2024/05/14 のログ
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート/大修道院」にヴァンさんが現れました。
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート/大修道院」にアンネリーゼさんが現れました。
ヴァン > 聖騎士団会議。
主教傘下の騎士団代表が集まり、混迷する王国を主教の暴力装置としていかに善きものへと導いていけるか――
換言するならば勢力を拡大できるか、三日間をかけて見解を統一する年に一度の場。
出席するのは騎士団長や次世代の有望株、組織の調整役など各騎士団を代表するに足る面々だ。

例年神殿騎士団からは団長が出席しており、ヴァンにはとんと縁のない行事であったが今年はそうもいかなかった。
聖都を本拠地とする大規模騎士団が持ち回りで主催の役割を担うのだが、今年は神殿騎士団の番だったのだ。
会場の手配、出席者の武器・鎧をはじめとする手荷物預かり、議事進行に議事録作成、夕食を兼ねた懇親会の調整etcetc……
そして、一部の出席者に宿泊場所を手配するのも男の仕事だ。
出席者の大半は聖都に住んでおり、彼等は懇親会が終わるとそれぞれの住処に戻って休む。
本拠が遠方の者達は会場である修道院の宿泊施設に逗留するため、神殿騎士達が案内役をしていた。男が担当する人物は――。


「ヴィエリ様、お待たせいたしました。お部屋にご案内いたします。堅苦しいかもしれませんがご容赦ください。
……数年前、ちょっとした騒ぎがありまして。トラブル防止のため、この修道院内は我々神殿騎士団の目が届くようにしています」

年下ではあるが、アーレイシャの騎士団を代表して聖都に来ている彼女に恭しく礼をする。
懇親会のワインで悪酔いしていないか、長時間の会議で疲れていないか、顔色を確認した後にゆっくりと歩き出した。
男は懇親会の際も食事をとらず、給仕をこなす傍ら周囲に目を光らせていた。会場警備も兼ねていたのだろう。

男は会議の出席者を確認する際に女騎士の情報をある程度得ている。はたして逆はどうだろうか。
とりたてて特徴のない黒い騎士服。装飾がある聖印のデザインは神殿騎士団では聖騎士級(パラディン)、部隊長以上の証。
しかし率いる部隊を示す装飾はない。主教内他組織にある程度習熟しているなら、その条件に該当する人物は一人だけだとわかる。
あるいは、古都を出立する前に上司や同僚、夫などから『神殿騎士団の要注意人物』として忠告を受けているかもしれない。

「先日ご結婚されたそうで……おめでとうございます。ヴィエリはご主人の姓ですか?
あぁいや、昨今は結婚後も従来の姓を名乗るという方がいらっしゃいますから……」

主教界隈――特に口さがない男連中の間では、アイレーシャの聖女が結婚したという話が伝わっている。聖女も神官騎士も粗野な騎士達にとって大きな違いはなさそうだった。
答がわかっている質問。部屋に到着するまでの数分間、ただ黙って先導するのも芸がない。

アンネリーゼ > 聖騎士団会議──主教傘下の各騎士団が集う、その会合。
各国各地の擁する主要騎士団が卓に結し、
意見を交えて見解を揃え、見識を得る。その厳格なる集い。
そうそうたる顔ぶれの中、その女が出席するのは初めての事だった。

彼女の所属するアーレイシャ修道騎士団が、“主教傘下”──その括りに正しく該当するか、といえば否だ。
その信仰対象は、女神イシャス。その女神の孕む系譜には曰くがあり、屠られし闇の行間がある。
であるからこそ。年に一度、その会合への出席は義務であり、絶対であるといえた。

懇親会を終え、一人窓際に佇んでいた女は、名を呼ばれ。つぃ、と細面をあげた。

「───ええ、宜しくお願い致します。
  構いませんわ。何方かがいらしてくれないと、迷ってしまいそうで心細かったところですの。」

己の案内役なのだろう。男の礼に会釈で応える。
今年の主催、神殿騎士団の漆黒の騎士服を毅然と纏った銀髪の男の名前を、女は脳裡に留めていた。
出席にあたっての事前知識。聖印の示す階級、外見的特徴、─…部隊章を持たぬ、その唯一人の人物。

「まぁ、お恥ずかしい。 斯様なところでも祝われてしまいますのね。
 ──…有難う御座います。貴殿は、シルバーブレイド殿、でよろしかったかしら。

 ええ、ヴィエリは主人の姓ですわ。わたくしどもは婚儀を交わすまで、姓は持ちませんので。」

長い回廊を歩み乍ら、女はゆったりと会話に応じる。
淡い微笑みを口元に侍らせて、男の一歩後ろを付き従う。
かつりこつりとブーツが石畳の床を鳴らし。燭台の寂光が、蔭を長く床に描きゆき。

ヴァン > 男はアーレイシャで奉じられる女神をよく知らない。豊穣・繁栄を司るということぐらいだ。
とはいえ、ノーシス主教は多神教。ヤルダバオートや他の神々と何らかの関係があるのだろう。

窓際の淑女から、心細かったとの言葉に柔らかく笑ってみせる。

「これは失礼を。会議の運営というのは慣れないものです……。
ええ、お美しい女性が結婚された、というのは人の口に上るものですから」

回廊を抜け懇親会を行った聖堂の側面から外に出ると、敷地の入り口付近に何台かの馬車がちょっとした渋滞を作っているのが見えた。
酒が回った騎士達は大声を出すでもなく、出席者同士で談笑して渋滞の解消を待っている。
聖堂から裏手側に宿泊用の建物があると告げ、引き続き先導していく。

「ヴァン=シルバーブレイド。ヴァンとお呼びいただければ。騎士団長直属の聖騎士です。
運営に携わる予定はなかったのですが、今はどこもかしこも人手不足のようで……」

苦笑しながら道を歩く。月明かりが大地を照らし、所々に据えられたランタンがなくとも足元がはっきり見える。
姓を持たない、という言葉には思わず振り返った。

「ほう……? 高位の修道女や神官騎士は貴族出身が多く、姓を持つ者も珍しくありません。
修道院に入られた時にこれまでの姓を捨てる、という方もいると聞いたことはありますが――」

仕草や気品から、平民出身とも思いづらい。長年の修道院暮らしで身についたのだろうか。

アンネリーゼ > 男の謝意に、いいえ、と小さくかぶりを振って鷹揚に返し。
軽く呆れ口調に、戯けた風を繕ってみせた。

「まぁ。田舎の野辺の花が一輪摘まれたところで、王都には美しい花が咲き乱れているでしょうに。」

その女は、騎士、とするにはあまりに優艶であり、涼しくもゆかしい柔和を纏う。
剣戟に立つではなく、アーレイシャ修道騎士団の本領は癒しであり守護であった。
男の傍より流された菫色の眼差しは、馬車の並ぶ渋滞を見遣る。
荘厳なる騎士達も、酒が回り口が軽くなれば、其の語らいの様は随分と微笑ましく映るものだ。
そして、己がその談笑の輪に加わることは無いようで。誘導に倣い、歩を進め。

「ヴァン殿、ですね。承知いたしました。
 こっそり拝見しておりました。懇親会の間、ずっと御多忙であらせられたでしょう?
 ──あぁ、私のこともアンネリーゼと。」

宿泊棟への道すがら、夜風が結髪のほつれを攫うのを、そぅと指で押さえる。
月明かりが女の繊指をしらじらと照らし、振り返る男を、光粒を幽かにのせた双眸が迎え。

「ええ。両親より授けられた姓も名もお返しして、イシャスから名を賜りますの。
           還俗して修道院を去るまでは、イシャスの娘。姓はそれで十分ですわ。」

少しだけ頚を傾ぐ仕草は、年齢不相応に少女めく。

「…なんて話は、王都の方には珍しいでしょうか?」 

ヴァン > 謙遜には軽く頭を横に振る。
入口の混雑を背に、正面には二階建ての白い石造りの建物が見えてくる。大聖堂と同じ石材が使われているようだ。

「美しさを何から見出すか、でしょうな。心の美しさや武芸の強さからくる美しさ。様々です。
団長から馬車馬のように使われましたからね。会議も明後日の昼までですから、それまではなんとか耐え抜きます。
なら――他にもお気づきになられましたか、アンネリーゼ様?」

彼女の隣に座っていた聖堂騎士団の中年男性が、男を見ながら一度“味方殺し”と吐き捨てたことを思い出すだろう。
会議や懇親会などの場で、銀髪の男に対して憎悪や敵意の視線を向ける者達がいたことにも気付いたかもしれない。
たとえばオブザーバー参加の異端審問庁。啓蒙局の重鎮で、禁書の扱いについてヴァンとは真っ向から対立している。
他にも年配の騎士達からは一様に胡乱な視線を向けられていた。素知らぬ顔をしていたのは男の直属の上司くらいだろう。
男は自分にまつわる噂話を彼女がどれだけ知っているか、探りを入れているようだ。

「なるほど……アーレイシャではそういった習慣は厳格なようですね。
王都では顕著ですが、貴族の娘が出会いの場として使うことも珍しくありません。そんな理由で、姓もそのままが多いです。
王城や富裕地区の者は大半が姓を持っていますね。平民地区くらいになると平民出身者が多くなりますが……」

首を傾げる仕草は年齢より遥かに若い娘のようだったが、不自然さを感じない。
世俗の欲望やしがらみに侵されることなく生きてきたのだろうことがみてとれた。

言葉を交わしつつ、気付けば建物のすぐ近くへと辿りついた。入口の喧騒は遠く、聞こえるのは時折吹く風の音くらいだ。

アンネリーゼ > 「ええ。王都はじつに多種多様な花が爛漫と咲いておりますもの。
 ヴァン殿の心にふれる花もきっとございましょう。」

女はそう、惚けてみせた。
白亜の壮麗な建築物は、石材の所為かそれとも石工も同じなのか、大聖堂と近しい印象を抱かせた。
宿泊の場はおそらく、彼処であるのだろう。
そして、謎解きのように問われた言葉に。

「何をでしょう?
 あぁでも──… きっと“愉快な”方なのではないかしら、とは思いました。」

女は、やんわりとした表現にて男を評してみせた。そして、違いますか?と問うてみせる。
“味方殺し”──中年男性が苦虫を噛み殺したようにそう告げたのを女は聞いている。
そして彼に集結する視線の一様な胡乱さがあればこそ、女は男を眺めていたのだから。

「出逢いの場ですか…。在り方がきっと、随分違うのでしょうね。
 修道院に一度入ってしまえば、姓を名乗る機会などありませんでしたから。」

不自由は無かった、と女は言う。それほどに、アーレイシャの女子修道院は隔絶された場だ。
そして、還俗する迄降りるを許されないのだと。
語っていれば目的の建物は程近く。門扉の前迄辿り着こうか。
静寂が在り、それゆえか闇が深く感ぜられる。玲瓏と浮かび上がるかの建材の白が眩い。

「此処が、───本日お貸しいただける宿でしょうか?」