2023/12/11 のログ
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート」にジェンナさんが現れました。
■ジェンナ >
「大丈夫よ、アネット……おまえも、少し息抜きをしておいで」
頑なに『ついてくる』と言い張る侍女を、半ば強引に、振り切るように。
互いの間で扉を閉ざし、踵を返して歩き出せば、彼女もようやく諦めたらしく、
後を追って来る靴音が聞こえることはなかった。
溜め息交じりに軽く首を振り、逗留していた修道院の宿坊を出て、
雲間から覗く弱い日差しに照らされた、街の目抜き通りを辿り始める。
神聖都市という名に恥じず、聖職者の装いを纏う者が多く行き交い、
己のように喪装で出歩くのも、珍しくはないようで。
立て襟、長袖、飾り気の無い漆黒のロングドレス。
頭には完全に顎まで隠れるヴェールを被った姿でも、然程浮くこともなく、
それでも己の足は自然に、人通りの少ない裏通りへと分け入っていた。
喧騒は苦手、他人の目に晒されるのも好まない。
王都ほどの賑やかさはないものの、ここも充分に人の多い街だ。
けれど、ともすれば何週間も外出出来ずに過ごすことを強いられる己が、
『息子』の目を避けて、その手を離れて出かけられる場所、機会と言えば、ひどく限られる。
この街はその、数少ない『許された場所』だった。
なんと言っても、己は夫を亡くしたばかりの寡婦である。
故人を悼み、祈りを捧げる為の小旅行ならば、文句をつけられる筈も無く。
ついでにあと数日、骨休めを、あるいは、羽根伸ばしを。
叶うかどうかは、同行者である侍女が、何処まで丸め込まれてくれるか、にかかっていた。
緩やかな歩調で見知らぬ街の裏通りを辿る、己は密かに考える。
帰りに何か、侍女の気持ちを解す土産でも買って帰ろうかと。
■ジェンナ >
長時間の散策には向かない、華奢な靴を履いた足で。
歩き回って疲れ果て、けれども幾許かは気を持ち直して。
「そうだわ、確か……」
香りの良いショコラが手に入る店が、この辺りに。
そう思いついて、己の散策は目的を得る。
心持ち早足で、目当ての店を目指し――――――。
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート」からジェンナさんが去りました。