2024/06/29 のログ
ご案内:「港湾都市ダイラス 船着き場」にナランさんが現れました。
■ナラン > 深夜の船着き場は意外と忙しない。
昼間の間着岸するのは主に客船で、深夜・早朝は貨物が多い。
港の利用用からそうなるのだと聞いたのはつい昨日。そのせいで深夜の港に意外と仕事終わりの人であふれると聞いてはいたが、商売ができるほどだとは思っていなかった。
(まあ、もともと私が商売などできるとは思っていませんでしたけど…)
港の一角、大型貨物が停泊しているあたりにいつの間にか出来るようになった屋台村。店舗の数は片手に足りないほどだけれど、商っているものがそれぞれ趣向が違うせいか、どの屋台も定着している様子だった。
その店舗のひとつ、温かいスープを提供する屋台に居るのは初顔の女だった。普段営業している店長の代わりなのだと、問われる度に控えめな笑顔を返している。
商っているものはいつもと同じだから、客の方も慣れたものでやり取りはそれくらい。酔っぱらっているものもいるが、それぞれが明日の仕事を控えているからか、過ぎた様子のものは見えなかった。
随分と暖かくなったから、売れ行きはそれほどではないのではないかと思っていたが、どうやらお腹に入れるものは温かいものを好むほうが多いらしい。
店長が言っていた通り野菜と肉が煮込まれただけのスープでも意外と売れ行きは良く、人気が無くなる前に売り切れてしまえそうだった。
■ナラン > 一仕事終えて久しぶりの地面を踏む貨物船の船員や、港で荷物運びの仕事を終えてからまた街中に繰り出すのは面倒なのだろう。
手近な場所で飲み食いできて、味は可もなく不可もなくで十分。
そんな需要を受け止めるここは知る人ぞ知る…というと聞こえはいいが、港や海で働くものを常連として抱えるなかなかよい商い場のようだった。
商うものも少なくなってきた屋台で、半分店じまいの準備をしながら女は飲み食いと歓談に興じるひとたちを見る。
誰が持ち寄ったのか、テーブルとイスにするのにちょうどよい大きさの使い古しの樽や木箱があって、みんなそれを食卓にしている。
昼間からそんなふうに在ったのか、それとも夜になって屋台の誰かがそう設えたのか、それとも客たち自身がそうしたのか、女はまだ知らない。
機会があったら誰かに尋ねてみよう、と思いながら笑い声が聞こえてくるのに少し笑みをこぼして、底の深い鍋の中を覗き込んでスープの具合を見る。
次のを作る準備をするべきか…もうそろそろ潮時だろう。
■ナラン > ある程度夜も更けてから余った分は、まだ居座りそうな客や同業者に振舞っていい、と聞いている。
女はそのぶんの目方を計って、一人頷くと火を止めて、深皿にスープを移していく。恐らく、すべてを仕舞って屋台の一式を店主の家に帰してから塒に帰っても、夜明け前に間に合うだろう。
海風は意外と体温を奪うからか、それとも店主のそつのない味付けの故か、客にも同業者にもそれぞれに振舞ったものは快く受け入れてもらえた。
女は別の意味で温かいものを受け取って、月光降り注ぐ港を屋台を引きながらあとにする――――
ご案内:「港湾都市ダイラス 船着き場」からナランさんが去りました。