2023/11/12 のログ
ティアフェル > 「ご…めん……」

 背中を支えてくれる手にやや自嘲気味に、少しバツが悪そうな表情をして、がくがく震えながら器を持つ手に手を添えてもらい。
 ゆっくりゆっくりと舐めるように飲んで。
 そう云えば最初も水を飲ませてもらったんだっけとぼんやり思い返しては。
 身体に沁みこませるように水を飲んで、時間の経過とともに症状は落ち着いていき。
 声も少しは真面に出せるようになってきて。

「っは、はあ……ぁ、ありがと……わたし、崖から落ちたん、だよね……?
 怪我、治してくれたんだ……? ありがとう。助かったよ……」

 噎せこまないように一口一口慎重に喉を通すと、はあ、と息を吐いて脱力し。

「大丈夫……殺したってしなない、から、わたし………
 泣き虫、だな……、泣かないで、ほら、平気、だから……お陰様で」

 心配をかけてしまった。怪我を治してまでもらって大分迷惑をかけた。
 申し訳なさそうに眉を下げつつ、泣きそうな様子にぽすん、とその頭にまだ少し震えの残る手を置いて。
 よしよしと撫で。

「寝れるように、なった……?」

サテラ >  
「大丈夫じゃないよぉ!
 たまたま助かったけどっ、ヒトは簡単に死んじゃうんだよっ」

 目の前で殺されてしまった領民たちを思い出し、堪えきれずに、ぽろぽろと涙があふれてしまう。

「ますます寝れなくなっちゃうところだったよっ!」

 万が一、この優しい友達を助けられなかったら、サテラの不眠はますます悪化していた事だろう。
 今でさえ、失いそうになった恐怖で震えているくらいなのだ。

「ひぐっ……わ、わたしの、ことより、今はティアちゃんの事なのっ」

 そう、ぐずぐずと鼻をすすりながら、友達の身体をしっかり支えて。

「だいじょうぶ?
 痛いところとかない?
 苦しいのは、落ち着きそう?」

 震える手に撫でられながら、心配そうに顔を近づける。
 

ティアフェル > 「わたし……死なない……舐めないで。死なないから……」

 冒険者稼業なんてやっていると窮状というやつは珍しくはない。
 命からがらなんて事態は慣れっこだ。
 ただの強がりにしか聞こえないかも知れないが、とうとう泣き出す様子に困ったように眉を下げて。

「……そりゃぁ、大変だ。やっぱり、うっかり……死ねないな」

 不眠の原因を追加させる訳にもいかないと微苦笑気味に肩を揺らして。
 残った器の水を飲み干すと、はー……と肩を落とすようにして息を吐き。器を置いて。

「そんな泣きながら、云われ、ても……?
 ん……大丈夫、痛かった後…はあるけど、痛みは平気……ちょっと苦しかったけど……収まって来た。
 それより、これ……」

 急に伸びた髪。前髪が簾のようにかかっていて、目の横にかき分けては撫でていた手指に異常に伸びる爪に気づいて。
 顔を近づけられて、余程心配をかけてしまったらしいと悟ると、平気、という代わりにふ、と笑みを浮かべて。

サテラ >  
「ぜったい死なないでぇー!」

 うっかり死ねない、なんて言われたら、ますますびええ、と鳴き声を上げてしまう。
 
「あぅ、だってぇ……」

 ひく、ひく、と泣きながら、慌てて涙をぬぐうものの、まるで止まってはくれず。

「よかった……その、ごめんね。
 どれくらいの怪我かわからなかったから、凄く強い再生魔法使っちゃって……。
 その、人間に使ったの、はじめてで、こんなに副作用が出るとは思ってなくて」

 ぐりぐりと涙を拭って、友達が楽にできるよう、寝台の形にしていた土と草木を操り、椅子のように凭れられる形に変える。

「その爪だと、顔とか引っ掻いちゃったら危ないね。
 えっと、爪、切ろうか?」

 そう訊ねながら、歪な形に爪が伸びた手に、自分の手を重ねて。
 そうしているうちに、周りで様子を伺っていた動物たちが近寄ってくる。
 最初に寄って来たのは小動物で、リスが友達の膝の上に乗っかってきた。
 他の動物たちも、鼻を鳴らしたりしながら、人間が珍しいのか、ぞろぞろと二人を囲むように近づいてくる。
 

ティアフェル > 「死なんて」

 幼子のように泣いてしまっている。
 泣かせてしまっているというのが正しいか。
 人なんて儚いものだし、保証の限りはまったくないものの。死なないともう一度肯いて見せ。
 
「あー……ごめんごめん。よしよし……」

 涙の元凶なのだからもう謝罪するしかない、泣く子には誰も勝てない。よしよしと慰めるように声をかけて、ぎゅ…と腕を伸ばして柔く抱擁して。

「ううん、どちらかと云うと上から落ちて来たわたしが悪い……もっと悪いのは追って来た連中かもだけど……
 大丈夫よ、それこそ死にやしないし……大分落ち着いてきたわ。それより……すごいかっこだね……」

 下が馬なのだからどうしても普段よりも上背が高い位置にあり、顔も少し遠いか。
 自然見上げるような目線になり。背凭れを作ってもらえば、ありがと、と気を遣ってもらってほんのり笑みながら礼を云って。

「ごはんとか…食べづらそうだしね。
 うん、頼める? こんだけ伸びちゃったら自分で切るのも難しそう……」
 
 長い爪で指先の動きが不自由だ。
 自分でやるとなると折るしかないなと掌を重ねて微苦笑し。
 
「わ。わ……びっくりした……随分警戒心がないね……?」

 寄って来る野生動物なんて稀有だ。大抵はこちらを見るなり一目散に逃げていく。
 好奇心旺盛な様子に、むしろ危機感のない子たちだな、と山の動物たちに首を傾げて。

サテラ >  
「ん……」

 しっかりと抱き返したら、やっと無事に助けられた実感がわいて。
 それはそれで泣きそうになってしまったので、慌てて目を拭った。

「あはは、下敷きになったのがわたしでよかったよぉ。
 石とか岩盤の上だったら――」

 などと自分で言って、ぶるるっと震える。
 頭の上の馬耳もぺしゃんと潰れてしまっている。

「……あ、えと。
 わたしその、ほんとは人間じゃなくて、その……」

 もごもご。
 魔族ですというには勇気がなく、口の中で誤魔化すように曖昧に目を逸らし。

「――う、うん、じゃあ、すぐ切っちゃうね。
 風の精霊さん、ちょっと手伝って」

 そう、詠唱ですらない言葉一つで、風が一吹き。
 風が去った後には、手の爪は綺麗に切りそろえられているだろう。

「足の方も多分、大変になってるよね……。
 歩くと怪我しちゃうだろうし、靴脱がしちゃうよ?」

 そう言いながら、友達の足に手を掛けて。

「あ、うん、この辺りの子たちと仲良くなったの。
 水を運んできてくれたのも、この子たちなんだ」

 と、言うと、紹介されたクマの親子が、のしのしと近づいてきて、顔をのぞき込むようにしながら、鼻を鳴らすだろう。
 警戒心が無いというよりは、サテラの様子から仲間のように思われているのか、親し気な気配だ。
 

ティアフェル >  彼女の情緒をぶれぶれにしてしまったのは完全に自分の責任である。
 抱きしめてお詫びしておくしか現状手がない。

「何かにぶつかった、と思ったけど……やっぱり……サッちゃんこそ大丈夫?
 痛かったでしょ? ごめんね~」

 まあ、即死だな、と口には出さず彼女が切った言葉の先を察して。
 そして人間じゃないという言葉に、それはもう一瞬で分かったが。
 正体もいくつか思い当たる節もあるけれど。それを口にする代わり。

「今さら気にしないわ。サッちゃんだって、わたしがもしも正体を隠していて、何か別の悪いものだったとしても掌返したりしないでしょ? だったら同じよ」

 王都から遠い集落の出身なせいかミレー族などにも大して偏見はない。
 この期に及んで態度を変えたらそれこそ人間性を問われるだろうと目を逸らされて、見くびられちゃ困ると。

「っゎ……」

 爪が一瞬で切断された。
 技が当初からチートである。人間の基準では推し量れない能力や姿にずばり正体をつかんだ気がする。

「あ、自分で、脱げる、から……」

 むしろ爪が伸びて履いていたブーツは穴が空いて貫通している。命には代えられないが、絵面としてはシュールが極まる。
 ブーツを脱いでとんでもなく伸びた爪にあちゃあ、と笑って。


「へえ……、サッちゃんの友達? なんか、変な感じ……あんたたちいっつも出くわしたら頭から丸かじりしようとするくせにさあ」

 くすくすと普段は向こうから餌と思われて襲われているのに今日は今までにないほど近くで顔を合わせて、水まで運んでくれたようだ。
 世話になった、というようにその鼻先を撫でて。

「はあ……それにしても死にかけたら疲れちゃったわ……今日は早く引き上げよ……ね、お礼にぐっすり寝れるように添い寝するから、今日もどっか泊まってこうか。
 街道沿いの宿なら近いっしょ」

 ほっとしたら疲労感がどっと襲ってきた。速やかに撤収して風呂にでも浸かってゆっくり休みたい、とすっかり体調も戻ったらしく、んーと伸びをして。

サテラ >  
「わたしは大丈夫!
 頑丈さなら、ティアちゃんより自信あるんだからっ」

 えへん、と胸を張る。
 身長のわりに大きい。

「……ティアちゃんはほんとに、いい人間だね。
 王都にいるのが心配になっちゃうよ」

 馬の耳がぴこぴこと動いて、尻尾も持ち上がって揺れている。
 顔もほんのり赤くなっているのだから、どれだけ嬉しいのか、すぐに伝わってしまいそうだ。

「いーの!
 今はわたしに世話焼かれて!」

 なんて、言ってる間にも手の爪と同じように爪が切りそろえられて。
 精霊の風は優しく頬を撫でて去っていくだろう。

「人間は怖い生き物だって、みんな知ってるから、身を守るのに隠れるか襲うかしかないんだ。
 でも、ティアちゃんは怖くない人間だってわかってくれたみたい」

 撫でられるとクマの親子は満足そうに鼻息を鳴らし、子熊はペロリと頬を撫でて親愛を示した。
 栗鼠はちょろちょろと、膝の上や肩の上に登って忙しなく、大きなイノシシも、そんな様子を見て満足そうに、ブフーと勢いよく鼻息を吹いた。

「引き上げるのは良いけど――」

 そう言いながら、ひょい、と友達を抱き上げる。

「すっごい血だらけだから、それくらい洗っていかないと、入店もお断りされちゃうよ!
 ほら、快適なお風呂、とはいかないけどお湯は用意したから」

 そう言ってイノシシが引きづってきた容器からは、ほんのりと湯気が立っている。

「――ちなみにティアちゃん、脱がされるのと、自分で脱ぐのどっちがいい?」

 そう言いながら、簡易風呂の近くまで連れていく。
 

ティアフェル > 「……どうもそのようで……」

 今は人馬なので小柄でもないことを多分忘れている。
 頑丈そうな見た目ではあり見た目無傷だ。心配には及ばなかったかと肯き。

「わたしは思ったままやってるだけだよ。
 王都にだって色んな人がいるでしょ。泣き虫サッちゃんの心配には及びません~」

 からかうようにのたまっては、別に特殊な思想を持ってる訳でも特別いい人間でもないと。

「おおぅ……そ、そんな重病人じゃあるまいにぃ」

 とはいえ多大なご迷惑、ご心配をかけた立場である。
 大人しく云うとおりにされるがままでいることにして。頬を擽る風に目を細め。

「爪も牙もない癖に武器と知恵で狩ってくるからね、動物同士も人間も食い合うのは自然の道理よ。生きて行かないといけないんだもの。
 ふふ、わたしも食べないからわたしのことも食べないでね」

 次までお互い覚えているかは分からないが、子熊のかわいさは違う意味で食べたくなる。擽ったそうに笑気を洩らして子熊の頭を撫でて。
 山の生き物が次々と集って来ると、彼女は余程動物に好かれているらしいと感心しながら栗鼠を手に載せたりイノシシの耳の裏を撫でたり構い。

「っ、わ、っと……歩けるよ……
 だけど、それならサッちゃんこそその成りどうにかしないとでしょ?」

 正直馬の背を持っているとそっちに乗っかった方が自然なような気がするが、失礼に当たるかもしれないと黙しては抱えあげられて。なんか違和感のありそうな光景だなと笑気を洩らし。

「………それよりここで入るの……?」

 脱ぐか脱がされるかよりも重大な問題があった。
 露天風呂というか野風呂というか。乙女の恥じらいを考慮してよと唇を尖らせ、結局その問題がどうなったかはまた別の話となりそうで――

ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中」からティアフェルさんが去りました。
ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中」からサテラさんが去りました。