2023/11/30 のログ
ご案内:「無名遺跡」にエスクレンタさんが現れました。
エスクレンタ > 「さてさて、お客さんは来るかねえ。」

 駆け出しの冒険者程度では撤退を余儀なくされる中層以降、
 用意周到な探索者も消耗品が心許ない頃、休息を検討する頃合いの階層にそれはいた。

 魔物の気配がない小部屋に絨毯を広げ、様々な品を並べた奥に腰を下ろす蠢く影。
 フード付きのローブを身にまとい、背後に置いた巨大な背負い袋にもたれかかる【商人】
 だが頭部はイカそのもの。ローブから見える手足は青く光沢を帯びている。

 無銘遺跡に潜み、種族問わず商いをする魔族は、ここまでたどり着く名うてか、
 それとも罠にはまって深層まで迷い込んだ犠牲者かを待ち構えて。

ご案内:「無名遺跡」にシアンさんが現れました。
シアン > 昇級試験内容。無名遺跡中層以降で得られる物品を最低一つは持ち帰ること――
駆け出しを脱し、一人前と呼ばれ、更にもう一歩向こうへ踏み出すことを望む冒険者たちが、
一人および数人での構成かつ実績のある冒険者一名を随伴することで臨める試験なのだが……

「まあ。なんだ。気ぃ落とすなって。運が悪ぃときもあるさ」

此度挑んだ冒険者達の戦果は悲惨であった。
宝箱を見つけたと思えば、空! 宝玉を落とすと噂の魔物は、逃亡! 漸く見つけた魔導具は、壊れている!
持ち込んだ糧食やランタンの燃料も切れかけで各々度重なる戦闘や長い道のりで疲労困憊であり、
戦果は得られないものの流石にそろそろ引き上げ時となってきた折一休みと一つの小部屋に入る。
随伴した冒険者が試験受験者たちに気楽に、一人だけ元気に慰めの台詞を掛けながらだったが、

「はいストーップ。構えんでいい、良く見ろ、襲いかかってくる雰囲気じゃねぇだろ。
 ……よす、騒がしくてごめんな。ちょいと休ませて貰って良いか?」

“彼女”を見てすかさず戦闘態勢に入ろうとした受験者達を手で制しながら、
その手をゆらりと挨拶に振るって彼女に声を掛けた。

エスクレンタ > 「おや、いらっしゃ、あらら。」

 地を這うような気配が一つ。部屋に向かって来る。これは魔物の気配だ。
 片手をあげて挨拶するも、脇目もふらずに別の通路へ逃げていく。
 はて、何を慌てているのか。


「んー……? おやおや。これは珍しいねえ。」

 人の気配。足音。複数。座り込んだ足から伝わる振動を受けて思いのほか多く来たなと思う一方で、大勢が青い。
 その中で、一人だけ中々に苛烈な気配を持つ足音が一つ。

 その姿を認めれば、疲弊した若手の冒険者が数名と、それを先達する手練れが一人。
 なるほど、青二才が万が一でも帰還できないこともないようにという護衛かと。

 若手達が臨戦態勢を取るのも相手へ対処できると判断してのことではなく、疲弊してるが故の半ば錯乱した行動。
 それを一言で制するは、道中も相応に青二才達へ腕前を見せたのだろうと。

「いやいや、気にしなくていいよぅ。お前さん達運が良かったねぇ。
 ここは他の魔物も”戦ってはならぬ”と取り決めた場所。商いの場所だよ。

 ……本当に運が良かったねえ。取り決めを知らぬとは言え、破談にするところが、
 そこの旦那様に命を救われたねぇ。」

 わははははと目を細めて口元の触手を蠢かせて笑う。未だ座り込んだまま。未だ構えぬまま。
 若手達を敵ともみなしていない。猫背でゆるりとした言の葉を紡いで。

「先立つものを出してもらえれば一晩休むぐらいも大丈夫だよぅ。
 しかしどうしたね皆様方。あれかい。いわゆる試験とかなのかい?

 相談ぐらいなら御代はいただかないからお休みがてらお話していかないかい」

 と、背負い袋にうねる手を潜り込ませると、大きなカバンを取り出し、
 中から人数分のコップ、ティーポット、魔火を灯す小炉を取り出してお茶を沸かし始めて。
 あ、これはサービスだよとも言葉を添えて。

 ……きちんと観察できれば行商である。おそらくは遺跡の中を彷徨う商人。
 それも、目の前の、否、それ以上の大容量の商品を、その身よりよほど大きな背負い袋に詰め込んで
歩き回れる膂力の持ち主だと、少なくとも理解はできるだろう。

シアン >  
部屋に入る前に気配に気付けていれば、合格点、
部屋に入って目視して見分けが付けば、及第点。
部屋に入って目視して見分けが付かないのは、減点、現在のコンディションどころか万全であったとしても手に負えぬだろう相手に構える、赤点。……一目散に逃げ出したのなら、追っ掛けなきゃあならない手間は見逃してやって加点してやっても良かったかもしれない。
部屋の外からでも分かるような、“一筋縄じゃあとことんいかなさそうな”気配の持ち主に、まだまだ青い受験者達がうっかりさらにポカやらかさない様手は下ろさず。

「そう言って貰えりゃ助かるよ、こいつ等もまあそれなりには使うがご覧の通り、まだまだでさぁ。
 ……いやほんっと気を付けろよお前ら。この娘さんと戦るとなったら俺でもどうか分からんからな」

えぇえぇぇ……? みたいな具合で目を白黒させては困惑したり混乱したりの彼等は一先ず放って。
取り決め、商い、等と紡がれる言葉に顎に手を添えて目線を少しばかり逸して、
“敵対相手から目を逸らす”何て真似は非臨戦態勢状態である事も主張しつつの、
首傾げて一思案したのち。よしやっぱ休んでこ、と一つ頷き。

「一晩かどうかは後で相談させてもらうとして一休みはさせてもらおうか。
 ご明察。昇級試験でね、結果はまあ、今んとこあんま宜しかねぇが……

 あ、こりゃご丁寧にどうも」

大きな、人おおよそ2人か3人ほどはありそうなたっぷり詰まった彼女の背嚢はさぞ目いっぱい何がしかが詰まっていそうなものだが、其処からそつなく品を取り出しお茶の準備を進める手際の良さに感心したような吐息も一つ漏らしつつ。安心できないのは分かったし俺が対応するから一先ずあっち行っとけ、と受験者達を手払いして隅の方へ追いやってから己がまずお先にお茶を頂きに彼女の前まで進み出る事に。
サービスの一言に、くしゃりと顔を、あまり優しそうな面には合わず人懐っこそうな笑みを浮かべて手を立てると謝意を示す。
ヒヨコの引率疲れるわー。
何て愚痴も漏らしながら、屈み込んで、お茶が湧くのを待っている。

「おっと、悪い、申し遅れた。シアンだ。お嬢さんは?」

ふと気付けば名乗りを上げてから、首を傾げて見せて。

エスクレンタ > 「わははは。人間さんに私の年齢なんてわからないだろうに娘さんだなんて。
 お前さん達もただ切った張っただけじゃなくてこういうところも見習うといいよぅ」

 その言葉には敵となりうる可能性を、己から視線を逸らすことで隙を見せる、なんとも粋な和解の仕草も含まれるが、
 今この場の若手達にそこまで見ろというのは酷であろう。
 魔族も血気盛んな者が多いが、人は人でこうも恐慌に陥りやすいのは、護る側はさぞ難儀するだろうに、
 世辞の一つも織り交ぜる様は中々に痛快である。

 しかし、友好的な仕草を見せるが若手達は困惑しきり。さてこれ育ったとして使い物になるのか。

 だが、そういう心配を汲んでくれてか前に出てくるお相手にお茶をそっと出して。
 ……遺跡の中で飲むには上等な茶葉。それなりに流通経路もあるのだろう。

 あんまバレると人間側のギルドから「あの茶葉がもしかすると遺跡にあるかもしれない! 行ってこい!」 なんてなると困るが。

「そうするといいよぉ。しかし試験とはいえ、能力を見るのでなく試験に受かれば能力を認めるとは、
 あの若手達には酷な話だねぇ。なにがしかの討伐が目標なのかい?」

 商談に未だ至らぬが見込みがある相手が最前線に出れば、よいせと正座の姿勢を取り、しかし猫背でお茶を啜り。
 ……その際に、ローブの布越しに、大きな二つの塊が浮かび上がって弾みはするものの。

「おお、これはご丁寧に。私はエスクレンタ。セピア族という海魔の末席さぁ。
 もっともご先祖様が生存競争に負けて陸に上がった身だがねぇ。」

 湿っちゃいるがイカがこんな山奥で引き籠ってちゃねえと魔族ジョーク。

シアン > 「全くだ。見習え、超見習え、冒険者云々以前の問題だこれは……はぁ~~~」

相手が誰で何とあろうがまず女に遭ったら褒めるぐらいの気概の一つ二つ……云々と、持論もそこそこ。
彼女がまず“彼女”である事も未だ見抜けていなさそうな様子には何なら本日一番重たい溜息が溢れ出た。
世辞じゃないが? 何てさも当たり前のような顔して返しつつの、
気を良くしてくれた様子には口元に浮かんだ笑みはすっかり張り付き、
何度か頷きを繰り返す。使い物になるか云々の心配も一緒に頷いてる。

出してくれたお茶を、胸の前でまた一つ手を立てて謝意を示してから、杯を手に取り口に含む。
飲みやすい熱さにしてくれた気遣いもさることながら広がる風味や香ばしさに目を少し開いて、
そのまま喉の乾きも癒やしがてらに一息で半分ほども飲み干してからほっと一息。

「うっまいなこの茶。あとで個人的に買う。ぁあ、一応な、能力見るための試験ではある……ここの階層で出る何か一つを持ち帰る、てさ。
 まあクリアできるぐらいの実力はちゃんとあんよ?」

至らない点は多いもののそこは成長の期待込み。至らない点は本当に多いけれど。
フォローと愚痴とを織り交ぜながらの世間話をしてはまた一口と茶を含んだ最中、
よいせと前に出てきた彼女の膨らみにすーっとすごく自然に視線が落ちて引き寄せられていった。
いかん! と直ぐ目線を頭部に戻した。

「海魔族。ん成程、どうりで見掛けん訳だ、あんま海には出んからなぁ。
 しかしそのご先祖様とエスクレンタ嬢にはちと悪い話だが、よかったよ。
 負けてくれにゃあ俺が別嬪さんと会う機会が一つ減ってたとこだ」

海魔が陸の山奥に云々と魔族ジョークに、ぷはっ! と、お茶を飲み下してから笑気を吹き上げたが。
人差し指を立ててはウィンク一つ、口説き文句みたいな台詞を冗談めかして返して。

エスクレンタ > 世辞を世辞とも思わぬ仕草にうんうんと頷く。
人間達どころか魔族にも見分けがつかぬ者は多いが、それでも見抜くは、ましてやローブ越しに即座に気づくは仕草、
あるいは僅かな所作に性差を見抜く眼力だろうか。
……しかし、中々珍しい。己を”今の状態”で女と見るのは中々に体表がぬらつくものだ。

「あんまり出どころは言わないでおくれよ。人間てのはギルドを依頼を出せば何でも手に入る魔法の箱だと思ってる輩もいるからねえ。
 少量しか入らないが、何より労うべきはシアン殿だろうからねえ。」

……ここまで気が回らぬ者達をここまで五体満足、手当が必要な程度で済ませてるのは相当な心労であろうかと。
何より上客の気配がする。であれば秘蔵の品も出してもてなしもするのだと。
たとえ店を構えずとも、商いが出来るならそこは己の場である。
なればこそ、作法も金払いもよさそうな客に礼儀を示す。
魔族であろうとも、所作を以て目の前の男に礼節に種族なしと示して見せて。

「何かを……。ああ、さっき逃げてったのはシアン殿達が追ってたのかい。
 あっちのほうに逃げてったが、多分巣穴に隠れちまっただろうねありゃ。
 一応誘引の為の香ならあるけど、使い切ることを約束してくれるなら譲るが、彼等に買わせるかい?」

 先ほど見かけた魔物のことをつい話してしまう。いけない、取引が出来る情報だが、もてなしがすぎるか。

「そうそう。海の奥底に潜む手合。陸地の国持ち魔族とも、人の定義としては同類にあてはまるが、
 交流もほぼない手合達だよ……。どちらかといえば人間とのほうが、海辺の洞窟でひそかに”交流”してる類だねえ。
 あんまり、関わらない方がいいよああいうのは。

 しかしまあ、別嬪さんとは、人間にとってこういう顔は好みの範疇から外れると思ったが、
 あんまり褒めて、取引の外で下心でもお持ちかな?」

 まあそんな気は、人間達には起きようもないだろうと口説き文句を半分受け取り。
 だがまあ、確かに悪くない。こういう心意気の男と一夜を共にするのはやぶさかではない、が。

 海魔とそういう”交流”をあんまするなと今言っちゃったからなぁ、と。

シアン > 受験者達の困惑は続く。時に、彼等と彼女の疑問は一致したようで、隅に追いやられ引率が“矢面”に立っていても尚緊張は解けぬ中『な、なぜに雌と……?』という疑問も飛ぶ。

「お・ん・な・の・こ。お前百叩きの刑な。
 で? 何でって? 勘。働かないにしても見て分かれよ、ほんとも~……
 仕草がどう見ても女の子だろがよ……」

雌呼ばわりに人懐っこい笑みを浮かべている時なら兎角素は普通にキツい目付きがさらにキツく細まった。
ぎろり、どころか、ぐさりと突き刺さりそうなほどに鋭い一睨みをくれてやりながらも見分け講座だ。
まず、本能ありきだったが、例えばローブ越しの輪郭やら腰を動かした時の動きのスムーズさとか……
本日一番の溜息はさきほど出たばっかりだが今の今でまた最大値を更新するでかい溜息を零して。

「いやほんとごめんな? お詫びにちょっと多めに買ってこか。うん、心配ご無用、勿体無いし秘密だ」

労いと一緒にきられる大盤振る舞いにお詫びも含むが、財布の紐を緩める宣言。
冒険者云々の前に色々教育すべき事も多そうで頭痛がしたみたく、
人差し指と親指とで眉根が寄って出来てしまった皺を揉み解している。
余計な客とさらに余計な客でもないものが寄ってくる危惧は然り、
出処に関して口外はしない事を口にして。

「お? そりゃありがたい。あれ引っ張り出すなら……ん~。」

随分と気に入ってくれたのか。何なら情報料を請求してくれたって構わない情報に首を傾げて。
好意を無碍にするのも気が引けるが奴ら甘やかすのもどうか……?
一晩の休息場所にするかの他に悩み事が一つ増えてしまったので、
また首が捻られかけたものだが。
もう一つの問いには首を傾げる必要も無かった。下心、云々のそれに、笑って。

「そうさな、そういうことなら他の海魔族とこうして気安く、てぇのは自重するが……
 下心はぶっちゃけ、ある。ごめんな? しかしだ、良い女は口説きたくなるもんさ」

下心がある。何て、謝りはする、悪い気もあるのだが、隠しもせずにくつくつと喉を鳴らした。
彼女の見目は、少なくとも受験者達は気味悪がるが、此方ときたら一夜を共にしてくれるとなったらそれはもう大喜びせんばかりの勢いである。

エスクレンタ > 「雌でも女でもいいじゃないかい。まずは相手に譲歩が理解しあうこと、でなければ取引も出来ないもんだよぅ。
 シアン殿も百叩きなんて詮無い事を言うもんじゃないよ。

 でもあれだよぅ。今こう言ってるけど、魔族でも私のことを座ったままじゃ女と分かるものは少ないからね。
 彼の眼力は人並外れてるが、人のものだ。頑張ったら君達も身につけられて色々知ることが出来るものだから、
 シアン殿の言葉は今は聞くだけでも忘れない方がいいだろうねえ。」

 今は教える側が自分も含めれば二人いる。だから、無茶を言ってるが無理ではないことだけは若手に告げて。
 まあホオジロザメより鋭い目つきで睨む彼の肩をうねりと伸びる手がぽふりと叩いてなだめるのだから、
 若手をぎょっとさせて楽しんでる節もあるのだが。

 ……しかし、仕草というが、心まで発達した女のそれと分かって言ってるのだろうかと。
 しかしローブ越しの輪郭か、と。見逃すであろうものを、よく見ている。
 いつかまた彼は一人でもここに至るだろうと、上客に巡り会えて感動しきり。

「今日明日の遺跡を出るまでシアン殿は緩めちゃまずいんじゃないかい?
 彼等を送り届けるのは骨なのは自分も心得てしまったからねえ。

 ああ、支払いするならそういえば、シェンヤンの通貨とかあるかい?
 ここで取引するのに、お客さんがそういうお金でしか払えない時に、お釣りを作っておきたくてねえ。」

 遺跡から足を踏み出すことはないこと、そして取引として視野を広く検討していることを相談しながら、
 シアン殿の懐の広さに免じてと、若手達にそれぞれポーションをおまけして。

 冒険者は、まああまり派手に動いても魔族とこの遺跡が潤うだけだからシアン殿の裁量に任せようと。

「情報を引き出したのはシアン殿だが、情報料を払うなら彼等さ。
 だが無意味じゃないよ。シアン殿も知らぬ香、製法は秘密故に使い切るという条件つき。

 そも、あれが香でおびき出せることを知る者はそういない。
 そういう香がある、という情報の足掛かり、他の者にはないアドバンテージを得られるのだからね。」

 腕は利くが頭は回らぬ、というのなら若手達にこちらからも情報の売り買い、情報を得ることの価値を軽く告げる。
 ここまで守ってもらって、支払いも彼任せではあるまい? と勢いがつき始めて身についてしまってるであろう
生半可なプライドを刺激するのは、シアン殿からすれば取引の主導権を握った上での酷なやりとり、勉強料だと伺えるだろう。

 ぶっちゃけシアン殿はタダで止めてもいいがお前等は知らん。

 そういうそぶりで、渋々若手達が情報料を、それでも足りぬからと、途中拾った壊れた魔道具も色を付けて下取りして香を譲ってやる。
 やるせなさにこちらに背を向ける若手達を見遣ったのは、こちらも下心があるからで。

「そうかい、下心がねえ……。
 ……奇遇だねえ……♡」

 若手達の視界の外で、異形の頭らしからぬ甘くかすれた囁き声が響く。
 ローブの合わせ目がはらりと、左右にひろがって、むわりと雌の香りがほのかに漏れて、
 薄暗い布地の影に、先ほど輪郭を垣間見たふくらみが、いな、青い肉の質量を、下着さえ身につけておらず露わなそれを曝け出す。

 改めて、貴方が想定していた以上に細い腰が、青くとも滑らかな肌が、少し揺れるだけで弾む豊乳が、
奥には重みのある尻と太ももが伺える。
 裸身で、仕草から明らかに誘いをかけて、貴方だけにその”商品”を提示して。

「宿泊料とお世話料を払うならシアン殿は使い放題だよ……♡
 夕餉代はおまけしておくよ……♡」

 頭部の触手が紙片とペンでさらりと金額を提示する。四人分の宿泊費としては平民地区の宿より高いが、
それでも遺跡での安全が一晩保証されるには破格。
 そこに、夕食と、希少な魔族の体が提示されて。

シアン > 「エスクレンタ嬢がそう言うなら収めるが。いや、にしても失礼だ……」

ぶつくさと文句を垂れて海獣もかくやの眼光向ける人間にそれを宥めて教え迄くれる人外という、
奇妙な光景と投げかけられる言葉の組み合わせに受験者達の困惑はいよいよ拍車も掛かるのだが、
逆に一周回ってきたのか騒いでも仕方ないと諦めたのか兎角彼等は彼女に頷いて見せ……
にゅっと伸びた青白い手にはやっぱりぎょっとしていた。

「財布の紐ぐらいなら緩めても構わんさ。気も、此処ならいいだろ? 本当に骨が折れる……。
 ぁー、シェンヤンの。奇遇だがそっち出身だ、今は持ってねぇけど今度来るときに持って来よう」

太客になれるかはさておき常連になる気は満々であること、彼女の商売っ気に答えながらも、
北方の金はここらで使う機会がないだろうと思って王国貨幣を幾らかしか手持ちが無かった。
その分だけは今ここで使い切ってしまっても構いやしない。
そういう心算であれやこれや彼女に使う分彼等に使ってやる分、
算盤はなかったが指を折ったり片目を瞑ったりと計算してたら、

「くはっ」

情報というものの価値や大切さ、主導権の所在がどのような結果を生むか、諸々、諸々、“厳しい現実”というやつを叩き付けては表情読みにくいながらにどことなく得意気さと商売人気質を見せ付けた彼女や、叩き付けられた側になって膝から崩れ落ちないだけ少し褒めてやりたくはなったが気落ちして背中を見せてしまった受験者たちに、堪らず、堪えきれずに笑気を盛大に零してしまった。
一度、二度、三度としかも止まらなくって口元抑えて尚抑えられず肩を揺らして大笑いだ。

「いやほんと、いい女だ。うん、俺の見る目もまだまだ曇っちゃいな、ぃ、ぉお……♡」

お見事。そう頻りに零してはあちらにこちらに視線を寄越していたが一旦視界の移動も、言葉まで途切れたのは、
甘さをほんのり含む声音と甘さをたっぷり香らせる匂いにその大本を見せびらかす様寛げてくれた肉付きの所為。
いかん! と、さきほどは慌てて目を逸らしたものだが此度ときたら目は釘付けだ。
想定していた以上の、色香、これぐらいかな? 何て想像していたより尚しなやかさと豊かさを両立させた体躯と、
普通の肌色とは違う青白い肌だからこそ映える滑らかな“商品”に感嘆の声も吐息もどちらともが多く漏れた。

「買いだ♡」

香物の値段には、思惑あれど悩んだが、提示された品と“使い放題”の特典には即答であった。
書き記された紙を受け取ればひらりと揺らしてから、
彼等が視線を外している今のうちにこっそりと親指を立てて。

エスクレンタ > 「今日のシアン殿は”仕事”で彼等を率いているのだろう?
 であれば、過度な私情は”女”から見てもあまり関心出来たものではないよぅ?」

 女と見てくれている。それを認めるように己の立ち位置を織り交ぜて苦言一つ。
 さて、今日のこの出来事が、己達には無理とするか、他の者が経験しなかったものを得られたとするかは彼ら次第。
後者であれば、化けるだろうか。

「あー……。あー……。あー……。うん、なんかごめん。
 お、分かるねえ。でも毎回会えるとは限らないからねえ。次に会えたらまたサービスするよぅ」

 三度続く感嘆はシアン殿を見て、若手を見て、天を仰いで、顔を見て謝る。
 複数人いるのだから一人ぐらい胆力が、それこそシアン殿が認識を改める者が出てくると思えばこの有様だ。

 なので、こちらも、まして最後まで己を”魔物の一体”という認識を改めないのであれば、
 こちらも客の連れ添いと言う認識しか出来ぬもので、それでも取引が必要ならば、搾り取りもするのだ。

 堪えていた笑いには触れなかったが、最後限界を迎えてしまって駄目押しをする有様には『シアン殿~?』
 と烏賊の瞳が器用に半目で。

 たっぷりと搾り取っておいたから、まあ最後に駄目押しされたので流石に可愛そうなので。

「……そうそう。こういう壊れた魔道具だがね。今回もやりようはあるよ。
 これは正直壊れてなければ試験でギルドに納めるには惜しいものだよ。
 だから、君等がもう少し実力と見識、視野があればプラスアルファの収穫となったわけだ。
 ちゃんと修理してくれる術師の店? まだ把握してないんじゃないかい?
 ギルドで成果を挙げるだけじゃなくて、次に試験に合格したら、足場を、自分達の環境を整えれば
収入はもっと増やせるから頑張りなさいよぅ」

 と、余計な情報を若手に挙げる羽目になったよぅ、とまだ烏賊半目。ぎょろり。

 二人のやり取りに唸って背を向けてる間にかわされる”交渉”
 女であることを隠してるつもりはない。温かいし湿度が籠るのは種族的にありなのだ。
 だからこそ、己の頭が人型であれば、肌色であれば大半の人間が息を呑む肢体を悦んでいる。

 本来であれば己の顔と、商いの振舞いから来る大きなギャップが劣情をそそるもの、だが、
 シアン殿の反応を見るに、己の予想を単純に上回る”品の良さ”に悦んでいて。

「本当は、宿代と世話代は倍ぐらい欲しいところだけどね……♡」

 ここまでのやり取りでシアン殿という人物の人となりを品定めするには良い機会だった。
 だからこそ、上客を品定めするという非礼には金額的にも、時間的にも返礼が必要であるのだと。

 それからその部屋で背負い袋から新鮮な野菜や肉を取り出して鍋に柔らかいパンも振舞う。
 どこで仕入れたと言われれば普通に『人間からだよ?』 と
 遺跡内で新鮮な野菜等持ち込む酔狂もないからこそ、取引になりえるのだと言外に教える。

 それから若手達は魔光を灯した小部屋に毛皮のじゅうたんを敷いて宿泊させて、
 己とシアン殿は、別の小部屋に”宿泊”することになるだろう。

ご案内:「無名遺跡」からエスクレンタさんが去りました。
ご案内:「無名遺跡」からシアンさんが去りました。
ご案内:「無名遺跡」にキュアポットさんが現れました。
キュアポット > 無名遺跡にある地下迷宮。
冒険者であれば一度は立寄る初心者向けで有名な迷宮である。
出現するモンスターもゴブリンや強くてオークやスケルトンレベル、トラップに至っては擽りや簡単な落とし穴くらいで、危険性はほぼほぼ皆無である。

モンスターにしても定期的に中~上級冒険者が間引きするくらいで、別名訓練所とも度胸試しの迷宮とも呼ばれている。

さてそんな安全な迷宮であるが、時と場合に寄る。
例えばであるが、油断した冒険者や無謀な冒険者は手痛い歓迎を受けることもあるし、罠だって無防備に飛び込めば骨折したり、そこを魔物に襲撃されると命の危険性だって無いことはない。

もうひとつ例外がある。
そこに誰もが想定してないモンスターが出没すること。
それも誰かの通報や目撃情報により直ぐに間引きされるのだが、今夜はその中でも例外的な例外が存在した。

それは落とし穴に偶然湧いたキュアポットと呼ばれるスライムに近しい医療用魔導生命体である。

迷宮の通路のど真ん中に巧妙に隠された落とし穴。
すぐ目の前には落とし穴に誘うように宝箱がこれ見よがしに設置されている。

で、宝箱に誘われて落とし穴に落ちるわけだが、キュアポットが湧いている落とし穴は落とし穴自体はこの迷宮に存在するびっくり要素的な落とし穴で、人によっては落ちても脇の下くらいまでしかない深さであり、ちょっと縁が滑らかになっていて、這い上がるのは難しそうな、筒状の落とし穴であった。

感覚遮断、何ておしゃれなものもなく。
ただただ普通の落とし穴、落ちればズポと足先から腰くらいまでたっぷりとスライムに埋まりはするが。

ぬるま湯のように温かく、他のスライムのように消化するような効果はない、ただただヌルヌルドロドロの湯に落ちた、そんな印象を受けるであろう落とし穴の罠だった。

ただ誰も近づかないければただの落とし穴である。
今宵は罠にかかるものもなく、たぷたぷよ揺れるのみであった。

ご案内:「無名遺跡」からキュアポットさんが去りました。