2023/10/24 のログ
■サテラ >
「そうだよ、人間が感染したら死んじゃう事だってあるんだから……?」
へらへらとした様子と違う、目元の緩んだ優しい表情に、首を傾げる。
あなたもね、と言われると、褒められ慣れてない事を教えるように、恥ずかしそうに目を伏せて薄っすらと頬を染めた。
「あ、足ね!
ちょっと見せてもらうけどいい?」
それは裾を上げても大丈夫かと言う確認で。
同時に、自分の懐を探って、小瓶を取り出した。
乳白色のトロリとした液体が入っている。
「はい、これ。
わたしがお世話になってるお医者さんから貰ったお薬。
抵抗力があがるし、体力も回復すると思う。
少し、副作用で体温が上がって熱っぽくなるかもだけど」
熱は免疫が外敵と戦っている証拠でもある。
とはいえしかし、彼女には知る由もないが、魔族謹製の魔法薬である。
甘く濃いミルクのような薬を飲めば、たしかに効果は覿面だろうが、予想外、予想以上の効果があらわれてしまうかもしれない。
が、そんな事は手渡してる本人すら理解していないので、なんの邪気もなく、親切心で、彼女の手に小瓶を渡すだろう。
■ティアフェル > 「そうだねえ……犬に咬まれて死にたかないですなあ……」
どこか少し他人事のような口調で返事をしてから、ぽり、と頬を指先で掻く。
毒素を抜くのも傷口を塞ぐのもどうにでもできるという余裕から、少し気のない態度になってしまうが、ちょっと失礼かと、表情を改め。ごめん、と短く謝罪し。
頬を染める反応に、あ、かわいい……とほっこりし。
「あ……うん……大丈夫。
ありがとう……ふふ、ほんとに優しいね、あなた」
通りすがりの他人の傷なんかにそんなに構うなんてとその優しさに和んだように表情を弛めては、同性だしスカートなんかいくらでも捲ってくれと頷いて眺めていると、取り出された小瓶を、ぱちぱちと瞬きをしながら見つめ。
「へえ……強壮作用がある、ってこと、かな……?
いただいていいの? じゃあ、遠慮なく、ごちになります」
一見するとミルクのような不思議なお薬。
手渡されたそれを受け取って目の高さに挙げて持ちしげしげと眺め。
蓋を取って匂いを嗅いでみる。やはりミルクに似た香りに小首を傾げつつも。
まあ、死にやしないだろう……とこくり。
「あ、なんか甘……やっぱりミルクみたい……」
お薬、というか本当にミルクなんだろうか? それならそれでいいか、とこくこくと飲み干して、っぷは、と息をつき。
しばし。
「………あ……ほんとに、熱く、なってきた……
って。え、大丈夫? これ……? むらむらしてきたりしない? さすがにそれは恥ずい」
服んで少し経つと身体がぽかぽか熱を持ってきて頬を火照らせながら襟元を開けてぱたぱたと上下させて熱を逃がしながら。アホ毛を悩まし気に揺らし。
■サテラ >
「優しい、のかなぁ。
目の前に怪我してる人がいたら、ほっとけないでしょ?
それじゃ……あぁ、痛そう。
綺麗な脚なのに傷が残っちゃったら大変」
了解を得られれば、そっと裾をまくっていって、彼女の怪我を見て眉を顰める。
犬歯の痕がくっきりと残ってしまっていて、痛々しかった。
「……うん、大きな血管は傷ついてないね、よかったぁ。
その薬でとりあえず大丈夫だと思うけど、止血はしないとね」
そういうと、汚れ一つないハンカチを懐から出して傷口に当てる。
そして、自分の服の裾を躊躇いなく引き裂くと、彼女の傷口をしっかりと縛った。
素直に薬を飲んでくれればほっとするものの。
彼女の反応に少し困惑した。
「……ん、え?
催淫作用は、無いと思うけど……むらむらするの?」
首を傾げつつ、そう言えば、自分は紅茶に混ぜてもらって薄めて飲んでいたような……などとおぼろげに思い出したりしつつ。
「あー、えっと……原液で飲んだらちょっと濃かったりするの、かも……?
あ、あははー……ごめんっ、大丈夫?
気分悪かったりしないっ!?」
ぴたん、と両手を合わせて謝りながら、熱が上がり過ぎていないかとか、体調を気にしつつ、彼女の額に手を伸ばして触れるだろう。
幸い、直接的な催淫作用はなく、身体の回復に効果てきめんなのは間違いないものの。
体の頑丈な魔族が服用しても、意識を鈍らせる催眠のような副作用もあったりする。
しかも薄めて服用するのが本来な上に、人間に使う事は想定されていないのだった……。
とはいえ、重篤な副作用など命に係わる事は怒りえないだろうが。
「うわーん!
ごめんね、うっかりしてたぁっ」
彼女の体調を気遣いつつ、なぜか助けに来た方が泣き出しそうな様子になっていた。
■ティアフェル > 「そうやって、さらっとほっとけないってのが優しいってことだと思いますよ。
えへへー。実は結構ね。痛い……
いやそんな、大層な脚ではないけど、照れますな……」
野犬の牙が喰い込んだ痕。だくだくと流れる血。
やせ我慢中だが、痛いのは痛い。
ただし食いちぎられまではしておらずそこまで大怪我ではないので耐えられる範囲ではある。
「ん、歩けない程でもないし、平気。
手当してもらうの、久し振りだわあ、なんか嬉しい……あ、ちょ…でも、服破いたりしちゃ……あーぁ……台無しになっちゃった……」
服の裾を破きまでして処置してもらうと、傷口を縛る感覚に一瞬「痛…」と表情を歪めるが、それよりも衣服の裾が包帯になってしまった……。
さすがに申し訳ないとともに、今さらヒーラーですとは絶対に云えなくなった。
「いや、今んとこ熱くなってるだけだけど……。
大丈夫だよねっ…? いきなり襲い掛かる色魔になったりしないよねっ…?
この辺じゃ多いんだよそういうお薬さあっ」
貧民地区でもらったお薬はちょっとそういう方面の危険性大である。
しまった、普通に飲んじまった、一気に!全部!
くれたのがいい人だったからつい…!
頭を抱えるが、まあ、今のところそういった状態異常はないので、はらはらしつつも。
「えっ、濃い…っ?! 濃いのこれ…?!
た、確かに、え…めっちゃ汗、出てきた……熱……熱い……っ
き、気分は…大丈、夫……ただ、ちょっとぼうっとする……」
原液をイッキしてしまったらしい。知らなかったとはいえ、体温が急上昇してきた。
はあ、ふう、と汗をだくだく流しながら熱に浮かされたような息継ぎをし、触れられた額は高熱を出したかのように熱い。
熱で汗を掻き水分が失われているせいか喉が渇くしくらくらしてきて。
「まじかー……うっかりかあ……うぅわあ、この状況怒り辛ぇ……
み、水……水、欲しい……お水ぅ~……」
はあふうしながら、身体から抜けていく水分を欲して砂漠の遭難者のように水を求めて力なく伸ばした手をふるふるさせ。
■サテラ >
「そんなお薬が出回ってるの!?」
びっくり。
人間の街こわい。
「だ、だいじょうぶ、だと、思う……」
目を逸らしてしまう。
だって自身がないのだもの。
全力でおおポカをしてしまったのだもの。
「あわわわわ!
水ね、お水!
すぐに用意するからっ!」
そう言って、彼女の前で手を器のように。
心の中で自然界へ語り掛けて、水の精霊の力を借りる。
ふわりと、二人の間に涼しい風が吹くと、器にした手の中に水が溢れ出した。
「ほらっ、お水、冷たいお水だよ!
たくさん飲んでいいからねっ!?」
そう言いながら、手の器から湧き水のように綺麗な水があふれ続けている。
■ティアフェル > 「半ばジョーシキだから……むしろ何故知らぬ……」
よく、無事でいたものだ、とその強運に感心したい。
思ったよりも無知な様子に心配そうな顔をし出すのはこちらで。
「………なら何故目を逸らすのだ……」
まじで大丈夫なのか、と思わず低い声で訊いてしまう。
そして身体が芯から火照る。サウナに放り込まれたように熱い。
このままでは整ってしまう。
「………すぐに用意、って……
ま、魔、法……?
今度は本当に飲んでも平気なやつ、だよねえ……?」
飲んだら余計渇くとか熱くなるとかそんなんなかろうな、と懸念も過るものの。
手を水を溜めるよう曲げるその中に滾々と湧き出す清水。
しかし、喉がカラカラで疑ってる余裕もなく、その手の中に顔を突っ込むようにして湧き出す水を含んでごく、と喉を鳴らす。
ごくっ、ごくっ、ごくっ、ごくっ
天然水のように上質な水を渇いた喉は夢中で吸い上げて。
ごくごくと喉を鳴らしながらひたすら嚥下すると。大分潤って。
「っぷはー……い、生き返ったぁ………ぁ、ちょっと、汗も引いて、きたかな……? 血も、止まった……?」
薬を服んで汗を大量に掻いて水分をたっぷり接種したら整っ……いや、落ち着いた。
サウナ終わりのようにすっきりしてきて。
■サテラ >
「うわぁぁん、ごめんねぇぇぇ!」
彼女の落ち着いたらしい様子を見ると、半泣きになりながら抱き着くのである。
どうして助けに来た方が感極まって泣いているのだろうか。
「落ち着いてよがっだぁぁぁ~~!」
べそかいて抱き着くのも恐らく立場が逆なのではなかろうか。
でもうっかり大惨事にしてしまったかもしれないと思えば、何とかなってホッとして感極まっちゃったのであった。
「うぅ、ごめんね、ほんとにごめんねぇ……。
いつも飲むとき、紅茶に少しだけ混ぜて飲んでたの忘れてたよぉぉぉ」
びええ、と泣きながら、無事だった彼女に抱き着いて、よかったぁよかったぁ、と繰り返すうっかり魔族だった。
■ティアフェル > 「いあいあ……って、うおっとっ……!?
や……大丈夫……ほんと、まじで、だいじょぶ、だから……泣かんとってか……これ完全にわたしが泣かしてる図じゃん……」
ふー。何とか整っ……いえ、落ち着いた…と息を吐き出して汗を拭っていたら、謝りながら抱き着いてしかもべそまでかく彼女に。
ぽんぽんぽんぽんっ、と宥めるようにその背中を叩いて、おーよしよし、大丈夫だからねー…と慰めるような声をかけ。なんだか立場が逆。
とりあえず、非常に人情家で優しい性根の娘だということはひしひしと理解した。
世の中棄てたもんでもないよなー。ドジっ子だけどー、とちょっとほっこりする。
「よーしよしよし。いい子だからもう泣かないでぇー?
いや、あるよねえ? うっかりとか。あるよねえ? 分かる、分かるよー?
それにほら、もう大丈夫だし、手当までしてくれたし、全然、気にしないでっ。
ありがとね、お陰で超助かったしっ」
女の子の身体は何せ柔らかいので抱き着かれても心地よいので問題ない。
よしよしと年下にするように頭を撫でながら、助けてもらった親切への感謝を伝え。
良い子ですなあ…と和むひととき。
■サテラ >
「あぅぅ、うっかりで大変な思いさせちゃってごめんなさい……」
ぐずぐず、と背中をポンポンされながら孟反省するのである。
「ひぐ、大丈夫そうでほんと良かったぁぁ」
ずびずびとしつつ、ゆっくり彼女から離れるだろう。
そして、『本当に大丈夫? 変な気分したりしない?』と心配そうにおろおろするのだ。
「ごめんね、普段から使ってたから、すっかり大丈夫だと思ってた……」
目の前で正座して、反省のポーズです。
ほっといたら土下座しそうな勢いの半生っぷりだった。
■ティアフェル > 「や、そんな、大げさな。大変って程じゃないよ……何事かとビビったけど……」
もともと自分が怪我をしていたのが原因なのだから、助けてくれようとした彼女は何も悪くない、と猛省している様子に、お気になさらずと声をかけて。
「うん、もとから丈夫だし。全然平気! 問題ないない。
あ、でも、なんかあったら責任取ってくれるのー? なんてー鬼畜ー」
へらへらとあんまり心配するものでちょっと質の悪い軽口まで叩き始め。
今の勢いならいけそう、などと人の悪いことを考えるが、勿論冗談ではある。
「もう謝らなくっていいってー。こう、人生で掻いたことのない量の汗は出たけど……
それにしても変わったお薬だよね……頂いちゃってよかったのかな?
わたしも一気に飲んじゃって正直すまん……」
効果の程も解らない薬をかぶ飲みしたのだから当人だって悪い。
土下座しかねない様子に、それはさすがに気まず。
汗でびっしょり濡れてはいるが身体がまだポカポカ熱いくらいなので冷えたりはしないままで。
体調的には問題ない。
それよりも貴重な物をもらってしまったのではとこちらもこちらで心配になり。
■サテラ >
「責任っ、取るっ!」
ガバっと顔を上げると本気の顔だったが、冗談だとわかると、顔がトマトのように真っ赤になった。
「……えふん、その、この辺りのお薬じゃなくて、わたしの故郷のお医者さんが作ってくれるお薬だから。
大丈夫、栄養剤、みたいなもので、幾つも貰ってるから」
あはは、と、赤い顔で平気平気、と言いつつ、ほら、と同じような小瓶をいくつか取り出して見せて。
なお、魔族謹製の栄養剤であり、栄養が豊富すぎるゆえに催淫効果もあるという薬剤である。
むしろ一気飲みしたおかげでムラムラするどころじゃなくなったのは幸いだったのかもしれない。
適量飲んでいたら、本当にムラムラしていたかもしれなかったのだった。
「ほんとにすごい汗……あ、でも、いい匂い」
抱き着いたときに染みてしまった汗を何とはなしに嗅いでみる。
女の子のいい香りだった。
「えへへ、でも元気になってよかった。
わたしはサテラ、最近この街に遊びに来るようになったの。
あなたは?
この街のヒト、なんだよね?」
そう自己紹介しつつ、横目と指先で土の精霊を呼び出し。
哀れな猫と犬の命を砂に変え、土に返していたりと器用な面も見せていた。
■ティアフェル > 「お。おぉ……まじかー……この子心配だなー……」
こっちは冗談だったけど、ガチに受けての返答に逆にとても心配になった。
素直過ぎて悪い奴にころっと騙されかねん……と表情を曇らせ。
「へー……故郷の……出身はどこなの? 優秀なお医者さんなのね。
でも、何かお礼しなくっちゃ。甘い物とか好き? お菓子とか……奢るよ。今日はこの成りじゃ……無理、だけど……」
多数所有しているようで取り出された小瓶を確認してそこは安心したものの、何もお返しをしないという訳にはいかかない。
この血みどろのままじゃお店にも入りづらいので難しいが、是非お礼をと好みの確認から。
「あは、泳いできたみたいになっちゃってるよー。
え、ほんと? くさくない? 大丈夫?」
におうっ、と云われたら傷つくが、いい匂いと云ってもらってちょい照れる。
くんくん、と自分でも嗅いでみるが自分の体臭はよく判らないものである。
「お陰様でっ。快調っ。
サテラちゃん? わたしはティアフェル。ティアでいいよ。
この街にふらーっと遊びに来るとまあまあ危険がいっぱいだから気を付けてね。いや、まじで。
うん、出身は違うけど今はここに住んでるよ」
会話しながらも、さらっと魔法で遺骸を供養している様子に、感心したように有能、と称賛、ぱちぱちと拍手して。
■サテラ >
「うぅ……よく馬鹿正直って言われます……」
褒め言葉じゃない事はよくわかっているのだったが。
魔族に生まれたというのに、あまりに真っすぐすぎる性根をしているのだった。
「ああ、えっと、ナグアルって街なんだけど、この辺りじゃ全然知られてないと思う。
友達が転送魔法で道を繋いでくれたから、仕事の合間に遊びに来れるようになったんだ」
などと、本当に素直に全部喋ってしまうのだから、口が軽いというよりは嘘が言えないといった所だろうか。
もちろん、この近辺で地名を出しても身元はバレないだろうと考えての事ではあるが。
「甘いもの!?
うんっ、大好き!
あー……でも、今日の事は、うん、お互い様、と言う事で……」
助けたというには事故を起こしてしまってるので、素直にお礼をされると困ってしまうのだった。
「うんうん、全然臭くないよ?
むしろ……うん、優しくて安心する、好きな匂いかも」
と、ローブに染みた匂いを嗅いで、くすくす、と笑う。
人間の身体を真似ていても、感覚の鋭さは人間以上である。
そんな嗅覚をもっても、不快どころかいい匂いだと言える好みの匂いだった。
案外匂いフェチなところあるのかもしれない。
「ティアフェル、ティアフェル……。
ティア、だね。
うん、心地いい音の名前だね」
しみじみと名前を繰り返して、にっこりと朗らかに笑う。
音の響きが気に入ったのか、何度か名前を呟くように繰り返していた。
「あ、うん、そうそう!
さっきびっくりしたの。
危ないところがある、って友達には聞いてたけど、ヘンなお薬が出回ってるなんて、女の子が生活するには大変そう……えへへ、やめてよぉ」
拍手なんてされると、照れ臭そうにはにかむ。
精霊の力から生み出された小さな妖精を、指先に留めると。
『ありがと』と言ってキスをして、妖精はふわりと光になって消えてしまうだろう。
■ティアフェル > 「あ……馬鹿は酷いと思うけど……一概に「そんなことないよ」って云えない……」
少なくとも真正直であることは否めない。
そんな純真な彼女が魔族だとはまったく予想もできない。
「ナグ、アル……? ふうん……確かに交易はない街よねえ……
どんなところ? 綺麗な街? 素敵な所ならわたしも行ってみたいな」
確かに知らない地名、けれど調べれば解る範囲なのではないだろうか。
勿論魔族の国だなんてことは予想もしておらず、邪推なく興味本位で尋ねたりして。
「うーん、それじゃ、今度お菓子作り過ぎた時とかさ、良かったらもらってくれる? お口に合わなかったら悪いんだけど」
かえって気を遣わせてしまうことになっては申し訳ないが、お裾分けとかそんな程度ならどうかなと考え。
甘い物が好きならもらってくれると嬉しい、という軽い気持ちで小首を傾げ。
「よ、よかった……けど、やっぱりちょい照れるわー。
でも、ありが、と……」
そんな良き匂いかとは思ってなかったが、光栄ではある。
わたしの匂い、大丈夫らしい、と安堵するも、やはり自分では良く分からない。
「サテラ、っていう名も響きのいい素敵な名前だと思うし、似合ってるよね」
名前を繰り返されると少し擽ったい心地になるが、朗らかに笑う表情がかわいらしくて釣られたように、ほこ、と笑みを浮かべ。
「そうだよ、危険がいっぱいよ……特にこの辺無防備にうろついてると三秒で剝かれかねないからね。
いや、お見事な魔法だと思うー……うわっ…すごーいっ、かわいっ」
はにかむ表情も微笑ましくてなんだかほのぼのしていれば、小さな妖精が現れてはかわいくキスをして消えていく様子に目を丸くして、スゴーイスゴーイっと大絶賛。
儚く消えてしまったのはちょっと淋しく思うけれども。
彼女は同じようにふわっと消えていったりしないだろうかと少し心配になりながらも。
「もう遅いし……今日は帰ろっか? 今日は王都に宿を取ってるの? もしそうだったら送るよ、わたしの方が道分かると思うし」
裾を払って立ち上がるとそう尋ねて、転送魔法で戻るならここで別れることになるし、滞在するならそこまで送る、と。一人では絶対帰せない。超心配。
■サテラ >
「うっ……はい、自覚はありましゅ……」
首を竦めてちっちゃくなってしまうサテラだった。
「うーん、交易にくるヒトも少ないからなぁ。
わたしがお世話になってる商会のヒトくらいかも。
セリアス・ストリングスって大人なヒトで、えっと、この街だと『アーレア・ミラ』ってお店を出してたと思う」
実際、サテラの領地(信じられないが領主のようなものなのである)で最も交易のあるのが、彼の人物のストリングス商会だったりするのだった。
「うーん……わたしの領地は良いところだよ、って言ってあげられるけど……。
他の地区に言ったら結構大変かも……?
もし、興味があるなら、えーっと」
少し考えてから、うん、と頷き。
あっさりと髪を一房、風の魔法で切って、また自分の髪でそれを縛って纏める。
「これをもって、そのセリアスさんにわたしの名前を出したら、連れてきてもらえると思うよ。
……あ、でも、あんまりよくないのかな」
自分が魔族だとバレることは気にならないものの。
彼女に危険が無いとも言えないのが、何とも。
「……もし遊びに来たら、まっすぐにわたしの家に連れてきてもらえるように伝えてね?
うっかり変なところに行っちゃうと、うん、多分この街より危ないかも……」
無差別に人間を襲う魔族はほとんどいないとはいえ。
民草全てがそうとは言えないのだった。
「あっ、そういう事なら喜んで!
それと……そうだ、これ。
さっきはちょっと分量まちがえちゃったけど、適度に使えばちゃんとお薬になると思うから。
困らせちゃったお詫びに持ってって?
わたしはほら、いつでももらえるから」
そう言って、甘い栄養剤の入った小瓶を一つ差し出した。
もちろん、少量を適切に薄めて使えば、軽い病気やケガであればすぐに回復するだろうし、疲労回復にも効果てきめんだろう。
……分量を間違えた時の保証はされないアイテムには違いないが。
「えへへ、照れてるティアって可愛いね?
んふふー、名前褒められるの嬉しいなぁ」
と、自分の方は素直に、いっそ無邪気に喜んでしまうあたり、体格も相まって年下の少女に見えるかもしれない。
しかし、街の状況を聞けば、ちょっと困った顔。
「うーん……治安が悪いとは聞いてたけど――え、あ、んふふー。
可愛いよね、妖精さんたち。
でもティアの周りにも、元気な妖精さんがいっぱいいるよ?
きっとあなたの事が好きなんだねー」
なんていうが、サテラの言う妖精は視覚で捉えるには難しだろう。
サテラの関わる精霊や妖精は、純粋な自然の化身であるため、普段は姿かたちを持たないのだった。
「んー、泊るところはあるけど、ティアは怪我してるし、わたしが送るよぉ」
なんて、のほほんと言うあたり、自分に危険があるなんて思ってなさそうに見えるだろう。
そして、超心配されているなんて、当人は全く思ってないのだった。
■ティアフェル > 「ありましゅかー。そうでしゅかー……何と云いますか、残念」
遺憾ながらフォロー不可能。そう判断して己の感想のみに留めた。
「ふーん……アレーア・ミラ? そのお店も知らないなあ……守備範囲にない……」
そしてお店の人のことはさらに知らない。小首を傾げつつも見かけたらチェックしておこうとするに留め。
「わたしの領地……?どういうこと?
え……? か。髪……? 知らない人に髪を差し出して物を頼むのは結構根性要りそうね……まずそのお店に辿り着かねば……」
受け取っていいのか否かも分からず、差し出されていれば反射的に貰ってしまっただろうが。
首尾よく事が運ぶかどうか自信も持てずに悩まし気に首を捻り。
「わたし、冒険者だから多少のことならどうにか切り抜けるとは思うのだけど。治安悪いとか?」
実際に訪問できるかどうかは今はまだ何も分からないけど、まさかの魔族の国だと知ったらさすがに単身無防備に乗り込んでは行けまい。
「うん、それじゃあお菓子を作ったらもらってね。
え、と……いいの? 悪いなあ……お詫びなんて……
でも、せっかくだから……ありがとう」
いよいよヒーラーです、ポーションの類も精製できるんです…とは云えなくなった。
せっかくだから厚意に甘えていただき、その成分には興味があるので持ち帰っていろいろと調べたりさせてもらうことにはなる。
差し出されたそれを大事に受け取って。
「やだもうかわいいなんて、調子に乗っちゃうじゃないのー。
サテラの方こそよっぽどかわいい、美人。眩しい」
小柄だし幼い感じなので年下の少女に見えるし、無邪気に喜ぶ様は純粋にかわいらしい。
真顔でかわいいと断言し。
「サテラはその内剥かれるじゃ済まないことになりそうで不安……
うん、すっごいかわいいっ! ――わたしの周りにも? いるの?
見えないのが残念だけど、そっかあ……へへ、わたしのこと好いててくれるなら嬉しいな」
先ほど見えるようにしてくれたので視たのは始めてだ。でも見えない妖精が周囲に存在しているというなら素敵なことだ。
嬉し気にほこほこ表情を和ませて。
「何云ってんの。送られたら送り返すことになってとても無駄に時間がかかるじゃない。
後、失礼だけど迷子になりそうだし絡まれそうだし心配過ぎる。はい、いいから、行くよ。どこ泊まってんの?」
などと送るという科白を断り、怪我はお陰で平気だし。
独りで彼女を帰したらその後心配過ぎるので、滞在先を訊きだしてそちらへと半ば強引に送迎しようと歩き出すのだった――
■サテラ >
「すっごい良いヒトで、いいお店なはずだから、機会があったら寄ってみて!」
実は店にはいった事ないのだが、彼の青年が経営してるのだからいいお店に違いない、と少々盲目的であった。
「え、うん、わたしの領地。
一応、町の一角を預かってるんだぁ、まだまだ若輩者だけどね。
あれ、そういうものなのかな。
割とよく紹介状代わりに使っちゃうけど……」
異文化バッドコミュニケーション!
女性の髪は魔力を含みやすいために、下手な文書よりも身分証明になる事もあるのだった。
あくまでナグアルでは、だが。
「うーん……治安が悪いところもある、かなぁ」
とはいえ、基本的に無法を働かなければ直接的な害はないはずである。
彼女、ティアが万一やってきても、大きな問題はない……はずだ。
人間も暮らしているのもあり、他の魔族領よりは数倍マシだろう。
「もーっ、ティアはほめ過ぎ!
もーっ!」
ぱたぱたと両手を振って照れる、本気で照れている。
こんなだから心配されるのだろう……。
そして送ってもらった先は富裕層の地区であり、大きなお屋敷であり。
きっと、ティアを驚かせる事になった事だろう――。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」からティアフェルさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」からサテラさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にエレイさんが現れました。
■エレイ > 「──む……」
人気も無ければ灯りもない、月光だけが差し込む寂れた夜の裏通りを、一人のんびりと歩いていた金髪の男は、
脇道から己の前に音もなく躍り出てきた小さな影にふと、足を止めた。
『──ミャーオ』
それは猫だった。暗がりの中でなお黒く、逆に目立つシルエット。
その中で両の眼だけが金色に浮かび上がっていて。
「……なんだ黒ぬこか。よう、見事な黒さだと感心するがどこもおかしくはないな」
などと声をかけつつしゃがみこむと、黒猫は人馴れしているらしく気安く寄ってきて
男の突き出した膝にスリスリと顔や身体を擦りつけて来る。
「……愛想をしたってやるモン特になにもないから無駄だぞ。ってゆーか目ヤニまみれの
汚いツラだなと呆れ顔になる。もうちょっと自分でキレイにすろ」
眉下げてフンス、と鼻を鳴らしつつ猫の顔を見やれば、目頭にこびりつく大きな
目ヤニが確認できて。片手で首根っこを抑えながら、もう片方の手を顔に添え、
親指でぺりぺりと目ヤニを剥がしてやってゆき。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にレンジュさんが現れました。
■レンジュ > コツコツコツ……。
人気のない、裏通りをのろのろと歩いてくる。
今日も一仕事終えて、傭兵を煙に巻いて去ってきたところ。
ちょっとした稼ぎにありつけて、今日は一杯ひっかけようかね、
なんて思いながら歩いてきた先、
こんな貧民地区にしては少し似つかわしくないように思える、
そんな微笑ましい?光景に足を止めた。
「……ねこ。」
可愛い。
言葉に出さずにそう呟き、思わずじっと一人と一匹を見つめてしまうことだろう。