2023/11/12 のログ
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート」にグァイ・シァさんが現れました。
グァイ・シァ > 「…私じゃない」

女の唸るような低い声は、目の前で声を張り上げる神官の声に容易くかき消された。

神聖都市の大通り、夕暮れ時は他の都市と変わらず行きかうヒトは多い。
その中に紛れて足を進めていた女は、よそ見をしていた神官騎士と思しき男にすれ違いざま肩に強くぶつかられ、余波で隣にいた聖女とやらが転んでしまった。

(―――大体、ぶつかってよろめく騎士というのもどうかと思うが)

一瞬思いながら、聖女がいかに大切な存在かだとか、お前が突き飛ばしたからだ、どうしてくれるんだとか、そんなような内容をがなり立てている相手を見据えている。

内容を聞くつもりはない。すでに野次馬が足を止め始めている中をいかに抜けるか。

幸い聖女とやらの取り巻きはその神官騎士と、聖女を気遣っている風のシスターの二人だけ。
夕闇迫る中、陽光を背にしたこちらの顔はまだあまり把握できていないだろう。

只でさえ、『神』やら『神聖』『聖遺物』やらと虫の好かない言葉やモノがあふれた場所だ。そもそも苛立ちが己の身体の中に疼いていた時の出来事で、目の前の相手を腹いせに殴り飛ばしたい気分に駆られてくる。

(…良くない傾向だ)

グァイ・シァ > 判断は一瞬だ。
がなり立てている神官が一呼吸おいて、また口を開こうとした瞬間。
周囲が、彼が次に何を言うか待つ瞬間。

女は身をひるがえして集まりかけた野次馬に紛れこんだ。
幸い腕を掴まれることも進路をふさぐものもなく(居れば斬ってしまったかもしれない)、あとには追いかける『ふり』をする神官騎士を置いていきぼりに人波の中を縫っていく。
念のため目立つ赤い髪を被布で覆って、人ごみに紛れて

女は夕闇に沈んでいく街の中へ消えていった。

ご案内:「神聖都市ヤルダバオート」からグァイ・シァさんが去りました。