2023/09/06 のログ
■イェン > (訳も分からず走らされ、未だ事の真意も告げられぬまま、呼吸を乱し滲む汗を品良く拭いながらも柔和な表情を向けてくれる青年騎士。この方であれば問題もおきないだろうと信頼出来た。表層のみの騎士道精神などでは無い。魂魄からの清廉がその佇まいからは感じられたから。)
「――――はい。サウロ様に確認もせぬまま斯様な仕儀となりましたが、問題はありませんでしたか……?」
(ようやくにしてそんな確認が向けられたのは、チェックインを完全に終わらせたエントランスホールの片隅での事。先程離れたカウンターには満室を告げられて受付に食って掛かる旅人の姿。相も変わらぬ淡々とした口調であり、見上げる双眸は朱の縁取りも相まって睨みつけるかの如くであったが、碧眼にじっと向けられた紫瞳には余計な世話ではなかったかという不安の色も滲んでいた。)
「はい。翌週には初秋の祭りが開かれます。3日に渡る街を上げての大祭と聞きますから、この時期の旅人の多さは相当な物でしょう。そうでなくともこの街の、この時間の宿というのは激戦区です。悠長に構えていては町中で野宿をするという訳の分からない状況に陥る事もありますので、部屋を取れたのは本当に僥倖でした」
(事情さえ話さぬままの拐かしの言い訳めいて、ここまで急いでいた理由を伝える。中途で止まった彼の言葉に、粗忽娘の先走りによるありがた迷惑であったかとの不安もよぎるも、重ねた蒼瞳に覗くのは別の意図。むしろこちらを慮るかの気配を読み取り)
「確かに私は未婚ですが、気遣いは無用です。貴族という訳でもありませんし、この程度のことを気にしていては冒険者など続けられませんから。サウロ様の方も、ジャミル様が共であるなら醜聞を気にする事は…………」
(相手は騎士であり、貴族子息らしい雰囲気も持ち合わせる青年である。平民の小娘と一晩を同じ部屋で、更には同じ寝台で過ごすというのは宮廷雀にとっての恰好のスキャンダルにもなりかねないが、親友と思しき青年が共にいたというのならばその心配も――――と考えた所で、先の酒場で他ならぬ己が発した戯言に思い至り、鉄壁の無表情はそのままに白皙の頬だけがかぁぁぁ……と赤みを広げていく。)
■サウロ > 「説明する間も惜しかったと言うことだろう? 確認を怠っていたのは此方だ。
僕の顔を見て脚を止めてくれて、かつ事情を知っていてここまで連れてきてくれた君には感謝する」
(東側での大祭ともなれば情報も回ってくるだろうが、大きな情報源であった本部から離れて久しい身。
時期が悪かったというべきか、確かに乗船した船にも結構な観光客や旅人が乗っていたなと思いだす。
彼女の言う通り、翌週の大祭のために早めに来て宿を取り、ハイブラゼールで稼いだり、娼館を堪能しようとする者は多いはず。
事前の予約も多く入っている季節だろう。そんな中で宿を探すのは難しかった筈だ。
彼女も、表情こそ怜悧なまま変わらないが、酒場で相席しただけという自分や相棒に気遣ってくれたことには、
胸に手を当てて感謝を伝える。
こちらの懸念を読み取ってくれたのか、未婚ではあるが異性との同衾に問題はないという彼女の言葉に、困ったように眉尻を下げた。
折角の善意、義理などなかっただろう彼女が人情味を以て手繰り寄せた一部屋だ。
これから宿を探すにしても、結局は娼館泊まりになり、宿代より多く取られることになりそうでもあり。)
「わかった、ではその言葉に甘えて一晩、相部屋をさせてくれ。
…………不安なら、ジャミルだけ外に放り出すけれど」
(一先ず部屋が決まったことを伝える必要があるが、彼女の白い頬が赤らんでいく様子を見れば、心配そうに尋ねた。
実際彼女が酒の席で零した台詞を覚えている。
現状、以前彼女と会った時から日が立ち、その間に厄介な呪詛持ちとなったサウロだが、倫理的に問題がある行為はしない。
相棒が誘い、彼女が応じ、なし崩しにサウロを巻き込む、そんな図にでもならない限りは、比較的安全な一夜になる筈だ。
連絡が取れる小型の通信魔導機で相棒であるジャミルに宿の名と簡単な事情を伝える。
程なくすれば合流することになるだろう。)
■イェン > (ただの一学生に過ぎぬイェンとは違い、眼前の青年は騎士。その伝手があれば一夜の宿などどうとでもなるのかも、という可能性も考えていたからこそ余計な世話では無いかという不安も覚えた留学生ではあったが、所詮は色事を深く知らぬ生娘である。流石に娼館泊まりという選択肢は浮かばなかった。そうした事情も知らぬまま、先の無体を許すに留まらず、丁寧に礼を述べてくれた青年騎士に冷淡なポーカーフェイスはセーラー服の膨らみの内で安堵した。)
「――――い、いえ、ジャミル様はたしかに、その……そういった雰囲気もある方でしたが、嫌がるのを無理矢理になどという事は為さらぬ方と理解しております」
(他ならぬ眼前の青年騎士が友とする男なのだ。その心根は善に傾く物だろうし、先の一夜を鑑みても下半身の欲望に任せて理性を捨てるタイプとも思えない。青年騎士がわざわざ一文を付け足した所に若干の不安を覚えぬでも無かったが、いざとなれば彼もこちらに合力して夜這いを防いでくれるはず。無論、イェンがジャミルと名乗った青年の誘いに軽々と応じる事もない。先夜の軽口とて彼らの理性と場の状況を読み取って十分な安全マージンを確保した上、更には酒精の勢いもあって口にした物に過ぎぬのだ。愛想の欠片もない鉄面皮とは言え年頃の少女でもあるので、そうしたあれこれに対する興味は十分に持ってはいるが、こちらには軽薄に身を任せる事が出来ぬ事情もある。)
「―――ト…ッ、とりあえず、荷物を置いて行きましょう。その後ジャミル様と合流して………あぁ、その様に便利な物をお持ちでしたか。では、合流したジャミル様が荷物を置き次第、どこかで食事を取りながら―――――そ、その後の事についても相談しましょう」
(裏返る初声や最後のセリフに羞恥の残滓は滲む物の、続く言葉は普段通り。細足に凭れ掛かる形で放置していた背負い袋を持ち上げた女学生は、くるりと背を向けさっさと階段に向かう。401。鍵に記された部屋番号を考えれば、4階の角部屋なのだろう。部屋代はそれなりに高く付いたが、青年騎士とその友人との折半であれば許容範囲に収まるはず。ここに来るまでの船上警護の臨時収入もあったので、多少の贅沢は問題あるまい。そんな考えを巡らせながら目的の部屋に辿り着き、扉を開く。老舗の大宿の看板に恥じる事のない、広く、清潔に整えられた室内の様子が紫瞳に映った。12畳程の部屋には寝具代わりとなるソファこそ見当たらなかったが、4脚の椅子に囲まれたテーブルと、ダブルサイズのベッド。長櫃。クロゼット。更に驚く事にこぢんまりとした物ではあっても浴室までもが併設されていた。)
■イェン > 【後日継続予定です】
ご案内:「港湾都市ダイラス 船着き場」からイェンさんが去りました。
ご案内:「港湾都市ダイラス 船着き場」からサウロさんが去りました。