2024/02/12 のログ
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 森林」に影時さんが現れました。
影時 > 冬の森は何かと厄介だ。身を隠すものに困る。
植生にもよるがそのような考え方を持つのは、主に現地に住まう動物と狩人だろう。
だが、厄介さは人それぞれの考え方が異なるように、一様ではない。
冬だからこそ、奇妙に活性化する動植物が居る。或る男が請け負った仕事とはそういうものだ。

――メグメール平野部に広がる森林地帯、その一角。

街道から外れ、深く進まないといけないものの、この一帯は駆け出しの冒険者でも行きやすいエリアとされる。
木々の茂りはひどく鬱蒼としておらず、日の入りも良い。見通しの良さとは安全を図り易い。
また、薬草含め、利用価値の高い植物も自生しているとなれば、おのずと穴場のように扱われることだろうか。
しかし、同時に問題もある。特定の条件を満たすと、魔性の植物が繁茂し、魔獣の類が寄りつく危険地帯に早変わりする。
滋養に満ちた土地は、物事の善悪を考えない。良きも悪しきも含めて引き寄せてしまう。

「風向き、よーし。……今ンとこだが、な?」

そんな一角を遠巻きにしながら、森の中でぽこんと突き出るように顔を出した岩の上に座する姿が零す。
異国風の柿渋色の羽織を纏い、口元を黒い襟巻で厳重に覆った男の姿だ。
殆ど枯れているとはいえ、細枝の間から漏れる日差しを浴びつつ、水に濡らした指を立て、風向きを確かめる。
身に染みる冷たい風が、己の方ではなく、現在注視する方角に吹いてることにほっとしたのか、肩の力を緩める。
視線を向ける方角は、冬の弱弱しい日差しでも奇妙に赤みがかった靄が生じている。
鼻が利くなら、僅かに甘ったらしい匂いも感じられる。それが問題だ。

影時 > 「この時期のこの気候になると、魔花が茂って媚香を放つ……だったか?面倒だな」

俗に「媚香の森」なぞと呼ばれるエリアがある。名の如く、媚香の如き匂いを放つ魔花が群生する領域だ。
この場所もそうだ。特定の時期、気候の条件を満たすと、地中深く眠っていた種だか球根等が活性化し、一斉に開花する。
匂いに引き付けられかねない動物は、比較的穏当なところから厄介な魔物まで幅広い。
だが、この手のモノにありがちなこととはいえ、種も花も媚薬や興奮剤を始め、色々な薬の材料となりうる。
詰まりは金になる。そうと分かっていれば、危険度をよくよく考えずに寄ってくる冒険者は多い。

「最低限は採った上で、さっさと火でもかけちまてェ気がするが……さて、はて」

採取依頼を発布した冒険者ギルドは一人が請けても、同様の採取依頼を改めて貼りだしている。
やり方次第では、一時の金策となるようにしている――つもりなのだろう。恐らく。
岩の上に座する男は頬杖をつきつつ、周囲に気を配る。匂いに引き付けられる魔物の有無と、同業者の到来を図るために。

影時 > 件の魔花自体はまるで魔物のようだが、魔物ではない。

以前、同種の魔花の種を食した魔物を討伐し、腑分けした際の記憶を思い出す。
魔物の可食部含め、利用可能な部位を探るためのものだったが、胃に該当する箇所を裂いた際、魔花の種は未消化だった。
考えるまでもない。種を包む硬い殻によるものだろう。
地中深くで芽吹く時を待ち、または魔物に食べられて何処ぞに運ばれ、糞とともに排出され、自生の場を広げるためか。
後者の前提として、経緯はどうあれ、独特の匂いを放つ――という進化の過程は間違いではないだろう。

「……あー。火をかけンのは下策か。土遁で土をほじくり返すか? あンまり痕跡を残すのは好きじゃないンだが……」

さて、金策扱いになる、できるかもしれないにしても、長々と残しておける場所ではない。
上手く使えば、引き寄せられた魔物を討ち、臨時収入にできるかもしれないが、異常興奮した魔物ほど厄介なものはない。
昂奮の余り、痛みや失血をも物ともしなくなった魔物に殺された、または無事に生き残っても引退を余儀なくされた実例は言うまでもあるまい。

そう思っていれば、羽織の裾や背中を上ってくる小さな姿がある。
茶黒の毛並みに白い法被を着こんだシマリスとモモンガだ。この時期でも何か食べられそうなものでも、探し当てたのだろう。
木の実らしいものを抱えたり、頬にたっぷり詰め込んで膝上に乗ってくる。
自由行動をさせる際、問題の花が茂る辺りには行かぬよう厳命したが、その言いつけはちゃんと守ってくれたらしい。

「色々持って帰ってきたなァ。あの花の辺りには行かなかったよな?」

念のため尋ねれば、言いつけの通りに――、とばかりにこくこくと頷いてくるさまに笑い、羽織の袂から小さな袋を取り出す。
その布袋の口を開けば、二匹が持ち帰ってきたものをひょいひょいと放り込んでくる。恐らくは木の実か、はたまた小石の類か。

影時 > 「帰ったら選別してやるかねぇ……と。お前ら、念のため鞄の向こうに入ってろ。いいな?」

兎に角何か食べられそうな、或いは気になったものを拾ってきたらしい。
スゴいでしょーとばかりに膝上で胸を張り、顔の髭を揺らして見せる二匹に笑い、手を出す。
二匹と袋の重みが掌の上に乗ったのを確かめ、羽織の裾を拡げて腰裏の方に運んでゆく。
其処にある雑嚢の蓋に触れれば、かちり、とひとりでに留め金が外れ、開く。
その中に掌の上にあるものを運び、置いてゆく。鞄の向こうの収容空間――倉庫に移ったことを手応えで確かめ、ゆっくりと手を戻す。
住処に戻った後に選別する前に、倉庫に居よう二匹が暇潰し的に選別していそうな気がしなくもない。

「……さーて、と」

思考を回しつつ立ち上がる。風向きが変わったのか、甘ったるい香りが次第に向いてくる。
それに伴ってか。幾つか人間とは違う気配も次第に近づいている。恐らく魔物であろう。
同業者含め、もう少し頭数が揃っていれば良かったが、仕方がない。

   「――仕事の時間だ」
   
構え、飛び降りつつ腰に差した刀を引き抜き、先ずは近くを通るだろう敵を排除しよう。
その上で魔花の群生側に移動し、魔物を逐次屠る。最後の始末含め、夕暮れまでには片付くだろうと思いながら――。

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 森林」から影時さんが去りました。