2023/10/29 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にクレイドルさんが現れました。
■クレイドル > 貧民地区。通り道。
日暮れを迎えてもまだ昼間の熱波の残滓はこびり付いていた。
体を撫で付けて過ぎ行く生温い風が吹いている。
その風力の大半は遮るあばら屋によって削られ、納涼どころか不快感を煽る軟らかさしか無い。
此処は馬車が行き交う事が出来るぐらいの道幅である、往来からは外れた路地裏の方に続く道となる。
暗がりが幅を利かせだす時刻に人通りは殆ど無く、だからこそ絶えずそこから聞こえ続けている音に気づく者はいない、
その道の真ん中、舗装されていないのを良い事に剥き出しの土壌を掘削した大きな竪穴が開いていた。
そこを出所に、ざく、ざく、と、繰り返される音が立ち昇り続けている。
いや、不意にそれが止まった。穴の中から放り出される土が縁にへと積み上げられて行くのも。
そこからひょっこりと顔を覗かせるのは、一人のトゥニカを身に纏ったシスターであった。
「ふふふ…♪凡そ深さは6m程度…ちょっとした大人でも這い出るのは苦労する深さですわ…♪」
ウィンプルまで被った泥土で汚れてしまっている。
その手には墓掘りに使うかのような大きな円匙。
そして今言葉にした通りの深さだというのに穴淵にへと手をかけると、そのまま軽々と跳ねるようにして穴の外にへと飛び出して来てしまう。
「労働をすると良い汗をかきますわね…♪後はただの無益な穴掘りに終わらず、成果が出れば言う事も無し…♪」
ふ、と、額を拭う手の甲も土埃だらけ。
しかし、月明かりの差す下でその汚れが少しずつ消えて行く。
まるで衣装や肌の下にへと飲み込まれるように。
僅かな時間を数えるだけで肉体労働に従事していた証は跡形も無く、無くなってしまう。
■クレイドル > それだけではなく、目の前も穴も塞がっていた。
より正確に言うならば長く垂れ込んでいるトゥニカの裾の一部が延びて穴に覆いかぶさり。
周囲の土の色彩と一体化して一見見れば何も見えないように仕立て上げてしまっている。
こんもりと盛り立てられた土饅頭も綺麗に均され、穴掘りの痕跡すらも均一な路面に呑まれた。
「大きすぎる幸いよりもちょっとした幸運を…♪あんまりに丸見えだと疑心暗鬼ですものね…♪」
懐に手を入れて取り出すのは金光りする僅かなゴルド貨幣。
大金!とまでは言えないが、明日ちょっと贅沢な食事は出来るかも知れない程度の値打ち。
きらきら輝くそれらを、街中に拵えたフォールトラップの上にへと投げて撒く。
ちゃりん、ちゃらん、と、ささやかに響き渡る金音は巡り回り。
程無くしてカバーをされた穴の上にへと落ち着いた。
貨幣の軽さ程度ならば悠々と耐えるが、もしも人間ぐらいの重さの人間がこの貨幣を拾いに来たならば。
途端に穴はそこに正体を表し、憐れな犠牲者を一口に食べてしまうだろう。
「後は時間の解決を待つばかりですわ…♪」
そそくさと仕掛け人側であるシスターはそのまま現地から少しだけ離れる。
こういった場所では珍しくも無い壊れかけた廃材の積み上がった物陰に屈み込んで隠れ。
後はどすん、だとか、それに誰かのあげる驚いた悲鳴を待ち構えるばかりとなった。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」からクレイドルさんが去りました。