2024/03/05 のログ
ご案内:「ハテグの主戦場」にムメイさんが現れました。
ムメイ > (名高い主戦場、その外れの一角。
 そこは別に守らずとも良い場所であり、攻めずとも良い場所だ。

 そこには切り株が一つあるだけ。
 言ってしまえば戦術的な価値は全く無い。

 無いのだが、迷い込んだ人間や魔族は戻って来ない。
 不気味、と形容される場所に切り株に腰を落ち着けて)

「まぁ、こうなっちまうと大規模戦闘は難しいやなぁ……」

(胡坐を掻く様にして座っている人影が、そこに一つ。
 亡くなった兵士の無念を見ているのか、それとも別の思惑があるか。

 肘をついて主戦場がよく見えるその場所を、悠然と眺めている。

 実際のところ、今回は戦いに来たのではない。
 故に雇われた訳では無いが――思わず鮫の様な笑みを零した。

 やはり、戦場は良いものだ。
 死ねば一緒で、ここに安全は何処にも無いのだから。)

ムメイ > (正直な事を言えば、雇われても良かった。
 或いは砦の方に行っても面白かったかもしれない。
 少なくとも暫く前までの自分ならば、そうだっただろう。

 ――ただ、同時に思うのだ。
 そこに心躍る強者、戦を楽しめる猛者はいるのだろうか、と。

 空振りならまだいい、雑魚相手が最悪だ。
 連携を以てかかってくるなら楽しめるが、欲のみで死地に来る。
 自らの力量を弁えずに、死地へ来る。

 そう言った手合いと戦うのは、酷く退屈なのだ。
 心が渇いてしまう、面白味が無さ過ぎる。
 まるで読み飽きた本を読む様なものだ。

 故に、そう言った相手に対して、戦いとは見做さない。
 ただの作業だ、御馳走に在り付くまでの食いつなぎ。

 ああ、そういった話では酷く自分は贅沢なのだろう。
 そういった贅沢な相手を心待ちにしているのだから。)

「……死んで、生きて、また死んで、か。
 こうなって尚、武の果ては、未だ見えねえなあ」

(在りもしない幻想と笑わば笑え。
 人間だった頃から追い続け、果てない夢だけを追いかけている。

 窮めた、等烏滸がましい事は言えはしまいが――

 ――ああ、それでも。
 人間でなくなっても、見果てぬ夢を見続けられる事。
 終わりはここではないと思える事は、きっと幸せだ。

 それはそうなのだが)

「……しかし、どうにも話をしていて気づかされたが。
 『身体に引っ張られている』感じがするな」

(そうして思い出すのは、そんな事だった。

 今の己は、『肉体』で言えば、文句の余地無く最盛期だ。
 本体はアレなので、この影法師の様な器が象ったのは若かりし頃。

 自分の死んだ時は、これより最低三十年は先の姿だ。
 話すような相手は――と言うより、話しながら思い出したわけだが。

 その頃の記憶は朧気ながらあるが、実感は無い。
 そのまま首を傾げている。

 思い出せていないと言うより、実感が沸かないのだ。
 まるで、他人の記録を見せられて自分だと思わされているような。

 そんな部分の記憶があるのだ、どうしても)

ムメイ > (現在は、ただ強いがそれ止まりだ。
 壁にぶつかっている、と言う感覚がある。
 しかも一度超えたであろう壁、これも直感的に判る事だ。

 さて、何が壁なのだろう?

 首を今度は逆側に傾げる。
 一度は超えたと言う事は、忘れているだけだ。

 力を振るい、武器を振るい、拳を振るう。
 それでは辿り着けていない、忘れてしまったもの。
 さて、何だったであろうか?

 朝焼けの空を見上げながら、唸って見せる。)

「……んー……こう、喉まで出かかってる感じはするんだがなぁ」

(ふとしたきっかけで思い出すのだろうが、どうにも思い出せない。
 言ってしまえばど忘れみたいなものだ。
 それが酷く座りが悪くて、再度首を捻る。

 さて、こういう時にすべき事はなんだろうか?
 こういう時は、まず一つ一つ戻るしかない。

 辿ってきた道行を戻る事こそが、一番の近道だ。
 近道、なのだが……ちょっと長すぎる。

 これ数日要るんじゃね、位に長すぎる。
 いや長く生きて長く死んでるので仕方ないのだけれど。

 んー、と唸りながら切り株より立ち上がって)

「参ったなぁ、どうにも昔より欠けちまってる気がするぞ?」

(死ぬ前ですら完全等とは程遠いと自覚している。
 だが、死んで長く生きてより欠けたのでは笑い話にもならない。

 本体に戻れば思い出すのかも知れないが。
 元よりアレに戻った場合、闘争本能の塊とも言うべき状態だ。
 結果として、自分は敵味方見境無しに基本暴れ回る。

 そして、どちらかと言えば人間の社会で暮らす方が良い。
 元が人間だからと言うより、酷く眩しく見えるのだ。

 さて、そうなれば、その案は廃案だ。
 ではどうすればいいか、と考えて)

「……時間まだあるし、ちょっと色々歩いてみっか」

(ふとした拍子に思い出すだろ、なんて付け加えた。
 どうせ悩んでも思い出せないなら、考えるだけ無駄だ。

 じゃあ、いつも通りやるか。
 そんな風に考えながら、主戦場を後にした。

 いつも通りの自然体で、実にのんびりとした歩調で)

ご案内:「ハテグの主戦場」からムメイさんが去りました。