2025/05/05 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にさんが現れました。
> ――とある貴族の屋敷の地下、燭台の明かりだけが灯された仕置き部屋にて。
先日の暗殺失敗に主人は大層腹を立てていた。

『近頃のお前の体たらくには呆れて言葉も出んな。
 見張りに見つかった上、派手に爆発騒ぎまで起こしたそうじゃないか。
 ターゲットはおろか、その見張りまで殺せずおめおめと生きて逃げ帰るとは……恥を知れ』

責め苦は言葉だけでは収まらず、ほどなくして鞭へと変わり女の柔肌を打つ。
そして、主人は最後に厳しい罰を篝へ言い渡した。

『これだけでは手温いな……。
 おお、そうだ。明日は一晩の間、娼館の裏にでもお前を放り出してやろう。
 ――奴隷の姿で、な。
 身を隠す訓練にもなって一石二鳥だろう?
 朝になるまでそこで反省しろ』と。

月の輝く空の下、娼館の立ち並ぶ貧民地区の裏道で昨夜の記憶を思い出しては、息を殺し木箱の影に身を隠す。
擦り切れたボロ布一枚だけを纏い、細い首には金属の重厚な首輪が嵌められていた。
誰の奴隷か一目でわかるよう首輪には貴族の家紋が刻まれている。
手足には鞭でつけられた痕がくっきりと残っており、どこを取ってもみすぼらしい奴隷にしか見えない。
元々アサシンの仕事に誇りなどない。生きるため主の命に従う。それだけのために刃を振るう。
奴隷根性が染みついた少女は思考を放棄していることにも自覚が無かった。

「……夜明けまで、魔力が持つかが問題です」

夜風に冷えた手に息を吹きかけ、最低限の隠密術が解けぬように気を配りながら気配を殺し夜明けを待つ。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にバゼムスさんが現れました。
バゼムス > 貧民街にある娼館。
場所柄、客層は察して余りあるし、流れ着く娼婦たちも自らの身体と命を切売りしなければならない度に追い詰められた事情を抱えた者ばかり。

どん詰まりの吐き溜め。

そんなところでも娼館を立てて経営しているのは――ある種のセーフティネットと言えなくもない。
尤も、当人は"使えるモノは何でも使え"であり、殊更流れ着いた者達への施しなど与えることもないが。

そんな場所に足を踏み入れるのは年に1回か2回程度。
自分の管理下にある娼館へと足を運び、この娼館で最上級の娼婦――あくまで貧民地区レベルだが――を宛がわれたものの食指が動くこともなく、散歩と称して娼館の裏口へと足を運ぶ。

軽く夜風に当たって、高くもない酒でも飲んで休むか――そう思った矢先に感じるのは、僅かな魔力の気配。
欺き、翻弄する――己も持ち合わせている得意術式と似た魔力であるが故に馴染みがある。

故に警戒心が浮かびつつも、好奇心を刺激されてかゆっくりと裏道を歩んでいく。
月明かりしかない夜道であろうとも気にした様子もなく、どことなく楽しげに――鼻歌すら奏でてしまいそうな気分の最中、一歩、また一歩と"潜伏者"の方へと歩みを進めていく。

「はてさて、鬼が出るか蛇が出るか」

> 魔力の枯渇と、周囲の警戒に精神をすり減らしながら耐え忍ぶ時間が幾らか過ぎた。
それまでも何度か裏道を通りかかる者はあったが、どれもこちらに気付くことは無く、時間が過ぎるのと同様に自然に過ぎて行った。
だが、そうでない者もあった。
遠く足音を聞くとピクリと耳が動き其方へ向く。
過ぎ去るのではなく、さらに明確な意思を持ち近付いてくることに気付けば、警戒心は見る見る間に膨れ上がり、耳と尾は立ち上がっていた。

「……、…………っ」

魔力は惜しいが、背に腹は代えられない。
急ぎ片手印を結び隠蔽の術を自身へと施す。
然れば、奴隷の姿はそこらに置かれた木箱と同じ――ように、他人の目には映るだろう。
その相手に魔力を探知されていることも、ましてや隠密の術を悟られていることも知らぬ少女は、気配を消し無表情で足音の方へと視線を向けた。
闇夜の中で血のように輝く赤い瞳が、月明かりの下に現れた男を見据える。
見たことのない顔の男だ。
だが、身なりの良さからこの地区の人間でないことは一目でわかった。
ならば貴族か。少女の無表情は変わらないが、感情は不愉快へ傾いていく。

バゼムス > 常日頃、利用し――或いは利用される魔力の波長はか細い。
まともな魔力持ちなどいるはずもない貧民街だからこそ感じ取れただけではあるが、それでも正確な位置までは分からずにいる。
けれども目標には近づいている。
そう己の勘が伝える中、また一瞬術式の発動を察した。
己に差し向けられた刺客などではない。
そうであればこうも容易く辿らせる無様を晒すことはないだろう。

故に警戒心はより好奇心の方へと傾いてしまう。
己が近づいていることを察しているだろう故の行動のそれに足早に件の"潜伏者"が潜む場へと辿り着いた。

周囲にあるのは複数の木箱。
一見すれば不自然なところはない――が、"見られている"感覚はある。
その視線の感情までは読み取れやしないので、己がどう見られているのか知らぬまま鼻歌交じりに手元から取り出したるは丸みを帯びた固形物。

指の腹で掴み、軽く"火"の魔力を通せば――立ち上るは煙。

それを木箱の方へと放り投げる。

甘く香る煙は周囲に漂う。月明かりの下でも分かるほどに薄紅掛かったそれ。
吸えば吸うほどに指先や足先などに僅かな痺れと、"熱"を齎す媚香の一種。
尤も吸わなかったとしても、その"毒"は肌に吸着し染み渡る――数万ゴルドの、使い捨てに相応しくない値のする特別製。

潜伏者が女だと察した訳ではない。
例え男であってもその行動に制限を与えることができる――己とてそれは同様だが、利用者な分"多少なりとも"耐性を持ち合わせている。

それで変化が現われるか否か探るように、視線は周囲へと向けられていく。

> 目の前までやって来た男は、何をするつもりか奇妙な固形物を取り出した。
かと思えば、それを少女の潜む場所から二つ離れた木箱へと放り投げ、細く立ち昇る煙が揺らめき徐々に広がっていく。
すぐに離れるべきであると本能は言うが、ここで動けば擬態した術が解けてしまう。
その一瞬の躊躇いが命取りとなった。

薄く色づいた煙を極力吸い込まぬよう片手で口と鼻を覆い煙が止まるのを待つ。
煙は、屋外であればそう長くは留まれず、春風に吹かれれば徐々に薄れて行く……。

薄く、広く、広がっていく。

少女が自身の体の変化に気付いたのは、僅かな指の震えと、肌が泡立つ感覚を覚えた時だった。
ああ、やはり……。あれは毒の類だったか。
今すぐにでも立ち上がり、走って逃げればまだ間に合うだろうか。

「……はぁっ、ぅ……」

熱い吐息と共に、唸るような小さな声が塞いだ口から漏れた。

「――くッ!」

もう隠れきれぬと弾かれたように立ち上がると同時に、少女は男から逃げようと走り出す。
いつもならばあっという間に駆け抜けられるはずの路地が妙に長く感じるのは気のせいか。否、気のせいではない。
もつれそうになる足を懸命に動かし、少女は表通りへ駆けて行く。
表に出られれば、他人の目は多くなるが、その分逃げやすくもなると踏んでの賭けであった。

……表まで辿り着けるかと言うのが一番の問題であったのだが。

バゼムス > 煙は春風に散らされていくものの、独特な甘い臭気は己の鼻腔を擽るほどに広がりを見せていく。
貧民街の路地裏に似つかわしくない、その臭気を嗅ぎながら木箱の方へと視線を向ける。
ここで何も起こらなければ『己の勘も大した事がないな』と思い立ち去っていただろう。

――そうはならなかったのだから、男は思わず唇を吊り上げて嗤ってしまう。

先ほどまでは木箱にしか見えなかった。
だが、少女が立ち上がったことで漸く違和感を覚えてしまう。
何故気付かなかったのかと疑問に思うが、そういう術式なのだろうことは残滓となった魔力のそれで察しつつも、今は懸命に走り抜けようとする少女の腕を掴み―― 力任せに引き寄せた。

「はは、捕まえた。」

少女の視線の先にあるのはここよりも明るい、表通りの灯。
万全の状態であれば、例え媚香を撒かれたとしても逃れる事ができただろう。

男の太い腕が少女の細い腰へと回され、己の身体へと密着させるよう抱きしめつつ――念入りとばかりに少女の足下に先ほどと同様に媚香玉が転がり、煙が立ち上らせる。

「逃げた奴隷――って感じはしないな。
 どこから来た猫だい?」

貧民街に潜むには良い匂いがする少女の首筋へと鼻先を寄せつつ、そう探るように言葉を紡ぐ。
視線は首輪に一瞥するものの、少女の唇から紡がせようとするかの如く。

撒かれる香の耐性はあれど、完全に効かないというわけではない。
故に男の熱帯びた吐息が少女の耳へと吐き出されつつ、指先は奴隷の装いをしながらも引き締まった太腿を撫でるように触れさせていく。

> 容易く追いつかれ、腕を掴まれては逃げられず。少女の弱った細腕では男を振りほどくこともできない。
密着し布越しに伝わる男の体温に嫌悪感を抑えきれず、白く長い尾がぶわぁっと大きく広がった。

「フゥー……ッ! フゥッ……ぅッ」

男の息が首筋にかかり、ぞくり、と体が震える。
鍛え上げられたしなやかな足を男の大きな手がいやらしく撫で上げると、また体に甘い痺れが走り、熱の籠った息が漏れる。
追い打ちをかけて再び上がる薄紅の煙に充てられては、熱は更に強まり体の中で渦巻く。
それでも、少女が男の問いかけに答えることは無かった。耐えるように震えながら目を閉じ、男から逃れる隙を探るのだ。


少女の首に嵌められた首輪には、三つ又の蛇の刻印――ヴァリエール家の紋章が刻まれていた。

ヴァリエールは二百年以上続く名家の一つであり、大貴族には及ばないものの、その歴史の長さ故に培った人脈を駆使し、表と裏の両方に顔が利く貴族であった。
関わり合えば得られるものは多く、気に入られれば尚良し。
だが、敵に回せば恐ろしい。ヴァリエールの暗躍で立場を追われ没落した貴族の数は片手では数えきれないのだ。

“蛇の機嫌を三度損なえば血が途絶える。”

それが貴族達の常識であった。
男も貴族ならば、余程の世間知らずでもない限りその噂を耳にしたことがあるだろう。
そのヴァリエール家の奴隷が彼の目の前にいる。
男はこの偶然を出世への一手と考えるか、それとも――

貴族の常識も思考も知らぬ少女は、少しばかり重くなった瞼を閉じぬように堪え、発情期の時に感じる火照りと同じ熱に浮かされ苦し気に息を吐く。

バゼムス > ある種威嚇しているような声を発する少女の口は、己の望む答えを紡ぐことはなかった。
そのこと自体に男は気を悪くした様子はない。

「なるほど。なかなか躾けられた猫だな。」

そう揶揄うように囁きつつ、太腿を撫でまわす指先は内側へとなぞるように這わされていく。
肌触りは悪くない。心地良い触り心地に瞳を細めながら、熱に浮かされ発情の度合いを強めていく少女を見下ろすように視線を向ける。

月明かりの下で見えた首輪に刻まれた紋章。
その意匠も、その意匠に含まされた意味も――己にとっては察し得てしまうのは己と同類であるからか。

違うとすればその年季。
十数年前に引き継いだ男爵号では到底太刀打ちできない歴史の重さと実績(これまで暗躍し、没落させた貴族家)

歯牙にもかけられていない相手。けれどもそれは己も同様。
わざわざ相手取る必要もないのだけれども――その紋章を見て尚、己の中の好奇心と欲望は決して翳りを見せることはなく。

敵対するもしないも――退屈を紛らわせるならそれでいい。
それが己の死に直結したとしても。

「だがまあ……隠れ潜み続けることが――"主"の意図に沿ったものだとは思えないのだがねぇ」

媚香が足下から立ち上る中、少女の耳朶に囁くは(疑心の種)交じりの声。
唇を楽しげに歪めながら、少女の発情で体温の上がった身体の熱を心地よく思いながら、もう片方の手は無造作に乳房へと触れ、撫で揉み回していく。

その身を蝕む熱を煽るように、性感へと意識を向けさせる(種の存在に気付かせぬ)ように。

バゼムス > ――月明かりの下、路地裏での"密談"は続く。【移動します。】
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」からバゼムスさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」からさんが去りました。