2023/11/11 のログ
ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中」にティアフェルさんが現れました。
ティアフェル >  山賊街道、なんて呼ばれるからにはもちろん奴らが出没する。
 し、当然遭遇もしてしまう。

 昼日中、冬の気配に冷えて来た風と短くなってきた陽光の元、図らずも猛ダッシュで街道から山賊に負われ逃げる女が一人。

「もぉおぉー!! だーかーらーイヤなのよここー!!」

 元気に苦情を云いながら藪を突っ切り、大樹を避け、突き出た木の根を飛び越えながら追跡して来る刃毀れした剣を手にした髭面の、いかにも云った風体の男を全力で振り切っていく。

『待てコラー!!』

「それで待つなら最初っから逃げないわー!」
 
 飛んでくる怒声に向かって律儀に返しながらも足は緩めない。
 地の利はどうしたって向こうにあるのだから、こっちは精々この脚力を限界まで発揮してスピードで物を云わせるしかない。
 だからわき目も振らずに道なき山中を駆け抜ける。

 相当走った所で背後から投げつけられていた罵声がいつの間にか途切れていることに気づいては、はあはあと呼吸を乱しながら脚を止めずに振り返った、直後―――

「えっ…?!」

 ず、と踏み込んだ先の足には地面が存在せず――切り立った崖の向こうに浮いていたかと思えばそのまま、大きく前傾し、

「っきゃああぁぁぁあぁぁー!!?」

 悲鳴の尾を引き連れて真っ逆さま。逃げるのに必死な余り、前方の茂みの先が崖になっていることに気づかずに悲劇は起こる――

ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中」にサテラさんが現れました。
サテラ >  
 友人のお陰で久しぶりにゆっくりと眠った後日。
 気分転換が大事だと、あまり人間が近寄らない山中をゆっくりと歩いていたのだが。

「んん~……やっぱり自然の中にいると気分がいいなぁ」

 と言うのも、色んな動物が元気に過ごしており。
 クマやイノシシと一緒に並んで歩いていると、気が紛れて心地よい、のだが――

「――ん、なんか声が」

 一緒にいるクマやイノシシたちと一緒に左右を見回すが、不思議そうに顔を見合わせあって首を傾げていたら。

「――ぴぎゃっ!?」

 突然、真上から衝撃が降ってきて、ぺちゃんと潰されてしまったのだった。
 

ティアフェル > 「ぁああぁぁ――っ!! っひ、ぐっ…………」

 それなりの高さの崖からの滑落。
 下に何が、誰がいるのか認識している余地も避ける余裕もないままにただただ重力のままに直下して。
 そして、その上に転落する形でぶつかったようだ。

 けれど、人馬たる相手の頑丈さは相手に被害を生みにくいという点では良かったものの、位置エネルギーの作用も手伝ってこちらの衝撃を和らげることにはならず。

 がご、と鈍い音を立てて相手の背骨辺りにぶつかってバウンドして、どっ、と地面に転がり落ち。

「……………」

 一瞬の悲鳴はそこで途絶え、意識を失って伏臥位で倒れる頭から、じわ…と滲んだ鮮血が地面に沁みて赤黒く広がった。

サテラ >  
「――ぃ、たた」

 かなりの衝撃で、踏ん張る事も出来ずに潰れてしまったが、どうやら落石とかの類ではなかったらしく。
 思ったよりも柔らかい衝撃に、なにがあったかと起き上がれば――

「――ティアちゃん!?」

 王都でできた大事な友達が、血を流してたおれているのを見つければ、慌てて駆け寄って、抱き起す。
 しかし、意識は無いようで、出血の量も多い。

「っ、お願い皆、なるべく沢山お水を持ってきて!」

 粘土質の土を魔術で固めて作った容器を、周囲の動物たちに預けて、近くにあった泉へと向かってもらう。
 同時に、土元素の魔法で土と草木を操り、横になれる簡易な寝台を作る。

「脈は――ある、呼吸は――弱い」

 バイタルサインを確認しつつ、怪我を確かめる。
 頭からの出血のようだが、どれだけの怪我かまではわからない。
 見てわかる傷だけならいいのだが、見えない怪我があれば、サテラの身に着けた応急手当では手に負えないだろう。
 となれば、医術では助けられないかもしれない――

「――ごめんね、ティアちゃんっ!」

 友達に謝りながら、水元素と土元素の力を集める。
 扱うのは、強力な再生魔術。
 多くの怪我を治癒できるが、魔族の魔法だ。
 人間に使った場合、どんな副作用が出るかわからない。
 代謝の異常や、髪や爪が伸びたりと、その程度で収まればよいものの――

「……うん、出血は止まった!
 ティアちゃんっ、聞こえるっ?
 目を覚ましてっ」

 怪我の大部分は治癒出来たはずだが、怪我の度合いによっては、完治させられたとは限らない。
 無事に目を覚ましてくれるかどうか――
 

ティアフェル >  落下された方もノーダメージとはいかなかっただろうが、魔族の身体の強さはそれ程深刻なダメージを与えていなかったらしく。
 頭の上から魂がぱー、と浮き上がって来そうな人類とは出来が違うようだ。

「…………」

 昏睡状態で倒れ伏し、静かに血を流し崖肌で擦ったのか露出した各所からは擦り傷が浮いて衣服はところどころ破れ汚れてぼろぼろ。
 呼びかけに応える気配はなく静まり返っていた。
 呑気に半死状態でいる内にもその心優しい友人は介抱に寝台を用意し脈や呼吸を確認し、何故か謝罪を口にしながら回復のために魔術を行使してくれていた。

 割れた頭部は塞がり、全身に負った擦り傷が消えていく。
 付随して髪がばさあと伸び、爪が妙にねじくれて伸びて。
 全身が自棄に熱を持って熱く。汗が以上に噴き出し、

「……っ……」

 っはあ、はあ、は…ひ……と弾む呼吸。心臓がばくばくして息苦しい。
 呼びかける声に、ぜえ、はあ、と絶え絶えな息と、重く開きにくい瞼をひくひくと震わせ。
 全身をぶるぶると震顫させ。

「っふ。ぁ……あ……」

 薄っすらと細く開く瞼。痙攣のように震えながら耳は声に反応して返答しようとした声は喉も熱くて碌に音を成さない。
 怪我は治癒されたものの、副反応に苦し気に震える唇を開いては、何か云おうとして上手く行かずにただ乾いた吐息だけが掠れて響いた。

サテラ >  
「――よかった、意識が戻った!」

 声に反応があったのを喜んだのも束の間。
 再生魔術の効果は、やはり人間には強力過ぎたらしく、思った以上の作用が出てしまっている。

「だ、大丈夫、安心してっ!
 体がびっくりしちゃってるから苦しいけど、少ししたら落ち着いてくる――はずだから!」

 そんな、頼れるんだか頼れないんだかわからない事を言っている間に、クマの親子がどたどたと、水を運んでくる。
 少し遅れて、イノシシが大きな容器に水を大量に入れて重たそうに引きずってきた。

「ありがとっ、ここに置いて!
 ティアちゃん、お水飲める?」

 水精霊の術を使って、氷の水差しを作ると、震える唇に当てて、ゆっくりと傾けるが。
 

ティアフェル > 「っふ、ふ……っはあ……ぁ……れ……?」

 何が、起こったのだろうとぼんやりと霞む意識と記憶を手繰ってみる。
 何故ここに彼女がいるのかは分からなかったが、追って来る山賊と不意に中空に投げ出される感覚を思い出して。
 そして、視界がぐるぐると攪拌された後途絶えた意識。
 異常を訴えながらも負傷の癒された身体。

「っは。はあ……ぇ…と……」

 よく見れば街娘といった馴染みのある姿ではなく下半身が馬となっている人外の様子に目を軽く見開いて。
 状況を薄っすらと察する。どうやら彼女に救われたのか……。
 まさか上に落下していったとは分かっていないが。

「……ぇ……?」

 大型の獣が近づいてくる地響きに呆気に取られていると、水を口に運んでくれる動きを察して。

「待っ……て……」

 横たわったまま水を通すと噎せてしまう。発汗と動悸、震えが収まらないまま、妙に邪魔な前髪に違和感を覚えながらよろよろと上体を起こし。

「ぁ……りがとぅ……ま、た……助け、られちゃった、ね……?」

 掠れた弱い声を発しながらぶるぶると震える手で器を取ってぼたぼたと零しつつも嚥下しようと一苦労し。

サテラ >  
「あ、わわわ、背中支えるねっ」

 起き上がろうとする様子を見て、慌てて背中を支える。
 震える手を支えるように、一緒に器を持ってあげて。

「だいじょうぶ、ゆっくり飲んで。
 無理やり怪我を治したから、身体がびっくりしちゃってるの。
 血も沢山でちゃったし、汗もすごいから、水が足りなくなっちゃってると思うの。
 精霊の力も混ざってるから、ふつうの水より渇きが癒えるよ」

 そう声を掛けながら、少しずつ口の中に水を含ませてあげて。

「……よかった。
 ティアちゃん、死んじゃうかと思った……」

 なんとか一命はとどめてくれたと思うと、つい目が潤んで、泣きそうな声になってしまった。