2023/08/05 のログ
ご案内:「ハテグの主戦場/13years ago」にヴァンさんが現れました。
ヴァン > 宿屋。兵士達に物資を調達する商人たちのための施設。
二階の廊下に銀髪の青年はいた。壁に背をつけて、扉の横に佇んでいる。
簡易な鎖帷子と禍々しさを感じさせる赤黒い盾、そして新品の剣。歳は二十歳かそこらか。

「……ウルフ、交戦(エンゲージ)」

扉を蹴破ると中には椅子に座って取引中と思しき男達が、驚愕に目を見開いている。
男たちが立ち上がる――否、まばたきする前に銀髪の殺し屋は力任せに二人の首を刎ねた。新品の剣が壁にあたり、刃が毀れる。
素早く視線を巡らせ、生体反応を探査。反応なし。
軽く息をつくと男は首から提げる聖印を掴み声をかけた。どうやら聖印は通信機能を有しているようだ。

「ウルフからクロウへ。バットをデリート。回収が完了次第D-3地点へ向かう。
……D-2で敵部隊発見? わかった、ピジョンを先に向かわせる」

最初に殺した男は他国に情報を売り、亡命を図っていた貴族だ。今晩にでも夜陰に紛れ他国に消える筈だった所を襲撃した。
それだけの話ならば本来、神殿騎士団が動くことはない。王国ご自慢の暴力装置の出番だ。
この貴族が亡命の手土産にと持ち出したものが神殿でもいわくつきの品だったため、特務部隊『ブラッドシールド』の出番となった。
殺したもう片方の素性はわからない。敵国の諜報員かもしれないし、商人かもしれぬ。どちらにせよ生かしておく必要はない。

「……というわけで、ピジョン。すまないが先に行っててくれ。俺は後から向かう」

ピジョンと呼ばれた女は柔和な笑みをたたえて頷いた。男の声も同僚にかけるものとは明らかに違い、柔らかい。
去り行く女の後ろ姿を少し頬を緩ませながら見送る男。姿が消えると、仕事に集中すべきと頭を振った。

「……この箱だな。中身は……間違いない。よし」

数分の家探しを経てブツを回収したところで、他者の気配を察知した。
一応は民間人に被害が出ないよう、宿屋の人間には金を握らせて外に出てもらっている。
男はそんな面倒なことをせず鏖殺すればよいと考えていたが、上官の命令とあらば従う他はない。
宿の主人は他の宿泊客はいない、と言っていた。通信から、ピジョンが戻ってきたわけでもない。
王国側の人間か、あるいは――。