2024/09/11 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にメアリさんが現れました。
■メアリ > 「はぁ……あつ……。」
すっかり夜も更けた時間。
貧民地区の街影のどこかから聞こえる女の声。
路地裏の夜闇から溶けるようにして現れた女は、その火照った頬を暑そうにぱたぱたと手で仰いでいる。
激しく動いた直後のようで、その頬や首筋にはじっとりと汗が滲み、零す吐息は酒気を帯びていた。
「すっかり遅い時間となってしまいましたねぇ。どうしましょうか。」
誰に聞かせるわけでもなくひとり言を零せば、視線を持ち上げて空を見上げて。
視線を戻すとうーん、と首を傾げること数秒――。
行く先を思いついたわけではないがひとまずと歩みを進める事にした。
外套の裾をふわりと翻す女から感じるのは、汗と酒の匂い。
そしてほんの微かに――、匂いに敏感な者でしか感じ得ないような血の匂いが纏わりついていて。
■メアリ > 血の匂いを僅かに纏っていながらも、身体には生傷ひとつ付いていないのだから、きっとその内に
この匂いも夜風が拭い去ってくれることだろう。
この時間の人気のない静かな路地では、軽々しい足取りであっても足音はよく響く。
足が向くまま歩みを進めながら徐に手を持ち上げると、持ち上げた手のひらを胸の前でぐーぱーと
閉じて開いてと繰り返し、手の内に残る感触を落ち着かせる。
興奮物質が出過ぎてしまっているのか、まだ心臓は駆け足気味であり、大きく広げた手のひらの指先は微かに震えを帯びている。
身体の感覚は頭からつま先その全てにおいて研ぎ澄まされており、微かな変化ですらも機敏に感じ取り対応することが出来るほど。
あぁ、まだ暴れ足りない――。
メアリの中で心臓を高鳴らせる程の欲望がマグマのようにふつふつと煮立ち、溜息に変換されて外へあふれ出る。
まるで高揚感に背を押され、足を進めているような気分だ。
頭上で煌めく月の光と同じ色をした美しい髪が、心地よい夏の夜風に撫でられる。
髪を抜ける涼しい夜風だけが今のメアリの心を静かに慰め続けていて。
■メアリ > その辺に良い喧嘩相手になりそうな腕の立つゴロツキなどが転がっていればなぁ、などと思うが
こんな時間はゴロツキも寝床でおねんね中に違いない。
都合の良い淡い期待を自問自答で打ち消してしまえば、ふと目に入った凹凸のある壁の傍へと歩み寄り
ひょいひょい、と効果音でもついてしまいそうな程の軽々しい身のこなしで壁を強引によじ登り
貧民街の中でもひときわ背の高い廃屋の屋根へと上る。
「はぁ……っ、やはり高いところは良いですねぇ……」
貧民地区を見渡せるほど高い建物ではないにしろ、路地から見た景色と比べるとそれなりに視界も広くなる。
先程よりも近くなったようでそこまで変わらない美しい夜空を見上げながらまたひとり言をひとつ零す。
「おっと……」
―――一瞬、メアリの身体を撫でていた夜風が勢いを増す。
ぶわりと大きく広がる外套のマントに重心が引っ張られ、前髪は持ち上がり汗の滲んだ額が曝け出される。
この程度で体勢を崩すような体幹はしていないが反射的に声が出てしまった。
乱れた髪を指先で直しながら、汗ばんだ頬に張り付く髪ごと顔横の髪を耳へとかけて。
■メアリ > 「随分と強い風ねぇ、何か傍を通ったのかしら。」
と言ってもその何かを目で捉えたわけでもないので、それが"何か"なのかただの風なのか定かではなく。
メアリは呟きひとつ零すと、不安定な屋根の上を危うさなく進んでゆく。
今にも崩れそうな風化した屋根の上、柱の出っ張り、塀の上etc……道なき場所もメアリにとっては
進むことが出来たら道なのだ。
つい最近パルクール中に思わぬ接触事故を起こしたばかりだから、今日は事故を起こしてしまわないようにと人の気配にはそこここで気を付けつつ……。
「~~~♪」
夜風に煽られながらの散歩に気分は上々。気付けばメアリは無意識に小さな鼻歌を奏でる。
その澄んだ泉の様に、透き通った綺麗な音で奏でられるは讃美歌――。
だがメアリ自身に神への信仰心やその類は一切ない。
それなのに何故歌えるのかといえば、無意識に口から出るほど幼い頃から耳にしたものだからであり、これ以外に
歌える歌が無いというだけ。
日もまだ登らない貧民地区の誰も知らない場所で、メアリはひとり、夜明けを待ち―――。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」からメアリさんが去りました。