2023/08/26 のログ
ご案内:「港湾都市ダイラス 船着き場」にロージィさんが現れました。
ロージィ > 眠らぬ歓楽街を懐に抱く、港湾都市の早朝、倉庫街。
何処からともなく海鳥の鳴く声が聞こえる以外、辺りは静まり返っている。

ギ、ギギ、ィ―――――

並んだ倉庫の一棟の扉が薄く開き、中からこっそり窺う目が覗く。
人通りが無いことを確かめて、そっと踏み出した足に履き物は無く、
滑るように出てきた女の首には、繊細な細工物の首輪。

きょろきょろと辺りを見回しながら、覚束ない足取りで倉庫を離れる女は、
詰まるところ、逃亡を目論む奴隷、なのだった。

昨晩、とある水辺で捕らえられ、縛られ担がれ倉庫に転がされて、
今日には何処か、別の土地へ運ばれる筈の商品。
一体幾らで売られたのか、誰に買われる予定だったのか、
それともバフート辺りで店先に並べられるのか―――何れに、しても。

素直に買われも売られもしたくない女は、裸足で逃亡を図るつもりだ。
幸い、早朝の倉庫街にはひとの気配も無く、女の足取りは次第に確かな力を得て、
迷路のように入り組んだ路地を抜けようと。

ご案内:「港湾都市ダイラス 船着き場」にユーダスさんが現れました。
ユーダス > 未だ日が昇りかけて間も無い時間帯の港湾都市。
船着き場の方では早朝の船出の準備を進める船乗り達の声が時折響き渡っていたが、少し離れた倉庫街はほぼ無人。
静まり返った路地の中を駆け抜ける女性の裸足の足音だけが、鳴り響いていたのだが―――

「―――おっと。」

彼女が抜けようとした幾つ目かの路地の曲がり角の先。
それまで何の気配も感じられなかったその場所からまるで湧き出たかの如く、カツン―――と靴の音が鳴ったかと思うと、
曲がり角の陰から姿を現わしたのは黒服を纏った長身痩躯の男。

裸足の女性と衝突しそうになるのをすんでの所で身を引いて避けたのと同時、
その腕を伸ばして相手の腰をそっと抱き留めようと試みるか。

ロージィ > 何方へ行くのが正解なのか、明確な指標などある筈も無く。
ただ闇雲に、静かな方へ静かな方へと進んでいた女の足は、偶然か否か、
確かに街の外れへ向かっていたのだが。

「きゃ―――――――――!」

不意に眼前へ影が差した、その影が人の形をしていることに気づいて、
咄嗟に身を翻して避けようと、するよりも僅かに早く。
細い腰を絡げ取られ、勢いの侭に抱き竦められる。
大きく目を見開いて相手を見上げ、硬直したのはほんの一瞬。
次の瞬間、女は両腕を前に突き出し、相手の躰を押し退けようとして。

「は、なして……!」

己を探しに来た誰かなのか、単なる通りすがりなのか。
何方にしても、捕まる訳には行かない、としか、考えられなかった。

ユーダス > 逞しいと呼ぶには程遠い男の細腕が、女性の腰を抱き寄せる。
大きく見開かれた桃色の宝石の様な双眸が此方へと向いたならば、男は穏やかに笑みをひとつ浮かべて見せながら。

「嗚呼、そんなに暴れないでくださいませ。
 別に今は貴女をどうこうしようというつもりは御座いません?」

己の身体を押し退けようと伸ばされた腕の、細い手首をやんわりと掴む。
とは言え、腰に回された腕も手首を掴んだ手も、荒々しく力が込められた様子は無く、
彼女が全力で抵抗を試みるのであれば、容易く振り解ける程度の力で。

「―――なに、今の私は単なる通りすがりで御座います。
 差し支えなければ、先ずは事情をお聞かせ願えますかな………?
 この様な場所で立ち話も何ですので、ひとまずはこちらへ。」

女性の反応と、首許に嵌められた流麗な細工の首輪から、現状を何となく察する事は出来たものの。
此の侭逃がすにしろ、元の主に突き返すにしろ、或いはそれ以外の選択を取るにしろ、
まずは彼女の口から詳しい事情を聞かなければならない―――そう胸の内で判断し。
傍らにあった倉庫の鍵を開け、扉を開くと女性を招き入れる様に手を差し伸べようか。

ロージィ > 少なくとも、港で働く荒くれ者の類ではない。

腰に絡まる腕も、伸ばした手首を捕らえた手指も、
荒事慣れした男のものでは無さそうだった。
恐らく渾身の力を籠めれば、振り解いて逃れることも叶いそうな。
しかし―――――。

「―――…わ、たし……でも、あの、……っ……」

逃げなければ、と焦る気持ちはあれど、相手の紳士的な物腰と態度に、
抗う意思が一瞬、削がれた形。
通りすがりだと告げるその言葉を、丸ごと信じた訳ではないが、
相手が倉庫の鍵を開ける間、隙をついて逃げ出そうとはしなかった。
差し伸べられた手に、半ば反射的に手を預けさえして。

虚を突かれ、穏やかな紳士然とした相手に、呑まれるようにして。
女は誘われる侭、ぎこちなく頷いて扉の奥へと―――――

ユーダス > もし、目の前の女性がそれでも全力で男の手を振り解き、逃げる事を優先したのであればそれまでの話。
しかし戸惑いの様子を見せながらも、そうはせず男が倉庫の鍵を開ける間もその場から去る事をしなかった相手に、
男はにこやかな笑みを浮かべて見せながら、心からの謝辞を述べる。

「―――ありがとう御座います。
 さぁ、何も無い倉庫で恐縮ですが、どうぞこちらへ………。」

差し伸べた男の手を女性が取ったのであれば、彼女をエスコートするように倉庫の中へと招き入れる。
倉庫の中は特段変わった様子は無く、隅の方に幾つかの木箱が詰まれて山を成している程度。
男は傍らに置かれていた簡素な椅子をひとつ、彼女へと勧めてから。

「………それで、貴女はこの様な早朝の倉庫街で、靴も履かずに一体何を?
 見た所中心部―――港寄りの方からやって来られたようで御座いますが。」

そう聞き出そうとするのは、女性が此処までやって来た経緯を本人から確認するのと同時、
女性が逃げて来た方角―――即ち彼女が『誰』の元から逃げ出して来たのかを確かめる意図を含んでいた。

ロージィ > つい先刻まで、倉庫の暗がりの中に転がされていた身。
じっくりと観察すれば、纏うものにも自身の肌にも、埃や煤がついている。
裸足で駆けていたことと言い、首輪を確認しなくとも、何処かから逃げてきたのは明らかだろうが、
残念ながら女自身は、その異常性をあまり認識していなかった。

招き入れられた倉庫の中、勧められた椅子に、ぎこちない仕草で腰を下ろし。
揃えた膝の上辺りで、落ち着かなげにドレスの生地を引っ張り、今更ながらに素足を隠し。
女は己の手指の先を見るともなく俯いて、

「あの、わたし……わたし、実は、逃げ、て……逃げて、きたんです、
 昨夜……ゆうべ、いきなり、襲われ、て……それで」

訥々と、か細い声で、女は事の顛末を語り始める。
昨晩、ひっそりと身を隠していた水辺で、突然襲われ、囚われの身となったこと。
抗う間も無く縛りあげられ、運び込まれて、倉庫に転がされていたこと。
問われれば、逃げ出す直前に目に入った倉庫の番号や、
運び込まれる時、偶然耳にした、依頼主の名、その断片も口にするだろう。
その名が相手の知らぬもの、無関係のものであれば良いけれど。

ユーダス > 男は暫くの間、女性の口から語れる事の顛末に静かに耳を傾ける。
そうしてその言葉の中から幾つかの断片的な情報を拾い上げると、ふむ………と何かを納得した様に頷いて見せ。

「成程、『彼』の所でしたか。
 そう言えば昨晩、思いがけず上物が手に入ったとやけに上機嫌でしたが、道理で………。
 しかしそれならば丁度良かった。折角手に入ったこれ程の上物をみすみす逃したとあっては、
 『彼』にとっては良いお灸となってくれるでしょうね。」

嬉しそうに微笑みながら語る男の事情は、恐らく目の前の女性には縁の無い事であったかも知れないが、
結論として、彼女を元の主に引き渡すつもりは男には毛頭無い事だけを最後に男は女性に告げた。

それから、ドレスの裾で素足を隠す女性の様子に気が付くと。
少々お待ちを、と告げてから彼女の元を離れ、倉庫の隅に積まれた木箱の中を漁り始めるか。
程無くして、戻って来た男の手に握られていたのはその手に収まる程度の小さな薬壺。

「―――これは気が付かず申し訳ありません。
 あのような場所を裸足で逃げて来られたのですから、お怪我をされておりましょうに………。
 少々、失礼致しますよ?」

そう断ってから、しかし相手の返事を聞くよりも早く、男は彼女の足元へと跪くと、
ドレスの裾に隠されたその足を取り、蓋を開けた薬壺の中身―――半透明の軟膏のようなものを指先で掬い取ってから、
彼女の素足へと丹念に擦り込んでゆこうとその手指を滑らせてゆく。

ロージィ > ―――――『彼』。

如何やら相手にとって、その名は知らぬものでは無かったらしい。
一瞬、白い顔を更に蒼白く強張らせて、女は相手を見つめたが。
少なくとも、元の倉庫へ戻されることは無いらしい、と、相手の口ぶりから察すると、
その表情には戸惑いと、僅かばかりの安堵の色が滲むようになり。

「じゃ、じゃあ、…――――― ぇ?」

助けて頂けるのですか、と問い返すつもりだったが、相手が離れて行ってしまったので、
女の質問は中途半端な状態に。
戻ってきた相手の手許へ目を向けて、物問いたげに首を傾げているうちに。
足許へ跪いた相手の手が、ドレスの裾に隠したばかりの足首を掬い上げると、
女はぎょっとして、椅子から腰を浮かせかけ。

「ぇ、あ、いえ、っ……… ん、ぅ!
 あの、あのっ、結構で、す…… わ、たし、わたし、自分で……」

足の裏にも、踵にも、よくよく見れば足首にも、枷を外した痣が残る。
けれどどれも、放っておけば程無く治ってしまいます―――とは、流石に言えなかった。
何かの塗り薬が肌に擦り込まれる、長い指が、掌が滑る感触はむず痒く、
紳士を跪かせている状況がいたたまれず、何とか止めて貰おうと、しどろもどろになりながら。
女は右手を伸ばして、相手の手を押し留めようとする。

ユーダス > 「………さて、どうでしょう。
 しかし『彼』のここ最近の少々強引なやり口には、私のみならず他の商会も閉口していた所でして。
 少しばかり痛い目を見ていただくには、良い機会かと。」

相手を助ける、といった風な意図の言葉は敢えて口にはしない。
ただ、彼女にはこのまま『彼』の元から離れていた方が、男の利害にも繋がる事だけを伝えると、
くすくすと揶揄るように笑って見せたのは、件の『彼』に対してか、或いは別の誰かにか。

「―――そうは参りません。
 嗚呼、枷の痕まで………折角の美しい肌が台無しではありませんか………。」

驚きに身を竦ませる女性の様子など意に介した様子も無く、男の指先はその足へと丁寧に軟膏を擦り込んでゆく。
初めは足先の傷から、足首に残った枷の痕まで、骨ばった男の指が這う感触を与えながら、
やがて軟膏の擦り込まれた部分からは彼女の纏う薔薇のものとはまた別の、甘い花のような香りが漂い始める。

―――それは傷薬であると同時に、強い媚薬の薬効も持った薬。
立ち昇る甘い香りが、柔肌へと擦り込まれた軟膏が、目の前の相手にどの程度の効果を齎すかは個人差の範疇だが、
身体の末端から少しずつ甘い熱と淫靡な疼きで侵そうとするそれを、
女性の繊手に押し留められても尚男の手は足先に、足首に擦り込んでゆこうと試みる。

ロージィ > 助けて貰えるのか、それとも淡い期待に終わるのか。
はっきりとは解らないものの、少なくとも今直ぐに、突き返されることは無いらしい。
ならば、幾らでも逃げ出す隙は見出せるだろう、と、女は考えていた。

だからこそ、もしかしたら蹴り飛ばして逃げることになるかも知れないからこそ。
親切にされるのは困る、と、焦って手を伸ばしたが。

「いえ、いえっ、こん、なの、本当に、大した、怪我じゃ……わたし、
 わたし、あの、――――――― っ、ぁ、 んっ、 っ、」

ゆるゆると、爪先から踵、踝へと這いのぼるように。
その手はただ、薬を塗り込んでくれているだけ、その筈なのに、何故か。

肌が粟立つ、塗り込められたところへ相手の指先が掠めるだけで、
ぞく、と背筋に悪寒めいた震えが駆け巡る。
遅ればせながら異状に気づき、立ち上がろうとしたけれど、腰から下に力が入らなくなっていた。
俯く女の白い顔にも、不自然な赤みが差し始めて。

「な、に……… なにを、――――――――…」

何をしたの、と尋ねる声さえ、指先が滑る刺激に上擦る始末。
女の意識は次第に朦朧と、思考回路も麻痺寸前か。

女の意識が遠退くのが先か、それとも、女の傷に薬を塗り込む相手が、
細かな掠り傷などが早くも塞がり始めているのに気づいて、
この女が普通の人間ではないと、商品としての価値に気づくのが先か。
その先の顛末も、今は誰も知らず―――――。

ご案内:「港湾都市ダイラス 船着き場」からロージィさんが去りました。
ご案内:「港湾都市ダイラス 船着き場」からユーダスさんが去りました。