2023/11/20 のログ
スフィード > 魔物であったオークに黙祷を捧げる彼女にいい子だなと思えば、思わず笑みが溢れる。

「万一と思って炸裂弾を使ったのだが……余計に汚してしまったからな。そうか……それならよかったよ、安心した」

助かったといわれれば、安堵した微笑みをみせていく。
そして、弓手から彼女の役割を聞いていなかったが故に、いつものように道具での手当を始めてしまう。
あれだけ強かった敵だからこそ、彼女の傷もそれなりに深くないかと心配なのもあり、少しばかり注意力が散漫なのかもしれない。
実際、目の前にいる彼女の衣類はズタズタなわけで、心配に拍車をかけたのもあるだろう。

「いや、失血は死に関わる。特にアドレナリンが出て痛みがわからないままだと、気付いたときには死にかけなんてこともある」

先程まで生死をかけた戦いで、体は痛みのスイッチをオフにしているかもしれない。
失血量は当人が思うよりも多いかもしれないと、真面目な顔で彼女のみを慮り、言葉をかける。
止血剤である程度抑え込んでしまえば、後は傷を拭って消毒し、深い部分は縫えば問題ないだろうか。
しかしながら、女性の体に縫い跡を残すのは少々心苦しい……などと脳内で考え込みながら止血を終えていく。
要は愚直に糞真面目なのだ。

「……どうかしたか?」

止血も終えたし、後は本治療するのみと思っていたところで、何かを切り出す様子。
はてと不思議そうに問いかけるも、姿を見やればそう、服はぼろぼろなのを思い出す。
流石にこの格好で人前に、しかも異性の前にいるのは恥ずかしいということだろうか。
そう考えると、察しが悪くてすまないと告げてから、腰のポーチを探る。
小さく折りたたまれた薄い皮布を広げていくと、ばさりと彼女の体に毛布のように掛けていく。
雨に振られた時のレインコート代わりや、紐や杭と合わせれば天幕代わりにもなる品。
微妙に気付きがズレている。

ティアフェル >  一応は、と黙祷を捧げて目を開けたら笑みを浮かべている表情に気づいて何となく照れくさくなって頬を掻き。

「ううん、いい判断だったと思う……なんて云うと偉そうだけど。一撃で仕留めてくれたし、汚れるくらい全然。
 いやー…ほんと、死ぬとこだったわ……」

 なんならすでに一人鬼籍に入った。うぅ……と思い出して離れた場所に転がった生首を思い出すと頭を抱え。
 正直今日顔を合わせたばかりだったり、偉そうなことばかり吹聴して鼻もちならない奴ではあったが。
 エンカウント1秒以内で瞬殺された、口だけ男だったが。
 亡くなってしまったからにはそれなりに後始末が大変だ。思い出したらうああ…と呻いて苦悩し。

「そりゃーそうなんだけど……うん、その、なんていうか……」

 手当は自分で出来る、というか回復魔法でちゃちゃっと消すことも可能なのだ。
 止血剤を使ってもらったことが勿体ない。こちらの身を気遣って意見にますます云いづらさが募る。
 血はすっかり止まった。なんと切り出したものか言葉も止まった。

「…………じ、実は、いやあの……そ…じゃなくって……」

 胸下や太腿、脇腹など、ところどころ衣服が裂けて傷ついた肌が露出しているが、それはさておき。
 そのことに配慮して今度は布をかけて肌を覆ってくれる。
 あ、もう申し分なく紳士的。
 いよいよ云いだし辛くなった。
 いっそこのまま黙っているべきかもしれない……そう思考しかけたが。
 この手に持っているスタッフは何だとその内気づかれれば、黙っていたことがさらに気まずくさせるだろう…と思い至り。
 そろそろと、スタッフを持ち上げて見せ。

「実は……ヒーラー……、なの、わたし……」

 おずおずと遠慮がちに白状した。
 やっていることがゴリラ……いや、前衛めいた凶暴さなので分かり辛さ半端なかったかもだが。

スフィード > 照れくさそうな仕草も、素直さや純朴さのようなものを感じてより心が和んでいるのは言うまでもなく。

「ははっ、構わないさ。私も君たち本業者からすればアマチュアと大差ない。鍛錬は積んできたが……良かったよ、ちゃんと実を結んだと実感できた」

ここまで切羽詰まった戦いは初めてのことであり、安堵しながら微笑む。
しかし、何やら頭を抱える彼女の様子に気付くと、視野の端に移った姿に気付く。
首のない屍、そして転がった生首、考えてみれば女子二人でこんなところに来るのは妙だ。
実際どれだけ彼が戦ったはしらないが、その一太刀分、彼女を守ったのは事実だろう。
そう思えば、屍へと近づいていき、申し訳ないが纏っていたマントを外して広げ、首元に頭部を添えてからそれを被せていった。
そして、事実を知らぬにしても十字を切って短く黙祷した後に始まる応急手当。

「ふむ……?」

何やら言い淀んでいるが、何を戸惑っているのだろうか。
まだ敵がいるというような雰囲気ではなく、何か困っているようにも見える。
恥ずかしいのかと思えば布を被せて肌も隠したが、どうにもそうではない。
兄の様になるまいと紳士たらんとしていたが、まだまだ研鑽が足りないということだろうか。
そんな事を考えていると、見せられたスタッフを見やり、瞳が瞬いた。
スタッフ、そう、術者が力を増幅させたり、コントロールに用いるそれは治癒者も使う。

「……っはは! なるほど、それは釈迦に説法になってしまった。申し訳ない」

棒術をつかうファイターのような鮮やかな一撃だったのもあり、ヒーラーであるという考えが浮かばなかったのもあるかもしれない。
しかし、彼女のお株を奪うような手当をしてしまったと気付けば、納得しながらクツクツと可笑しそうに笑う。
それはいいづらいのも仕方ないと思えば、肩を大きく揺らしていたが、止血剤のキャップを締めてポーチに収める。
あとの治療は彼女自身に任せるという、仕草の意思。

ティアフェル >  微妙に微笑まし気な空気を感じるような気がして何となく視線を逃がし。

「アマチュア……? そうは見えない、けど……冒険者、じゃないの? 初心者な感じもしないなあ……大した腕と判断力だし……」

 狙いは正確で状況判断も早く的確だ。風体は少し派手な気はするが、魔物狩りに慣れた冒険者の類かと予想していただけに不可解そうに首を傾げ。
 親しみは全くないものの、屍となってしまえば憐憫と後始末の大変さを感じる俄かパーティ仲間。
 報告どうしようと苦悩気味に頭を抱えていればマントを掛けて首と胴を繋げるようにしてくれる様子に。申し訳なさとありがたさに、何と云うのが適切か出て来ず「かたじけない…」と咄嗟に仰々しい語彙が出たが、ふざけている訳ではない……。

「い、いえいえいえいえっ……な、なんか云うのが遅くなって……申し訳ない……
 せっかく手当してくれたのに……ごめんなさい、薬……」

 ようやく切り出せた、真実。
 ヒーラーだとスタッフを見せて自白したら、おかし気に笑う声に恐縮して首を振りつつ、こちらからも謝罪して。頭を下げ。
 そして、そりゃー、分かんないよなあ……とオーク相手に悶着していた図から現場に到着したのだからと深く理解はして。
 ともかくも怪我で心配を掛けさせてしまったようだし先に治療しよう、とスタッフを己の前身に掲げて詠唱を紡ぎ始めた。
 集中し術式を編み上げては、各所に手傷を負ってしまったため部分的ではなく全身に術か行き渡るように淡い橙色の光を生み出し。
 それで総身を覆うと暖かい光が血を止めてもらった後の裂傷を塞いで癒してゆく。すぅ、と跡形もなくそれらを消し去ってしまうと、ほぅ、と息を吐き出し。
 改めて見上げるようにして長身の青年へと向き直ると、

「紛らわしくってごめんなさい、よ、良かったらこれ、お礼とお詫びに……
 あ、そう云えば名前も聴いてなかったわ。わたし、ティアフェル。もう云ったけど冒険者でヒーラーなの。あなたは?」

 ウエストポーチからポーションの小瓶を取り出して差し出し。
 遅ればせながら名乗っては小首を傾げ。

スフィード > 「あぁ、兵站業の長を務めているが、ここまで切羽詰まった戦いは初めてだったよ。一応、鍛錬は幼少期から続けているが、危ういのは遠巻きに見る程度だったんだ、とはいえ、それでもズブの素人とまではいかない程度だ」

後は貴族王族の横繋がりで、たまに狩りに興じる程度だが、それとて生き死にではない。
屍に慣れているのも、補給先で幾度もみているし、死した兵士を家族の元に送るのも押し付けられることがあった。
そういった点ではあまり王族らしからぬ経験は多く、不思議に思わせたのだろうか。
ともあれ、死体に手を合わせて簡易的に弔ったところで、仰々しい言葉に薄っすらと微笑みながら頭を振る。

「いいさ、私が勝手に治療始めてしまったから気を使ってくれたのだろう? それに薬も使ってこそ意味がある、それにこんな粉で血が止まるのかと疑るのもいたからね、ちゃんと止まったと報告できる」

貴重な実践情報が手に入ったのだから、悪くないと再度頭を振っていく。
考えてみれば、棒術ならもう少し長くてシンプルなものになるだろうけれど、気付けなかった己も悪い。
気にしてないと微笑んだところで、詠唱を始めるのをじっと見守る。
オレンジ色の輝きが傷を包み、あっという間に消し去っていく様子は、王城ではなかなか見られない光景。
なるほど、これが治癒魔法というものかと、物珍しげに見つめつつ、指先で顎に触れる姿は冒険者らしからぬところ。
無事綺麗に傷が治れば、こちらもあ安堵して、向き直る彼女の翡翠色を見つめた。

「大丈夫さ、気にしないで欲しい。ふむ、それなら……お礼とお詫びに帰り道の話し相手になってくれないか? 君に興味が湧いたよ」

差し出されたポーションも、冒険者からすればなかなか値がはるかもしれない思うと受け取りづらく。
気にしないでくれと両手の掌を向けて頭を振るが、思っていた以上に重く受け止めさせた可能性もある。
その代わりとしてそんなお願いを切り出した後、名前と仕事を告げられ、名を問われるわけだが。
どうしたものか、一瞬目を逸らして考える。
余計に気を使わせるかもしれないが、適当なことを言って嘘をつくのも心苦しい。
仕方あるまいと、何故か観念したような顔で俯いた後、再び笑顔をみせていく。

「スフィード・カルネテルだ。代々、王国軍の兵站業を担っていてね。まだ若輩者だが現当主だ。よろしく、ティアフェル」

国の兵站担当なら多少の荒事慣れも、消耗をさほど気にしないのも、格好が奇妙なのも全て繋がるだろうか。
眉尻を下げて半笑いに鳴りながらも握手の手を差し出す。

ティアフェル > 「後方支援……にしておくのは惜しいわねえ……。
 初めてでこれだったらきっと実戦に出ても活躍すると思うわ。そんな謙遜することないのに……よっぽど真面目に研鑽を積んできたのね、成果が出たってとこかな」

 まさか王侯貴族関係、とは云われなければ分からないが。
 補助的な役割を担っているだけにしては咄嗟の判断も度胸の点においても申し分ないと感じた。
 前衛を務めるに足ると思えたが、当人はその自覚がないらしい。なんだか勿体ないように感じていたが。
 無残な遺体と化した簡易的な仲間にまで気を回してもらうと深々と頭を下げ。

「いや、う……、まあ……ちょっと云いだし辛いなって………
 ――うんっ、それは効果覿面ってわたしからもお墨付き。すぐに血が凝固したわ」

 せめてモニターになったのならば多少は役に立ったかと、そう思わせるように言葉を選んでくれたのがありがたく。
 大きく首肯して薬の効果については請け合っておく。
 跡形もなく傷を塞げばその後の問題はぼろぼろの身形くらい。今さらながら髪に手を当てて乱れたそれを少しでも直しつつ。
 回復魔法を間近にする機会はそうないのか少し奇異な視線を受けて髪に手を当てたまま何となく照れ笑いし。
 左右で色の違う青と緑の眸に正面から向き合うと気づいて思わずじっと覗き込み。

「え……? 話し相手? 興味……湧くとこあったかな? 大した話はできないかも知れないけど、そんなんで良ければ喜んで。でもせっかくだからわたしもいろいろ聴きたいわ」

 なんてまだ相手の身分を存じ上げない段階では呑気に肯いておっけー、と了承した。
 ポーションは自家製なので別に大した出費とも云えないが。
 そんなもの腐るほど手に入る身分の方にむしろ余計なことだった、と気づかされるのはもう少し経ってである。
 自己紹介を終えてそちらのプロフィールも知りたがるが、考え込む様子にさらに首を捻って。
 先ほど兵站業と話していたがそれ以上は云えない隠密な何かなのだろうか、と思い至り無理に云わなくてもと遠慮しようとしかけたが、やがて笑顔での名乗りをいただくと。

「…………………………………え?」

 一瞬にしてがちん、と固まった。カルネテルの名前を知らない国民はいない。
 知らない方が気が楽だったかも知れないがそうとも行かず。
 普通なら謁見すら機会のない、何か催事でもあれば顔を出すのを遠巻きに見るくらいの立場の方。
 手を差し出されることは生涯ない筈の手。と、取らなければ、逆に不敬か……と一気に断頭台まで頭の隅に過らせながら、遠慮がちにおずおずと手を握りながら。

「た、タメ口なんか失礼だった、です、かな……!?」

 口調を改めるべきと辛うじて脳は働いたが、いや、働きが足りてなく。珍妙な語調が飛び出した。やばい、タメ口利いちゃったよ……とまた断頭台が頭にちらつき。

スフィード > 「そう言ってもらえるとは光栄だね。そうか……それなら、万が一の時はちゃんと部下を指揮できると分かって安心したよ。父が厳しくてね、上に立つ者として、力の一つや二つ身に着けろと躾けられたお陰だね」

思い起こせば、父に尻を叩かれながら走らされるわ、腕立て伏せやら戦闘訓練やら仕込まれた涙の記憶が過る。
これもまた、兄が逃げ回って役目を押し付けられたようなところだが、役立つなら何よりでもあった。
褒められれば嬉しそうに目を細めるところは、平民と大差ないだろう。

「その気持ちが優しさの証拠だよ。ははっ、それなら良かった。現役ヒーラーのお墨付きなら、兵士達も文句は言うまい」

言葉を選んだのもあるが、事実止血帯に比べれば頼り無さを感じる見た目でもある。
小麦粉でもまぶして料理のつもりかと、現場の兵士に怒鳴られたと聞いたこともあるのだとか。
しっかりと彼女の言葉を記憶に焼き付ければ、髪を直す仕草はあまり見てはなるまいと少しだけ目をそらす。
そうして治療の様子を見ていたが、安全に治癒できる状況であれば傷を癒せるというメリットと共に一つ浮かぶデメリット。
彼女もそうだったが、戦闘中に治癒するには多少なりの余裕が必要なのではなかろうかということ。
そう考えるならば、その隙間を埋める装備を整えるのも手かと考えながら治療の様子を見つめていき、視線が重なれば柔に微笑んだ。

「君みたいに素直な子と話すのは楽しそうだと思ってね。いやいや、冒険話や日常の話とて、意外と楽しいものだ。それなら、お互いに語り合う感じにしようか」

人を知るのは楽しきこと、もっと言葉を交わしたいと思えば、すんなりと承諾してくれた彼女にありがとうと微笑む。
ポーションの話とて、自作と聞いたならどう作ったのかとか、そういう話も楽しそうに問うことだろう。
そうして自身の話になると、語るのは問題ないのだが、相手に気遣わせるのはよくあることだ。
それ故に、苦笑しながら切り出したのは、警戒させたくないからだったが……やはり硬直していた。

「……そんなに畏まらなくて大丈夫だ。一応王族だが、立場がどうこう言うつもりはないんだ」

立場を笠に着てしまえば、兄と大差ない。
それ故に王族ではあるが、なるべく柔に対等にと思うが、事実はそうもいかないのが現状。
だから言葉に迷ったが、辺に嘯くのは彼女に誠実ではないと思えたからで。
まさか断頭台が浮かんでいるとは露知らず、その手を握りしめれば、ゆるくシェイクハンドしていく。

「大丈夫さ、スフィードという一人の男として接してくれたほうが私としても気が楽なんだが……そういっても気にするなというのも、無茶な話か……」

珍妙な敬語には思わず、クツクツと可笑しそうに笑うも、彼女らしいと思ってしまう。
だからこそ、彼女のアレコレを聞いてみたいと思ったのだが、このままだとガチガチに固まってしまいそうだ。
主に命の問題、とは気付いていないものの、それでは会話になるまいと少し思案顔で眉根を寄せた。

「ふむ……じゃあこうしよう。私がティアフェルを気に入った、一人の女性として話がしたいから誘った。そうしておいてくれ?」

それなら、自分の勝手であるし、あまり使いたくはないが権力に伏した結果となろうか。
彼女がどう捉えるか、全くわからないことを除けば。

ティアフェル > 「だって、事実だし。――前線に立ったってきっと戦果を挙げると思うわ。わたしが云うことじゃないかもだけど。
 厳しいのは愛情だって云うわよね。それだけ期待されてたって証拠だわ、あとちゃんとついてこれるって判ってたのよ」

 個人的な意見ではあるが間違っていないように思える。その父とやらもとんでもない人物だとは今は知らないものだから暢気なもので。
 割とのほほんと人差し指を立てながら嬉し気な様子に謙虚さを覚え、目を細めて眺め。

「やー……大抵の人はそうなるんじゃない? だってなんか悪い……。
 効果も抜群だしはたくだけだから処置も簡単だし、申し分ないと思う」

 がちがちに縛られると動きも制限されるし、それに比べれば機能的で重宝するアイテムだろうと後押しし。
 臨戦中は後衛として前衛に守られながら支援的に適宜回復魔法を飛ばすもの。
 ソロならばできるなら一旦撤退して回復してから再アタックとなるか、回復は諦めるか。
 その隙間を埋めるなど、そんな話も道中するのだろうか。
 目が合うと穏当な笑みを浮かべる眸に少しはにかんだように笑みを返して。

「そ? 素直かどうかはしらないけど、せっかくだからいっぱいお喋りできれば退屈な道中も楽しくなるわね。嬉しいな」

 話し好きな相手とならば退屈とは無縁だろうとほくほくしながら口ずさんで。
 しかし、彼の身分を知ればただの一山いくらの平民冒険者からすれば委縮しきってしまいかねない。
 どういう態度に出ればいいのか、さっぱり見当はつかず、無意識に一歩下がり。頭が高かったりするかしら?と気持ち頭を低くしてしまう。妙な小市民根性。

「無理でしょ。…いや、無理です、よ? 気を抜いたら打ち首獄門が迫って来る!」

 一体どんなイメージなのか。残念ながら腐敗した世情が後押ししている故かも知れない。
 だからと云って無礼のなく振る舞うなんて根本的にどうしたらいいのか良く分からず。
 このまま逃げてしまった方が面倒がないかも知れないとまで思い至りつつ、握手したまま硬直し。

「ぇ、ぅ……えぇ……?」

 身分を考えなくていいと云うような科白にどこか戸惑ったように声を出し困惑気味な表情を浮かべ。
 アホ毛をへなりとへたらせ。
 断頭台が相変わらず頭の中で揺れる中、

「ぅ、うぅ? 気に……? えー…? よ、よく、分かんない、けど……つまり……ため口おっけー?って、こと……?」

 脳裡の断頭台が遠ざかっていく気がした。
 そう言葉を重ねられれば、平伏した姿勢でいられることは好まないのだろうとは理解し。
 そんな風にすでに不敬な感じで確認して小首を傾げ。

スフィード > 「ありがとう。そうか、それなら兵站業から転職するのも悪くはないかもしれないな? ……なるほど、だとすると愛情だったということだね。ふふっ、兄は直ぐに逃げ出したと言ってたから、認められてならありがたいところだよ」

率直な言葉だからこそ、素直に受け止めやすく、表情を緩めていく。
そして、愛情と期待があればこそといわれれば、兄よりも自分を見てくれたのかと思えてくる。
無論疑ってはいなかったが、他者から見てもそうなのだと言われると、確信を得るというもの。
のほほんとした彼女の仕草に、改めてありがとうと微笑む。

「私のいた場所だと、察しが悪いと怒られるケースがあってね?」

これも王族貴族の上流社会ならばという、傲慢さが赦される世界の話になる。
とはいえ、それで傲慢さを向けられる側ではないのだが、向けたり虐げたりは見聞きするところ。
それを好まざる自身からすれば、彼女の振る舞いはやはり心地よいものだった。
会話も嬉しそうに承諾してくれるなら、ありがとうと改めてお礼を。
装備の話から振って、意見を聞きながら今度は彼女の話へと組み立てていくことになりそうか。
それもまた、なるべく緊張を解きほぐそうとは気をつけるのだろうけれど。

「ははっ、そんなことはしないさ。そんなことをしてると、恨みを買って夜中に刺し殺されてしまう」

冗談めかした言葉を重ねて笑っているが、兄の死を冗談にしているのと変わりなく。
あれは結果としては妥当なところと、侮蔑の対象でもあったので扱いが軽くなってしまう。
それはともかく、緊張して頭も下がり気味な彼女に苦笑しつつ、手を握ったままなのだが。

「善き人でありたい、そう心掛けているだけだよ。ははっ、勿論だとも。私が誘った客人なのだから、自然体で構わない」

頷いた後、重ねた掌をそのままに片膝をついていく。
姫君にするのと同じ様に、その手の甲へ顔を近づけて唇を重ねるのは敬愛の印として。
これで私の客人だと微笑みながら立ち上がると、ゆるりと手を解いていくが、こうした儀式めいた保証があったほうが安心だろうという自分なりの気遣いといったところか。
それが終わると、死体の回収と彼女を連れて戻るという現状に、一人では少々心もとないなと考えれば、ポーチの中から掌に収まる程度の銃らしきものを取り出す。
ビー玉程度の火薬玉を二つほど取り出せば、それを筒の中に押し込んでから空へと向ける。
パパンッと乾いた破裂音が二つ鳴り響き、空に打ち上がる緑とオレンジの明かり。

「人を呼んだ、死体は部下に任せてこちらの馬車で戻るとしよう」

それがゆっくりと落ちていくと、数分ほどで答えはわかるだろう。
軽装の兵士らしき格好をした部下が数名、駆け足で姿を表すと、周辺を警戒しながら部下達の長がこちらへと近づいてくる。
若い兵士といった風貌の彼に、彼女の仲間の遺体の回収と身元の確認を伝え、助けた弓手の状況を問う。
弓手は少々錯乱しているようなので、先に部下数名と馬車で城の方へ向かったという。

「そうか、ならこちらも血糊を洗った後馬車に戻らせてもらおう。後は任せて大丈夫か?」

勿論ですと頷く部下をありがとうとお礼を告げれば、いこうかと彼女へ目配せする。

ティアフェル > 「礼には及ばないわ。うん、ただそうなるとあなたが抜けた後は苦労するだろうけど……。
 どうでもいいと思っている奴に親は目を掛けないものだもの。見込みがあるって思ったのよ、きっと」

 家もそうだ、と同じように扱っては本来いけないのだが。訳知り顔で語って。
 自分の感想でしかなかったが、きっとそうなのだろうと目の前の彼の様子を見ていると確信を持って。
 微笑して云われた声に、どういたしまして、と小さく笑って見せ。

「ま……空気読めないとイジられたりするかもだけど……怒るなんて短気ねぇ」

 カルシウム不足では?なんて半ば真面目に口にしながら。
 腹芸とは基本無縁な単純な人間関係の住人は社交界の話だなんて察しがつかないまま絶賛不敬中。
 礼には及ばないって、と告げられた言葉に小さく首を振って。
 
「えぇ……例え恨んだとて物理的に王族殺しは無理ゲー……」

 どうやって城内に侵入するのか、と思ったが、この人は王族とは思えない親しみやすさと無防備さでこんなところにいる。
 もしも自分が刺客だったら一発アウトだぞ、と妙な懸念を抱いてはちょっと護衛何してんの?と心底から疑念。
 この手はどうすれば、と頭の高さに配慮しながら握手のままの手を見つめ。

「いい人であることは間違いないと思うんだけど……そ、それじゃ、遠慮なく……どうせ変な敬語になっちゃうし、無礼と云えばどっちもおんなじだわ。
 え、あ……ゎ……」

 いっそ居直った気になって、断頭台を遠くへ追い払っていくと。お許しがでていることだしあっさりと素に戻るも。
 跪く所作に驚いたように目を瞠って、そして手の甲への口づけに顔を真っ赤にして。慣れない状況に何故かあたふたとした心地で頭の上から汗を飛ばし。
 こういう時貴婦人はどう応対しているのだろうかと社交の極意を全く知らない平民は途方に暮れる。
 その後、空に向かって光弾を打ち上げると、至近距離の破裂音に思わず肩を縮め。

「人……? あ、そうだ、他にも一人仲間が……」

 と、弓手の話をしようかと思っていたらすでにそちらは救助されていた、というか彼女が救援を要請してくれたというのが現れた兵士との話の流れで分かった。
 光弾ですぐにやって来た有能そうな兵士たちに指示してくれる様子にありがたくも申し訳ない気分になりながら、安堵した。
 後は帰るだけ、というまでに収拾を付けてもらってしまったが、正直な話助かる。

「何から何までありがとう……お手数をかけて申し訳ないわ」

 頼もしく請け合ってくれる部下の方にありがとうございますっ、と慌てて頭を下げては目配せに肯いて。

「馬車にまで乗せてもらっちゃっていいのかしら? 至れり尽くせりねー」

スフィード > 「その時は部下も連れて業種を変えるしかないな」

何やら思い当たる節がある様子に、彼女もなにか苦労しているのだろうなと察する。
その苦労もまたどんなものかと興味が湧くのも、彼女の人柄故だろうか。
短気だと続く言葉に納得な言葉を重ねられれば、確かにと苦笑して見せる。
カルシウム不足……確かに、あまり接種していないかもしれないなんて想像がついて、可笑しそうに肩を揺らす。
不敬といわれるかもしれないが、そうやって気兼ねなく語られるのがありがたい。

「意外とそうでもないさ、夜中にひっそりと忍び込んだらいけるものだ」

実際兄はそうやって屠られたわけだが、そこまでは言わずに苦笑する。
彼女が抱く懸念も尤もだが、それに備えて鍛えられたのもあるし、今回使わなかった転移術は逃げに置いては強い。
最初の一撃さえいなしてしまえばなんのそのというのは、伏せたる手札のまま。
部下を連れてこなかったのも、この伏せた手札を使った時、彼等を取り残すのと連携ミスで負傷させるのを嫌ってのことだった。

「変わり者なのも間違いないな。あぁ、遠慮なく……ふふっ、そういう顔も可愛らしいな」

素に戻った姿に嬉しそうに微笑んでのキスを。
顔を上げれば、恥じらい頬を赤らめる様子に目を細めて本音を一つ。
自身が住まう世界ではなかなか見られない光景というのもあって新鮮だが、なにより彼女だから本当に恥じらっているのだろうと思える。
そういう素直さが、心に染み渡り、心地よくて笑みも深まる。

「弓手の子だろう? あの子が私の馬車のところに逃げ込んできてね、それでわかったんだ」

もう一人、おそらくあの子だろうと簡単に説明したところで部下達が到来。
仲間の死後処理も激戦の後では辛かろうと引き受けつつ、部下達もテキパキと屍の回収に入っていく。
御礼の言葉には、気にしないでくれとゆるく頭を振れば、護衛に二人ほど部下が続くが……流石に断るわけには行くまいと思いつつ、道中ともにすることになりそうだ。

「ははっ、ここまでしてじゃあこれでじゃ薄情だろう? 王都までは遠いからな、その話し相手を頼むよ」

そうして一度川辺で血糊を清めた後、更に森を進んで街道へと抜けていく。
そこには軍用の装備を満載した馬車が何台か止まっており、周囲にも同じく自身の部下達が警備に当たっていた。
無事でしたかとやってくる部下に、心配掛けたと告げながらも事情を語れば、直ぐに動いてくれる。
先頭から2つ目の馬車だけは、少々豪華な広い車体となっており、どうぞと彼女の手を引いてエスコートする。
護衛を連れ、王都へと先に出発すれば、一般のそれよりも衝撃吸収のバネが効いた車体は快適な乗り心地の筈。
他愛もない話と彼女は思うかもしれないが、そんな話を嬉しそうに聞きながらの帰り道となるはずで。

ティアフェル > 「どちらにせよ、兵站部隊に穴が空くことになるわ」

 優秀な一個隊が丸々別業種へ転向してしまえば、その後きっとてんやわんやするのではないだろうかと想像して肩を揺らし。
 短気だとかカルシウム不足だとか至って気楽にのたまっていたが、笑って納得しているので同じように呑気に笑って見せていたが。
 失言のオンパレードであった、と思い知るのは後になってからだ。

「そんなあなた夜這いみたいに……」

 夜這い紛いの襲撃で暗殺できるほど警備が手薄な訳もないと思いながら突っ込み気味に唸り。
 転移術の有無は存じ上げないものの夜襲のように最初の一撃でやられたら終わりのような気がしないでもない。

「うーん……それは、間違いない……わたし王族の人のことは全く知らないんだけど……こんな感じのものなの? 予とか朕とか云わないんだ。
 ……かわいくないし、びっくりしただけだし」

 何せ当初は正体を知らなかったのだから、急に態度を変える方が難しいというもので。
 お許しが出ているので妙な気遣いは控えたが。紅潮した顔についての言葉にぷい、とそっぽを向き。
 手の甲に残る擽ったい感触に思わずそこを擦って。
 
「そう、15歳くらいの女の子……なかなか悪運の強いタイプだったのね……それだけはお手柄だわ。ありがとう、その子のことも助けてもらって」

 今日顔を知ったくらいの仲間ではあるけれど、一応世話をしてくれたことについて頭を下げ。
 正直真っ先にやられたあの骸をどうしたらいいのか悩みの種になっていたので、手際よく回収してもらう姿にやはり黙祷し。
 同行する部下の方々に馴れ馴れしい態度の平民だ、斬り捨てようと云われなければいいな、と懸念を抱きながら、そうなったら止めてもらおうと結局は気楽に構え。
 
「いやー、ここまでしてやったんだから帰りくらい自分でなんとかしろ、も普通の対応だとは思うわ。
 でも助かるし、ぜひぜひ喜んで!」

 話し相手くらいならなんぼでも、と大きく肯き。血で汚れた箇所を洗い流すと少しだけすっきりした。
 街道へ向かうと立派な軍用馬車が控えていて、おお。これに乗るのか。と軍用の馬車に乗るのも初めてで物珍し気な眼差しを注ぎ。
 そして、豪奢な仕様の馬車に案内してもらって、こんないい馬車に乗るのも人生初めてだと感じながら、手を引かれて乗り心地も抜群な馬車に乗せてもらい。これぞお姫様気分と少し浮かれつつ。
 道中あれこれと話したり聞き役に回ったり、楽しく語らいながら王都まで快適な馬車の旅をするのだった――

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 森林」からスフィードさんが去りました。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 森林」からティアフェルさんが去りました。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 森林」にフェブラリアさんが現れました。
フェブラリア >  
メグメールの森の中を小さな一つの影が悠然と進んでいる。
一見すればあまりにも無防備で、野生動物や魔物に狙われてもおかしくはないその影に、不思議と近づく者はいない。

水のように透き通った青の髪に、清廉なドレス
幼い少女のような容姿だけであれば、その理由は分からないだろう。
しかして、ゆらりと雄々しく揺れる長い尾をみれば悟るだろう。
小さな影を狙うものがいない理由を。

彼女は竜、竜の血を引く貴族令嬢。
悠然と進む影のその名はフェブラリア。
さる個人的な理由によって、彼女はこの森を探索中であった。

フェブラリア >  
「ふぅむ…目ぼしいものはあまりないみたいですね」

そうして暫く歩いている最中に、フェブラリアはポツリと呟いた。
フェブラリアはこの森でとあるものを探していたのだが、どうにもお目当てのものは見つからないらしい。
とはいえそれも仕方がない事ではある。
一人で探すにはこの森は広く、なにより奥地となれば薄暗い。
昼間でも光が届かないような深い場所も当然あるのだ。
そんな場所で何かを探すというのは容易ではないし、そもそもフェブラリア探し物はそうみつかるものでもない。
故に、今日はこのくらいにしておくべきかと、迷わぬうちに帰路への目星をつけていた。

フェブラリア >  
結局、そのままフェブラリアは密かに残していた自身の魔力の痕跡を辿る形で帰路につく。
迷うことなく木々の間を潜り抜け、そして森の外へと向かうのだろう。
またいずれ、暇を見つけて再度探索に来る為に、次の予定を思案しながら。

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 森林」からフェブラリアさんが去りました。