2023/11/19 のログ
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 森林」に朧月さんが現れました。
■朧月 > 深い深い森林の中、そこに漂うのは魔物の放つ瘴気であろうか。
否、そんな瘴気も臭おうとも、それは今ゆっくりと薄らいでおり、代わりに満たすのは血肉の臭い。
森林に少し空けた場所、そこにある岩場の頂に座り込む一人の少女の姿。
その臭いの元は、その少女の周囲に散らばった血肉であろう。
原型を留めぬそれだが、その色合いから少なくとも人ではなく。
「ぷはぁっ…いやぁ、まったく風情の分からない連中だねぇ。
酒はこうして景色を眺めながら、ゆっくりと飲むのも愉しいものじゃないか。
付き合うなら兎も角、邪魔をするなんて野暮ってものだろぉ?
するならするでもっと愉しませてくれなきゃ、不完全燃焼ってものさ」
そんな状況であろうとも気にする風でもなく、手にした瓢箪に口を付ける。
喉を鳴らしてその中身を飲み下してゆけば、強まるのは酒気とその香り。
一旦口を離して言葉を紡げば、それを合間にするように、又酒を呷る。
■朧月 > 一見すれば、まさかこの少女がこれを行ったとは思えない光景か。
だが、よく見ればその考えも変わるのかもしれない。
座り込む少女の頭に生えるのは二本の角、知る者であれば、その存在が鬼と理解出来るからだ。
王国を拠点としている者であれば、宴の席へと神出鬼没にフラリと現れては共に賑わいに加わり、いつの間にか消えている鬼の少女。
そんな認識をも持っているのかもしれないか。
「コイツ等じゃ酒の肴にもなりゃしない。
まだ食える動物の方がマシってなもんだ。
しょうがない、少しのんびりしたら別の場所でも探すかぁ」
ふーやれやれ、とつまらなさそうに言えば、瓢箪に栓をしてからその場でパタンと大の字に寝転がる。
まだ僅かな興奮であれば、こうして少し風に当たっていれば収まるだろう。
心地良い微風が肌を撫ぜ、流れるような白銀の髪を、衣服を揺らす。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 森林」にコルネさんが現れました。
■コルネ > 寝転がる少女に、足音が近づいてきて、すこしすると影が掛かる。
少女を見下ろす形で褐色肌の青年が一人、斬馬刀と称される長刃の刀を肩に担ぎ。
少女を覗き込んで。
「なんだ、そこらに転がってるのと相打ちかと思ったら無傷で元気そうなだな。
しかし、あそこら辺のは、お前さんが倒したのかい?」
大の字に寝ころんでいる少女にそう問いかけて首を傾げる。
独特な服装は当方の着物に近いが、言葉の訛りなどは無く王国人か、王国に長いかと思わせ。
森林の中故か、周りの瘴気故か、どこか警戒を怠ってない事も、少女なら見て取れるかもしれない。
■朧月 > 準備運動にもならなかったが、軽い運動を終えた後の休憩中ともいった感じか。
寝転がっているところで掛かる影に、真紅の眼がそちらへと向けられる。
「おや、人の子…いや、ちょっと違うが、どうでもいいさ。
酒を愉しむ邪魔をしてくれたんでね、ちょっと相手をしてやったんだが…
ま、この通りな訳だ、困ったものだよ本当に」
その目に入ったのは褐色の肌をした青年か。
こちらを覗き込む彼の前で軽く上体を起こし、それでもまだ高さ的に見上げる形になりながら、肩を竦めてそうぼやく。
彼の格好、そして周囲への警戒は場所を考えれば当然の事なのだから、そこは特に言う事もないだろう。
寧ろ、逆にこちらが心配されて何か聞かれそうなのだから。
■コルネ > パッと見た感じ、衣服の乱れも疲れも感じさせない少女の様子。
体を起こし此方を見上げる赤い目を、自分の赤い目で見つめて。
「人…まぁ、真っ当ではないけどないけど半分は人かね。
お楽しみの邪魔されたのか、それじゃ仕方ないな。
んでもって、邪魔したくせに弱すぎた事も嫌だった感じかね?」
自分の尖った耳をピンと弾き、人なのは半分と苦笑し。
瘴気を纏ってるような相手、邪魔したら始末されても仕方ないとけろっとした様子で頷いて。
ちょいと失礼と言って、懐から袋を取り出して。
「よかったら少し酒分けて貰えないか、こっちからは途中で採った柿を進呈すっから」
袋をぽいっと少女へ放る、受け止めれば2個は入っている感触がするだろう。
■朧月 > 「半分人なら人でも良いだろ?
そう呼ばれるのを嫌ってるんなら少しは考えるけど、そうでもないんじゃないか?
そうそう、私の愉しみの邪魔をするからには、相応に愉しませるのが当然さ」
自分の耳を弾きながらそう伝える彼に、そんな事情は関係なしと返してみせる。
それで彼が本当に嫌そうにしており、顔なり態度なりに現れたら止めておくつもりだったのは聞かれたら答えれば良い。
特に自分の気持ちを包み隠すつもりもないので、直球でそれも伝えておいた。
彼もそれで納得してくれたようだ。
しかし、投げ寄せれた袋を手に取り、その要求を聞けばどうしたものか、との表情を浮かべる。
「お前さん、私の事を知っててそれを言ってるのかい?
ちょいと分けてやる分には構わないが、鬼の酒は人の飲める代物じゃないよ。
素直に川かどっかから水を汲んだ方が良いと思うけどねぇ」
手にした袋の感触を確かめれば確かに柿っぽいものだと分かるだろう。
だが問題は自分の酒が彼に飲めるかどうかだ。
確かに半分は人ではないらしいが半分は人、とても飲めるとは思っていない。
■コルネ > 「いや、初めてあったしな、流石に知らないが。
んー…やばいってなら止めといた方が良いのかね、忠告分でその柿はやるよ。
あぁ、あと…そうだな、そうしたらその柿分って事で名前聞いて良いか?」
少し考える、半分とはいえ魔王の血をひいてはいる。
とはいえ、特定種族や条件次第で効果が変わる酒や薬もあるのだ。
忠告をうけたなら、従いつつ少し考えて代わりに名をと、問いかける。
「あぁっと、俺はコルネだ、基本は冒険者してる、よろしく。
今日は依頼で、こっちの方の魔物退治してきた帰りでな」
少女の顔を見つめたまま、森林のもう少し奥の方を指さして。
自分の名を名乗り、軽く頭を下げる。
■朧月 > 「おっと、鬼を知らないのかい?
それならしょうがない、次からは気を付けなよ?
飲み物が必要なら、ここからちょっとあっちに行けば川が流れていたと思うから、そっちで汲んできな。
柿の代価にしちゃ、ちょいとばかり安い気もするが、お前さんが良いって言うなら良しとしよう。
私の名前は朧月、呼び難かったら適当に呼び易く呼んどくれ」
瓢箪の紐を括るベルトの反対側に袋を括り、彼へとそう答えつつ、名乗りもあげておこう。
ちなみに伝えた川の方角は指差して教えておいた。
酒については逆に言えば半分は人でないのだから大丈夫かもしれないが、控えさせたのは念の為だ。
薄めれば大丈夫かもしれないと言う意見もありそうだが、この酒に手を加えるのは邪道と考えている。
「コルネか、覚えておくよ、よろしく。
ほう、冒険者。
……あ、いや、仕事帰りってなら止めた。
帰り道は気を付けなよ?」
彼がここに居る理由を知ればなるほどと納得。
魔物退治をする冒険者なら強そうかもしれないと思ったが、そこはこちらが控えておこう。
頭を下げる彼に、礼儀作法とか気にするなと言わんばかりに手を振って返しておいて。
■コルネ > 「いや、鬼は判るけどな、個人の名前とは別だろう。
水というよりは、物足りない思いしたのは俺もなんで、酒でもと思ったんだけどな。
朧月か、鬼の朧月と、覚えたよ」
水が欲しいというより、酒が欲しかったのだと苦笑し。
水は流石に水袋があると、懐を指して。
「あいさ、まぁ帰るまでが依頼だしな。
そっちはもう少しここらにいるのかい?
街戻るなら一緒にいくとかでもいいけど」
手を振った少女に一応そう声を掛ける。
この後の行動は、未定…どうなったかは、互いの気分次第だろう……―――。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 森林」から朧月さんが去りました。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 森林」からコルネさんが去りました。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 森林」にティアフェルさんが現れました。
■ティアフェル > ―――死にたいなんて、一度も思ったことはない。少なくとも本気で思ったことなど。
むしろ、死にたくないとそれしか思えない――
のに。
何故今、およそ助けも期待できない樹海の奥で血を流して満身創痍で勝てない敵と対峙しているというのか。
オークが出る、とは納得ずくだ。だが、変異種だとまでは。
親が狩られたかどうかで、まだ幼生のオークが縄張りから弾かれて人里まで迷い出てきたという。それを駆除するというパーティクエストであった。
幼体であれば、討伐の難易度はさほど高くもない。3人もいれば充分多いくらいだ。と編成された剣士と弓士と回復術師の俄かパーティ。朝方に落ち合い昼日中の樹海の奥、オークの出没地点に辿り着いたまでは良かった。
けれど、まさか幼体とは思えぬ膂力と幼体ならではの素早さ、成体以上の知能、刃物のように鍛えた爪といったオークに、口先だけの腕なし前衛が瞬殺されて首が転がり。そこからすべてが狂うなんて予測は……していなかった。
まだ経験の浅い15歳の女弓士は恐慌状態に陥り矢を乱射して悲鳴を上げて一目散に逃亡した。
乱れ飛ぶ矢をかわして身を伏せたもので逃げ遅れ――その後は弄ぶように顔と云わず腕と云わず足と云わず胴と云わず全身に鋭く手入れした爪で裂傷を刻まれ、出血で貧血状態で生殺しに遭いながら今に至る。
対峙した魔物が、確かな知性――悪知恵と云えるもの、を宿した双眸を可笑し気に光らせ逃がす気も殺す気も生かす気もない、玩具を見る眼差しでこちらを観察していた。
「――ッ! ………っ動きも、お見通しって訳……?」
ワンステップで跳躍、肉薄しスタッフを得物としてオークの右脇を狙ってスイングするが見切ったように軽くかわされる。まるで格闘術を覚えた野生動物のように厄介な動き。力が足りない分スピードと急所を突く攻撃で魔物と渡り合っていた特攻型ヒーラーには相性最悪な相手だ。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 森林」にスフィードさんが現れました。
■スフィード > 武具や消耗品の仕入れを終え、部下と共に王都へと戻る途中のことだ。
やけに騒がしい声がすると足を止め、警戒していたところに飛び出てきた女弓手に、男勢ぞろいで呆気にとられたのが少し前のこと。
手当に入った部下達の後ろで、オークが出たと、仲間がまだと聞くと、馬車に積んでいた装備一式を手に取る。
背中に大型のクロスボウを背負い、H型のハーネスになったベルトには無数のポーチが連なり、小物がたっぷりと詰め込まれている。
腰に矢筒を下げると、周囲警戒を指示し、森へと踏み込まんとした。
部下達がついていくというも、今は一人が良いと断り、森林地帯を駆け抜ける。
そうして少女の悲痛な声が道標となり、辿り着いたところで、ブーツを斜めに傾けながらブレーキを掛けた。
ずさぁと土を巻き上げながら、背中のクロスボウを掴んでいき、折りたたまれたストックを連結する。
クロスボウとしてみるなら、1mほどある本体はかなりのサイズといえようか。
二人が対峙する場面から、大体15m程の距離、少し小高い土の足場の上で機械仕掛けの弩を構えると、狙いを定めていく。
オークが彼女の攻撃を回避し、その足が土を踏んだ瞬間を狙い、その時が来たら即座に放つ。
ドシュッと弦とリムの撓りが開放されると、矢がオークの腰目掛けて飛んでいく。
敢えて胴体や顔を狙わなかったのは、防御し辛い下部を狙い、少しでもダメージを与えて彼女からのヘイトを散らさんとするためだ。
「弓手の子から聞いて援護に来た! まだ戦えるか!?」
声を張り上げ問いかけつつ、フレーム横についたレバーを力いっぱい引き上げた。
ガコンと音を立てて弦が引き絞られると、本体の下に装填されていた矢が上へ押し出されていき、レールの上に乗せられていく。
次弾装填しつつも、オークと彼女から目を離さずに次の攻撃に備えていく。
■ティアフェル > 半狂乱で悲鳴を上げて滅多やたらに放射した上逃げて行った弓手。
冒険者としてはまだ半端なものを連れてしまった、せめてひとりで逃げおおせればいいのだが。
と、思う余裕はまだなくて。さらにその弓手が運よく救援を呼んでくれているとも知らず。
「――っ……!」
振りぬいたスタッフも無意味に空振りして舌打ちしかけたその時。
「……!?」
思いがけない方向から解き放たれた短矢が真っ直ぐに小柄なオークの腰を掠めた。
通常であれば突き刺さっていたような正確な軌道だったが、勘のいいそのオークは直撃を辛うじて避けて表皮を裂くまででダメージを回避していた。
オークに突き立たらなかった矢が皮膚を裂いて付近の樹木に刺さる。
傷つけられた手負いは威嚇するように高く鋭く鳴いて新手へと向き、怒りのままにしかし飛び道具相手ということは理解しているのか身を低くして躍りかかっていった。
「――大丈夫…っ! 待って打たないで!」
本当はいくらか貧血気味であちこち裂かれて血塗れ。余裕のある状態でもなかったが。
矢を番え向かってくるオークを狙う姿を確認しては、射出を止める。
新手に頭に血が上ってがら空きになったオークの背後から足首へ狙いを定めてスタッフを振り下ろし、バランスを崩して矮小な身体が転倒したところで。
「打って!」
今ならどこでも狙えるだろう。さらに倒れているのだから打ち損じてもこっちに当たることもない。鋭い一声を長身の青年へを放ち。
■スフィード > 「っ!? あれを避けるか……!!」
完全な不意打ちだと思ったものの、反応の良さはまさに獣並、いやそれ以上かもしれない。
ぎりぎりで身を捩って回避したオークの動きに思わず目を瞠るも、文句を言いながらも次の手を絶やさない。
再装填し、こちらをみて唸るオークにクロスボウを向ければ、ヘイトは一気にこちらへと傾いたようだ。
飛び掛からんと動き出したところで、攻撃の一瞬で狙って撃つか、それとも一度躱してから撃つかと、相手の動きをまばたきを忘れるように見据えていた。
「……?」
撃つなという言葉に一瞬意味が分からず、脳内で言葉を繰り返した。
しかしながら、彼女も命の危機に瀕していながらも冷静な冒険者だったようだ。
満身創痍ながらも背後からスタッフの一撃で足を狙うのが見えれば、敢えて一度構えを解く。
腰のポーチから追加の鏃を取り出すと、装填された矢の先端にはめ込んで行き、ギュリっと捻って固定する。
小さな体が転げたところを見据えながら、再度構え直したところで彼女の合図が届く。
「承知した!!」
声を張り上げ、神妙な面立ちで狙いを定め直すと、引き金を引いて屋を放つ。
先程よりも音の鈍い矢は、先端に少し大きな鏃を取り付けていた。
それがオークの脳天へと吸い込まれるように飛んでいけば、そのまま撃ち抜けるはず。
そして仮に外れても、大ダメージを与えるために鏃には少量の火薬が仕込まれているのだ。
着弾と同時に鏃が押し込まれて内部に着火し、膨れた革袋を叩き割ったようなけたたましい音を響かせる。
砕けた鏃の外装は熱でバラバラに溶けて散り、着弾地点から0.5m半径にしか効果を及ぼさない小規模な爆発だ。
仮に起き上がり身を捩っても、大ダメージは免れない一撃でトドメを挿そうとしつつも、用心深い追い打ちをしかけていく。
■ティアフェル > 恐らく通常ならば避けられる筈のない想定外の攻撃だったのだろう。
死角からのそれすらもぎりぎりで察知したようだが、その軌道が少しでも正確さにかければ掠っていなかったかも知れない。
そんな馬鹿げた反射速度を持つ、小さく素早く凶暴で狡猾な化け物だったので余程の隙を作らなくては飛び道具では狙うのは難しい印象を対峙して判断した。
クロスボウは射出が格段に速い弓だが、それでも装填までにノータイムとはいかない。
一瞬見えた装填した矢。それが外れたら装填の間に小賢しいオークは先手を繰りだすだろう。
それなら、外さないようにしなければ、と咄嗟に傷つけられたことに激高し敵に集中してこちらへの注意が向かず、さらに機動力を削ぐために足元を狙ってスイングさせたスタッフはさすがによけきれなかったらしい。
標的が転がったところで、体勢を立て直す前に打ち込まれた爆裂式の矢。
「――っ…!!」
まさかその手できたか、とただの射手ではない卓越した判断と装備に意表を衝かれ。
前傾したオークの頭部で起爆した音と衝撃の余波に咄嗟にバックステップを踏んで退避し。
「…………っは……ぅわ……」
正確無比な弓手の腕で射抜かれそのまま火薬で破裂したオークの頭部は見るも無残な有様で。
広範囲に飛び散る脳漿に後退したにも関わらず充分な距離ではなかったため、裾に返り血やらが付着し思わず眉を顰めて唸った。
びくん、びくん、としばし跳ねて痙攣した後動かなくなる身体。
断末魔を上げる余裕もなく喉からはヒューヒュー、と風が通るような音が漏れていて。
事切れたのはわざわざ確認するまでもないような気がしていた。
■スフィード > 通常の狙撃では回避される以上、相手が回避ができない一瞬を狙う必要がある。
その一瞬を作る技は自身にはあるが、使った後に確実に仕留めねばならない。
いうであれば、初見殺しの小技であり、タイミングを図るのは重要な事。
しかし、その相性の悪さを見抜き、現状のダメージを顧みず一撃を入れてくれたのは正しくファインプレー。
その最良の援護を無駄にしないため、確実な死を届ける一撃を撃ち放つ。
爆裂すると察しがついた彼女の反応の良さに、少々驚きつつも感嘆の表情で回避を見やる。
回避をせずとも、破裂の範囲外であるのをしっかりと確かめて放ってはいるが、言葉なき連携だ。
彼女の察する力は、それだけパーティを組んで戦った結果と言えようか。
「……これで仕留め……あ、あぁ、すまない」
頭部が吹き飛び、喉からは死後硬直に押し出された空気が笛の音を奏でる。
確殺出来たことに胸をなでおろすも、彼女を見やったのは返り血が裾に付着して顰めたその瞬間だった。
額に手を当てて、不味いと思いながらもクロスボウを背中に背負い直すと、土の崖を滑り降りて彼女の方へと向かう。
ダークレッドと黒の色合いに金刺繍と、冒険者らしかぬ格好だが、体に巻き付けたベルトの類はそれに近い。
あべこべな格好で彼女の方へと近づくと、傷の具合を確かめんと左右から体を覗き込む。
「汚してしまったね……傷は……出血が酷いようだね。まずは止血を。ちゃんとした手当は、来る途中川があったからそこで」
汚してしまったことを頭を下げて詫びるも、すぐに顔を上げていく。
汚れよりも傷のほうが深く、しっかりと手当をするまでの合間、出血をある程度止めておく必要がありそうだ。
失礼と一言告げると、両手を伸ばし、傷口の状態を確かめようとしていく。
傷の浅いところは一旦後回しにし、裂傷の深い箇所をそれぞれ確かめていくと、傷を見ながら慣れた手付きでポーチを漁る。
そこから緊急用の止血粉末を取り出すと、傷の深いところにそれをポンポンとふりかけて馴染ませようとする。
先に消毒といきたいが、綺麗に傷を拭ってからにしたいのもあり、止血を優先して手当までの繋ぎとしていこうとする。
■ティアフェル > 破裂音が響けば人は反射的に飛びのいてしまうもの。その必要があってもなくても危機感に思考より先に手足に伝令が奔って回避行動をとってしまう。
結果的に屍骸から少し離れた場所で。こういう手もあるのね……と頭が一部吹っ飛ばされたオークを見下ろしながらどこか暢気な感想を抱くのは、取り敢えずは脅威が去ってくれたおかげだろう。
少し標的から距離はあるし動きは素早い、転倒した隙はあったとはいえ身体は小さく狭い的を狙わなければならなかったはずだ。
しかし、狙い違わぬ命中に舌を巻き、もうすでにただの肉塊と化したオークに一応の黙祷は捧げて。
「え…? あ…いや、なんで? そんな、全然……
むしろありがとう、助かったわぁ~……マジちょっとやばかった……」
独りで対峙するには荷が重い上に相性も悪かった相手。
助け船がなければ相当に危なかった。返り血はともかく、脳漿が服に引っ付いてしまうとさすがに顰め面になるも、詫びる声に、は、としたようにそちらを向いてふるふると首を振ると。
改めて救助に駆けつけてくれた相手の様相を見て、少し派手な冒険者という程度の感想は抱いた。
カッコつけたがりも多い冒険者の中にはそういう出で立ちを好む者も少なくはない。
近づいて傷の有無を確認する目線に、ひらあ、と能天気に片手を上げて見せ。
「へーきよ。お陰様で、このくらい大したことないわ。あ。え、っと……」
頭を下げられていやいやとんでもない、と首を振る、命に代えられるものじゃない。
そして各所を悪戯に切り裂かれて衣服も肌も無残な有様にはなったが、ヒーラーたる身にはこの程度の傷ならば問題なく処置できる、とそう伝えかけたが。
少しそれは遅かったらしく、手際よく取り出した止血剤を振りかけてもらうと、云いづらくなった。
「え、っと、わたし……」
ここで云ったら悪いだろうか、と止血剤を振りかけてもらって出血が止まってはいるがあちこち血塗れで衣服の破けたヒーラーはおずおずと口を開いた。