2024/02/07 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区 空き地」にフラゥラさんが現れました。
■フラゥラ > 貧民窟。
狭々と濫立する民家は壁が剥落し、屋根が崩れ、されど人の気配に充ちている。
雑踏も無い。熱狂も無い。ただ──下水に溜まる鼠の群れのように、人の存在する気配だけが濃厚にある。
そんな家屋の建ち並ぶ一画に、少しだけ拓けた空き地があった。
元は民家が在ったのだろう。剥落した煉瓦だとか朽ちた梁だとかが放置されており、
屋根の存在しない空虚は、白昼ならばよく陽光が射したことだろう。
されど、もう夜。周囲もとっぷりと暗くなったその頃合。
瓦礫の散乱する冷たい地面に横たわった木柱に腰掛ける、女がいた。
「────────────…… ぁ、 ふ。」
褪せ、裾の解けた──かつては美しいドレスであっただろう襤褸着に
毛織りのショールを頚から頭へとひと巻きして。
ショールから零れた若草色の美しい髪が肩から波打ち、地面へと流れ接するも頓着する様子が無い。
俯きがちに貌は見えぬけど、微睡んでいるのか。ゆらふわと頭が時折揺れる様子は何となく楽しそうですらある。
本来痩せている筈の土は、女の素足の乗った場所のみに下草が繁茂し、ぼぅやりと白い小花が咲いていた。
その周囲を、夜であるにも拘わらず淡く燐光を放つ夜光蝶が数匹飛び交うは、──何処か浮世離れした景色にも。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区 空き地」にアキアスさんが現れました。
■アキアス > 貧民の暮らす区域をふらふらと歩く男。
気分良く酒精を浴びたようで、赤ら顔で路地を歩いていく。
片手には土産とばかりに酒瓶まで持って。
この辺りをそうやって無防備に歩いていればすぐに物盗りか何かの餌食になりそうなものだけれど、
そうはならないのは男の風貌のせいか、それとも出自か何かであたりに馴染みがあるからか。
気ままに脚を進めるうちに拓けた場所にと迷い込み、そこに相応しいような、そうでないような。
不可思議な光景を見つけては、瞳を細めて。
「……はァん? ちっと飲み過ぎたかぁ……?」
襤褸を着ている女というだけなら珍しくはない。
貧民地区で客取りをする妙齢の娼婦も見ない手合いでもなく。
ただ、襤褸を着ていても貧民らしからぬ雰囲気の女ともなれば珍しい。
深酒が過ぎたかと頭を数度振り、見えているのが妄想やら幻覚、見間違いでなさそうであれば、
むしろ楽し気に歩み寄ろうとしていって。
「ぃよう。お嬢ちゃん、珍しい売り方だなぁ?」
彼女の足元やら気配やらに、自身の中の淫魔は普通の人間に非ざる様子を見取って警戒を囁いてくるが。
それよりも興味が勝ったようで、娼婦と見做したふうに、声をかけていく。
■フラゥラ > 男の見立ては恐らく、間違っていない。
襤褸を纏う娼婦は多々いるのだ。きっと酒瓶片手に歩いてきた大男に、色目を投げた商売女だって道すがらいた筈。
だが、───何かが違う。
娼婦じみた露出の襤褸を纏い、頭部をショールで巻いて容貌を隠していても。
何処か存在がちぐはぐで、深酒に見る幻覚とでも思った方が、しっくりくる女なのだ。
沫雪のよに、ぽつぽつと足元に咲く小花。女の足元のみに薄く繁る叢を踏み拉く、寒中の裸足。
ひらひらと舞う蝶数匹と───ほんわりと場に漂う、蜜のような甘い馨り。
「────────────……」
女が貌をあげた。きっと男にも漸く表情が窺える筈。
印象は───脂ののりきった妙齢の、所謂、大人の女だ。
けれど、その茫洋と虚ろな眸は、返答をするでもなく先ず、男の容貌に留まった。
上背高い、その面差しを、ぼんやりと眺める事、数秒、数十秒。
たっぷりとした沈黙のあとに。
「 ふふ。 おひさまが、とても、きもちよいの。」
ふんわりとした口調にて、どう考えても時刻にそぐわぬ頓珍漢なことを言うのである。
なにしろこの女。白昼からずっと此処に留まっているのだから。
■アキアス > 馴染みの娼婦の秋波に乗るかどうかと考えながら歩いてきた先。
そこにいた、この場に相応しいようでそうでない相手。
恰好とは違い纏う雰囲気はどこまで妖しく。
ただの食い詰め者の娼婦というふうではないその相手を観察するよう不躾に見遣って、
鼻腔を擽る甘い香りに、場違いに舞う蝶に、それぞれ気付きながらも黙殺する。
そうして、此方に向けられた顔は成熟した女のもの。
こちらを向いているのに、こちらを見ているのかどうか怪しいような視線を受け。
返らない返答に、いよいよ踵を返すべきかと、悩んだ折に、返ってくる反応。
その言葉に、拓けたそこから空を見上げる。
すっかり陽光の気配は遠ざかり、当然彼女の言う〝おひさま〟は見えることはなく。
「――……そぅな? じゃまぁ、その気持ち好ィのを、分けてほしいもんだねぇ?」
時折、言動や行動の怪しい娼婦くずれが居もする場所でもある。
高貴な出自から転げ落ちたり、想像するも面倒な辛い目にあったりで心の均衡が保てなくなったもの。
そういう手合いの物言いにも似ているけれど、彼女の気配はそれとも違っていて。
それでもそんな相手に興味を惹かれて仕舞えばにへらと相好崩し、
相手の言葉に頷き同意を示しながらに、彼女に手を差し伸べてみる。
娼婦なら手を取り買われるか、断ってくるか。
そうでなくとも、無警戒に誘われてくれるなら、適当な安宿に連れ込んでしまおうと。
――もっとも、こちらが惑わされる側ということもあるだろうけれど、それはそれ、という思いで。
■フラゥラ > 空を見上げる男を、女は見上げる。
男を見ているような、──男を通り越し、夜闇すらも透過した先の“青空”を視ているかのような。
もしかしたら、場に残存する陽の粒子を視ているのかもしれないけれど。
そんなこと誰も知る由もないから。
「 ───、───……… 」
向けられる言葉と笑みに、柔和な面差しが、しどけなく唇を綻ばせた。
笑みには笑みで返す。そこは理解しているとでもいうふうに。
小頚を傾ぐ。けれど言葉は深く理解していないとでもいうふうに。
少し傾いだ体勢に、ショールの解け目から覗く深い胸の谷間と、真白い無防備な膨らみ。
その全ては、成熟した女のものだ。
「 …………きもち好い、がほしい? 」
だが、その言葉は拾った。囁くように問うてから。
差し出された手に手を重ねる娼婦の振る舞いは覚えぬ代わり。
「だぁーーーーー……… っこ。」
両腕を伸ばし、強請る。如何にもユルく双眸細めながら。
■アキアス > 振る舞いは、世の営みから零れ落ちてしまった者に近しい。
そう感じながらも、そうではないのだろうと、半ば本能的に確信がある。
元の位置からズレた、のでなく。彼女は元より、彼女がいるべき場所に居るのだろうと。
そんな相手を忌避しなかったのは、単なる興味もあるけれど。
襤褸に素足。そんな姿で、庇護する相手も見当たらないそこで。
痩せこけるでなく、むしろ雄を誘うような肢体を湛えているのが、
褪せた衣服の合間からちらりと覗くから、というのも理由の一つだろう。
「ああ、欲しいなぁ。……お。よし、よし。じゃ、行くかねぇ」
こちらの言葉は理解されているのかどうか。
笑みを返してきながら、小首をかしげ。それから、抱っこ、と。
幼子のような調子で強請る彼女の身体を、望まれるままに横抱きに抱き上げる。
彼女がどういう手合いなのかは、これからゆっくり探ればよいと。
興味と欲とをふつふつと膨らませながらに、適当な宿へと、路地を引き返していって――……。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区 空き地」からアキアスさんが去りました。
■フラゥラ > 伸ばした腕を受け容れる男の剛腕に、女は、また無邪気に笑った。
肩から零れ落ち、地面に落ちたショールを頓着もせぬままに。
夜風に冷えた長い若草色の髪を、ふぅわりと靡かせて、女はその両腕で男の首を柔く抱き。
幽幻の如くに咲く白い花と蝶を置き去りに、連れられてゆくのである───。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区 空き地」からフラゥラさんが去りました。