2023/08/05 のログ
ご案内:「港湾都市ダイラス “ハイブラゼール”」にユーダスさんが現れました。
ユーダス > 『至福の島』の名に違わず、昼夜を問わず一時の遊興や悦楽を求め集った人々の活気と欲望が渦巻くハイブラゼール。
男は黄金色の液体に満ちたグラスを手許で弄びながら、その一角で開かれているオークションの賑わいを遠目に眺めていた。

出品されているのは美術品だけではなく、異国から持ち込まれた実用品や遺跡で発見された魔法具の数々―――
富裕層の蒐集家達を相手にした他の会場とは異なり、併設されたカジノで少々懐の温まった客に狙いを定めたオークション会場には、
艶やかに着飾った貴人達のみならず、異国からの観光客や冒険者と思しき姿も幾らか見付ける事が出来た。

「―――今日も盛況なようで何よりですね。
 とは言え、軽く見た限り今回は私の興味を引くような出品は無いようですが………。」

商人の身である男は自ら持ち寄った品を手に出品者として参加する事もあれば、
興味を引く品を見つけた折には落札者として競りに参加する事も決して少なくない。
しかし今はそのどちらでも無く、男はオークションの中心から離れた場所でシャンパングラスを手に静観を続けていた。
あわよくば参加者の中に見知った同業者や、良い顧客になり得そうな人物の姿が無いかと視線を巡らせながら―――

ユーダス > オークションの舞台上では今しがた遠い異国より持ち寄られた陶器が落札され、次の品が競りに掛けられる。
競売人が言うには先日とある冒険者が無名遺跡より持ち帰った魔法具で、滅多に発見されぬ希少な品であるとか―――
その様子を相も変わらず遠目に眺めていた男の視線がふと一点に留まり、おや―――と人知れず声を零す。

その視線の先にあるのは件の魔法具ではなく、人だかりの中に混じってそれを食い入るように見つめる一人の人物。
顔見知り、という訳ではない。ただ不思議と吸い寄せられるように、男の関心はその人物の方へと向いていた。

「―――ご機嫌よう。………あちらの品が、気になられるのですか?」

そうして、緩やかな足取りで人だかりの中、件の人物の傍まで辿り着くと、
男は人当たりの良さそうな笑みを浮かべながら、軽い挨拶の後に何気ない質問を投げ掛ける。

ユーダス > 「嗚呼、失礼。決して怪しい者では御座いません?
 申し遅れました。私は王都とダイラスを中心に貿易商を営んでいる者で―――」

己の言葉に振り返るや否や、怪訝そうな視線を向ける相手に男は丁寧に頭を下げてから謝意を告げ、
しかしそこから先は少しずつ、言葉巧みに相手の警戒を解いてゆく。
まるで蜘蛛が罠を仕掛けて蝶を捕らえるが如く、何気ない会話の中に狡猾に糸を張り巡らせてゆきながら。
やがて半刻も経たぬ頃、未だ続くオークションの賑わいの中で一人の人物を連れ立ってカジノの奥へと姿を消してゆく男の存在に、気付く者は誰一人として居なかった―――

ご案内:「港湾都市ダイラス “ハイブラゼール”」からユーダスさんが去りました。