2025/03/29 のログ
ご案内:「ハテグの主戦場」にグァイ・シァさんが現れました。
■グァイ・シァ > 丘の上での戦闘は、半端な雨のせいで文字通りの泥試合となった。
両軍引き揚げるほどの驟雨ではなく、ぽつりぽつりと、だが確実に地面を湿らせていく雨は、連日の戦闘でむき出しになった地面を容易く滑りやすく跳ね上げやすい厄介なものに変えていく。
総指揮官が撤退を命じたのはどちらの軍が先だったのか。
ともかくも引き分けといえそうな状況のなか血気盛んな幾ばくかのものたちを引きずるようにして、双方が雨の中丘を後にしていく。
時刻はまだ夕刻よりは前のはずだが、黒い雲で覆われた空から届く光は弱く、辺りは薄闇といっていい。そこに血と微かな焦げた匂いを残して、本日の戦闘は終わりとなるようだった。
その丘を下ったところにある雑木林のなか、藪のなかに倒れ伏している女がいる。
朱色の髪は薄闇の更に木陰のなかでも少し目立つ。
「う…ぐ… 」
うめき声を上げたところを見るとまだ息はあるようで、しかしその姿は己のものか他人のものか兎に角血まみれだ。濃く漂う血の匂いのせいか、辺りに獣の気配はない。
よく観察するものがいれば不思議なのは藪の周りには何も踏み分けた跡もないことで、まるで女は文字通り降って現れたようだ。
■グァイ・シァ > 「か… はッ…」
暫くのあと、女はようやく身動きをする。
どこか骨でも折れたか傷でもあるのか、脇腹を押さえ、のろのろと身を起こす。
泥まみれの顔で、瞼の合間から翠の瞳が閃いて辺りを見る。
死んでも復活するとはいえ、負傷したからといって毎度死ぬわけにもいかない。傭兵の中に混ざるのにも、死んだはずの女が戻るよりは負傷した姿で戻ったほうがながく在れる。
そう学んで、致命傷を負うか負わないかの辺りで逃げることを憶えた。
(とはいえ……)
負傷したまま行動するというのは、厄介だ。
傷が元での病気などにも無縁とは言え、痛みを訴える身体を強制的に動かすのは、思った以上に消耗する。
周囲にひとまず目立つような危険はなさそうだ。『移動』した場所も戦闘していた場所からそう遠くはないはずである。
血の匂いが雨に消される前に丘の上の戦場跡までもどれれば、力をもっと戻すこともできよう。
■グァイ・シァ > 苦痛のうめきを上げながらのろのろと立ち上がる。
藪に引っかかれて服が裂けむき出しの肌の部分に更に傷が増えるが、構っていられない。
(… 向こうか)
漂ってくる血と死の匂いのほうへゆらりと首を向ける。遠目にでも見るものが居れば、幽鬼かなにかと見まがえるような仕草。
脇腹を抑えた掌の下から温かい血がにじんでくる。どうやら傷が開いているらしい。
かすかな呼吸を整えると、女は引きずるような足取りで丘を目指して歩き出す。
熱く疼く傷の下から抜けていく女の命が尽きるのと、丘の方から流れてくる死の香りと―――とりもなおさず女の命の源に辿り着くのと
果たしてどちらが先だったか
ご案内:「ハテグの主戦場」からグァイ・シァさんが去りました。