2025/05/09 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」にさんが現れました。
> 人々が眠りにつき、街がどっぷりと夜に浸かる頃。
貧民地区の寂れた裏通りの屋根を伝い歩く人影があった。
足音一つ立てず屋根から屋根へ、ひょいと身軽に飛び移り、最後に手頃な木の枝を伝い地面へと降り立つ。

両手に携えた白黒の双剣に滴る真新しい赤い色を、懐から取り出した布でふき取り、刃を腰のホルダーへ納め。
次いで、代わりに手にした覚書を確認する。
リストに並ぶ名はこれで全てを片付いた。

「最終確認終了。任務を完遂しました」

彼らがどう言った悪事――主人にとって都合の悪い行動――を働いたのか、興味もなければ知る必要性も感じない。知ったところでやることは変わらないのだ。
軽く親指で指輪を擦れば、小さな火花が弾け、リストの覚書をあっという間に燃やし尽くし焼失させる。
その時――

「――?」

ふと、懐に入れていたはずの小瓶がないことに気付き、ピタリと固まった。
現場を離れる直前までは持っていたはず……。屋根を飛び移る際に落としたのだろうか。
来た道をゆっくりと振り返る。探しに戻りたいが、迷うところだ。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」にクロスさんが現れました。
クロス > (夜も深くなり、真っ暗に染まる貧民地区。
屋根の上を歩く人影が通り過ぎるころ、すれ違う様に一つの大きな影が歩いていた。
口に咥えている煙草の火だけがその顔をほんのりと照らし、空に浮かぶ月の光が男の容姿を露わにした。
頭の上から伸びている二つの耳に腰から生える黒い尻尾。
その様子からミレー族であるのがよくわかり、かなりの長身な体系の持ち主であるのも良くわかるのであった。)

「…くそったれが」

(道に転がる人の前に立てば舌打ちをして顔をしかめる。
数分かそれよりも短い間は生きていたであろう男達がすでに亡き者となっていたのだ。
男は金融業を営んでおり、男達に金を貸していたのだった。
貸していた金の回収のために匂いを辿って見つけただが、混ざる血の香りに嫌な予感をしており、今こうして最悪の状況に出くわしたのだった。)

「回収する前に死んじまうとは…面倒な野郎どもだな…

…ん?」

(苛立ちを抑えるために咥えていた煙草を一気に吸って灰に変え、大きくため息と一緒に煙を吐き出す。
ゴミとなった煙草の吸殻を男たちから流れる血の泉に落とし新しいのを吸おうと取り出すと、一瞬光る物を見つける。
それは小さな小瓶であった。
近寄り、月にかざしながら男は何なのかとその瓶を眺めるのであった。)

> 現場に証拠……とまではいかずとも、足がつく原因になるようなものを残すのは拙い。
逡巡は数秒の内に消え、小柄は仕方なく来た道を引き返すことを選んだ。
念のため、先ほど剣の血を拭った布はその場で燃やして処分してから、ストールで覆い隠した耳を注意深く動かしながら歩みを進める。

そして、目にしたのは一つの黒い大きな人影だった。
大きな体と黒い立派な耳と尾を持ったミレー族の男だ。確か、屋根を伝い歩く途中で下を歩いているのを遠目に見た気がする。

最悪のパターンである。
まさかこの短時間で死体を見つける運の悪い者がいるとは、流石に予想外だった。
気配を消して暫く様子をうかがっていると、男は怯えることなく、むしろ苛立ち煙を吐いた。
下げられた視線の先を追えば、そこには小柄が落とした小瓶があった。

「…………」

二度目の逡巡は長い。物陰に身を隠したまま、思考を巡らせる。
相手は見たところ狼のミレー族。ならば、鼻が良く効くだろう。
だが、煙草の臭いや、辺りに充満する血の臭いで、小柄に残る僅かな男たちの血の臭いはわからいかもしれない……。
希望的観測だった。しかし、小瓶の中身を悟られる前に回収したい気持ちに急かされ、意を決する。

「……それ、渡してください」

小柄は一歩踏み出し、迷いながら、地面に転がる瓶を指さして男とも女ともつかない奇妙な声で言った。
交渉にもなりやしない。小柄が誤魔化しや嘘が不得手なことは、相手もすぐに察せられるだろう。

クロス > (道端にゴミが落ちることは日常的である。
むしろ、ゴミが落ちていないことの方が珍しい時だってあるこの場所ではただの小瓶も人によっては無視されるようなものであった。
だが、たまたま目に入ったその小瓶は男にとって少し気になる様なものだったのだ。
微かに香る小瓶に付着した匂い、それは男たちの誰のものでもないのがわかり、ゴミにしては綺麗すぎるそれ、彼らを殺した輩の代物かもしれないと考えてが、それは少々考え過ぎだと思ったのだ。)

「…誰かいるのか?」

(ピクリと男の耳が動き視線が物陰に隠れる存在へと向けられる。
気配を読み取ったのか、ドンピシャな場所に向けて声を掛ければ相手の方からこちらにやってきたのだった。
向かい合うその小柄な存在、何故かわからないが男女の区別ができない上に声も奇妙であった。
違和感を覚えるその存在を見るも、相手の方か要望を出してくる。
自分が見つけたその小瓶を渡してほしいとの事であった。
少々気になる部分が多々あるが、相手の物となれば返すのが通りであるしこちらが返さない選択をするのも意味がないと考えたのだ。
小瓶を拾えば小柄な存在の元へ歩み寄る。
近寄れば、正反対すぎる身長差がそこで生まれるのであった。)

「…そらよ。
あんた、この街じゃ死体も死人も珍しい物じゃねぇ…今度は落とすなよ?」

(スッと差し出しながら忠告するような一言。
男の中では相手が死体を見て驚き逃げた際に落としたのかもしれないと考えており、ちょっとした気遣いとして言ったのだ。
小瓶が手から手へと移るその瞬間、男の鼻が異変を感じた。
そう…目の前の存在から死んだ男の血の香りがしたのだ
男の嗅覚は通常の人間や動物よりも遥かに優れており、匂いが充満するこの場所でも、拭ったとしても刃に付着した匂いを嗅ぎ分ける程であった。
渡す前に手を引き、瓶が割れてしまいそうな程にギュッと握り締めると男は屈んでいた体制を直す。)

「…そうか、テメェが()ったんだな…?」

(視線が向けられる。
普段から鋭く睨んでいる様なその目つきが更に細くなり、その目の奥には微かに殺意が沸き上がっていた。
自身の契約者を殺害し、回収作業に邪魔をした…男にとってキレるのに十分な理由となったのだ。)

> 声を掛けられてしまえば、迷うも隠すももうない。
男の前に姿を現した黒い小柄の赤い瞳は、チラリと男を一瞥した後は真っ直ぐに小瓶に向けられた。
小瓶は拾い上げられ、男は此方の警戒をよそに歩み寄ってくる。

「…………」

距離が縮まって行く。
男の言葉は、その惨状を作り上げた本人に掛ける忠告としては滑稽であったが、小柄は笑いもしなければ馬鹿にもしない。
ただ親切な、善良な、ミレー族だと感じるだけだった。
どれだけ親切で善良であったとしても、一度も警戒を緩めはしなかったのだが。

――小瓶の中に入っているのは黒い丸薬だった。
見た目は葡萄の粒ほどの大きさで、薬に詳しい者が見れば察しがつく程度に流通しているものである。
精神を安定させる効果が得られるため、薬物で心身を壊した者によく処方されるほか、ミレー族や獣人の間では周期的に訪れる情欲を抑えるため密かに服用する者もいる。

男の手から小瓶を受け取ろうとした瞬間、それはまた手の中に隠されてしまった。
大きな男と小柄の間にあった距離が、男が屈んでぐんと近付く。
それでも尚、淡々と抑揚のない声で答えるのだ。

「……私は、何も知りません。無関係なので」

……と。誰もが嘘だと口を揃えて言うような言い訳を迷いなく言うのだ。
男の黒い瞳の中に怒りが燻っていても、其方を見上げる小柄の瞳は真っ直ぐに見返すだけである。

クロス > (屈んだことにより小柄な存在と男の距離は一気に縮まる。
細くなった瞳の中の殺意を剥き出しにしながらも睨みつけ、淡々と答えるその声を聞けばスッと体を元に戻して直立する。)

「そうか…疑ってすまなかったな…」

(意外にもあっさりと謝罪をするかのような一言を口にする。
顔が近かったせいか、直視せずとも感じてしまうような禍々しいオーラは一瞬にして無くなり、平常を保つような雰囲気を醸し出すのだった。)

「悪いな、ちと仕事に支障が出ちまってイラついてたみたいだ…。
これ、あんたのだろ?そらッ、返してやるよ…」

(咥えていた煙草を一度取って煙を上に向かって吐き出す。
深呼吸でもするような吐き出し方をすれば再度咥え直し、握っていた小瓶を相手に見せる様にする。
その後はポイっと軽々しく投げて渡す。
小瓶は宙を舞いながら小柄な存在の元へと落ちていき
そして、男の手の中へ戻った

「とでもいうと思ったのか?
この嘘吐きが…」

(宙を飛んでいた小瓶をジャブの勢いで瞬時に回収すればまた溢れる様に殺気が出てくる。
瞬時に雰囲気が変わると同時に、相手の横顔にはすでに男の長い脚が近寄っていた。
勢いのついた足、それは蹴りである。
相手に向かって躊躇も容赦もない勢いを乗せたローキックを顔面にお見舞いしようとする。
普通の相手なら避けることは不可能、顔面に当たり、当たった部位の歯が折れるのが普通だろう。
だが、男も理解していた…相手が普通の存在ではないことに)

> 再び距離が開き、これで疑いも晴れたか。
声に刺を感じ無くなれば、見上げていた視線を下ろし、握り潰されていないか心配な小瓶の方へ意識を向けた。

「……いいえ」

手荒く此方へ投げ渡される小瓶を受け取ろうと、両手を開いた。
――次の瞬間。

「――ッ!」

瞳の中で燃える怒りとは異なる、明確な殺気を肌で感じ取り、反射的に大きく飛び退き、バックステップを踏んで2、3歩距離を置く。
あと一歩、男の殺気に気付くのが遅れていたなら、小さな小柄の身体など、それこそガラス瓶のように容易く蹴り飛ばされ壊れていたかもしれない。

小柄は飛び退いた体制のまま身を屈め、地面についた手をゆっくりと後ろへ回し、腰にある双剣の柄を握りしめる。

「嘘は、お互いについた。だから、お互い様」

穏便にことを済ませようとした小柄と、その逆に苛立ちを隠さずぶつける男。
どちらにも非があることは明らかだったが、どっちも悪かったから謝って終い……とは、行かないのが現実である。
男が小瓶を渡す気が無いとが分かった以上、力ずくで取り返すしかない。
それ以前に、犯人として疑いをもたれた時点で、この男を生かしておくと言う選択肢は既に無かった。

「……これも、お互い様ッ」

小柄は白と黒の刀身を持つ双剣を引き抜き、低く構えた姿勢のまま、ぐらりと体をさらに低く沈めたかと思えば、弾かれたように路地を駆け出す。
その道幅の狭さを利用して、右へ、左へ、地を、壁を跳ぶように移動を繰り返し、男の脇腹や足を浅く斬りつけ機動力を奪わんと刃を振るう。

クロス > (蹴りを避けられるのは想定内だった。
身をかがめて距離を取られればゆっくりと振った足を元に戻して再度直立の体制に戻り睨みつける。)

「何がお互い様だ…テメェのせいでこっちの客を失っただから、こっちが大損だろうがよ…」

(殺された男達に対しては微塵も慈悲の心は無かった。
大事なのは回収できなかったことだけであり、それだけが男の怒りを有頂天にまでもっていったのだった。
屈んだままの少女からギラリと光る物が見えた。
それは二本の剣、双剣であった。
抜かれた瞬間に無いも同然な程薄かった血の臭いが少し濃くなり、その臭いを嗅げば男のこめかみに青筋が浮き上がる。)

「テメェ…その獲物を取り出すとは…随分と癇に障る野郎だ…」

(こちらへ向かって駆け出す相手。
真っすぐに来るかと思えば左右に、壁にと跳ねながら距離を縮めてくる。
そして、抜かれた刃はこちらの体を切りつけようと傾いてくるが、男にはそれが見えていた。
跳ねて動く起動から刃がこちらに当たる瞬間、その全てがわかっており男も受けの体制が取れたのであった。
向けられた刃、それを握る手に向かって男はパリィを噛まそうとする。
上から下へとずらし、軌道をずらしてはダメージを無効にしは次の起点に使われないように力加減を調整したのだ。)

「チッ、鬱陶しい…
オラッ、一発落ちろッ!」

(跳ねまわり何度も自分の周りを飛び回る小柄な相手の動き。
その軌道やタイミングを見計らうと、パリィで下へと落とし、その上から膝を打ち付けようとする。
狙いは脳天か背骨、その部位を目掛けながら地面に叩きつけるような一撃を喰らわせようとするのであった。)

> 「それは、貴方の事情」

相手が損をしようがしまいが、関与しないところであると言外に告げる。
善良、親切と感じた最初の印象から打って変わって、男は粗暴で身勝手。貧民地区の人間らしい顔になったと感じた。
睥睨する黒い瞳を無感情に見返し、殺気の籠らぬ冷徹さをもって小柄は刃を振るう。

双剣の刃を見て――或いは、嗅ぎ取って、男はさらに怒りを燃やす。
無残に命を散らされ塵同然にされたターゲットと同じ剣の錆にされるのは、そこまでコケにされた気分になるものなのだろうか……。
その怒りの原因が何なのか小柄には理解はできない。が、理解する必要はないと直ぐに思考を放棄した。刃を抜き、ここに至って迷いは既に無いのだ。

「……面倒」

毬のように跳ね回り、姿を捉えられぬよう動き続ける。
少しでも刃が通れば、表面に塗った神経性の麻痺毒が、じわじわと男を苦しめられるはずだったのだが、そう容易くはいかないらしい。
仮りにも同じミレー族であったのが災いした。
正確な種別は違えど、相手も同等に人並外れた、獣染みた力を持っている。
聴覚、筋力、瞬発力……。そして、動体視力。
並の人間相手なら残像を残す速さで動き回る白猫だが、黒狼はその動きを正確に見定め躱す。

やがて、男の眼は小柄を捉え弾く――。

「――ッ!」

防御に徹するとは言え、非力な小柄の細腕で男の弾く力に耐え続けるのは辛く、石を斬りつけているような感覚を覚えてくる。
腕は徐々に痺れを伴いだし、最後には右の黒い剣は手から零れ落ちる結果となった。
そうして、双剣の片割れは男の遥か後方の闇へと消えて行く。

それと同時に、男は畳みかけるように攻撃へと転じる。
懐へ飛び込まんとした小柄の背へ向けて強烈な一撃が放たれる。
小柄もこれで場数は多く踏んでいる。咄嗟に致命傷になる体の中心――頭、背骨、腹――は身を捻り、何とか躱し、右肩で激しい衝撃を受けた。

「………ッ、フゥッ! ぅ゛……」

そのまま倒れそうになる体を既のところで支え、意志だけで取りこぼさなかった白い刃を男へ――差し向けられることは無った。
むしろ、その逆の動き。

後ろへと引く――否、引き寄せる

そうしたならば、闇の中に落ちて消えたはずの黒剣が、男の左足目掛け飛ぶ。
銀鐵の特徴は、引き合いと反発の矛盾した力。白い剣に呼ばれ誘われるように、黒い剣は使い手の手を離れてもなお動くのだ。