2025/03/23 のログ
ご案内:「セレネルの海 浜辺」にナランさんが現れました。
■ナラン > 空と水平線の合間が曖昧な夜。
黒い空には朧げににじむ月があって、波間に弾く月光は心もとない。
王都から然程離れていない場所に広がる浜辺にはいま人けがなく、風もない風景に打ち寄せては返す波の音だけが満ちている。
そこへ防風林を抜けて、砂を踏みしめた影がひとつ。
「… すごく、贅沢な気分ですね…」
しばらく波音に聞き入って広がる風景を眺めた後、小さく感想を独り言ちた。
ふと視線を落とした足元を、貝殻を被った小さな生き物が横切っていく。少し歩いては止まって、と独特の調子で波打ち際へ行く姿を追っていると、他にも同じような姿がちらほらと林から波打ち際へと向かっているのに気づいた。どうやら、いまこの浜辺は『彼らの時間』らしい。
■ナラン > 佇む女は暫く浜辺に立ったまま様子を伺っていたが、うっかり彼らを踏んでしまいそうになるほど足元は悪くなく、彼らのほうもこちらを殊更警戒するような様子がない。
(しばらく、お邪魔しても大丈夫そう)
とはいえ他にも彼らのようなイキモノがいるかもしれない。
女は慣れない砂浜の感触を確かめながら、慎重に海辺に沿って歩き始めた。
特に用事があっての事ではなくて、王都からの帰りの『寄り道』だ。急ぐ理由もない。ゆっくり歩を進めながら時折波打ち際から水平線の方へと視線を巡らせる。
―――――遠くに見える光は、船だろうか。
潮風はゆるく、林の葉が揺れる音もない。
海の向こうの方では風があるのだろうか。知識はまったくないが、ゆっくりと、しかしすべる様に光が進んでいる様子はとても不思議だ。
潮風の香りにも、海辺の生き物にもなじみがない。
波打ち際まで行って、すこし『遊んで』みたい気もするけれど…
(…それは、今度)
足を止めて一瞬の逡巡のあと、女は歩みを再開する。
朧だった月が頼りないながらくっきりと夜空に姿を現したころには、浜辺には女の姿は無かったろう―――
ご案内:「セレネルの海 浜辺」からナランさんが去りました。