2025/03/02 のログ
■ノア = セシル > さほど広くもない一室は、決して豪奢とは言えないものの それなりに装飾が見て取れる。清潔感もあり 寛げる椅子もあり、一時を過ごすには申し分ないけれど… 寒い。薄着を選んだ日中との寒暖差に、時折組んだ脚同士を擦り合わせたりしながら
「 ︎︎ま、それほど経ってないし。
︎︎ ︎︎たしかに、夢なんて無理に探すものでもないのかも。 ︎︎」
貴方の話に耳を傾ける。聞きながら 琥珀色は、改めて貴方の顔立ちを見詰める。まるで宝石のような美しい瞳に、綺麗な鼻筋、上品な口元。そして意外と残る幼さも、興味深げに眺めて。ドレスやピンヒールの靴、アクセサリーやヴェネツィアンマスク等… あれこれと身に付け着飾っていた あの日とは違い、女の雰囲気は いくらかラフに映るかもしれない。
「 ︎︎誰だって転ぶのは嫌、当たり前よ。
︎︎ ︎︎あたしだって転びたくないけど、転んでばっかり…… ︎︎」
決してネガティブでも おかしくもない、と。貴方の考えを肯定しつつ、自らの失敗の数々を思い出しては、はぁ… と深く長い溜息を零して。
■レグルス・ダンタリオ > 目を逸らしていたが、彼女の擦り合わせる足の動きが目に入る。
やはり、今日は冷え込むのだと考えれば、彼女の薄着はいささかよろしくなかったのだろうか。
「えぇ。……それに、無理に見つけた夢が、やっぱり違った。なんてのもいやですしね。
ただ……誰かから、夢を受け取るのも……あり得るのかな、と最近は思いました」
遠い視線を浮かべる。ここではない、どこか遠くへと見つめる視線だ。
自分を見つめる彼女のことに気づかずに、自分の中の何かの思い出を考えて。
そこまで考えてから、現実に戻れば。彼女の姿を改めて見て。
……当然のように、また赤くしながら視線を逸らす。
「そう、ですよね。ノアさんは僕よりも経験が多そうですが、その分いろいろ失敗していらっしゃるんですね。
…………でも、それだけの失敗があってこうして僕と会えた現実は、少し嬉しく思います」
にこやかにそう言って、憂鬱そうな彼女を元気づけるように笑いかける。
目を細めて笑うその顔は、美しい瞳と、幼い顔立ちなのもあって多少化粧をすれば女性のようにも見えるかもしれない。
ふと思い立ったように立ち上がると、部屋に備え付けられている奥の風呂場へと歩いていき、蛇口をひねりお湯を沸かそう。
「どうせタダなら、少しでも温まれるようにしましょうか。
正直寒いし、風呂に入らないにしても足湯にはできるでしょうし?
なんなら肌を寄せ合うのもノアさんとなら歓迎ですし」
などと言って、冗談めかしながらお湯の湯気で少しでも部屋を暖めようと。
■ノア = セシル > 「 ︎︎ふぅん……… 、 ︎︎」
遠くを見詰め、何かを思い出しているような貴方を見れば。その頭の中までは覗けないものの、前向きに進み続けているのだろうと捉えて。“応援する” と約束した女は、ほっとしたように長い睫毛を伏せた ── が、
「 ︎︎そんな風に言われるほど経験豊富な訳じゃないけど、
︎︎ ︎︎………………失敗、するのよね… ︎︎」
自分の話となれば、わかりやすいげんなり顔。財宝目当てに入った遺跡で 見事罠に嵌り吊るされたり、姿を変える妖しげな術をかけられたり、盗賊団の隠し持っていた盗品を横取りしようと忍び込めば見つかって 嘘も見破られてしまったり… どれもこれも情けなくて恥ずかしくて、せっかく再会を果たした貴方に到底話す気になどなれず。こちらを励ます貴方の純粋な笑顔に、ひらひらと指先を揺らし
「 ︎︎………そうね、こうしてレグルスと再会できたし。 うん。 ︎︎」
その真っ直ぐな可愛らしさにつられ、笑みを取り戻した。すると、不意に立ち上がった貴方が風呂場へと向かい、蛇口をひねる音が聞こえて
「 ︎︎もう、レグルスまで タダタダ言うの ? ︎︎」
“そんな女タダでいいわよ~” なんて揶揄った娼婦の声を思い出し、部屋のことを言っているとわかっていながら くすりと笑い。続く言葉には意外そうに、ぱち と瞬きひとつ。
「 ︎︎肌を寄せ合うには、少し歳上すぎるかな きっと。
︎︎ ︎︎……………そう言えばここの店、若そうな子もいたわよ。
︎︎ ︎︎新しいドレスも随分気に入ってくれてね、─── ︎︎」
こんな冗談も言うのかと、くすり笑って。その子の可愛らしさと、今日ここに来ていた依頼の内容なんかを話し始めた。
■レグルス・ダンタリオ > 「失敗、ですか……そうですよね。人生いろいろですよね」
あまり突っ込んでほしくないのだろうげんなりとした彼女の顔を見せ、くすりと笑う。
きっと、自分なんかでは想像もつかない大変なこともあったのだろう。
それ以上はこちらから掘り下げるような真似はせずに、ただ笑ったまま彼女を見て。
「えぇ、それだけで今は喜びましょうか。
本人たちがタダと言ってるから、それに甘えてしまうのは悪いことではないでしょう」
裏に何か意図がある可能性は無きにしも非ずだが、そんなものは青年としては踏み越えていけばいい。
律儀な青年ではあるが、こういうところは無理矢理押し通そうとしてしまう若さもあるのだ。
「なるほど……ドレスの仕入れを。それは確かに、ノアさんとしても楽しめそうだし。
ここの人たちも、そういうおしゃれを楽しめてとてもいいですね」
依頼を聞いて、ふんふんと興味深そうに聞いて。
風呂が沸き上がるぐらいまで、その話が続いて、ただただ談笑の時間が今は楽しかった。
ただ……
「別に、年上過ぎることもないと思いますが……。
タダじゃなかったら、むしろ肌を寄せ合っていい、見たいに聞こえますよ?それ。
それに……あぁいや、なんでも、ないです」
何かを言おうとしてはにかんで、視線を下げた。が、やっぱり言っちゃおう。
「すみません。なんでもないことはないです。ノアさんならとても魅力的な女性です」
と、改めて声を張り上げる。
■ノア = セシル > 自分の選んだドレスを喜んでもらえたこと、取り合いになったドレスなんかもあったこと、今回の依頼が女にとって とても楽しかったこと、なんかを。適度に相槌を打ってくれる聞き上手な貴方に、楽しげに話していると
「 ︎︎……………………… ︎︎ん、 ︎︎? ︎︎」
ぽつりぽつりと言葉を紡いだかと思えば、はにかんで俯く貴方に。本当は聞き取れていたけれど、湯が溜まっていく音に掻き消されたフリをした。とても素直で真っ直ぐで、見た目も可愛らしい青年。魅力がないだとか そういった訳ではなく、“そんな貴方だからこそ” おおよそ大分歳上であろう自分などと関係を持つべきではないと考えるが故に。せっかく、聞こえないフリをしたというのに ──
「 ︎︎………… っ、 ︎︎レグルス… ︎︎」
改めて、聞こえないフリができないくらい声を張り上げ言い直すものだから。女は困ったように眉を下げ微笑んで、伸ばした手が届くなら貴方の頬に そっと手のひらを触れさせようと
「 ︎︎うん、 ありがと。
︎︎ ︎︎あたしがあとちょっと若かったら、好きになってたかもっ
︎︎ ︎︎さて、と…… お湯、溜まったかな。 ︎︎」
なんて、冗談めかして。そろそろ蛇口を止めようかなんて言いながら、するりと立ち上がった。
■レグルス・ダンタリオ > 聞こえないふりをした彼女の、困ったような顔をまっすぐと。
これが自分なのだと、嘘や誤魔化しなどできない自分なのだと伝えるように。
じっとその顔を見つめて、彼女の手が伸びてくれば、緊張に体が固まる。
「……」
無言、彼女が紡いだ言葉を聞いた後、その彼女が立ち上がったのを見て見上げて。
背中を向け、風呂場に歩いていく彼女に、ついていくように自分も立ち上がると。
蛇口に手を伸ばす彼女を、背中から……壊れ物を扱うように、抱きしめよう。
彼女が嫌がらないのであれば、そのまま背中に、顔を当てて。
「……今夜だけ、若くなって、くれませんか?」
子供の用に。懇願するように。そう言葉をかけた。
力強い手ではない。少し彼女がその手を離そうと動くなら、すぐにはがせるようにしている。
■ノア = セシル > 例えば酒場の酔っ払いのように、下心を剥き出しに強引な誘い方をされる事には慣れていた。けれど、頬を染めてまで振り絞った言葉なんて向けられ慣れていなかったから。今こそマスクが欲しいくらい、振り返った女の顔は だいぶ動揺していて。そのまま誤魔化すように風呂場へ向かい、蛇口へ手を伸ばすも
「 ︎︎─────── ─ ︎︎ ︎︎!? ︎︎」
ふわりと優しく包み込むような腕と、背中に触れる顔。肩まで露出したデザインの服では、開いた背中へ直に貴方の体温を感じることとなって
「 ︎︎…………応援する って言ったのは、ほんと。
︎︎ ︎︎けど、歳が離れすぎてるのも 多分ほんと。
︎︎ ︎︎それにレグルスが思うほど、きれいじゃないの。 ︎︎だから…… ︎︎」
不意打ちに動揺し染まった頬を見られぬように、振り返りはしないまま、回された腕を優しく撫でる。決して貴方を否定している訳ではない と、原因は自分の方であると… 伝えるように、諭すように。
■レグルス・ダンタリオ > 腕の上に伸ばされた彼女の腕。その撫でつける、肌を感じて。
びくり、と驚いたような青年の動きがあなたの肌に伝わる。
そこにあるのは怯えと、怖れ。否定されるのを、怒られるのを怖がる子供のよう。
「…………」
優しく、彼女は自分を離そうとする。あるいは、彼のほうから彼女に突き放させようとする。
優しい言葉、暖かい言葉だった。自分のことを想ってくれるからこその言葉であった。
だったら―――
「…………手垢まみれでも、人の手が入ったものでも。
そこに価値を見出すのは、それを手に入れた人自身だけだ」
絞り出すように、より彼女に回している手に力がこもる。
青年の吐息が、剝き出しのあなたの背中にかかるだろうか。
熱のある、若さを強く感じさせる息が。
「例えあなたがどんな身であっても。僕の心は……僕の口は。
あなたが綺麗だと叫び続けます。……どうしても、嫌なら」
この腕を振り払ってください。と―――その言葉を出す勇気までもは、なく。
ただ、彼女の対応に、身を任せてしまう。……男らしさの欠片もない自分が、少し嫌になった。
■ノア = セシル > この青年は、なんて綺麗な言葉を紡ぐのだろう と… 思えば思うほどに、やっぱりこれ以上触れ合う訳にはいかないと感じてしまう。飾り立てたフレーズでもない、すらすらと流れるような言い方でもない、そんな貴方の言葉を “綺麗” だと感じたのは… 考えて、考えて、考えながら、一つ一つの感情を言葉に変えていくから。それが途切れ途切れで歯切れの悪いものだとしても、女にとっては何よりも美しく感じて
「 ︎︎…………… っ、 ︎︎」
背中にかかる吐息は熱っぽく、女の冷えた白い肌を刺激し。その擽ったさには、ぴくっと僅かに肩を震わせて。絞り出すような言葉に何も言い返せないまま、腕を撫でていた手は動きを止めて
「 ︎︎だから、嫌 とか……… ︎︎そういうことじゃ、なく て… ︎︎」
何と続けたらいいかわからなくなって言葉を途切れさせ、貴方の袖口を きゅっと握って俯いた。長い髪に隠れた顔は、戸惑いと恥ずかしさに赤くなっているかもしれない。
■レグルス・ダンタリオ > 互いに、無言の時間が続く。何も言えない。
青年は熱のある吐息を彼女にかけながらも、その手は震えたまま抱き続けて。
彼女も彼女で、撫でていた腕の手を止めて、ただ俯いている。
「……………………っ」
気まずい。そんな空間で、何も言えない自分がどうしようもないとすら思う。
応援してくれる彼女を、こうして待たせてしまってすらいる。
「すぅ……はぁ……」
深呼吸を、一つ。青年の腕から、震えが止まった。
すぅ、とようやく彼女を抱きしめる腕が解かれて、青年の体温が女から離れる。
寂しそうに、腕が離れて。解放された―――そう、感じただろう彼女を。
その顎に手を伸ばして、人差し指と親指とでつまみ、こちらへと向けさせよう。
「嫌じゃないなら……う……受け入れて、欲しい」
一瞬、言葉が詰まった、だけど、言えた。
まっすぐに今度は改めて彼女を見て……また、何も言わないようであれば。
あるいは、明確な拒絶の言葉が出ないのであれば……。
そのまま……少年は背中を曲げて、彼女の唇を……。
■ノア = セシル > 二人が出逢ったあの日、着飾った女の姿は さも自信に満ち溢れていたように映ったかもしれない。けれど今、貴方の腕の中に納まっている女は、なんと弱々しいことか。貴方の腕が解かれたなら、青年の気持ちにきちんと向き合おうと、女もまた言葉を紡いで
「 ︎︎受け入れる勇気もないのに、拒めもしなくて… ︎︎」
困ったように眉は下げたまま、素直に伝えた。最後に “ごめんね、意気地がなくて” なんて、付け足そうとしたけれど
「 ︎︎──── ─ ッ、 //// ︎︎」
顎先を掴まれ、引かれるまま貴方の方を向かされて。間近で見上げる身長差や、硬い指先、真っ直ぐな言葉に、青年の中にしっかりと異性を感じてしまって。心臓が跳ね、鼓動が聞こえてしまうのではないかと思うほど速まる。未だに頭の中では これ以上は良くない と、そう思っているというのに
「 ︎︎………………っ、 ︎︎ ︎︎ ︎︎… ︎︎」
拒みきれなかった女は、屈んだ貴方に唇を塞がれて。貴方の為を思うなら、拒むべきだったはずなのに… できなかっただけでなく、酷く紅潮した顔をも晒してしまった。
■レグルス・ダンタリオ > 彼女のその言葉の先を、聞きたくなかった。
「―――その先の言葉を言わせる男に、させないで」
そう、唇を塞ぐ瞬間に告げて、瑞々しい青年の唇が、彼女の唇を奪う。
時が止まったように、その時だけ感じられた。
それぐらい青年にとっては、この時間はひどく、長く、遅く感じる。
間近に見える、琥珀色の瞳。紅潮する彼女の頬。
「……ふ……」
息すら止めて魅入って、どれぐらいの時間が経ったかもわからないままに。
ようやく唇を離して。互いに胸を上下させるか。
また、無言になり始める。この先を考えていなかった。
だけど、目だけは彼女から離したくなくて、じっと見つめて。
「……気の利いた、言葉は言えないけど……。
僕は……相応しくないと、そう諦めるあなたを。
……抱きしめていたい」
そう言うと同時に、雑音にしか聞こえなくなった風呂場の蛇口を締めた。
■ノア = セシル > 【 後日継続 】
ご案内:「貧民地区 / 娼館」からノア = セシルさんが去りました。
ご案内:「貧民地区 / 娼館」からレグルス・ダンタリオさんが去りました。