2023/08/03 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にマリアローザさんが現れました。
マリアローザ >  
「―――――― ぁ、 んっ…… 」

突然髪を掴まれ引き剥がされて、思わず不満げな声を洩らした。
その手の主はそそくさと着衣を正し、後も見ずに飛び出して行く。
跪いた物陰に取り残されて、娘は暫し茫然とその人物の去った方を見つめていたが、
やがて、不機嫌そうに顔を歪め、苛立たしげに息を吐いて、

「……何なの、これからというところで…… あぁ、もう、
 せめて、出してから行ってくれれば良かったのに……」

濡れて汚れた口許を、先刻引き剥がされたばかりのヴェールで乱暴に拭った。

貧民地区と呼ばれる界隈、見知らぬ男に腕を掴まれ、
物陰に引き摺り込まれてから、まだ、ほんの数分といったところ。
いきなり跪かされ、口淫を強いられたのは良いとして、
射精させる前に抜き出され、打ち捨てられてしまったのには納得がいかない。
何に怯えていたのだか、誰か近づいてくる気配でも感じたのか。
娘の位置からは、その『誰か』も『何か』も、見えていないけれど。

「……誰か、そこに居ますの……?」

そんな声を投げたのは、半ば自棄を起こした所為。
その『誰か』か『何か』が、折角の遊び相手を追い払ってしまったのなら、
代わりに相手をしてもらおうなどと、無謀なことを考えた所為だ。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にエリビオさんが現れました。
エリビオ > 投げつけた林檎は乱れなく放物線を描いて浮浪者の頭にぶつかり。
悲鳴をあげて逃げ出していく。
いつもやってるほんの些細なお節介。

そのまま路地裏へと歩み寄り、逆光を背負いながら片膝ついて。
手を差し伸べるのもいつもやってるお節介。
そして――

「大丈夫?妙な奴らに襲われてたから助けようとしたんだけれど」

襲われていた女性は恐れるどころか苛立ち露に声を投げかける。
余計なお節介だと気付いて折り曲げた長い足を伸ばして気まずそうに頭を掻くのも。
いつものこと。

「あー、ごめん。お楽しみのところだったのかな?
 さっきの男連れてこようか?」

困ったように眉尻を下げた相貌で、せめて相手を立たせようと手を伸ばした。

マリアローザ >  
声に反応したというより、彼にとっては恐らく、一連の動作として。
物陰に姿を現し、膝をついて、此方へ手を差し伸べてくる―――――

「―――――… こども、じゃありませんの」

生意気なこと―――――半ば独白めいてそう零し、もうひとつ溜息を吐く。
見たところ学生風、すらりとした背格好ながら、恐らくは年下、未成年。
遊び相手としては、いささか期待薄と思われて、娘はますます不機嫌になる。
親切のつもりで差し出されたのだろう手を、睨むように見つめて。
先刻、口許を拭ったヴェールをその手にふわりと乗せ、自ら、ふらつきながらも立ち上がろうと。

「結構よ。
 きっともう気が削がれて、使い物にならないわ」

合意の上で、いちゃいちゃと楽しみたかったわけでもない。
少し邪魔が入ったぐらいで逃げ出すような男も、此方から願い下げである。
意地でも彼の手は借りないつもりか、よろけても支えにするのは、傍らの煤けた壁だ。