2025/05/01 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にジャッキーさんが現れました。
■ジャッキー > 晴れ渡る青空にぽかぽかと暖かい日差し。
春の日和の朗らかさ――
も、くすむような暗い雰囲気が漂っている貧民地区。
あばら家、ぼろい天幕の怪しい露天商、何の肉だかわからん串焼き屋、
酔っぱらいやラリった男が倒れた通り、ごろつきが屯する裏路地、
など、など、など、
『ここは治安が宜しくありません』と大々的に謳っているような有様。
その中では比較的小綺麗な方だろうか。
すぐ裏手、どちらかといえばこちらが裏手なのだが兎角、近くに娼館立ち並ぶ歓楽街の程近くにある長屋。
「おつかれ~」
夜に向けて出勤されるお姉様方が通ったり、今から一山当てに行くぞ! と豪語する男にたまに声を掛けつつ
ちょっとでも目を離すとそれはもう沢山に生い茂る雑草を引き抜いたりと庭先で掃除しているのは長屋の住人。
眉間に常に皺が寄って目も釣り上がって実に機嫌が悪そうな少年である。
「……除草剤撒いてもこれだもんな~」
抜いても抜いてもあっという間に生えてくる雑草たちを見遣っては、溜息一つ。
半分は片付けたが半分はこれから。
ちょっと疲れてきたので縁側にどっかと尻を落として、一息つくことにした。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」に篝さんが現れました。
■篝 > 砂埃とカビ、それから食べ物の匂いと、女たちの安っぽい香水の匂い。
色んな意味で嗅ぎ慣れた貧民地区の臭いに、スンスンと鼻を鳴らして、歩く小柄が一人。
こんなにも春の陽気も穏やかな良い天気だと言うのに、小柄は全身を覆い隠す真っ黒づくめだった。
が、そんな者はこの地区では珍しくもない。ここはそう言う風変わりが溢れていた。
――そうして、路地を何本か跨いで、青年が住まう長屋まで訪問者はやって来たのだった。
小柄は人の出入りが落ち着くのを見計らってから、そろりと、静かに長屋の様子を覗き込む。
すると、丁度悪態をつきながら雑草と格闘する青年と目が合うだろうか。
「…………御免ください」
ポツリと、男とも女ともつかない、抑揚のない声が掛けられる。
■ジャッキー > どーも、と目が合った折には表情は険しいままであるけれど仕草は気楽に手を持ち上げてひらひら揺れる。
このあたりを一人でうろつくには少々身の丈が小さいもののそれ以外はこれといって……
黒尽くめであるとか顔を隠しているとかは特段物珍しいものではないから物珍しげな視線も投げず、
挨拶もそこそこ『どうすっかなこれマジで』と庭先の現状に考えあぐねつつ茶を啜り視線は元に。
「……ん……?」
戻らず、上がる声に二度見。
眉根が寄った視線が再度黒尽くめの誰かに向けられた。
「あー。誰かお尋ねかい。今んとこは俺一人しか居ねーよー? 用向きあったら伝えるけど」
長屋の誰かの、知人か友人か、借金取り?
と首を傾げつつ、よいしょと一声上げて尻を持ち上げれば雑草踏み締めつつ庭から誰かの方へと歩む。
■篝 > 再び向いた視線。眉間に寄った皺と、半分やり掛けであろう草むしりの様子を交互に一瞥し、沈黙。
「用向き……」
考える仕草で一拍の間をおいて、コクンと頷く。
青年が立ち上がれば、ぴくりと肩を小さく揺らし、僅かに警戒心をにじませて。
「…こちらに、ガドウィン……と言う方は、お住まいでしょうか?」
この長屋――もしくは、近隣の似たようなアパートメントに住んでいるらしい男の名を出し尋ね返す。
そして、懐から小包を取り出し、そちらにも見えるようにした。
「お届け物をお持ちしました」
用向きは届け物だと小柄は言う。
嘘か真か。顔は隠れて見えず、声に感情は宿らず。真偽は不明であった。
■ジャッキー > 「ぁん? ああ。ハハッ。取って食いやしねーって。
見てわかんだろ、庭掃除で大変なんだよ、厄介事なんざごめ……。
……。……。俺が汗臭すぎて引いたとかじゃねーよね?」
よれたTシャツ、つぎはぎだらけのズボンにダクトテープで補修された靴はしかも踵を潰して履いている。
そんないかにもだらけた格好でもひょいと立ち上がった拍子に揺れた影を見遣って、軽く噴き出した。
ないないないない、と手を左右に挨拶のときより大きく振られたが、ふと、すんすんと鼻を鳴らして
『ひょっとして臭ぇ?』と思い至っては眉間の皺ごと不安そうに表情全体が引き攣る。
臭かったら申し訳ないし、余計な警戒もされたくない、ので、途中で歩みを止めた。
「ああ。ガッちゃん? そりゃあ運が無かったな、さっき一山当てるっつって出てったわ。
お届けもんならそこのほら足元の小汚ぇ木箱あるだろ其処に入れといてくれ」
ガドウィン、という名前に心当たりはあり丁度行き違いになったらしい事喋りつつ指差すのは
彼? 彼女? かも定かでないが兎角その来訪者の足元にある、所謂、置き配用の箱である。
手に持ったままの茶をずずーっと啜りつつ、
「待っててもいいけど暫く帰ってこねぇぞ、ありゃ」
見せられた小包に注視はするものの、開けて見るでもなく、後で盗ろうという気配もなく
如何にも怪しい誰かが何か分からんものを届けに来たというのもあんまり興味無さそうであった。
「暑くねぇ? それ。待つなら茶ぁぐらい出すけど」
ゆらゆら。とコップに入った麦茶を揺らして、かなり、のんびりとした風情。
■篝 > 「いいえ。ビビってはいません。臭いは…………――」
笑われ、否定をされれば、パチリと瞬きをして前者にははっきりとした回答を出した。
が、後者に関しては黙秘した。
沈黙は時に肯定であることを小柄は知らないらしい。
種族がら、人間より数倍は鼻が利くようで、臭いには敏感だ。
汗や土草の臭いと、少しの埃っぽさ。それは、不快かと問われれば、肯定も否定もしがたい。
娼館に充満する、きつ過ぎる香に比べれば、むしろ実家のような安心感もあると言えるのだ。
手前で止まった歩みに少し肩の力が抜ける。
「……そうですか」
留守と聞き、また迷い目を伏せる。
視線を青年へ戻し。
「…この箱では、誰でも手出しができます。それでは役目が果たせません」
そう言って“火薬の香り”がする包みも懐へ戻す。が、待っても暫く帰らないとなれば、またぼんやりと足元の箱を見下ろして考え込んだ。
――ふと、声に顔を上げる。
「…お茶……」
ゆらめく麦茶がキラリと煌めき、何とも魅力的な誘いだった。
罠か。それとも、気まぐれか……。
目の前の青年の真意に疑念を抱きながらも、小柄は青年の後に続くことを選んだ。
■ジャッキー > 「……そっか! くせぇか! ごめんな!」
沈黙は時に肯定である。
シャツのよれきった襟を摘んで嗅いではみても自分の鼻には何も引っ掛かるものは無いが……
はてと首を傾げるところもあるにせよ兎角回れ右してから縁側に上がり込んで室内へと入り、
台所で使っている消し炭入りの火消し壺と、ついでにコップを持ってまた戻ってきた。
消し炭は、臭い消し代わり、コップは、来客と茶しばく用である。
「そこの箱は安全よ、こんなとこでも一定のルールやらマナーやら……
つってもここらの人間でもねーとわからんし況して場所が場所だしな」
信用ならない、との言には、ご尤もと一つ頷く。
「ジャッキー特製麦茶、これからの季節にゃ手放せん一品よ」
お茶の誘いに応じてくれるのなら、自分は一足先にまたどっかりと縁側に腰掛けた。
ピッチャーにたっぷり入っている麦茶を来客用コップに注いでいくと鮮やかな琥珀色が満ちていく
『何にも入ってませんよ』と自分が一口だけ傾けてから隣よりやや遠いところに置いておいた。
麦の香ばしい香りと、砂糖が僅かに入ってほんのり甘い、自分で色々試して至った濃さと甘さの麦茶。
氷室で冷やしてあるからかなり冷たい。
「ジャック・ダニエルだ。ジャッキーと気軽に呼んでくれ」
どうぞ、と掌で勧めつつ、自己紹介。
■篝 > 「……いえ」
フォローも励ましもないが、またポツリと一言だけを返し、ゆっくりと瞬いた。
臭うとも言っていないのに何故謝るのか、察しが良すぎるのも大変なのだなと、どこか他人事のようにテキパキ動く姿を縁側の傍から眺めていた。
そうして、火消壺と一緒に持ってこられたコップに目を向け。
「この地区の人間は、手を切り落としても足で、足を切り落としても口で、物を盗む。
……そう考えていた方が、建設的です。仕事に支障が出ません」
とくとくと、音を立てて注がれる麦茶をジッと見据える。
青年に怪しいそぶりはない。そのうえ、ご丁寧に毒見までして見せられては怪しむのも馬鹿らしいというものだ。
離され置かれたコップと青年を一瞥し、青年から視線をそらさずに浅く縁側に腰掛ける。
手に取ったコップはひんやりと冷たく。
「ジャッキー……?」
ジャッキーとは何処の誰?と首を傾げるが、すぐに納得したように首肯する。
「ジャック……ダニエル……。だから、ジャッキー」
呟きつつ、顔を覆うストールの口元だけをずらし、器用に一口含んだ麦茶はほんのりと甘く、思わず、ほっと目を細め表情が和らいだ。
「……美味しい」
一口飲めば、安心してまた一口。ちびちびと飲み進める。
■ジャッキー > 「んはは、そーゆー奴もマジで居っからな此処、うん、そっちのが良いわ」
手が駄目なら足で、足が駄目なら口で、云々のくだりには冗談でも聞かされたように笑うが、
『本当に居るから怖えんだよな』とか否定どころか知り合いみたいな口振りで首肯している。
彼? 彼女? からの視線は感じているいるものの此方の視線は切って庭先へと向けて
「うん、ご覧の通り、なーんにも入ってない、そーゆーのあんま好かんでな」
媚薬だの眠剤だの、呪いだの淫紋だの、色々目にもするし耳にもするがどーにもあれは……と、
否定まではしないものの自分の趣向じゃないと言い切りながらまた麦茶を一口ずずずと啜る。
無くなればお代わりを淹れてからピッチャーも一緒に指で押しやって『ご自由』にと勧め。
「そ、ジャック・ダニエルだからジャッキー。今どき珍しいぐらい在り来りな名前と愛称だろ?
おかげで逆に覚えが良いんだよ。綴りも簡単だからサインも簡単で色々便利」
ジャックも、ダニエルも、ジャッキーも、一昔前にはこれでもかと溢れた名前に姓に愛称で、逆に今どきとんと見掛けない。
覚えやすいだろと笑いつつ、ストールから持ち上げた口元を一瞥して、さらにぐぐ……と眉根が寄る。
「あ。これ。気にせんでな。機嫌悪いわけじゃねーのよ。目ぇ悪くてこーでもせんとまともに見えんだけ」
多分。多分、女。これだけ面相悪くしても尚あまり見えないのだが、あんまりに寄った皺を指差して、誤解を受けそうだからその前に言い訳。
■篝 > 流石、住民の言葉は実感がこもっている。
とは言う小柄も貧民地区での暮らしは板についたもので、互いに同意を返すのだった。
「そーゆー……。嗚呼、そう言う……」
コップの中の麦茶に一度視線を落とし、言葉に含まれたものを色々と察して、こちらも深くは追及せず喉を潤すことに集中した。
青年は、顔は怖いが愛想は良く、貧民地区の人間らしからぬ善良さが垣間見える。
物珍しさから、また青年を横目で見て、勧められたピッチャーに遠慮なく手を伸ばす。
「短く、在り来たりな方が目立ちません。……口にするのも、覚えるのも、簡単で助かります」
青年の便利との評価はまた小柄を頷かせる。
空になったコップの半分まで麦茶を注ぎ、両手でコップを包んではまたチビチビと。
「私も、名は短いです。けれど、あまり聞かない――?」
相槌程度に言葉を紡いでいると、一層と眉間の皺を深くされ首を傾いだ。
何か勘にでも触ったかと思ったが理由は別のところにあったらしい。気を悪くするでもなく、小柄は首を横に振り。
「……眼鏡を、掛ければいいのではないですか?」
至極真っ当な疑問を返した。
■ジャッキー > 喉も潤せて、舌も少々楽しめ、鼻から抜ける香りもいい麦茶。
かなりお気に召したようでちびちびとではあるが段々減っていく様子にはご満悦といった具合に笑みを向ける。
どこの麦で、どう焙煎して蒸らしはどれぐらいで砂糖の量はこれぐらいで……
云々と聞かれちゃいないが自慢気にあれこれとその内容なんかもくっちゃべりつつ、
「今の在り来りは、何だろな、ジャックだけは未だに現役だけど他だとマリー、いや古臭すぎか……。
ダニエルまで入るともう目立つぐらいだが冒険者なんで目立ってなんぼなとこもあるから助かる」
北方帝国であれば、李勇だとか、更に北東ではタナカイチロウとかいうらしい類のジャック・ダニエル。
古風すぎて今どき物珍しさまである名前だが厭うこともなくからからと喉を鳴らして笑い。
「ああ。よく言われるんだけどこの目はけっこー難儀でさ。ピント合わせる機能? てーのが壊滅的なんだと。
なもんで眼鏡作るにもまー金が要る。で、そんな金あんならこんなとこ住んでねぇのよ」
至極ご尤もな指摘に、いやそれがなー? 等と言いつつ瞳に指を向ければそんな事をつらつらと。
次いで、荒れた庭地やぼろい長屋を指や視線で促してから肩を竦める。
■篝 > 特製と言うだけあって、青年の麦茶に対する拘りはかなり熱心なものだった。
小柄はその秘密の製造法を真面目に聞きながら、何度か相槌代わりに頷いたり、空になったコップにお替りを注いだりとして。
「ジャック、ジョン……ケビン……。エマ。シャーロット。どれもよく聞く名です。貴族の間でも」
よくある名前は身分に差はない。大層な名の貴族も多いが、そんなものだ。
楽し気に笑う隣でコップをク゚ッと傾けて最後の一滴まで飲み干し。
「ジャッキー……は、冒険者なんですね。では、また何処かで会うこともあるでしょう」
まだ呼び慣れない愛称に迷いながら、話を切り上げ席を立つ。
「視力の低さは難儀な問題です。早々に矯正することを勧めます…が、貧乏と言うのも、困りものです。
冒険者を続けるなら、目以外……勘や、嗅覚を鍛えるのも一つの道だと考えます」
お茶をいただいた礼なのか、忠告染みたアドバイスを青年に送り、コップを縁側において一礼する。
「ご馳走様でした。では、私はこれで」
一言手短な挨拶を残し、小柄は来たときと同じ道を引き返し、真昼の路地裏へと消えていくのだった――。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」からジャッキーさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」から篝さんが去りました。