2023/12/28 のログ
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート」にロレンツォさんが現れました。
■ロレンツォ > 夜も深く宵闇と静寂に沈んだヤルダバオートの大神殿。
その中で微かに漏れ聞こえる物音が噂話を嗜む修道女の耳に届こうものならば怪談話のひとつでも出来上がるのであろうが実際はその様な類のものでは無く。
一部の司祭に宛がわれた執務室のひとつ、蝋燭の小さな明かりの下で幾つもの書類と対面を続ける男の姿が其処には在った。
「――――…………。」
無言の侭に手許の書類へと目を通し、時として訂正や署名を必要とするものが在ればカリカリとペンを走らせて選り分けた書類の束の上へと積み重ねん。
そうした時間がどのくらい続いた頃合いだったか。
手にしていたペンを机上のペン立てへと収めると同時、男は背筋を伸ばし机に向かっていた姿勢を解くと、椅子の背凭れに身体を預けて大きく伸びをして見せた。
「―――……んん……流石に、少し疲れましたね。」
■ロレンツォ > 深く一息吐いてから、崩した姿勢の侭手に取った次の書類をひらりと捲って視線を落とす。
その紙面に綴られていたのはヤルダバオートに仕える一人の聖職者に関するもので、大まかな出自、年齢、所属する教会に周囲の司祭からの所感――そして最後に記載されているのはその人物が近い内に送られる事になるであろう地の名称だ。
或る者は王都の大神殿へ。
また或る者は辺境の村の小さな教会へ。
宣教の為に遠い異国の地へ赴く事が決定した者も居る。
しかし目を通して来た書類の中には其処に「ヤルダバオート地下施設」、或いは「奴隷市場都市バフート」と記載された者も少なからず見て取れよう。
それが意味する事を男は十分に知っている。当人が果たしてそれを承知しているか否かは、自分にとって与り知る処では無いが。
彼等すべての行く末の決定権を一介の司祭に過ぎない男が持ち合わせている筈も無く、己が元へと送られて来た書類に目を通しては右から左へと流してゆく、ただそれだけの行為。
其処に特別な感情は無く、男にとってはこの都市の運営に必要な業務のひとつとしてこなすのみに過ぎない―――。
「―――?、はい、どうぞ。」
そんな男の思考を遮ったのは、コンコン、と執務室の扉を控えめに叩くノックの音だった。
「こんな時間に珍しいな。」と誰に聞かせるでもない感想を小声で漏らしつつも、手許の書類を机の上に伏してから真夜中の来訪者を受け入れるべく扉の向こう側の誰かへと声を掛けん。
■ロレンツォ > 男の返事から少し遅れてドアノブが回り、開かれた扉の向こう側に見えたのは同じくヤルダバオートに仕える司祭の一人、見知った同僚の姿で。
要件の心当たりは皆無とは言えないが、実際に訊ねてみない事には何とも言えない。しかし相手の様子から察するに、少なくとも急を要する要件という訳では無いだろう。
「こんばんは。こんな時間に貴方の方から訪ねて来るとは珍しい。―――今、お茶をお淹れしましょう。」
男はにこやかに笑んで来訪者を迎え入れると同時、宣言の通りにお茶を淹れるべく執務机から立ち上がらん。
やがて閉じられた執務室の扉の向こう側で、ヤルダバオートの夜は静かに更けてゆく―――。
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート」からロレンツォさんが去りました。