2023/10/10 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」にアルマースさんが現れました。
アルマース > 秋雨のぱらつく夜。貧民地区のどこか、明かりの灯るとある酒場にて。

「――はい、お代わりどうぞ」

カウンターの中から向かいの客に酒を出し、女はのんびり微笑んだ。
――踊り子を生業としている自分がなぜバーテンダーの真似事をしているのか。
財布を宿に忘れる、という可愛いどじ――とは酒場の店主は考えなかったようで、働いて返せと言われた――を踏んで無銭飲食になりかけたのだ。

これまでも踊り子の仕事の需要が無い街では給仕をやって凌いだこともあったし、身体で返せと言われなかっただけましな方だ。
知り合いに見られたりしたら決まりが悪いだろうけれど、一夜限りのこと。

注文が途切れて手持無沙汰になったので、グラスを拭き始める。

「踊って返せ、なら楽だったのに……化粧も衣装も無しだからって、信じてもらえないとはあたしもまだまだ」

空拭きしたグラスを明かりに透かし、布巾の繊維が残っていないか確かめてからカウンターの上に伏せて置いた。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」にオウルさんが現れました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」からオウルさんが去りました。
アルマース > 初めて来た店だから料理のメニューはよく分からないけれど、酒の種類や作り方ならそれなりに知っている。
結果的にカウンターの中に自分を立たせた店主の采配は上出来だったのだろう。
割と高い酒のボトルキープも承ったことだし、そろそろ解放してくれないかしら……と内心溜息をつく。

「お金持ってそうな客にどんとチップ貰って、さっさと帰ろう」

……と考えているので、接客の物腰は至極柔らかい。
不当に労働時間を引き延ばされても嫌だから、仏頂面の店主に代わるバーテンダーに関心を持って野卑な言葉を投げかける客にも意味深に微笑むだけ。
『黙っていれば可愛い』 『口を開かなければ好み』
そういう類の言葉を言われ続けてきた人生だ。気が強く生まれた女がそう言われて黙る場面は無かったが、今夜は自分の容姿を活用し、口を封印しよう。客と揉めて労働時間を引き延ばされたりしたくない。

赤いガウンのようなゆったりとしたワンピ―スの襟首を絞っていた房飾りつきの編み紐を解く。
袖を引っ張って肩から落とし、オフショルダーにしておく。
谷間と肩程度の露出で客の財布の紐が緩むなら良いということにしよう。
ついでにゆるく波打つ黒髪を、耳の上の高さで結わえてうなじも出しておく。

気合を入れる儀式を見ていた客に笑いかけ、「お代わりいかが?」と注文を取る。