2024/04/12 のログ
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 森林」に枢樹雨さんが現れました。
枢樹雨 > 今にも闇夜に呑まれてしまいそうな月が、空に浮かんでいる。
そのか細い月の光は、木々覆い茂る森にまでは届かない。
いつになく暗い森。其処にぽっかりと穴が開いている。…ように見えた。

霊体となって闇夜をふわふわ漂っていた妖怪は、森の中の暗い穴を空から見下ろす。
遠目には大穴でしかない其れも、近づいていけば本来の姿が見えてくる。
そうしてふわり――、大穴の傍に降り立とう。そこは、湖畔。
地に足をつくと同時に実体を現わした妖怪は、春の夜の冷たい風に角を隠す薄絹が飛ばされぬよう、そっと手で押さえる。
風は湖の水面も揺らし、背後に広がる木々もざわめかせる。
その風が止めば、広がるのは静寂。

妖怪は仄暗い瞳を湖へと向け、瞬きをひとつ、ふたつ。
薄く唇を開き…、閉じる。そして白い指で、己の喉に触れる。
今、この喉は何を発声しようとしたのか。
少し首を傾げ、改めて湖へと視線をやれば、其処には細い細い月が。
真上に浮かぶ月を映す、静寂の水面。
気が付けば妖怪は、再び唇を開いて…。

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 森林」から枢樹雨さんが去りました。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 森林」に枢樹雨さんが現れました。
枢樹雨 > 『その水面は、暗く、暗く、暗く…、底の見えない深い闇。
 気が付けば生き物の気配はなく、まるで死に絶えた黒い沼。』

淡々と抑揚のない声が、静寂にひたりと落ちる。
語るのは、誰かの物語。知っていたのに忘れていた、人ならざるなにかの物語。

『佇む男は怪訝に思う。其処に何かが足りないと。
 ―――ひゅう。
 男の足首を、冷え切った風が通り抜ける。
 あまりの寒気にぶるり、と、背筋が震える。
 けれど水面は、のっぺりと揺れる気配もない。』

聞かせる誰も居はしないのに、誰かに聞かせるように物語は続く。
そして『ひゅう』と、妖怪がか細く風を読むなら、冷たい風が一陣、頭の薄絹を揺らす。
しかし目の前の湖は、風に揺れる気配もない。
それはそう。妖怪が語ると同じように、語る通りに。

『男は気が付く。足りない何かに。
 月が、ないのだ。
 空にある月が、水面に映るはずのそれが、ない。』

先ほどよりも更に暗く、虚ろな灰簾石の瞳。
それが見る先。現実の水面にあったはずの月もまた、その姿を消していて。

枢樹雨 > 妖怪の…、異国の衣装纏う女の周りに、青い炎がひとつ灯る。
掌に収まる大きさのそれはまたひとつ、もうひとつと増え、ゆらりゆらりと妖しく揺れる。
遠目にもそれは見えるかもしれない。
そしてその炎に、女に、湖に近づくにつれ、異質な空気が色濃くなっていく。

『ここに居てはいけない――。
 思ったその時には、もう遅い。
 暗い、昏い、湖が、男の脚に忍び寄る。』

真に暗い大穴とも見紛う、揺れの無い水面。
そのふちからじわり、闇が手を伸ばす。
それは妖怪へと近づくにつれ、まるで触手の様に地面から浮き上がり、足首から着物の裾へと登っていく。

着物の裾にある勿忘草の刺繍。それを覆い隠すように絡みつき、帯の方まで伸びる闇。
しかし妖怪はそれを厭うこともなく、――それどころか呼び寄せるように、尚も口を開き。

『男は逃げる。伸びる闇から。
 けれど逃げる先もまた、気が付けば闇。
 風に揺れる木々の音も届かない、前後不覚の、暗い沼』

枢樹雨 > じわりじわりと伸びる暗い触手は、帯を越えて首の方まで妖怪の身に絡み覆い隠していく。
そしてそれを見つめる、――なにか。

揺らぎなく暗い湖の水面にはいつの間にか無数の"目"が浮かび、此方を見つめていた。

『逃げても、逃げても、逃げられない。
 どこまで行っても、ついてくる。
 背中突き刺さる視線。身を凍えさせる寒気。
 男は足がもつれ、息苦しさにうずくまる。

 もう、逃げられない。
 もう、何も、見えない―――。』

闇が、妖怪の口許にも浸食し、そしてついにはすべてを覆い尽くす。
語る物語もまた、その先はない。

妖怪を包み隠した闇はずぶずぶとその場で溶け、湖へと帰っていく。
まるで其処には何もなかったかのように、青い炎だけがゆらゆらと揺れ、
それもまた気が付けば、冷たい風に吹かれて消えて――――…。

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 森林」から枢樹雨さんが去りました。