2023/10/23 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にティアフェルさんが現れました。
ティアフェル > 「――死んで!! 死んで! 死んで死んで!!!」

 普段、人を癒し死を遠ざけるような役割を担っている、そんな女の口から奔る声。

 がん!がんがんがん!
 路傍の石で滅多打ちにしているのは一頭の狂犬となった野良犬。小猫を食いちぎってさらに自分の足に咬みついて傷を負わせた。その上、牙も目も狂気に満ちていて喉元にさえ食らいつきかねない。だから、強かに打って、滅茶苦茶に打ち倒して。毛むくじゃらの息絶えた身体が繰り返す、びく、びく、とした痙攣さえ収まった頃――。
 やっと、血まみれの手を下ろした。

「っはぁ……はぁっ……、は……
 死んだ……?」

 人気はない。街頭も明滅して切れかかっている薄暗い荒れた路地で倒れ転がる野犬に馬乗りになるような体勢。
 野犬の血にべったりと濡れ赤く染まった石をまだ握ったままぽつり、洩れる独語。
 

 口から血反吐を垂らして、もう痙攣すらしない真っ黒な狂犬に生命の光などカケラも存在してはいなかった。

 頬にまでべった、と飛び散った血をそこかしこに張り付けて肩で息をする、その双眸は無意識に滲んでいて。ず、と洟を啜り上げ、っはーと大きく息を吐き出し。手に残るなんとも後味の悪い感触に眉をしかめ。
 犬の死骸の脇に脱力したように座り込むと、足を投げ出し傍の壁に凭れて建物に切り取られた冷たい夜空を見上げた。

「…………気分悪……」

 充満する血の匂いに呻くように呟いたが、しかし動く余力がないかのようにその場で固まったように。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にサテラさんが現れました。
サテラ >  
「えーっと、たしかこっちの方から……」

 軽い散歩のつもりで歩いていて、うっかり迷い込んでしまった貧民地区。
 こんな場所もあるんだと興味をそそられるが、治安が悪いとも聞いていた。
 面倒ごとに巻き込まれる前に引き返そうとしたら、血の匂いに混じって、悲鳴のような女性の声が聞こえた気がした。

「……ここかな――っ、うわ、大丈夫っ?」

 薄暗い路地をのぞき込めば、猫と犬の死体に、血塗れになってぐったりとしているように見える、女の子。
 駆け寄りながら駆けよれば、女性の前に膝をついて、顔をのぞき込むだろう。

「よかった、生きてるね。
 ……犬に襲われたの?
 大丈夫? 怪我はしてない?」

 そう声を掛けながら、自分の服の袖で、涙か血か、彼女の頬を拭おうと手を伸ばす。
 

ティアフェル > 「………?」

 ぼんやりと、生気の失せた双眸で夜空を仰いで何をする気にもなれずに路傍で座り込んでいたが。
 そこへ近づく足音と女性の声。
 声を聴きつけてやってきたようだ。惨状を目にして驚愕したような声が聞かれれば、大儀そうにそちらを向いて、っふ…と息を抜くような淡い笑気を零した。

 そりゃ、驚くよなあ…と得心しつつも血みどろな現状に自嘲気味に口端をゆがませていれば、光景に驚いて後進するどころかそのまま近づいてきて、膝を屈する小柄な女性。

 覗き込む双眸を見返しては、ぱた、と瞬きをしてじ、と見つめ返し。

「はあい、生きてる生きてる。元気溌剌とはいかないけど、ね。
 そう、その狂犬……もう死んじゃってるけど……ちょっと咬まれただけよ。
 平気……
    ありがと……ふふ、汚れちゃうよ?」

 気遣ってくれる科白に若干擽ったい気持ちではにかむと、頬には返り血がべったりと付着して、伸ばされる彼女の白い手が汚れてしまう、と微苦笑気味に呟いた。

サテラ >  
「えっ、かまれたの!?
 だめだよ、どんな病気持ってるかわからないんだからっ」

 汚れちゃうよ、の言葉も気にせず、袖口で彼女の頬をそっと拭うと。
 そのまま彼女の頬に手を添えて、じっと瞳をのぞき返す。

「……綺麗な瞳。
 っと、咬まれたのはどこ?
 応急処置しなくちゃ!」

 そう言いながら、あちこち返り血に濡れたところへと手を伸ばして、怪我がないかと彼女の身体を探ろうとするだろう。
 

ティアフェル >  彼女とは対照的に咬まれた当事者はへら、と気の抜けた笑みを浮かべながら、

「犬だからねー。咬むよねー。ほんとやだー。
 ………ま、ね……野犬だし、ほっとくのは得策ではない」

 あーあ……
 頬に飛んだ血を拭ったために汚れてしまった彼女の袖口を見て眉が下がる。
 紅い染み、ちゃんと落ちるだろうかと気になったが、そんなこと構わずに見つめ合う形になった双眸に無意識に見入り。
 そして、綺麗な瞳、とちょうどそう思っていたところで同じ科白が聴かれたので、一瞬きょとんと眼を瞬き。それからふっと目元を緩めて。

「ありがと、あなたもね。
 え、っと……脚、だけど……わたし……ぁー……ちょ、と…待って……擽ったい、よ……」

 血染めの身体に傷口を探ろうとする手が触れれば思わず肩を揺らして、笑声を零しては。
 ヒーラーだから、自分で何とかする、と云いそびれて。
 それから、少し考えて、いいや甘えちゃおう。と通りすがりの親切な女の子の善意に嬉しがって乗っかる気で正体を隠した。