2023/10/03 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にホウセンさんが現れました。
■ホウセン > その日、ちっこい妖仙の機嫌は、お世辞にも宜しいものとはいえなかった。
剣呑さを垂れ流しにするには、生来の面の皮の厚さが阻害要因となっていたとはいえ。
概要はこうだ。
貧民地区を根城としている、合法違法のライン上でタップダンスをしているような輩から取引を持ち掛けられた。
相手の素性は兎も角、支払い能力があれば客扱いをする方針で商談に応じた。
さて、品物を収めていざ支払いとなった段で――事前通告なしに金銭ではなく”現物”での支払いを持ち出したのだ。
しかも、差し出されたのは、表立っての取引が禁止されている中毒性の強い粉末。
つまり、換金するにしても取引の材料にするとしても、実入りを得るには否応なく非合法行為となる。
「ほう、ほう、ほう。
嗚呼、うむ、これが何かを理解しておらぬ訳でもなく、相場を踏まえて評価するなら割増料金の内には入るのじゃろうが。」
貧民地区の廃屋。
王都の外殻部に近いエリアは、スラム街よりも人気が無い分廃墟に片足を突っ込んでいる。
ぽっかりと天井が抜け落ちて、毒々しいぐらいに丸く大きな月が照らし出す中。
妖仙と対峙するのは、如何にも暴力が服を着て歩いていますといった大柄な男たちが幾人か。
翻って、この場に最も相応しくない風体の商人側は、子供にしか見えない妖仙一人。
もう誘拐して追加の駄賃を稼いでくださいと言わんばかりの状況である。
■ホウセン > 北方帝国の辺境でしかお目にかからない装束を身に纏い。
貿易商の跡取りという肩書を持ったお子様。
それらのステータスを引き合いに出さずとも、明る過ぎるきらいのある月光に照らされた美貌は。
体の線の細さは年齢相応だというのに、酷く完成された風情を醸し出す。
それこそ好事家が、大枚をはたいても購入に躍起になる程度には。
人間が商品になり、しかも男たちはその流通ルートに幅を利かせているであろうことは疑いない。
虫の知らせというのもあったのだろう。
だからこそ、妖仙はこの場に単身で現れたのだ。
「いやはや、こうなると丁稚を伴わずに来たのが正解に思えて仕方ないのぅ。
あー…単なる独り言じゃから、お主が気にするものではありゃせんよ。
どちらかというと、どうやって落とし前を付けさせるべきかという方が、喫緊の課題じゃろう。」
”落とし前”なんて単語を用いるのは、相手に責があると直言するのに等しく。
虫の声だの梟の鳴き声だのしか届いてこなかった静かな一帯に、一層の静寂が積み重なる。
取引が終わって一仕事終えたという、お気楽モードで談笑していた男達の目に敵意を一段飛ばしして害意が溢れたせいで。
強面を活かした無言の威圧なんて、日頃から呼吸をするように撒き散らしているのだろう。
発火点は予想以上に低い。
「なぁに、この場でこれを受け取ったら、それだけでお主らにゆすりたかりの種にされることは目に見えておるからのぅ。
斯様なものを臆面なく差し出す胆力は、見上げたものじゃがな。」
妖仙とて非合法な文物を扱うことも間々あるが、それは自身の決断によって行っていること。
断じて、他人に仕向けられて議論の余地なくするものではない。
このちんまい人外の我侭っぷりは、指図されることを好まず。
故に、黒く大きな瞳に不穏な光が灯る。
当人にしては、至極普通の行為。
人間の小童程度に抑えていた存在としての規模を、強度を、”元に戻した”だけだ。
長い時を閲してきた呪いの権化。
その人外の気配が、他の何者かを引き寄せることにならずに済めばよいのだが――