2023/12/02 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にイェフィムさんが現れました。
■イェフィム > コツコツコツ、と、ゆっくりとした足取りで貧民地区を歩く影が一つ。
途中でチンピラに絡まれたりしたが、そういう奴はズバッと切り捨てておいて。
きゅっと縛ってしょっ引いてきたころにはお腹がぐうと鳴っていた。
「……はぁ、さぶっ、やっぱこういう日はきゅっと一杯に限るよな…。」
仕事中なのか仕事終わりなのか、そう呟きながらてくてくと歩いて、
ギィ…、と音を立てて酒場の戸を開いて中に入っていく。
さぶさぶ、と手をこすり合わせつつ、カウンター席に歩み寄っていけば、
そこに腰をかけてエールを注文し…。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にヴァンさんが現れました。
■ヴァン > 酒場の親父は銀髪の男と話をしていた。
どういう関係なのか、親父はへこへこしながら男へ金が入っていると思しき小袋を差し出す。
男は当たり前のように受け取ると紐を緩め、中から硬貨をいくつか机に置く。それから、新しい来店客へ顔を向けると目を細めた。
「おや……誰かと思えば、ルクス家の嬢ちゃんか。騎士になったと聞いていたが……」
男は少女に見覚えがあるようだった。彼女が同じとは限らないが。
親父にスタウトと告げると、他にも空いている席があるのに少女の隣へと腰掛ける。
彼女の所属は自分のいる所ではなかったはずだが、いささか自信がない。
古巣に誰が入り出て行ったという情報は、出向している間は意識しなければ入りづらいからだ。
視線を少女の肩、ついで胸へと移して、所属や階級を示す紋章を探す。
一般的には制服でどの騎士団に所属しているか見分けるが、昨今は若者を中心に制服を独自にアレンジする者もいる。
それに騎士団に属していない騎士はそもそも制服が存在しない。そんな時には紋章・徽章が役に立つ。
■イェフィム > サラリと銀髪を揺らしながらカウンターに歩いていき、
特に先客については触れず騒がずにいようと思っていたのだが…。
「……チッ、その呼び方はやめろ。
せっかくの酒が不味くなるだろうが。」
きゅ、と眉間に皺が寄った。
ただでさえ家のことを話すとなると機嫌が悪くなるというのに、
そこのお嬢ちゃんだと茶化されれば機嫌は急降下するに決まっている。
「そういうアンタは…。
なんだ、神殿の方の騎士様かい。
俺になんか御用ですか?俺はあいにく仕事終わりなんだが。」
機嫌悪そうに眉を寄せたまま、少女はくい、と酒を煽った。
外の気温で冷やされた身体が多少温かくなるのを感じつつ、
胸元に向けられる視線にピクリとまた眉を寄せる。
そこにはどこの所属らしい紋章はついておらず、
せいぜい見当たるとしたらルクス家の紋章が一つ、
ついているくらいだろう。
■ヴァン > 「そうは言われてもな。人間、所属や行状と関連付けて覚えられるもんさ」
不機嫌そうな様子を気にする風もなく肩を竦める。
少女より幾分か遅れて供された酒を手に取ると、渇きを潤すように飲む。
「おや……よくわかったな。
用ってほどでもないさ。挨拶ぐらいしようと思ってね。
あとは……ちょっと聞きたいことがあった。耳にした噂が事実かどうか」
神殿騎士と言われると、意外そうな表情をする。
男のそれは服ではなく聖印に示されている。デザインから神殿騎士団であるとわかる。装飾があるのは聖騎士級、部隊長以上の証。
家の紋章だけがついている彼女の服を見ると、少しおかしそうに笑った。
酒だけというのも味気ないと思ったか、つまみをいくつか注文しつつ。
■イェフィム > 「チッ…、面白くねぇ。」
みゅ、と眉間の皺が深く刻まれる。
どうやら本気で嫌がっている様子だ。
そんな忌々しい気持ちを振り払うように、
ぐい、と安酒を煽っては大きく息をついた。
「用じゃないなら挨拶は不要だ。
そこらへんの貴族と違って挨拶がないだけで機嫌悪くしたりしねぇし……噂?」
神殿騎士の男を見つめ、いつも通り酒を傾けている。
周りの男たちは「なんだ。」「喧嘩か?」と、
興味本位でこちらを見ている様子だが…。
少女はそれよりも続いた言葉に、
最近はそこまで噂になるようなことをしただろうかと首を傾げた。
■ヴァン > 「噂ってのは……貴族の娘が貧民地区を中心に遊び歩いてる、ってやつだ。
それも……こういう店の一階だけじゃなく、二階にもあがってるとか」
遠回しな言い方だが、酒や博打といった事だけでなく色事にも関わっていることを伝える。
「貧民地区だと君のような子は目立つんだ。顔だちなり、服装なり、な。
特にまっとうな騎士は貧民地区になんか用がない。だから、俺の耳に入ってきた」
実際には噂というほどのことでもないのだろう。人々が口にした内容と少女の現状が偶然合致しているための推測。
周囲の男達には気にするなとばかりに軽く手を振った。
「だから何だ、って訳じゃあない。
ただ、疑問に思ってんだ。俺は慣れてるが、ここはあまり居心地がいい所だとは思えないから」
少女の出生まで男は知らないようだった。
立ち入ったことを聞こうとしているのは理解しているのか、視線を目の前の酒にずらす。
■イェフィム > 「ん……ッ。」
軽く器官に酒が入りそうになった。
そして軽く咳き込んだ。
その様で自白しているような気がしなくもない…。
「……んぐ…。
まぁ、俺に限らずひねくれ者はいるだろうから…な…。」
ぐい、と酒を煽りながら、少しばかりばつが悪そうに目線を逸らす。
遊び歩いていると言われて、速攻で否定できないのが証拠のようなものだ。
それにこのあたりでも色々と“やらかして”しまっている。
「……そいつも慣れてるのかもしれねぇぞ。
貴族みたいなきらびやかな世界より、こういう場所の方が。」
出生までは知らぬ様子の男に、ぽつりぽつりとつぶやくように告げた。
短い時間とは言えど、生まれはこの街、そしてそこで痛い目も見た身。
ふは、と少しばかり酔いの回り始めた口は、いつもよりは軽くなっている。
■ヴァン > 咳き込む姿に苦笑する。
「なるほど? 別人か。そいつは悪かった。てことは、君みたいなのがもう一人いるんだな。
こういう人目のある所や、路地裏でチンピラ数名に囲まれてやられてた、ってのを聞いたんだ。
このあたりじゃ日常茶飯事とはいえ、君も気をつけた方がいいかもしれない」
男の耳にした情報はそれなりに確からしいもののようだ。いくつかの情報を続けて列挙した。どれも少女の身に覚えのある内容か。
ぐ、ぐ、とスタウトを呷る。飲み干すと、長く息をついた。
「確かに上流階級の生きづらさ、不自由さに比べるとこのあたりは自由だな。
混沌としているが、力さえあればなんとでもなる。……それがないと地獄だが。
とはいえ、いきなりここってのは大変そうだ。貴族のドラ息子も、まずは平民地区で慣れると聞くが」
男は店の親父に視線を向けるとにこりと笑ってみせた。親父はひきつった笑みを浮かべ返す。
ここにも力の有無が現れているようだった。
■イェフィム > けほけほ、と軽く咳き込むと、うっすら涙目になりながら。
「そういうことも多々ある場所だからな…。
気を付けてはいるよ、いつも。ご忠告どうも…。」
色々と身に覚えがありすぎてつらいところ。
つい、と視線を逸らしたまま、ごまかすように店の親父につまみを注文している。
くいくい、と少女にしてはいつもよりも飲むテンポも遅くなっていて…。
「地獄ね…はは、本物を見たことが無いから何とも言えんが…。
俺はここは悪い場所だと思ったことはねぇな…。」
そう思っているのは生まれた場所だからか、
それとも単純に自分の性質に合っているからか。
ちらりと男と親父の様子を見て、ここにも力関係があることを悟り、
やれやれや大変だな、と少しばかり親父に同乗してみたりした。
■ヴァン > かわりのスタウトを注文しながら、少女の言葉に頷く。
「スラムでも戦場でも、どんな所でも慣れればそれなりさ。逆にこれまでいた所が居辛くなることもある。
君は――順応するのが随分早いようだ」
男は少女が貧民地区に出入りするようになったのは騎士になってからだと思い込んでいるようだ。
やや驚いたような表情を浮かべる。
「武力、魔力、いろいろあるが……俺と親父さんのは金の力だ。
抱えてた借金を一本化して、俺に返してもらってる。俺も商売だから、いい仕入れ先を紹介したりメニューを提案したりな。
他には多少の無理を聞いてもらって、その分借金を軽減したり。あと何か月だっけか?」
冗談めかして語り掛けると、親父は両手で答えを示した。もうすぐだな、とうそぶいた後に少女へと視線を向ける。
「しかし、残念だ。遊んでるのがお嬢ちゃんなら上でお相手してもらおうかと思ったんだがね。
こんな所に来る不良とはいえ、そこまで過激なことはやらないか」
口ぶりから察するに、本心では思っていない言葉だと伝わるだろう。からかうだけの、タチの悪い言葉。
■イェフィム > くい、くい、と、相変わらず少しばかり遅いペースで酒を傾けて。
つまみに、と差し出されたチーズを指先で摘まんで齧る。
「……そりゃ、…まぁ、縁があったからな。」
驚いたような顔を見ることができず、
つい、と視線を逸らしたままで、ぽつりとつぶやいた。
「知力を使ってうまく遊ぶガキもいるくらいだからな。
…へぇ、そちらは色々やっているようで。
親父さんもまぁ、そういうことならあきらめるんだね。」
視線を向けられれば、一瞬きょと、と目を丸くしたものの、
すぐに続く言葉には思わず下腹部を片手で抑えて。
「―――――ッ!!!
じょ、うだんにしちゃ笑えないな…。
どうせ揶揄ってるだけなんだろうが…。」
ぎゅ、と今にも疼きだしそうな下腹部を抑え、
少女は僅かに赤らんだ顔で男をにらみつける。
■ヴァン > あまり酒に強くないのかな、と減りの遅いエールを見ながら。
「他の力をうまく受け流せればそれも良い。逃げ足が遅くて暴力に晒される、なんてのもある。
金は強い訳じゃないが、使い勝手のいい力だ。獣には伝わらんがね」
下腹部を抑える様におかしそうに笑う。悪い悪い、とこれもまた口先だけの言葉を並べて。
しばらく笑って喉が渇いたのか、運ばれてきた一杯を口にする。
赤らんだ顔は酒か羞恥か、どちらにしても面白そうで。
「もちろん冗談だが――状況が整っていたら転がっている金貨を拾うぐらいのことはするぜ?
たとえば――さっき親父さんから受け取った金を使って、今ここで飲んでる連中を君に向かわせることができる。
親父さんは借金をある程度チャラにしてやる、って言えば黙って従うさ。それに、今君は大分酔っているみたいだからね」
掌を上にして、軽く肩を竦めてみせる。今のところ、行動を実行に移す素振りはない。
「――家へのあてつけか?」
出し抜けに口にした。貧民地区で遊び歩いていることについてだろう。
男も出奔した経験があるだけに、家族の不和について多少は理解しているつもりだ。
彼女の実態は男の想像をはるかに超えていることは知りようもないが……。
■イェフィム > 今日だけである、とは…言えない。
色々と痛いところを突かれて、ぐうの音も出てこない。
「なるほど、そして今まさに、力を持っているお兄さんが目の前にいるわけだ。
此処にいるのはちょうどよく、金の力に従ってくれそうな連中ばかりだし。」
ぎゅ、と、左手で押さえた下腹部。
その下で紋様が浮かび始めないか、少女はひやひやしていた。
男の面白そうな笑い顔、それに再び眉間の皺を深くして。
「………チッ。
なんつーか、結構性格悪いだろアンタ。」
連ねられる言葉に眉間の皺を刻みつつ、
忌々し気に舌打ちを一つ。
「…ま、似たようなもん。」
出し抜けに口に出された言葉に、つい、と遠くを見て呟く。
家族の不和と言ってしまえばそれまでだが、
実際はそんな可愛いもんじゃない。
少女を辱めて日々楽しむ義両親の姿を思い浮かべ、
チッ、と今日何度目かの舌打ちを零し。
■ヴァン > 「富裕地区じゃそんな金より醜聞の方が怖い。平民地区なら衛兵が怖い。
相手の弱点をつけたなら力はより強くなる」
遠回しに貧民地区の危険さを伝えるが、そんなことは彼女は百も承知だろう。
左手で身体を抑えていることを不思議そうに眺めたが、それ以上は踏み込まなかった。
「あんまり褒めないでくれ、照れるだろう?
まぁ……さっきも言ったが今日は挨拶みたいなものだ」
おそらくこの男は、教会の司祭や学院の教師が言う「人が嫌がることを進んでやりなさい」という言葉の意味を取り違えているのだろう。
続く言葉は、次会った時はどうなるかわからない危うさを含んでいた。
「そうか。それならいいが――
行き過ぎて、自分自身の身を滅ぼさないようにな」
似たようなものという返答に、老婆心ながら口にする。
二杯目を飲み干すと席を立った。
「それじゃあ、邪魔をしたな。運が良ければ――あるいは、悪ければまた会おう」
軽く手をひらひらと振ると、酒場から立ち去っていく。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」からヴァンさんが去りました。
■イェフィム > 「………なるほどね。
そういうことなら余計に夜遊びがやめられなくなりそうだ。」
親への軽い嫌がらせ、と言ってしまえばそれまで。
少女の行いを咎めるものでないならば、ぐい、とエールを煽って。
今日は辛うじて大人しくしていてくれている淫紋にほっと胸をなでおろし。
「…ほめてねぇ。
うー、めちゃくちゃムカつく…。」
多分、自分にとって相性が悪い…、よく言えば手玉に取られやすいタイプの相手なのだろう。
それを悟ればぐぬぬ、とうめき声を漏らして。
「……そりゃどうも。
ご忠告痛み入るよ…。」
ひら、と半ばやけくそ気味で手を振り返すと、
少女はしばらくそこで酒を煽ってから酒場を後にした。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」からイェフィムさんが去りました。