2023/08/12 のログ
ジーゴ > 「うっさいんだよ、オレ金かせがないと」
体に力が入らない。
すぐに走って逃げられないことは自分でもわかる。
観念して、見上げていてもその目は普段よりも意志の強いもの。
ぎりりと頭を握られても、獣の牙を向いてジーゴは怒りを露わにしたままだ。

「だって、オレかせがないと…」
怒りと焦りが声に滲む。
ご主人様が歌った癒しと鎮静が効いているのだろう。
普段は決して言わない本音がこぼれ落ちる。

「オレ、金かせがないと、いらない子っていわれたらこまるから…」
ぜんぜん、金かせげないし、なんとかしないと…
続く言葉は嗚咽に混じってもう言葉にならない。
はらはらと涙がこぼれ落ちて、涙が裏路地の土にまみれた地面の色を変えていく。

ヴェルソート > 「………………はい?」
こちらを睨まんばかりに見上げ、歯を食いしばり、何かを言いかける様子に…手を緩める代わりにじっと見降ろして…言葉を続きを待つ。
そして、泣きながら紡がれた言葉に…今度はこちらが困惑した。

「……あ~…えぇっとな、ジーゴくん。」
ぽたぽたと地面に吸われていく涙に頭を掻きながらも……自分もしゃがみ込んで、隻腕で少年の頭を抱き寄せよう。

「俺は人から盗るくらいなら自分で稼げとはいったけど、稼がなきゃ要らんとは一言も言ってねぇぞ?
 そも、そんな簡単に要らない子ってぽいするなら、最初から買わねぇわ。」
もっとこうおろおろしたり言い訳したりすると思ったのに、泣きながら吐露されたもんだから、頭に浮かべていた対処が吹き飛んでしまった。よしよし、と頭を撫でたり、背中をぽんぽんと叩いたりと、隻腕が忙しなく動いて。

「そもそもジーゴくん、自由になりたいから、俺に購入資金返そうとしてたんじゃねぇの?」
そうだと思って、渡してきた分は貯めてあるのだ。まぁ、それはちょっと寂しいなぁ、なぞとは思っていたのだけど。

ジーゴ > 一度決壊した感情は自分でも全然止められなくて
涙がただただこぼれ落ちる。

「だって……ぜんぜん金かせげない奴隷なんていらないじゃん。
家事だって別に…オレがいなくてもだいじょうぶだし……
えっちなこともしなくていいんでしょ?」
嗚咽まじりにゆっくりと話した。
家事だってやっていることは手伝い程度、外で働いてきても主人の稼ぎには
遠く及ばない小遣いのような額しか稼げないし、夜のご奉仕を命じられるわけでもない。
奴隷として主人の役に立たないといけない、という強迫観念が強いミレーにしてみれば、いつ捨てられてもおかしくないと思うのが現状だ。
その心配はもちろん主人に相談できるものではなく、ただ稼がなきゃ、役に立たなきゃと焦ってる奴隷は、何をしたらいいかももうわからなくてこんなことになってしまっている。

「え?オレ、ごしゅじんさまの奴隷がいい」
撫でられると、狼の毛がツヤツヤした頭を甘えた猫のように擦り寄せる。
涙は少しずつ落ち着いてくる。
「ヴェル、オレのこと買ってくれたけど、お金たくさん払わせてごめんなさいって思ったから」
奴隷が主人が自分を買った金を返そうとしていることの意味もわからずに、
街中で出会っただけなのに自分を買ってくれた相手に恩を感じての行為のようだった。

ヴェルソート > 「……や、別に…何かしてほしくて買ったわけじゃねぇからなぁ。
 まぁ、家事してくれるのは助かる、やっぱ片腕だとしんどいし。
 えっちな事は……まぁ、今だとなぁ、保護欲のが基本でかいからなぁ。」
ゆっくりと、嗚咽混じりに、決壊した感情を吐露する少年の頭をゆったりと撫でながら、話を聞く。
でも、そういうことじゃないのだろう。何か役に立たなければ、と焦る気持ちは、わからなくもないのだ。
自分も、奴隷であったのだから…。

「……ん?いやまぁ、別にそれは止めねぇけど。
 俺があれこれ教えてるのは、いつかジーゴ君が自由になりたくなったときに、一人でも生きてられるようにだ。
 別に追い出したいわけでも、金を稼がせたいわけでもない。
 人の物盗むくらいなら、自分で稼いで買えとは思うがね。
 まぁ、独り立ちをせかしたいわけでも、ジーゴ君に借金させたいわけでもねぇから…歌と男娼はおじさんの天職だからやめる気ないし。
 万が一、俺が爺さんになってもジーゴ君が傍に居たら、身の回りの世話全部任せるかもな。」
最後にけらりと冗談めかしながら…ぽふぽふと、背中をたたき、撫で、擦る。

ジーゴ > 彼なりに話は懸命に聞いているようで時々頷いた。
奴隷としての価値観で動いている彼には、
『何かして欲しくて買ったわけじゃない』というのは
なかなかわかりにくいことだけれども、
とにかく、彼が思い込んでいたほどご主人様が彼が稼げていないことを
悪く思ってないことは理解した。
ようやく、涙もおさまってきた。

「オレね、ヴェルに買ってもらってから色々楽しいことあるの。
ごはんもおいしいし、おふとんもふかふかだし、
お外もいけるし、おともだちもできたの。
だからずっとこのままがいいな」
癒しと鎮静の歌の影響か、普段よりも少し幼い言葉はその分本音だ。
自分の背中を撫でてくれる手を手繰り寄せるように握りしめる。

「おうち、帰ろ」
さっきは一歩目で力が入らなかった足も随分力が入るようになってきた。

ヴェルソート > 「大体、稼げてないのを俺が気にしてたら、わざわざ危ない冒険者じゃなくて歌でも教えた方が確実じゃねぇか。…それとも、歌でも習うか?」
とはいうものの、彼の価値観ではいまいち、伝わっているかも怪しい…とりあえず、稼げてないから捨てる、というなら、そもそも買ってないことは、伝えて頭をぽふぽふと撫で。

「うん、うん…そっか、大丈夫。ジーゴが居たいだけ居れば良いさ。」
そう言って、撫でる手を手繰り寄せる手に目を細め…額にとん、と軽く唇を触れさせて。
少しばかり幼児退行したような少年の態度に…少しだけ甘やかすよう。

「そうだな、俺も今日は眠いわ。かえって寝ような。」
もちろん、ふかふかのベッドでな、と小さく笑い…手をつないだまま、立ち上がる。

ジーゴ > 「えっちなことが一番かせげるよ?」
安心したように笑っているけれど、確かにあんまりわかっていない狼であった。


手に入れた大切なものを握りしめるように
ご主人様の手を握りしめて、家の方に歩き始める。
家に帰ってからもその手を離さず、ご主人様のベットで一緒に寝る、と
言って聞かなかったジーゴの寝顔はいつもよりも安心したものになるだろう。

ヴェルソート > 「縦と横にもうちょいでかくなったら考えてやるよ。」
子供は子供らしくでかくなりやがれ、と苦笑いと共に…夜の闇の中、家路をたどるとしよう。
今日は飛び切り甘えてくるものだから…せいぜい、甘やかしてあげようじゃないか。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区」からジーゴさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」からヴェルソートさんが去りました。