ご案内:「無名遺跡 浅層」にシロナさんが現れました。
ご案内:「無名遺跡 浅層」に影時さんが現れました。
シロナ > 浅層で、出会ったスケルトン。狭いからハルバートは使えないので、シロナの真の武器。
 グラップリング(殴る蹴るの暴力)を使用せざるを得ない。

 という事で、戦闘さえ省略して、6体のスケルトン柱を作るような、結末がそこに。
 パンパン、と軽く手をはたいて、逆さまで、頭をつぶされて直立不動の骨を見る。

「でも、不思議だよねー。」

 骨しかないのに、掴んで投げられるんだから。
 直下型、パイルドライバーとかそんなこともできるんだから、不思議、と。
 肉がないから、骨が取れてもいいはずなのに、と思う今日この頃。
 投げる分には問題ないし、もし投げられなかったら、全力でぶん殴る、それで済ますつもりだったし。
 壊せるなら問題ないよね、とドラゴンチックな―――人竜は考える。

 まだまだ、奥に進もう。
 せっかく入ったのだから、冒険者としてはもう少し冒険を、訓練をしたいところだ。
 歩いていれば、十字路に到着する。
 まっすぐの道と、右と、左、良く在る形の道だ、遺跡なら。
 シロナはいくつかある道を眺めて、どっちに行こうかな、と目を瞬く。
 とりあえず、空気の流れている方向、でいいかな、と、右に足を進める。
 カバンから、マップを取り出してそれを眺め、もう一度頷く。
 初心者用と言うには、探索し尽されているという事は、地図も又あるという事だ。
 じゃ、こっち、と、シロナは、ずんずん進む。

影時 > ――いやはや全く。

迂闊に単独で迷宮に踏み込んだ者を探してほしい、連れ帰って欲しいという依頼は比較的頻繁に上がることがあるが。
よもや、まさか、知己でそうする羽目になるとは思わなかった。
己もよくよくそうしているではないか? いやいや、そうではない。
忍びの技を活かすには単独ないし、同等の技を会得した者と組む方が危なげがないから。
遭うもの悉く皆殺しにするにしても、不意の手傷で消耗する可能性が捨てきれない。
であるなら、躱せる敵と躱せない敵の見当をつけ、後者であるなら隙を見て殺す。そうして、危険を排することできる。

今回は、というと――。

(……労して探すまでもない、とは云え。この塩梅はちぃと危なげかねぇ)

明らかな痕跡が残っているだけ、探すのはかなりやり易い方と言える。
迷宮の浅層だからか、出てくる敵は心得ていれば対処自体は容易。対処できる実力、力量があれば、だが。
その上で殴る蹴るさらに投げる痕跡、散乱した骨片、はたまた逆さまに地面に叩き込まれたような悉くを見る影が、ひとつ唸る。
覆面のようにした襟巻で口元を隠す姿は、感心した目つきで何例目というような荒事の跡を確かめ、動く。
同じような手並みが残るなら、続くなら、それを追う。
時折迷宮の壁、床に耳を付け、音を探るのは――この手の技につきものと言える騒音、震動を探ってのこと。
目方は軽いといっても、床や壁を殴打具とする技を使うなら、僅かなりとも震えが生じ、伝わる。

――今、生じたものは近い。

  ――影が身を伏せ、走る。音はない。気配もない。見えてくる姿が前に意識を向けたら、その隙を衝いて。
  
「……シロナ、おじょぉ、様ァ。――おむかぇ、に、上がりました、ゾォ……!」

と。その背後の小さな姿に隠れるように屈みつつ、放つ声は思いっきり地獄の底から這いあがった幽鬼よろしく。

シロナ > さて、今回の依頼の出どころはどこだろう。
 シロナは人竜であり、人間とは一線を画した身体能力がある、そして、母方の祖先の淫魔の血もある。
 つまるところ、普通に考えるならば、心配するようなことは、一切ないはず、でもある。
 しかし、だ。
 シロナは、外見こそ13くらいの子娘であるのだけども……その実年齢は、生まれて1~2年程度。
 人間の感覚でいうならはいはいしている赤ん坊レベルの子なのだ。
 それなりに知識があり、学習もしているのだけども……それが、身を結ぶかどうかは経験も必要だ。
 なので、心配する人はいるのだ。

『……という事で、影時先生、家のお嬢様をどうかよろしくお願いします。』

 家長のリスよりもしっかりしている、エルダーブルードラゴン、トゥルネソル商会の、家令長、ヴァールさんのご依頼だった。
 家にいながら千里眼で、国中をしっかり監視しているのは、トゥルネソルの竜や家族が無体な事をしないように、止めるように、だ。
 流石に、赤ん坊がハイハイで変なところに入れば止めるのが大人のお仕事。

 という事で、家族を除いて、一番信頼していい冒険者。
 シロナを止めることのできる実力者という事で、依頼を掛けたのだ。
 リスは、今もお仕事中で、シロナの行き先は報告を受けて、承認はしている。

 そして、ベテランの冒険者、忍者が。
 ニュービー冒険者、戦士に追いつくのは、それこそ直ぐ、と言う訳で。
 そもそも、隠密?ハハッ、なにそれ美味しいの?と言うシロナだ。
 追いつかれて、背後からの声に。


「うひゃぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


 ぞくぞくぞくぅっ!と幽鬼のような声が、すぐ耳元でささやかれれば驚くものだ。
 感覚は鋭くても、それに特化しているわけでもない、弟子のラファルの様に行くはずもない。
 思わず声のする方に、一歩前に踏み込みつつ。反転、風を切る勢いの裏拳。
 その辺りの動きは、伊達に戦士ギルドで訓練していないわけでもない、軌道は声の聞こえた頭ではなく、腹部のある部分。
 一番避けづらいだろう場所に独楽のように回転しながら振り切る。

影時 > 趣味と実益、そして弟子の修行を兼ねた探索を終えた後、直ぐに出立というのは忙しない。
だが、よくあることだ。否、今となってはよくあったこととも云える。
其れに何より、雇い主の筋からの依頼、お願いについては、時になによりも優先されるべき事項と認識している。
鑑定前の発見物を一先ず預け、食料と水を補給して、お嬢様が単身向かった遺跡にひとっ走り。

以前に修行として、魔物退治に伴わせた記憶があるが、その時よりは進歩している。
されども、それは戦士としての領分、能力についてである。
探索で必要な技能、センス、生存能力については、竜だからと過信するには流石に早すぎる。

――不意の事態が生じても、保護して連れ帰れることの出来る能力を見込んでの依頼には違いないが。

「おおっ――と!」

だが、こういう悪戯心位は先走ってしまったお嬢様にしても、文句を言われる筋合いはあるまい、と。そう思うのだ。
この手の悪戯をされた場合、どうなることやら。
身が竦むか。手が出るか。はたまた他の何かか。戦士ならば、このうちの二番目、だろう。咄嗟の即応が出来なければ駄目だ。
その点、このお嬢様は確かに戦士である。反転からの裏拳の風を――、仰け反りながら躱す。
ただ、仰け反るだけでは駄目だ。長躯を折り曲げ、腹を反らして手を伸ばしながら作るブリッジ態勢。
腹上を風が過ぎるのを瞬間に感じつつ地を蹴り、しなやかに倒立姿勢から身を起こすバク転を決めたところに、――かちり。

(……――かちり?)

着地した床の石板に何か、或いは発動条件でも定められていた仕掛けが施されていたのか。
床の一角がぼこり、と抜けたように沈む。沈んで、開いて。
その底に描かれた魔法陣がぱぁと開いて放り出される先は、遺跡のより深い層。あるいは異相、異層とも言える領域。
薄暗い天空めいた情景が虚空に描かれ、石壁が折り連なる風景。
地中でありながら、地上の情景とも見紛う有様が広がる広間へと放り出されるのだ。

シロナ > なまじ、生まれついて強い存在だから、弱いという事を知らないから、本人がその積りなくても、人から見れば驕りに見える。
 それらは経験を積むしかないのだけれども、竜が危険を感じるというのは相当なものとなる。
 座学でも、ピンと来ていなかったのかもしれない、実際に来ていないからこそ、ここにいるのだ。
 危なげなく、低層の魔物を一人で対処できてしまっているからこそ。

「ちぃっ……て、あれ?せんせ。」

 渾身の裏拳を体よく回避された。
 手ごたえのなさに次の手段を、と思った折に見えたのは、美しいブリッジからのバク転。
 彼であれば、回避されるのは仕方のない事だろう。
 彼との実力は、それこそ雲泥の差、である。
 その気になれば、何もする事出来ず制圧されてしまうレベルの差だ。

 なぜ彼が、ここにいるのだろうか?
 シロナは振り切った腕、残心を持ちながらも、きょとーんと、目を瞬いてしまう。
 そういえば、なんて言っていたっけ。

「お迎―――うひゃ!?」

 思考を這わせようとしたときに。
 足元が開いた。
 かの忍者が反応できないような罠を、新人戦士が反応できるわけもなく。
 ストーン、と堕ちる―――のではなく。
 堕ちて、さらに跳んだ。

 ここの罠を作ったのはいったい誰なのだろう。
 落とし穴の罠の底に転移の罠。
 どこに飛ぶかわからないそれを作り、実行するなんて性格が悪いにもほどがある。
 だって、誰だって基本的には、地面に着地しようとするし。

 それに、堕ちているときに見えた穴の底はそこまで深くない。
 つまり、あわてて投げ縄とか。
 飛行の魔術とか、そういうのを用意する前に、飛ばされるのだ。
 ギリギリ、認識できたところで。

 

                       ――――世界が歪んだ――――

影時 > 弱さを知らない、強さのみを種族的に悟り、驕る――というのは言い過ぎではある。
竜の血が混じるだけで、これだけ変わるのか。人の身に影響を及ぼし得るのか、というのは考え過ぎだろう。
だが、どうやら肉体面にはかなりの確率で影響を及ぼすものである、と。
かの一族、血族という実例を長く見ていれば、内心ながらもそう感じずにはいられない。
同時に留意すべき点も見えてくる。
なまじ人の姿を取って生まれるが故に、体得した能力を研鑽しなければ会得に至れぬと思える点も。

「いよゥ、シロナお嬢様。おうとも――お迎えだ。家令長殿に頼まれてな」

ブリッジ姿勢からのバク転は意味がある。単に格好つけるだけではない。
バク転しながらの蹴りにも転じられるし、距離を取ることで敵からの追撃に即応するための待機姿勢につなげられる。
そもそも、アーチ状の姿勢を取るブリッジとなれば、上からの押し込みにも耐えうる。メリットは多い。
ただ、こので一つ問題が生じる。熟練の忍者とて、認識外からの攻撃には反応が遅れてしまう。
今がまさにこの時だ。如何なる罠か。設置された時期も意図も不明。ただ、きっと、これは嫌がらせだろう。

(落とし穴からの、転移の罠……与太のハナシに聞く壁やら地面の中に放り込まれるよりはマシ、だが!)

足元が無くなる。咄嗟に踏ん張る、よりもさらに、転移の魔法を仕掛けて更に悪辣さを増している。
足掛かりも何もなく放り出された先は、見覚えがないわけではない。
到達、並びに帰還も幾度もなく果たしている場所だが、その危険度は先程までの浅層の比ではない。

「っ、む。おうい、無事か?」

ともあれ、魔物の坩堝の中に直ぐに放りされるよりはまだ、マシだろう。
天井がないことを除けば、広々とした広場のようにも見える只中に着地しつつ、周囲を見回そう。
魔物らしいものも遠く遠く見えることも思えば、会敵は恐らく間近。それよりもまずは現状確認を優先する。

シロナ > 少なくとも、純粋な人よりも、シロナは頑丈にできている。
 母親のリスとか、叔母の竜胆、ラファルのように、鉄の剣程度の武器で切りかかられても、まったくダメージを受けない程では無いが。
 簡単に切れるものでは無いし、一般的な腕前の冒険者の攻撃なら、ノーダメージである。
 それが、戦士としての肉体とするなら、才能としては特上だ。
 身体的にも、身体能力は高く、並の熟練冒険者は凌駕出来ているのもある。

 それでいて、シロナは、ちゃんと戦士としての訓練を行い、体の使い方、戦い方は学んでいる。
 そういう意味では、人のように学ぶからこその脅威もあるだろう。

 学んでいないことに対しては―――さすがに万能と言う訳では無いけれども。

「え、ヴァールさんに……?
 うわぁ。」

 家令長は、実質母親リスの次の立場の人だ。
 彼が動く、という事は基本的に、お仕置き案件という事にもなる。
 華麗なブリッジしながらの言葉に、文字通りに、うわぁ、と今後の流れを想像して顔をくしゃぁとゆがめる。
 的確に、嫌がらせ的な、お仕置きになることが、理解できてしまったから、だ。

 ただ、今はそれよりも。
 罠にとらわれて、魔力に翻弄されつつ、どこかに飛ばされる。

 世界の色が消えて。
   世界が伸びて、どこかに運ばれて。
    そして、世界の色が戻ってくると、見知らぬ場所。

「……?」

 きょろ、と紅色の眼は周囲を見回して、首を傾ぐ。
 知らない場所、空ははるか高く、外のようにも思える。
 それと同時に、確認の声。

 ふ、と意識を戻せば、自分の身体をチェック。
 腕、足、頭、どこか欠損はあるか、不調はあるか。
 ぐ、ぱして、力が入るか。

「あ、うん、ダイジョブ。問題ないよ。」

 軽くチェックしまわり、うん、と頷く。
 周囲を確認している先生、こうなった以上は、あわてるよりも先達についていく事にする。
 差し迫って、他に何かがいる、と言うのは、なさそうだ。
 自分の確認を終えてから、再度、周囲を見回す。

「外……?地上じゃない気も、するんだけど。」

影時 > フィジカル面で言えば、生まれながらに得している。メリットが多く生まれている。
要はそれに胡坐をかかないように、留意しながら、訓練を積めば良い。
基本はそういうことだ。最終的には個々人の判断や意思に任せるにしても、鍛えることでより磨きがかかる。
何せ、天然野性に生きる竜ではない。
人の姿で竜のチカラを持つのは、一部の例外を除けば相応の訓練が必要になることだろう。

あとは、そう。気質が向かない、そもそも覚えてない分野についてはどうするか。
解決方法は至極単純。迷宮に潜るなら、仲間を募る。それが一番分かり易い処方ではあるのだが。

「こういう場所に潜るな、とは俺も言わねェが――ちぃと先走りが過ぎだぞお嬢様よ」

認識する限り、お嬢様呼びするのを嫌がる、避けてほしい者がかの一族には多いように思っている。
その上で敢えてこう呼ぶのは、揶揄めいたからかいよりも、少しばかり真面目ぶる意味合いが強い。
何せ、雇い主のその次の立場の御仁からの依頼だ。
連れ帰ったら際に何がどうなるか、というのは、想像に難くない。お題は――言わずもがなか。
そういうお年頃なのは承知はしているが、何分タイミングが悪かった。
腕試しなどでもしてみたくなる気持ちもあるだろうが、せめてもう一人くらいは道連れが欲しくなるのが迷宮だ。

(この辺りは、見覚えがあるな。……深層よりマシには違いないが)

転送酔いとも云うような酩酊感を一瞬覚えるが、それも息を整えていればすぐに晴れる。
この手の思わぬ事態は初めてではないが、まずは慌てず、騒がずに現状確認に努める。
今回、普段連れている二匹の毛玉達は此処には居ない。出立前に餌ともども家令の一人に預けている。
故にそうそうあり得ることではないが、はぐれてしまった、というような非常事態には至らない。

見覚えのある風景で凡その階層の察しを得れば、あとは、もう一人の安否の確認と。

「おお、良かった。大事ないなら何よりだ。
 ……見える風景から察するに、この遺跡の中層位だ。
 空が晴れ晴れしてるように見えるが、それだけに――ほら、あンなのが湧いてくるわけで、な!」

転送の気配、或いは人の気配、匂いの類でも察したのだろうか。
広間の向こうから飛来してくるものが二つ、ある。
俗に云う天使をスケルトンに貶めてしまえば、さながらこんな形になる、のだろうか。それとも創造者の悪趣味か。
背に大きな骨格状の翼を二つ備えた骸骨が、手に剣と盾を構えて飛んでくる。

くい、とやってくる姿を顎をしゃくって見遣りつつ立ち上がり、影――忍びが動く。
左腰に差した刀を右手で抜く、と同時に投げる。
大振りの手裏剣よろしく投じられた刀が翼持ちの骸骨が構える盾に、突き立つ。その上で投擲に伴う運動量の勢いにつんのめる。
その隙を忍びは逃がさない。投じた刀の後を追うように肉薄し、刀の柄を掴みつつ敵を地に押し倒す。

あとはぐいと刀を捻り、盾共々骸骨の頭部を刎ね、踏み砕く。
敵に先手を打たせず、逆にこちらからの速攻で制圧、掃討する。この敵は下手に間合いを置くと魔法を使ってくると知っているが故に。

シロナ > 才能に胡坐をかくという事に関しては心配はないだろう。
 シロナはこう見えてギャルっぽいし子供っぽいが、勤勉な娘である。
 強くなることに対しては、貪欲、ともいえる、その結果が、戦士ギルドへの所属に、学校への通学、だ。
 鍛えることは好きだし、家の中には体を鍛えるための、トレーニングマシンはある。
 それに、彼自身に、師事されたことだってあるし、なんなら、今も、手が空いた際には。

「あははー。だよねー。
 やっぱり、居たほうが良いかなーって、思ってはいたんだー。

 ………ごめんなさい。」

 そう、お迎えが来るちょっと前には、感じたのだ。
 必要、という認識ではなかったが、居たほうが良い、程度には。
 改めて伝える先生の、普段は気を使って言わないお嬢様(お仕事モード)
 つまり、自分が考えているよりもまずい状況と言うのは理解できた。
 理解できたなら、まずはごめんなさい、だ。手を煩わせてしまっているのだから。
 
 ついでに言うなら、今この状況も、シロナが引き起こしたと言っても良いだろう。
 ただ、慌てていない、落ち着いた先生の様子に、慌てる状況ではない、慌てても仕方がない事を理解している。

「中層……というと。
 あー。」

 熟練冒険者がパーティを組んで、それでも死亡の確立が発生するくらいには危険な場所だ。
 そこに二人と言うのはとても心許ない。
 今、ここにいるのは、全方向万能忍者(探索戦闘お任せあれ)と、近接戦闘戦士(ウォーモンガー)の二人。
 魔術に関しては、まあ何とかギリギりどうしようもないが。
 何より、今一番怖いのはダメージだ。ヒーラーがいない。
 そういう見方からすれば、絶望をしても良いのだろう、状況でもあるが。
 来たことのあるという言葉と雰囲気。
 何とでもなるレベル、とは言わないが、生存ができないとまでのピンチでは、なさそうだ。

「あんなの。」

 空を飛ぶ骸骨。
 剣と盾を持って、天使よろしく一直線で。
 成程、と納得すると同時に動く先生。
 授業と言うような雰囲気で、刀を投げ飛ばし、それを盾で受けて。
 動きが一瞬止まったところに肉薄しての追撃で、一体。

「ドラゴンブレス……っ!」

 もう一体、唯々放置して見過ごすのは、シロナの性格ではない。
 敵が来るなら、対処する。
 空を飛んでいて、遠くにいるから、と攻撃しないという選択肢はない。
 腰のホルダーにあるのは、手投げ斧(トマホォォク)
 まあ、普通に投げても防がれるだろうから、その手投げ斧(トマホォォク)に、魔力を付与。
 闇と竜の属性を武器に付与して。

「どっせぇぇぇいっ!」

 踏み込み、体をひねり、竜の膂力を、全力に、全身の発条を使って、手投げ斧を投げ飛ばす。
 これに関しても、遠距離攻撃が無い事を懸念していたし、訓練もしている。
 空を飛ばれたら厄介なこともあるから、と。
 斧は、空気を裂いて高速回転しつつ、直線で、吹っ飛んでいく。

 当然フライングスケルトンは、盾を構えるが、刀と比べて質量も大きいし、膂力も桁違いな手投げ斧。
 もともと投擲用に作られているのもあったし、魔力での強化も含め。
 盾毎、フライングスケルトンの頭部を破砕した。
 頭を失ったスケルトンは、当然、堕ちていくのが見える。

影時 > 「お前さんにゃ、まだちと早い。
 ……とは言え、此ればかりは気質にもよる以上、俺からとやかくは云い難い。
 
 だが、自認してるということは良いことだと誉めてやろうかね」
 
才能に胡坐をかく――という、反面教師となりうる子が居ないだけ、この家、この一族はしっかりしている。
指南役という名前の家庭教師をやっている身として、そう思う。
冒険者になる、ならない、騎士志望等々、それぞれで思う進路は自由だ。己はただ教え、監督するだけである。
当の本人がその気にならない場合、教えても伸びる、矯正できるという余地が生じない。
だが、その気があるならば、可能な限りで教える。それが己の務めである。

――あとは、そう。どういう点で居た方が良いか等々。

自分にできないから、何を他者に求めるか。突出するが故の脆さ、不足領域。
徒党を組むのは体面的なものではなく、補え合えることで不備を失くし、事故の可能性を減らすことに意味がある。
本格的な説教は依頼主に任せればいい。ただ、分かっていたのならば、その点は良し、としよう。
素直に謝罪を述べる様子に、目尻を下げて笑う。このあと、対処すべき事項がある。

「上の層を楽々こなせるようになったから突進すると、割と痛い目に遭う場所、だ。
 魔法使いが息切れし易くなる辺り、と言ってもいい。俺も戦う敵を選び始める頃合いと言やァ、分かるかね?」
 
上層を魔法の助けを少なく突破できる、闊歩できるようになった力量の徒党が、よく躓くあたりだ。
敵を一掃する魔法が効かない、効き目が目減りした処を突かれ、這いながらも逃げ帰られるならば善し。
そうならずに愚直に突き進むと、全滅も免れない領域。忍者も大人しくその忍びの技に徹し始める頃とも言える。
味見程度に歩き回り、上層に戻れればいいのだが、それにはまず、敵を片さなければならない。
そう、あんな敵とか。顎をしゃくり、飛来する者を見遣りつつ薄く笑う。

(……まーだこの位なら、どうとでもなる)

この辺りで厄介と呼べるものは、どれだけあったか。
大小さまざまなの厄介案件を思い返しつつ、面倒が膨らむ前に一体を屠る。制圧する。
此れがこの階層の流儀だ。何よりも先んじることが、この先重要になる。
空を飛ばれながら、魔法を撃たれるのは非常に厄介この上ない。故に手投げ斧というのも、その実馬鹿にならない手段だ。

「おお、見事見事。やるようになったなァ。
 この辺り、飛び移る魔法仕掛けの類が仕掛けられてるせいかね。今みてぇに飛んでくる奴らも多い」
 
竜と闇のチカラを得物に乗せ、投じる。安直に投げればいいものではない。練習無くて飛び道具は当たらない。
コントロールも見事に回転する斧刃がざくりと刺さり、狙いを破砕する有様に拍手するような仕草を見せて。
取り敢えずの厄介が失せれば刀を鞘に納め、雑嚢から紙束を取り出す。
手製の地図と方位磁針だ。この辺りは不思議なことに、磁針による方角確認が出来る。
方角を確かめ、地勢を確認し、見えるものを照合する。それが出来れば、こっちだ、と走り出す。
広場と呼ぶべきところを駆け抜ければ、今いる場所が宙に浮かぶ石盤のようなものだと知れるだろう。
高所恐怖症なら足がすくむような場所の縁の一角に、魔法陣が描かれている。

それに飛び乗れば、はるか向こう側の岩盤に飛び移れる。
――このようにと先導する忍者が踏み込めば、淡い光に包まれた姿が音もなく向こう側の同じ魔法陣へと瞬時に移動するのだ。

シロナ > 「ありがとうございます。」

 お叱りの間でも、認めてくれることに関しては素直に感謝を。
 しかし、今はちょっと手放しでは喜べないので、いまは、ここを掘り下げてはいられない。
 トゥルネソルの人竜は基本的に、一貫していない。
 リスが片親として、娘たちがそれぞれ異母姉妹だからと言うのもあるが。
 そもそも、トゥルネソルの人竜は、リス、竜胆、ラファル事態に竜の種別が違う。
 なぜなら、人間が持つ可能性が竜の種別などを違うようにしているのだ。
 だから、子供が、それぞれ興味を持つものが違うし、資質も、気質も一貫しないのだ。
 ただ、皆が、本当の意味での邪竜(わるいこ)になってないのは、喜ばしい事。

 もし、悪い子だったら、トゥルネソルの存続のために全力で矯正されるだろうことは間違いない。

 ―――話はそれて。

 今は、このダンジョンに集中するべきだろう。
 ここは、魔法が重要になってくるらしい、そして、その癖に、魔法に対策をしっかりした敵が多い。
 だから、魔力をどこで使うか、どこで制限するかを選択される場所という事なのだろう。

「つまるところ、アタシ(足手まとい)がいると、ガクッと生存の可能性が低くなるってことだね。」 

 影時師匠でも、鼻歌交じりではいられない場所という事だ。
 全力で、師匠が、周囲を警戒し、罠を警戒するのと、逃げるために気を張っていなければいけないとの事だ。
 それこそ、今の魔物のような空を飛ぶ存在は、弓を持っていてもどうしようもない。
 スケルトンは、弓に強いし、空を飛ばれれば、基本的に魔法が必要になる。
 あの盾などで魔法が防げたりすることを考えれば、なんとなく把握できる。

 今は、影時師匠の技術と、シロナのスキルが上手く作用したというのもあるし。

「一応、竜氣の技もあるけどさ、あれは大技だし、余り連発できないから。
 手段は多い方が、良いんでしょ?」

 それは、先生(影時)から学んだことだ。
 戦闘とは、何があるかわからない、それこそ武器が使えないときもあるだろう。
 だから、戦う手段に幅を持たせろ、と。弓矢もありなのだけど、弓はかさばるし矢が必要。
 それで、投擲だ。武器を投げるというのは、リスクがあるが、それでも、幅を広くするならいい。
 石ころを拾って投げるだって、金貨を投げるだって。
 それなり以上の質量があれば、良い、ナイフなどもあればなお使える。
 趣味として、手投げ斧を選択しただけで、その気になれば、なんでも投げられる。
 人竜の膂力なら、弓よりも凶器となるだろうから。

 堕ちていくスケルトンに近寄り、動かないことを確認しつつ、斧を回収する。

「えーと、ああ、魔法陣と魔法陣でつながっていて、踏むと転移する、と。
 さっきの罠と似た感じで、行く場所が固定されてるんだ。」

 なるほど、と納得しつつ、影時について、魔法陣に入る。
 空を飛べるが飛ばないのは、飛んでいるというのは案外無防備だし。
 そういうのに対策を取られれば。

 謎の空間にアイキャンフライするだろうし、なにより。
 転移先がわかってるなら楽なほうが良いから。 

影時 > 「どういたしまして、だ。
 ……ふむ。この辺りの考え方を話し合う授業でも、外が使えない雨の日にでも考えてみるか」
 
役割分担(パーティプレイ)の重要さ、有難みというのは、実際にやってみないことにはピンとくるまい。
だが、もし。今の事態を引き起こした罠を事前に察知出来たら、それは何か?
実例を踏まえて考え合う、話し合うというのは「兎に角仲間を組め」と言うより得心し易いことではないかとも思う。
トゥルネソル家の子供たちは、個々人で同じ竜でも種別が違う。気質が違う。
飛びぬけている子が居れば、そうでないタイプも多種多様だ。
誰かと補い、支え合うのは人のように生きるにしても、非常に重要なことではないだろうか。

――この領域のような、危険地帯を進むにしてもそう。

この忍びは魔法じみた術を覚えてはいるが、考えなしに振るうことを好まない。
使い手の気質、性格もあっても、単なる出し惜しみではない。使いどころを心得ているからだ。

「いんや。一人の時は一人の、二人の時は二人のやり方がある。
 だが、いずれにしても重要なのは、如何にして戦う回数を減らし、敵が先手を取る可能性を無くすかだ」
 
足手纏いではない、と。先に頭を振って伝える。
己にとっての足手纏いとは、それこそ無力で戦いようもない護衛対象を独りで護れ、というような場合だ。
戦うチカラを持つなら、それは経験の多寡こそあれ、一口に足手纏いとは云えない。
つまりは考えて立ち回れ、ということ。会うもの遭うものを片端から倒すのが、迷宮歩きの賢い作法とは云えない。
この階層の怖さは、洞窟や迷路の中以上に開けた上からの急襲に警戒が要る点にもあるのだから。

「然り然り。故に天井が低い場所だと倦厭される弓の類を、此処に備えて持ち込む奴らも居るな。
 ……飛んでいる間に、下をよく見ておくことだ。
 飛ばされている時に不思議と攻撃は受けんが、丸見えになるのは敵も味方もお互いに、ということになる」
 
魔力や竜力の消耗を抑える手段は、何があるだろうか。
回復薬を余分に持つのもいい。行き先が決まっているのなら、それに適した装備を持っていくのも、間違いではない。
唯一つの回答なんてない。どれこれもこれも正しくもあり、偶に外れることもある。
上下が短くも強力な、遊牧民好みの合成弓を持ち込んでいる冒険者も、この階層を巡る者には少なくない。
装備を回収し、移動しながらもこの階層での振る舞い方のアドバイスを述べつつ、転移の魔法陣を踏む。

上層に通じる経路では、これをあと二回くらいは踏むだろう。
この先に見えてくるのは、先程の広場よりは狭くとも壁で区切られた広間だ。
そこに屯するものを確かめる。不可思議な結晶が宙に浮かび、蠢く精霊体や、干乾びた魔導士らしいスケルトンの群れ。

「――先に魔導士の骨野郎から潰す! 精霊体の奴は、魔力を篭めて殴るなら砕ける!」

着地すれば、直ぐに動く。地を蹴る。
生きた気配を遅れて、今更ながらに認識したのだろう。カクカクと奇妙な動きで震える骨魔導士が杖を構える姿を認める。
頭蓋骨の口元が震え、痙攣するように詠唱を始めるような素振りに、右手を腰裏に遣る。
其処にある雑嚢の裏から引き抜く、水晶のように煌めく鎧通しの短刀を敵の口元に捻じ込む。
脳髄をかき回すような刺突は、同時に魔力を奪う素材の特性と相俟って、物理的にも魔力的にも詠唱を許さない。

次いで、硝子が響くような音を放ち、震える薄緑の精霊体は恐らく風の精霊なのだろう。
攻撃の予兆を、吸い込むような風の唸りと動きで感じさせる。
吸い込んだなら、吐き出すのは道理だが、その際起こる風は強風か、真空の刃か。

シロナ > 「はーい。
 雨の日は、外使えないん、だ?」

 雨の日は、雨の日だからこその訓練があると思っていた。いついかなる時も戦場になる。
 雨だから襲わないとか、そういうことを考えないのが敵だし。
 そう考えるなら、それでもいいか、と頷いて、みせて。
 シロナは、物理的には飛びぬけている……方ではない、実は物理に寄りつつのバランス型。
 体を鍛えたり、訓練しているから、物理に見えるのだ。
 どっちかと言えば、プリシアとか、リーナ辺りが、物理に特化していると言って良いだろう。

「成程?」

 初心者(シロナ)でも、足手まといではないという言葉に、目を丸くする。
 でも、やりようがあるというなら、それに従う。
 今は、プロの技や考え方をしっかり考えて、学んでいくようにしよう。

「ああ、確かに移動してるときは、放り出されているようにも見えるし。」

 シロナは、理解する。
 確かに、浮島から浮島への移動中は、魔力に包まれて中空を滑っていた。
 それは、自分からも、向こうからも、しっかり見えるとの話に納得できた。
 浮島に到着したところで、動き始める骨と何か。

「……風の魔法、精霊……。
 ランクとしては……うん。」

 構成されていく精霊魔法。
 それを見るのはシロナの竜眼。
 シロナは、にぃい、と笑って見せる。

 そして、此方に向かって魔法として吐き出そうとしている。
 精霊とは、魔力での存在だ。
 シロナは、戦士で、人竜で、淫魔だ。

「もらう、よ!」

 エナジードレイン、精を吸い取る、淫魔の魔力。
 竜の眼で、風の魔法を散らしつつ、精霊の精を吸い取っていく。
 風を震わせて、悲鳴のようなものを上げて逃げようとする、精霊。
 シロナの全身に吸い込まれていく、徐々に、徐々に精霊の魔力の体が解かれて、吸い取られ、消えていき。

 結末、何もできずにちゅるん、とシロナの中に吸い取られた。

影時 > 「身体を冷やして風邪でも引かれると、色々面倒が多くてなぁ。
 屋根がある訓練場も、此れは此れで奪い合いがあってな?」
 
常在戦場――の道理をこの国で説いて、受容されるのも時と場合による。
雨季、雨の季節ならばまだ良い。しかしまだこの時期だと、寒暖の変化が目まぐるしい。
生徒が風邪を引き、その責任やらどうたらを保護者などから突き上げられるのは、色々と始末が悪い。
屋内の訓練場も使えないような時なら、下手な運動よりも頭を使ってもらう方が有意義だ。
いけいけどんどん、猪突猛進ばかりが冒険でも戦争でもない。

――“こういう時、どうするか”の思考実験とて、存外馬鹿にならないものだ。

「こンな場所ならでは、という処もあってな。
 移動している間もそうだが、遠くから動いている奴らを見つけて……音を立てずに観察する。
 そうして得られる情報の有り無しってのは、存外馬鹿にならねェものだ」
 
歩いて移動ではなく、飛び石を渡るような移動を強いられる場合、順路が限られる。
ルートが限定されるならば、そこに魔物を巡回させれば、効率よく侵入者を排除できる――とは思うだろう。
だが、同時に考えなければならないのは、見通し、見晴らしの良さは敵味方関係なく働く。
可能な範囲で偵察、もしくは俯瞰して、手持ちの札を吟味して方策を練る余地が此処に産まれる。
例えば速攻。或いは敵の攻撃を一手防ぐか、出かかりを潰しながら攻めに転じる等々。

「旨いだろう?なに、旨くない?そりゃァ御尤も。よくしゃぶって果てるがいい」

例えば己の場合、詠唱もなく、或いは最低限にして術を発動できない敵なら、そこに速攻の余地がある。
まして、今右手に執り、突き立てる魔骸鋼石の刃は“魔導士殺し”となりうる魔刃だ。
詠唱器官たる口腔を潰し、屍人を駆動させる原動力が籠った頭部を破壊してしまえば、余計な被害は避けてしまえる。
残る厄介は精霊だ。此れは同じ刃か氣を篭めた刃、または忍術を行使する必要がある。
だが、それは己にとっての方策であり、今ここに同伴する人竜にはそうではない。何せ足手纏いなら――、

「……ちゅうちゅう吸っちまう、かぁ。その手は俺も思いつかなかったなァ……と」

吸精(えなじぃどれいん)なんて技は、使ってこないのである。
迷宮によっては現れる淫魔の類が使ってくるそれに、冒険者が精も根も奪われ果て、死に至る。其れを精霊に使うとどうなるか。
こうなるのだ、と言わんばかりに玲瓏たる精霊体がほどけ、悲鳴宜しく軋むような響きを奏で、消えてゆく。
目を瞬かせつつしみじみと零し、鎧通しを引き抜く。
がらがらと屠った骸骨が崩れてゆく中、視界の端に捕らえるのは壁際に置かれたふたつの宝箱だ。
慣れた素振りで刃を収め、注意深くその箱の傍による。周囲に仕掛けられた罠の類は――なさそうだ。

影時 > 【お遊び判定/発見物(2d6)⇒1:良品/普通 2・3:高級品/業物 4・5:最高級品/大業物 6:マジックアイテムor魔導機械】 [2d6+0→1+6+(+0)=7]
シロナ > 「……家はそう言うのだろうか……?」

 なんか、言わなそうな気もするが、それはそれ、だ。
 預かる方としては、気を回さないといけないのだろう。そんな風に考えれば、まあ此方が言うことはできない。
 ただ、どんな状況下でも、しっかりとした授業を行ってくれるから、その手腕に任せたほうが良いのだろう。
 経験豊富、と言うのは、経験のない自分からは、導き出せない答えや方策があるのだ、と。
 知らないのに、文句を言うのは二流以下、では無いだろうか、と。

「少なくとも、持っているものである程度の把握はできるから。」

 戦士は鎧を身に着けるし、重装。
 魔術師は軽装で、魔法の発動具を持っている。
 僧侶は、神の衣をまとう。
 盗賊は軽装で、道具を持っている。

 それだけでも、十分に対処が考えられる。
 前にそう言っていたのを思い出して、ああ、と知識に納得と理解として定着する。
 そして、それがモンスターだったとして。
 見てわかるのか、判らないなら、判らないなりにどうすればいいのかと。
 成程と、理解して頷いて。

「うわぁ……。」

 ぐりぐり、ごりごり、と魔術師の骨が、じたばたしているが、そのままに動かなくなるのが見える。
 なんかえぐいなぁ、と思うのだけど、これが、先生の戦闘の仕方、だ、と。
 何もさせないままに、暗殺するのだ、と。

「あはは、まあ。
 アタシもあまり使わない手段、だからさ。
 淫魔だって言うのは前面に出せないし。」

 そう、淫魔は、魔族だ。
 この国は、魔族と戦っているし。
 そんな中に、血筋とはいえ、それを大っぴらに見せられるわけでは無い。
 それに、精霊と対峙するのは初めてだった。
 竜眼で見て、出来ると感じたからしたのだし、と。

「後、せんせ?どしたの?」

 先生の行き先を見ると、その先に、宝箱がある。
 ああ、これは、トレジャーと言うやつであって。
 それを解除するというのならば、シロナの役割は。

「周囲の警戒、だね。」

 叔母のラファルとか、師匠ほどではないが。
 警戒程度なら、出来るはずと、師匠の背中の前に立ち、周囲を見回す。

影時 > 「雇い主殿はあンま言わないと思うが、どこの土地でも居るものなのさ。
 ……我が子の可愛さ余って、みてぇな御仁はね。真っ当かどうかは程度と次第にもよるだろうがね」
 
教育の観点で、この辺りの塩梅は難しい。
騎士の家の育ちなら、そもそもそういう理解はあると思うだろうが、お貴族様は家にもよる。
雨天でも決行すると予め周知しておいても、いざ風邪を引いた時にあれやこれやと突き上げてくる事例の多さよ。
それらを嫌がって教師の職を辞する事例は資料を紐解くまでもなく、学院では存外多そうだ。

教える方も、多少なりとも気を遣う。
雨続きの時期は屋内、またや屋根付きの場を貴族や王族クラスに既に取られている――というのは、割とある。

「そうそう、先ずは持ち物で察しをつけられる。
 さっき倒した羽根持ちも、弓や槍を持ってくることもあるからなぁ……無手の奴が一番怖い。
 
 奥に行くと、もっと大所帯で出てくることもある。
 今回はあれだ。入口にの方に逆に向かっているからかもしれねェなあ」
 
骸骨含め、人型の魔物の良いところでもあり、恐ろしいところである。
持ち物から凡その系統、タイプに見当をつけられる反面、諸々整ってない状態で相対を強いられた際が一番怖い。
一番不気味なのは、偶に。時たま、何も持っていないように見える骸骨が闊歩している時だ。
骨身にまで技が染み込んだ格闘家かもしれないし、杖が要らないほどに術を極めた稀代の魔術師かもしれない。
もっとこれが大勢で来た場合、それが一番なりふり構っていられなくなる。
使い時を選んでいる忍術、或いは火薬、力を秘めた忍具等々。そういった道具の消費も止むを得ない。

「確かに。……ふーむ、その意味でもあれか。シロナ、お前さんと組む奴は口が堅いのも必要かもしれん。
 ん?ああ、宝箱だ。家令長殿への土産ついでにいいかもな、……――と」
 
淫魔と聴いて、いい顔をする人間がいるやら、いないやら。考えだすと苦笑が滲む。
教え子がそういうものだからと、その時点で毛嫌いはしない。否定する理由は己の中にはない。
人となりは実際に見て見極める。己と同じスタンスを他に求めた際にどうなるか、が徒党を組む際の問題だろう。
そう思いつつも、見つけた宝箱に向かう。
不意の突入だったとはいえ、せめて手土産はあるに越したことはない。 

独りの時は分身を出すか、肩上に陣取る毛玉達が警戒をしてくれる。
今のこの場合なら、察しが良い彼女はあれやこれやと言わずとも、どうすればいいかを弁えてくれている。

宝箱に仕掛けられた罠は――幸か不幸か、そこまで厄介ではない。
鍵開け道具を広げ、注意しながらも手慣れた手つきで開錠して、出てくる中身はというと。
 
【形状判定(2d6)⇒1:剣/刀 2:短剣/短刀 3:槍/斧 4:打撃 5:射撃 6:棒/杖】
[2d6+0→2+4+(+0)=6]
影時 > 出てくる中身を、改める。
少しの古びた金貨と正体の知れぬ水薬の瓶が、いくつか。それは良い。これ位なら、そう珍しいことではない。
最終的に問題になるのは、武器防具の類が出てきたときである。

二つの宝箱を開けて、出てきたのは二つ。
一つは短剣。これ自体はそう珍しくはない。年代こそあれ、普通の出来のいい短剣。
もう一つは打撃用。よくあるメイスやハンマーではない。双つ揃った脚甲、グリーブ等とも呼べる蹴り、踏み抜き用の格闘武器。

(これは……)

後者については詳細に鑑定が必要ではあるが、手にした段階で何となくとも感じるものがある。秘められた魔力の気配だ。

シロナ > 「あー。お貴族様とか。」

 トゥルネソルはその辺りは緩いというか、むしろ風邪ひく方が悪いとかいうかもしれない。
 妹のルミスに至っては、騎士志望だし、水の竜だ、雨は喜ぶ方だ。
 後、オルテンシアも雨の日がテンション爆上がりするとかなんとか。
 まあ、こう、その辺りを気にするのは、プリシアとか、くらいだろうか。
 気にするのは主に、シロナだけど。

 ま、基本先生は家庭教師だし。
 学校の先生ではなく、リスはあれだから、任せたら本気で任せきりにする。
 その代わり、任せるに足るかどうかは、凄くチェックするけれど。

「無手のやつ……ぁあ。魔法を使うから、か。
 とりあえず、早く撤退しないと、ね。」

 そうだ、魔物だから人間の様に魔道発動のための道具が必要とは限らない。
 見てもわからないから、怖いのだ、と、頷いて見せた。
 一番怖いのが、無手に関しては、シロナは魔法と言う認識をする。
 その辺りはやはり、人竜ゆえの、自分の防御力を無意識に信頼しきっているのかもしれない。

「でしょう?
 まあ、クロねーちゃんのように、あれだけ全開でとは出来ないよ。」

 もともと、淫魔としての覚醒は後からだから。
 姉のように生まれつきの淫魔ではないので、こう、自分が淫魔だ―と言うのは、エロいことをするとき以外は言いたくない。
 特に、冒険者とか、そういう場合だと、特に。
 冒険者が色恋で崩れるとかよくあるし、それで、淫魔だから何かしたんだろとか言いがかりを受けても仕方ない。

 シロナは、戦士ギルドに所属してるから、警戒の重要度は学んでいる。
 誰だって、無防備なままで居たくはないのだと。

 そして宝箱を開ける間、かちゃかちゃ、と言う音がして。
 宝箱が開いた。
 とはいえ、今は、シロナは警戒中だ。
 声がかかるまでは、安全を優先する必要があるので、シロナはただ、周囲を見回していた。

影時 > 「おっと。表でそう言っちゃァいけないぜ?」

一応と前置きするでもなく、親御様から大事な子供を預かっているのが、教師であり講師である。
響く言の葉に、クと喉を鳴らしては、笑い声交じりに一応は釘を刺しておこう。
監督責任やら何やらを言われ出すと、それはそれはもう、返す言葉の有り無しを探すところから始めないといけなくなる。
雨が降っても戦う時は戦わないといけない、と教えるのだって、時期と塩梅を考えないと面倒が過ぎる。
誰も彼もが冒険者になるわけではない。騎士や兵士になるものも居る。
そうした者達のやる気、気持ちを見て、可能な限りを教えるのだ。
雨天の凌ぎ方、濡れた靴の対処の仕方。それらを実際に教えるのが難しい時は、座学。
 
「……――いやいや。魔法じゃなくてな、体術使いも居るンだよなあ。
 それも奇妙な位に動きのキレが良い奴。もしかすると名のある奴が、この辺りで果てて骨になったのかねェ」
 
それがな、と。覆面越しからも分かる位に、心底面倒そうな顔つきをしながらぼやく。
戦う術は武器の有り無しに限らない。その身一つを武器と成すまで鍛えた使い手が、骸骨兵として使役される場合がある。
余分な肉も何もかもを削ぎ落とし、軽くなった極限の骨身が速さを以て、侵入者を打ちのめす。
その情景を見た時、思わず目が点になった程だ。
復活させられたものが若しかしたら、この階層で闊歩していると考えると、非常に厄介だ。
純粋な暴力が速度の二文字のみで、敵を叩きのめしてくる情景はまさに悪夢めいていて。

「だ、な。……クロナお嬢様かぁ。あンま話したことはないが、飛びぬけ過ぎてるような感じがするな。
 
 さて。思わぬ戦果というか、土産だな。
 帰って鑑定してもらうか。俺が持つより、お前さんが使う方がきっと良い類だろうよ」
 
かの一族の家に出入りし、子女の悉くの顔を覚えてはいるが、話す機会に恵まれない、少ない子も居る。
確か、と聞こえる名と顔を思い出しつつ、竜というにはどこか違う有様を思い返すのだ。
それはきっと、淫魔という在り方の方が強く出ている、と呼ぶべきだろうか。
そう考えながら、見つけたものを手慣れた仕草で拡げた風呂敷に包み、腰裏の雑嚢へと放り込んでゆく。

短剣は自分が引き取っても良いし、売り払っても良い。
脚甲の一揃いについては、自分よりもきっとこのお嬢様が使う方が一番無理がない。そう見立てる。

強いマジックアイテムの類か、それとも精巧な魔導機械のいずれか。
いずれにしても鑑定し、正体を突き止めてから最終的な使い方を見出せばいいだろう。

そう考えながら、この先に続く順路を見定め、地上を目指そう。
己が付いていながら、うっかりこの階層まで落ちてきた責については、二人揃って正座でもしながら説教を受けよう――。

シロナ > 「はーい。」

 こう、貴族様の悪口言ったら不敬罪。
 そのくらいは分かっているし、だから、先生の言葉にうん、と頷いて。
 先生の教育上手は理解しているから、それに同意して見せて。

「成程……。
 格闘家は、むしろ……っ!」

 先生の言葉、格闘家と聞けば、目が輝く。
 まあ、武術家として、そこは興味がわくのは仕方がないだろうし。
 それで大けがするが、だから、危ないのだろう。

「クロねーちゃんは、淫魔が濃いから。
 ふつうに、淫魔そのものの姿だし、能力も。
 鑑定……か。」

 確かに、鑑定が必要だ、見たところ足甲だ。
 自分も体術は、投げと蹴りが中心だからこそ、これは嬉しい。

 流石に、魔力があるかどうか、は分かる、価値は、判る。
 竜としてのそれがあるから。
 ただ、詳細はやはり、鑑定が必要なのだろう。

 師匠とともに、ダッシュで逃げ帰るのだった。

 その後、正座の後説教&シロナにはお仕置き、が待っていた―――

シロナ > 足甲詳細
1 マジックアイテム 魔法発動型
2 マジックアイテム 能力増強型
3 マジックアイテム 属性付与型

4 魔道機械 機械的能力増強型
5 魔道機械 魔法再現型
6 魔道機械 機械的特殊能力付与型
[1d6+0→6+(+0)=6]
ご案内:「無名遺跡 浅層」から影時さんが去りました。
シロナ > 魔導機械 足甲能力

1 加速系能力
2 飛行系能力
3 物理系射出系能力
4 バリア
5 重力操作
6 エネルギー系放射能力
[1d6+0→1+(+0)=1]
シロナ > 加速方法

1 ローラーダッシュ
2 空気噴出系加速
3 電磁力系加速
4 ワイヤーアンカー
5 ジェット噴出
6 重力操作系
[1d6+0→1+(+0)=1]
ご案内:「無名遺跡 浅層」からシロナさんが去りました。