2023/09/05 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にフィニスさんが現れました。
フィニス > 礼拝堂の天窓からは、蒼い月明かりが静かに差し込む。
汚れ、埃を被っているけれど、割れた硝子の隙間が
その本来の役目を果たしているのは何の皮肉だろうか。
貧民地区の、棄てられた廃教会。
礼拝堂で祈る者もなく、祭壇に飾られた神像が、無意味な時代の目を信徒席に向けている。
それを、蒼い瞳が見つめ返していた――。
薄っすらと、まるで燐光のように夜に光る蒼い双眸。

「こういうものに――祈ったりするのかな?」

淡く、小さな唇から疑問の声が零れる。
子供が、特に彼のように学院の制服を丁寧に着込んだ子供が出歩くには
不似合いな場所で、不似合いな時間だ。
貧民地区の奥の方に位置するこの場所で、夜中。
何があってもおかしくない――例えば従者ならばそう窘めるだろうか。

けれど、そんなことを気にした風もなく
列を為す信徒席の狭間、薄汚れた通路の真中で、神像を見上げる。
半分壊れた扉の隙間から、流れ込む風が柔らかい黒髪を乱す。
柔らかい表情を浮かべた、蒼い瞳に映るのは興味の色。

何故、こんな場所があるのか。
何故、こんなものに祈るのか。
――きっと、どれだけ説明されても、理解しても、実感はできない。
けれど、此処はとても興味を惹く場所だ。
だから、祈るでもなく、懺悔するでもなく、ゆっくりと祭壇に向けて歩を進める。
よく磨かれた靴が、埃の上に足跡を刻んで、汚れてしまうのにも構わずに。