2023/11/29 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区/大通り」にヴァンさんが現れました。
■ヴァン > 疲れている。
2週間、王国を転々と回る出張からの帰還。男は1時間煮続けた青野菜のようにくたくただった。
時折風が吹いて冷えるが、太陽が高い位置で照っているのが救いか。とにかく帰って眠りたい。
市壁に開けられた門をくぐりぬけて通りを歩く。平民地区まで短い距離ではあるが、貧民が多く住むエリアだ。
引きずるように通りを歩く中、近くの路地から叫び声が聞こえた。
地面に視線を落としていた男が顔をあげるのと、その路地から10歳ほどの子供が懐に飛び込んでくるのはほぼ同時だった。
子供は何も言わず男から離れ路地に走り去ろうとしたが、ふわりと宙に浮く。
派手に地に伏した子供の背中をゆっくりと男は踏みしめた。
「人にぶつかったら謝れ。それと……仕事は相手を見てやるんだな」
子供――男か女か、よくわからない――はどうやらスリや置き引きをやっているようだ。胸元に伸びた手を男は見逃さなかった。
先程の叫び声は泥棒、つまりこの子供を追っているようだった。すぐにでも追っていた者が路地から現れるだろう。
■ヴァン > 路地から出てきたのは筋骨隆々の大男だった。
傭兵か何かなのか、目に見える所にいくつか傷痕が散見される。
外見に似合わず大男は丁寧な例を言うと、子供の身体検査をはじめた。程なくして財布らしきものを取り出す。
大男は中身を確認し、安堵の溜息をつく。図体に似合わない行いに男は失笑した。
『人に渡すものでして……良かった。このガキ、ジャック衛兵隊長に性根を叩き直してもらえばいい』
男は思わず眉を顰めた。大男が口にした衛兵隊長は貧民地区の担当で、住民からの信頼も厚い。
重犯罪者の子供をご自慢の精神注入棒でブッ壊してしまうことを除けば聖人と言っていい。
大男は他の住民同様、その唯一の欠点を知らないようだった。
窃盗はその額によって刑罰の軽重が決まる。財布からちらりと覗いたものを見る限り、重罪が確定している。
窃盗の代償としてしばらく椅子に座れなくなるのはこの街らしいと言えたが、そこまで罰が必要とも思えない。
盗まれたものは本来の持ち主に戻ったことだし、この場をとりなす者がいればよいのだが――生憎、男にそこまでの義理はなかった。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区/大通り」からヴァンさんが去りました。