2024/05/26 のログ
■ニンジャ > 腰を抜かした酒場の親父に近づくと左手で胸元を掴み、立ち上がらせる。
小柄なニンジャには酒樽のような体型の中年男性を抱え上げる筋力があるようには見えないが、軽々と持ち上げた。
「冒険者の店『壊れた車輪亭』、廃業。冒険者パーティー『獣の牙』、解散。イエス・オア・ノー?」
酒場の親父がパーティーのケツ持ち、つまり黒幕であることは割れている。
親父が口を開くのと同時、乾いた破裂音が響いた。ニンジャが親父の右の頬を平手で叩いたのだ。
「冒険者の店『壊れた車輪亭』、廃業。冒険者パーティー『獣の牙』、解散。イエス・オア・ノー?」
『ふざ……』
破裂音が響く。親父の左の頬を平手で叩いた音。
親父がイエスと言うまで、魔導具のように同じ言葉を口にし、頬を叩き続けた。
伝統的なニンジャの拷問術だ。芸術と言ってもいい。あるいは、無関係の第三者でいる限りは面白い見世物だ。
数分後にイエスと答えた親父を酒樽に逆さに突っ込む。まともな客は逃げ出し、残っているのは意識のない冒険者達と給仕だけだ。
「ここは廃業。あなたたちの借金も帳消し。好きに生きなさい。うちは――いえ、何でもない」
給仕の何人かは知っている。ニンジャが名乗ったのは冒険者をやっていた頃、最初に世話になった冒険者の店の名前。
そこでよく顔をあわせた人物。ステップアップのためにホームを移す時も、にこやかに送り出してくれた異国訛りの女店長。
記憶の中の姿と今のそれとは欠片も一致しないものの、彼女達はわかっただろう。――救出しにきたのだ、と。
給仕たちは頭を下げて、この場から立ち去っていく。
立ち去る女たちをどこか優し気な瞳で見送った後、横たわっている男達を視界に入れると氷のような目に変わる。
地面を強く蹴ると、気絶していた冒険者達はびくりと動き、意識を取り戻した。
「ギルドの看板を汚したツケを払ってもらう。そうだな……
目玉、耳、肺、腎臓、金玉、腕、脚、脳――二つあるものなら、一つはなくなって構わんな?」
頭巾を取り去ると素顔が露わになる。零れるようにセミロングの黒髪が肩から流れた。心底楽しそうにニィ、と笑う。
冒険者達は震えあがる。隠密行動が基本のニンジャが顔を晒す時は、殲滅の意思表示だと知っている。不具で済めば良い方だ。
因果応報。翌朝訪れた衛兵達のうち何人かは、凄惨としか表現のしようがない光景に耐えられず嘔吐したという。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区/酒場」からニンジャさんが去りました。