2025/04/18 のログ
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 森林」にティアフェルさんが現れました。
■ティアフェル > ―――死にたいなんて、一度も思ったことはない。少なくとも本気で思ったことなど。
むしろ、死にたくないとそれしか思えない――
のに。
何故今、およそ助けも期待できない樹海の奥で血を流して満身創痍で勝てない敵と対峙しているというのか。
オークが出る、とは納得ずくだ。だが、変異種だとまでは。
親が狩られたかどうかで、まだ幼生のオークが縄張りから弾かれて人里まで迷い出てきたという。それを駆除するというパーティクエストであった。
幼体であれば、討伐の難易度はさほど高くもない。3人もいれば充分多いくらいだ。と編成された剣士と弓士と回復術師の俄かパーティ。朝方に落ち合い昼日中の樹海の奥、オークの出没地点に辿り着いたまでは良かった。
けれど、まさか幼体とは思えぬ膂力と幼体ならではの素早さ、成体以上の知能、刃物のように鍛えた爪といったオークに、口先だけの腕なし前衛が瞬殺されて首が転がり。そこからすべてが狂うなんて予測は……していなかった。
まだ経験の浅い15歳の女弓士は恐慌状態に陥り矢を乱射して悲鳴を上げて一目散に逃亡した。
乱れ飛ぶ矢をかわして身を伏せたもので逃げ遅れ――その後は弄ぶように顔と云わず腕と云わず足と云わず胴と云わず全身に鋭く手入れした爪で裂傷を刻まれ、出血で貧血状態で生殺しに遭いながら今に至る。
対峙した魔物が、確かな知性――悪知恵と云えるもの、を宿した双眸を可笑し気に光らせ逃がす気も殺す気も生かす気もない、玩具を見る眼差しでこちらを観察していた。
「――ッ! ………っ動きも、お見通しって訳……?」
ワンステップで跳躍、肉薄しスタッフを得物としてオークの右脇を狙ってスイングするが見切ったように軽くかわされる。まるで格闘術を覚えた野生動物のように厄介な動き。力が足りない分スピードと急所を突く攻撃で魔物と渡り合っていた特攻型ヒーラーには相性最悪な相手だ。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 森林」にヴェスタさんが現れました。
■ヴェスタ > 「おお、酷ぇ血の臭いだな。ま、おかげで場所が解り易かったが?」
魔物が次の一手を、と僅かに構えたタイミングで。背後の樹の影から低い声とともに、ぬッと現れる黒い姿。
目下の女はもう死に体に近いだろうとたかを括ったのか、新手の方へと注意を向ける魔物の視線には、やはり魔物とも見えなくもない姿がある。
人語ではないオークの言葉か、或いは魔物の間に通じる言語か、ぎゃあぎゃあと二三喚き立てるのを聞けば、現れた獣人の男は低く響く声で笑い。
「横取りするなって、おいおい。俺はお前さんらとはだいぶ趣味が合わんのだがね」
男は普通に人語で応えているが、オークの発した言葉の内容が分かっているようにも思える。
やれやれ、と肩をすくめたと思えば。その次の呼吸では、ただの一歩で低く潜り込むように魔物の眼の前まで詰め寄っている。
伸ばしていた拳を直前で避け、遠く飛び退く魔物に、お、いい反応をする、などと余裕の笑みを続けたまま。
散歩でもするかのようなゆったりとした足取りで、傷だらけの女と魔物との間に入るように位置を変えていた。
「んん、で。弓持ったお嬢ちゃんがいまいち良くわからん早口で、助けに行ってとか何とか喚きながら走ってったんだがね」
視線は魔物の方へ、薄く睨みつけるようにしたまま、肩越しにかける声は、やはり低い声でありつつ心配するような柔らかさも少し含んでいるように思える。
■ティアフェル > 「――⁉」
不意に背後から、声が。
反射的に振り向いてしまい、眼前の敵から視線を外す形になったと気づいてはっとしたが――オークは襲って来ない。
代わりに新手……のような黒い姿と言葉を交わしているかに見える。
「な……に……?」
想定外の事態に目を見開き、辛うじて膝は突かないままぎゅっとスタッフを握りしめてオークと黒い……獣人?に交互に視線を流し。
そしてまるで自然な動きで彼がオークとの間に立った。
魔物から阻む壁のような位置取り。
「弓……? あの子…無事だったの? ていうか走ってったって……もうっ、一人で行っちゃったらどうしようもないのに……っ」
結局はぐれたままになってしまった。一目散に離脱した臆病な弓手。
こっちだってここで助かったとて探しに行ってやる余裕なんてないというのに……
思わず舌打ちかましてから、助けを求めての声に応じてということは。
少なくとも彼は敵ではないと判断し、その黒い背中を仰ぎながら。
「ねえ…! ってことは助けてくれる、の…⁉ とりま見ての通り超やばい訳で!
ぜひともご助力願いたい所存で……!
云っていいかな…!?
た す け て ー !!」
もうなりふりとか構ってる余裕、皆無。きっちり助けて欲しいと明言して。
見ず知らずな相手の良心に期待した。
■ヴェスタ > 自身がもっと状況を把握する為だったのか、突然現れた新手を認識して考えるための時間を与える意味もあったのか。魔物が警戒してみじろぎしている間、傍の女があれこれ喋っているのを静かに聞いている。
――聞いていた後、緊迫した状況であろう筈の中、男は思い切り声を上げて笑い出し。
「わっはっはっは――! ボロボロの割には元気のあるお嬢ちゃんだ。いいね。
ちなみに俺は傭兵仕事の帰り道だった所だ。なので、あっちには他にも何人かそれなりの腕の連中が居る」
全力の、たすけてー、がよほど気に入ったのか。あまりに思い切り笑うものだから、魔物の方まで面食らって戸惑っている様子すらある。
あっち、とまっすぐ腕と指先を伸ばした方角は、男が来た方、もとい女弓士が逃げ去った方角だ。その心配もしていた女の言葉も耳聡く聞いていたのだろう、向こうは平気だろうと暗に伝えて。
「何よりまずは、あんたの傷の心配が先かね。とりあえず飲んどけ、治療用のマジックポーションってやつだな。それだけやられててもまぁ、止血ぐらいにはなるだろうさ」
ごそごそと腰着けの荷物袋から、小瓶を取り出せば。ひょい、と放り投げてくる。自ら治療できるかどうかは別として、できない場合には当然役に立つ。
そんなやり取りをしていれば、面食らっていた魔物の方も我に返ったのか。小瓶を放るために男が視線を女の方へ外していた隙に、尚更怒り心頭の様子で男に飛びかかり。
鋭い爪が男の肩口に突き刺さり、当然痛みはあるはずなのだが、そもそも飛びかかってきていたのは分かっていて無視したかのように、ぬ、と向き直る。
逆に悲鳴を上げたのは、魔物の方であった――男の両手から、猫のそれのように伸びていた爪が、魔物の腰回りを締め付けるように食い込んでいたからである。
「突っ込んでくる意気は良し。……が! 鍛えてあるおじさん相手にパワー勝負を挑もうとするのは、数十年! 早いな――!」
ぐわ、と抱えあげるように振りかぶると、そのままぶん投げた。太い樹木に叩きつけられた魔物は、ぐぎゃ、と呻くような悲鳴を上げて崩れ落ちる。かろうじて息はありそうだが、そのまま放置すれば助かるまい、と言うほど盛大に叩きつけられたのである。
■ティアフェル > ここで『えぇ…やだ』とか云われたら詰むな!確実に詰む!!と正直ちょっとひやひやしながら黒豹の反応を待ったが――
「ぇ、あ……」
出し抜けに響く笑声に思わず一瞬面食らったように目を丸くし。
わたしそんな変なこと云ったかな……とやや小首を傾げたが。
ありがたいことに相手の返答は色よいもので。
元気よく云って良かった!!と暢気に安堵しつつ。
「よっしゃぁ、味方キタァアァ!
ちょっと笑い過ぎなきらいはありますが、まあ良き。
そ…? それなら……まあ、勝手に遁走したからには自力で何とかしてもらうしかないけどさ……」
一応懸念していた弓手少女も彼の言からすると恐らく無事であろう。
でなくてもこれ以上世話できる状況ではないのだけど。
しかし寝覚めの悪いことにはなっていなさそうで、無事を仄めかしてくれた言葉に安堵した。
「ぇっ、あ……っ、や、わ、たしは……」
投げ寄こされた小瓶を慌ててキャッチしたが。
この程度治癒できなくてはヒーラーの名折れである。受け取ったものの後で返そうと一度ポケットにしまい。
「―――…! あぶな……ッ」
瓶をキャッチしたと同じ刹那に隙を突くように跳びかかっていく小柄なオーク。
身軽で素早い動きは回避するに難しいとは身をもって知っていて、無意識に発しかけた声。
しかしそれは途切れる。
聞こえた悲鳴は酷く甲高く、魔物の方からの絶叫で。
魔物の瞬発を上回る動きで食い込む爪。一瞬何が起こったのか把握できなかったが、
「~~~~っは、あ……」
感嘆符のような溜息のような。
魔物をまるで小枝のように振り投げた手腕を刮目して直視し。
「きゃーっ! かーこいーい!! ナイス!ナイスミドル…!!」
正直見た目では若いのかそうでもないのか良く分からないところがあったが。
おじさんと自称しているのと声のトーンでそれなりの齢なのだろうと解釈して黄色い声を上げては。
「……ぁ、まだ生きてる」
大樹の幹に叩きつけられたそいつは虫の息のようだが。
魔物の再生力しぶとさを舐めてはいかん。てってって…とその、まだぴくぴくしている小柄なオークへと歩み寄ると。
「えいっ」
ぐしゃ!
なんの躊躇もなく頸動脈を正確に振り落とした右足で潰し。とどめを刺しておいた。
「これでよーし」
まるで朝のルーティンでも終えた後のような爽やかな笑みで血だらけのヒーラーが軽やかに発した。
■ヴェスタ > 「……おお。むしろ、お嬢ちゃんの方が格好いい気がするがね、たいしたもんだ」
女の全身にあの魔物が付けたものであろう裂傷、見かけ上は深手のように見えているのだが。渡した小瓶も使っていないようだったし、逆に見かけよりも丈夫なのかもしれない、と平然と動き回っているのを眺め。
まさに力押しこそ得意分野でありそうなこの獣人男に、負けず劣らずの力押し具合で魔物にとどめを刺すのを、腕組みして褒めている。
なるほど、先刻までは間違いなく危機的状況だった筈なのだが。おそらく気の持ちようで上がり下がりが激しい性分なのかもしれんな、とどこか楽しそうに見ている様子でもあった。
「よくもまぁ、その状態でそれだけ動き回れるもんだ。本当に大丈夫なのか? 俺が助けずとも何とかなっていたのでは、と言うぐらいの手並みではあるが」
黄色い声援を受けていたのはまんざらではないのか。それよりも、ころころと良く話し、良く動く様子の方を面白がっていたのか。
一応本気で心配している様子ではあったが、本気で心配する必要ははたしてあるのだろうか?……と言う疑問もやはり、眼の前で爽やかすぎる笑みを見れば、少しは男の脳裏に湧いていたようでもあった。
「傷自体が平気と言うのであれば、むやみにこれ以上の心配はしないでおくが――その血だらけの格好、拭くのに使えそうなものも、特に俺の荷物には無さそうだし、なぁ」
自身では、それこそ汚れようが血まみれになろうが、後で洗えば済む、と服の下は獣の毛皮ゆえに尚更適当に思っているものだから。包帯に使えそうなものなどはあっても、こういう時に案外役に立たんものだな、と頬を指先で掻いていて。
■ティアフェル > 「えへ」
てれてれと誉めてもらって能天気に照れ笑いしながら、さっきまで貧血でへろへろしてたのどこのどいつよ、って感じに魔物へとどめを刺していましたが。
「ぁ、あー……? うん、全然、へい……k……あれぇ……」
やっぱり血が足りてないのは足りてなかった。
貧血というのはバカにできない。
気力で持たせていたが、魔物にとどめを刺して味方となってくれている存在があることに安堵して急に張り詰めていたものが切れたのか、大丈夫と返事をしかけたのだが、一気に血圧が下がったようで顔からさーと血の気を引かせながらその場にふらふらと頽れ。
「はあ……目が眩む……やっぱ、あなたがいなきゃ死んでたわ~……
ありがとね……ん……取り敢えず傷……塞がなきゃ……」
血を拭くことを考慮してくれている声に、蒼褪めた顔で蹲りながら、詠唱を始める。
スタッフの先は己へと向けて術式を紡げば短く唱えて発動させ。
淡い燐光を生み裂傷を塞いでいくと、ほ~ぉと息を吐きだし。
「っは……死ぬかと……思った……
とりま、だいじょぶそ……。んぅ…確かにこの格好じゃあんまりね」
まだ少しふらつくが、一応は回復させて。その場でぺたんと座り込みながら自らの姿を顧みて苦笑いし。
「あ。そだ……これ、ありがとう。わたしこれでもヒーラーだからこれはお返しするね」
忘れるところだった。危うく借りパチしちゃうとこだった、とさっきキャッチしたポーションを差し出して。
■ヴェスタ > 「おっと! ――おいおい、やっぱり空元気で無理する性分かい。駄目なんじゃねぇか」
案の定とでも言うものか、気が抜けると崩れ落ちる、のを見れば数歩駆け寄るが。
気絶した、などとまでは行かないようで、話もすれば何か遣り始めたようであったから、ふむ、と片膝をつき、屈んで様子を伺うにまだ留め。
治療用の魔法であろう、自力で治して行くのを見れば、なるほどお嬢ちゃんはヒーラーか、と頷きつつも。それにしてはアグレッシブだったな、ともやはり少し眉の端を上げて考える。
「何処かの地で、僧兵、と名乗る連中がそういう戦をしていたっけなぁ。自分で殴り、自分で治すような……
俺は実のところ、攻撃用ならいくつか魔法もやれるんだがね、回復は基本、できん。便利そうで多少羨ましくはあるが――とは言え、あまり無茶はするな」
傷はある程度癒えたようでも、先刻よりも明らかに元気は無さそうに見える。限界近くはあったのだろう。
それでも、本当に大丈夫なのか、と言う姿で動き回られるよりは今の状態の方がまだ一息ついた、と言える気がして、男の方も話す口調が落ち着いてくる。
やがてポーション瓶を差し出されれば、ん、ああ……とそれは受け取って。
「俺は、この通りだから極論、全裸でもさほど変わらんし、大して気にもせんがね。
そっちは……うら若き女性がその格好、は――人間の基準からすると確かにあんまりかもしれんなぁ。街へ戻るなら、それまでこいつを着ておくか?」
自身の方は、服が無くとも野性味溢れた状態になるだけだが、と軽く笑ってみせつつも。女の姿が血だらけなのも他の誰かに心配されそうではあるし、何よりかなり破れているようにも思う。
自分で着ている鎧が布鎧だったものだから、これならでかいし適当に羽織っておくのに間に合わせにはなるだろう、と上着部分をくいくいと持ち上げて見せて。