2023/08/19 のログ
■アニエス > 「あ、え? あー、えーっと。……お疲れ様っす」
ぺこり、と軽く頭を下げた少女は、いぶかしげな様子を隠しもしなかった。
平凡な少女なのだ。戦力だけでなく、思想的な部分でも。
一部の長命の種族だとか、革新的な思想の持ち主達とは違う。ミレー族を見れば身構えるのだ。
別段、ミレー族に不利益を与えられた訳でもないが、
〝あれは自分達と同格ではない〟という意識は、明確な言葉としてではないが、なんとなく頭の中にある。
だから、幾度か顔を合わせている筈の相手を、まるで不審者のように見る。
「まー、ひとり……っすけど、ナンパとかだったらダメですよ。一応これでも仕事中ですし」
これ見よがしに槍の柄を、かぁんと石畳に打ち付ける。
初対面のようなそぶりは、つまり──ミレー族の顔を覚える努力をしていない、というわけだ。
■フセスラフ > 「……………………」
別に、覚えられていないのはいつものこと。自分も生き残るので精一杯。
だが、それでも自分はいつも彼女たち一般兵士すら盾として使われているのに。
こんな不審者みたいに見られるのは、なんというか……ひどいのではないだろうか?
そう思った瞬間に、胸の中でだんだんと不満が燻り始める。
「はい……。いや、一人で大丈夫なのかなと。そう思っただけです」
打ち付けられた槍の音に、一瞬ビクッとする。
脅されているのか。牽制なのか。どちらにせよこれ以上近づくのを許さないと言っているのだろう。
―――俺に守られているくせに。
「まぁ、ナンパなんてそんな。畏れ多いですよ……。
このへん、暴漢がたまに出るそうなんで気を付けてってぐらいで。ははは……」
なんて、愛想笑いの仮面を被ってその場を通り過ぎようとするが……。
■アニエス > 「あー……ご心配なく。いっつも歩き回ってる仕事場ですんで。
まー、そりゃ危なっかしい世の中ですけど、死ぬわけじゃなし」
言葉では応じているが、その態度もそっけないと言おうか、警戒心があからさまと言おうか。
もし相手が自分より小柄なら、手で追い払っていたのやもしれない。
〝凡人なら〟一歩や二歩では踏み込めない距離を保ち、じろじろと視線を向けたまま、
「ええ、どーもどーも。気をつけるっすよ」
と生返事。そのまま擦れ違って、何事もなく終わる筈の邂逅──
「……暴漢っぽいのが何か言ってる」
ぼそり、と。
聞かせるつもりで言ったわけではなかろう。嫌がらせの意図ですらあるまい。
ただ、無神経さと偏見がセットになって、口から零れ落ちただけの呟き。
小さな声ではあったが、夜の静けさと獣の鋭敏な感覚──聞き取れるのやも、しれない。
■フセスラフ > 「――――」
通り過ぎてから、それがもっと、遠くであればよかったのだが。
いや、遠くであってもこのミレーは耳聡くその声を、言葉を聞いていただろう。
気が付いたら、獣は女兵士の腕を掴んでしまっていた。
「…あ…………」
不満が爆発したのかはわからない。だが、気が付けば青年は踏み込んでいた。
彼女の目にも留まらぬ速度、かつ。彼女では振りほどけないほど力を籠めていて。
止められない、もうここまで来たら、目が合って。次に彼女が飛んできた言葉を聞けば。
「―――だったら今ここで殺して、やろうか。
ぼ暴漢の仕業なら、おれがやっても、ここで、死んでも…誰も知らないふりをするだろうし」
ガン!とそのまま建物の壁に力任せに押し付けて。
槍を握る腕を、ギリギリと締めあげるように。
■アニエス > ……巡回兵士の標準装備である槍は、さほどの役に立たなかった。
すれ違い、通り過ぎる瞬間に後ろから狙われては──いいや、正面から向かい合っていても同じ結果ではあろうが。
武器を振りまわすには間合いが近すぎる。
鎧の金属部を軋ませる握力──腕甲越しに腕が圧迫される、苦痛。
「ぐっ!? ……ちょっと! 誰かいないっすかぁー!
ミレー族が暴れてるんで、どうにか、誰か────」
救援を求めることに迷いは無い。少女兵士は声を振り絞って叫ぶ。
必死に捕まえていた槍も、手指の力が保たずに取り落とし、片手は男の身体を殴りつけたりもするが。
腕甲の重さと強度で補っているとはいえ、小柄で非力な少女の腕。
抵抗しているという事実の他に、なんの効力もあるまい。
■フセスラフ > 叫ぼうとした彼女の口に、迷いなく腕を突っ込む。
すぐに嚙み千切ることをするのに彼女は抵抗はないだろう。だから。
その舌の根を掴み、さらに腕を突っ込んで顎を閉じることを出来なくさせる。
舌を掴まれてしまえば、人間に限らずあらゆる動物が歯を立てて噛むことが出来なくなる。
「これ以上騒ぐと舌を千切るぞ。それぐらい出来るのはわかってるよな?」
そう聞きながら、ぐい、と痛みを感じる程度にはさらに舌の根を引っ張り。
苦痛を与えることになんの遠慮もない。彼女はそれだけの事をしたと。
そう自分に訴えかけて、もう片方の腕で少女兵士の首を握り、持ち上げる。
鎧を着ていても、巡回用。重いは重いが、男性よりも軽い。
「死にたくなかったらおとなしくしていろ。出来ないのなら……その首を握り折るぞ」
月夜の下。その狼男は、戦場でしか見せないような酷く凄味のある声と表情を出して。
顔自体は整っている方。だからこそ、逆に恐ろしさを感じさせるかもしれない。
どちらが主導権を握るかなど、聞くまでもないだろう。
「わかったら言う事を聞け。出来ないのなら……俺は死んででもお前を殺す」
■アニエス > 口を埋める指数本、首に回る指数本。
それだけの力で行動を制御出来てしまう程度には、〝ただの兵士〟は非力な存在だった。
足が石畳から浮いて、体重が首にかかる。自重で首が絞まり、骨が悲鳴を上げる。
ばたばたと脚を動かし藻掻いても、捕食者の手指は緩みもしない。
「っが、ぐ……っ、ぁ、かっ……!」
たまりかねて、首を掴む手を、両手でバシバシと叩く。
兵士同士の徒手格闘訓練で、組み敷かれた側が降参を示すジェスチャー。
ほぼ出せない声の変わりにジェスチャーと、掠れた吐息と、苦痛に滲み出る涙が答えだ。
この後に及んで相手をにらみ返す気丈さなど持ち合わせない少女は、躊躇い無く命乞いに走るだろう。
■フセスラフ > そのジェスチャーに、ミレーは彼女を床へと放り投げる。
そのまま、命乞いに走るだろう少女へと、容赦なく。
「脱げ」
と、威圧感をそのままに要求する。あるいは、多少の気丈さのある兵士であれば行為を止めていたかもしれない。
だが涙を流し、戸惑いすらなく命乞いに回るのなら……どこまでも容赦はみせない。
相手もまた、偏見と立場の強さからこちらを下に見て容赦なくこき使ってきたのだ。
「どうした、早くしろ。出来ないなら指の一本でも落としてやろうか?」
そう告げて、鋭い爪を見せれば、月の光に反射してひどく恐怖を煽るかもしれない。
■アニエス > だん! と地面に投げつけられて、ようやく呼吸を取り戻す。
深呼吸を幾度か。それから、けほけほと咽せて咳き込んで、手の甲で目元を拭う。
横たわったまま見上げる目は、警戒心と恐怖を露わに。
しかしその上で、生まれた時からの〝正しい教育〟は、そう簡単には抜けない。
「……力尽くじゃなきゃ、相手してくれる女もいないんすね。
女ひとりにムキになるような雄、犬の間でもモテないとか……」
〝売り言葉に買い言葉〟の反抗心が悪態を吐かせながらも、身体を起こす。
まだ痛みに震えている指が、腕甲や脛当ての留め具をひとつずつ外していく。
からん、からん、石畳に金属が落ちる音の度、少しずつ身軽になっていく少女。
やがて銅を覆う金属板まで降ろしてしまうと──
「……ええい、わかったっすよ……!」
そこからは、やぶれかぶれになったように。ばさあっ、とまずは薄手のシャツを、下着ごと脱ぎ捨てる。
露わになった上半身は、小さな傷こそあれ、致命傷に繋がる大きな傷跡は無く。
細すぎもせず太くもない程度に、肉付きの良い、程よく鍛えられた身体。
ズボンのベルトにも手を掛ける。ぐいっ、と、やはり下着ごと足首まで引き下ろす。
頭髪より少しだけくすんだ体毛が、うっすらと生えそろう下腹部まで曝け出されて──少し遅れて両手がそこを覆い隠した。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」からアニエスさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」からフセスラフさんが去りました。