2024/07/20 のログ
ご案内:「無名遺跡」にティアフェルさんが現れました。
■ティアフェル > ―――ガッシャン
格子が降りる金属音が背中で響いた。
そこは遺跡群の片隅、千年ほど前の居城跡。所々朽ちた石造りの建造物が何者かの手に依って改変されダンジョンと化していた。
普通の人間は近づこうとしないそこをわざわざ目指し潜るのは冒険者、と称される連中だ。
上は英雄視される立場から下はならず者崩れまで存在する輩。
それは上でも下でもなく、一山いくらという程度のポジションだが。性質は少しばかり変わった特攻型ヒーラーと呼ばれたりもする一人の冒険者に起こった出来事。
仲間と何度か潜ってかなり慣れたダンジョンであったので、ごく浅い場所である1階フロアであれば一人でも問題ない――はず、だった。
が、そこで凡ミス発生。
「うそぉ……?!」
順調に小部屋を探索する途中、罠の解除が中途半端であったらしく、部屋に足を踏み入れた瞬間背後で冒険者を閉じ込めるべく出入り口に鉄格子が降りた。
それも単純なトラップで外からは容易く解除できるのだが―――中からは開かない仕組み。
パーティプレイであれば、誰かが外にいれば問題ない程度だが。ソロの悲劇。開けてくれる仲間は不在。
「えっ、えっ、えーっ?! どうしよう! マジか! あ゛ー……」
慌てて天井から床まで牢獄のように降りる柵に取りすがるも時すでに遅し。
「どう、しよう………誰か!! 誰かいませんかー?! お願い! 誰か! 誰かー!! 開けてえぇぇー!!
ここから、出してー!!」
中からは万力を持ってしても開かないような頑健な仕掛け。外からは簡単な操作で開閉可能なのだが……。
閉じ込められてしまえばどうやっても出ること適わず、格子に取りすがって外へ向けて大声での呼びかけ。
部屋と部屋をつなぐ、まるで果てがないように長く長く伸びる石造りの薄暗い回廊に女の声が亡者の嘆きのように反響し鳴り渡っていた。
■ティアフェル > やや恐慌状態で叫んでみたが……それは虚しく石壁に反響して消えゆくばかりで。
応答はなし。
「やばい……これは……やばい。
ちょーっと待ってよ……ここで誰か通りかかるまで持ちこたえられるかどうか……
食料と水は数日分……節約して約10日ってところか……それまでに……それまで………来なきゃ死ぬじゃん!」
来るか来ないか解らない者を待って干からびる訳にもいかない。
罠の解除は専門外だが……どうにかして脱出する方法を探さなければ。
しばし壁を叩いたり鉄格子を調べたり床を這い蹲ってみたが――
「あかーん! わからーん! ……もー……無理だし、中から解除できる仕掛けなんかないし……外からだと……滑車を回せば上がるのか……なんだこの難易度の差」
なんてソロキラーな。
一発で掛かったわ恥ずかしい。
「もー! こんな時に限ってだーれも通りかかりやしない……! いやー……通りかかったとて絶対に助けてくれるとは限らないか……わたしが干物になったところで困らないだろうし……」
いかん、閉鎖空間で考え込んでいたら闇落ちしてしまう。
ただ助けてー、じゃなくってお礼は弾むからお助けください!にしたらどうだろう?
それなら希望は? ちょっとくらい興味を引かれてのこのこやってきて……いや助けてやろうと来てくれ……たらいいな。
ダメもとで。
すうーっと大きく息を吸い。肺に空気を送り込んで。
「お礼は弾むのでどなたかいらっしゃいましたらお助けくださーい!!」
腹から声を出して大分丁寧に救助を求めてみた。
■ティアフェル > 「丁寧にすりゃいいってもんじゃ………なかったか……」
運の問題が大きかったかも知れない。
残念ながらまたしても反響しては消えていく訴えに肩を落として大きく嘆息し。
「まー……すぐ死ぬって訳じゃないし、取り敢えず冷静に足掻くか」
こういう時こそ落ち着いて。しかしあっさり諦めず。がっちり生にしがみついていこう。
最後まで悪足掻きを辞めないのが冒険者というものだ。
さすれば道は拓かれる―――
かも知れない。
ご案内:「無名遺跡」からティアフェルさんが去りました。