2025/02/24 のログ
ご案内:「王都マグメール 王城 資料室」にアダンさんが現れました。
■アダン >
アダンは、神について積極的に調べようとしたことなどなかった。
いや、正確に言えばそれが己の益になるのであればいくらでも調べはしただろう。
異端・邪教の類、それらへの信仰については調べたこともある――異端の罪で、自らの政敵を陥れるために。
自らの出自が名門という背景を用いた誣告であれど、何にせよそれらしければそれらしいほどよい。
政敵が異端に手を染めるに至るストーリーを構築するために、異端の類についてしっかり調べたことはある。
ミレー族の信仰するというアイオーンについてもそうだ。
この神については大したことはわからないままだったが、異端の神としてはこれほどちょうどよいものもない。
アダンはこれらの存在についてはある程度の知識は持っていた。
とはいえ、それは主にそれらの神への信仰や教団についてのものであって、信仰されている神そのものを深く調べる必要はあまりなかった。
アダンは聖職者ではない。神学的な論争など興味の外である。誣告さえ行えば、後は勝手にノーシス主教の神官たちがやってくれる。
ましてや、異端や邪教、異教の神ではなく、ノーシス主教の主神たるヤルダバオートについてはなおさらだ。
それを深く調べたところで、アダンが得るものは少ないように思われた――そのはずであった。
だが、あの聖女を称するバティスタとの一夜において、「かみさま」について調べると「思わぬモノが見つかるかも」などという言葉が囁かれた。
彼女の修道会がノーシス主教に属する以上、「かみさま」と言えばヤルダバオート以外にはまずありえまい。
普通ならば、狂女の戯言として一顧だに値しないものだ。
あの女は明らかに普通ではなく、彼女の修道会もまた清廉なものではなかった。それは彼女自身が言っていたことだ。
異端の科で告発することもできるだろうが、熱心な信者が多いことも考えれば、アダンに危険が及ぶ可能性は高い。
彼女の修道会については、ひとまず放置しておくがいいだろう。
王都や王国の情勢がさらなる混沌の体に至るならば、アダンのような腐敗貴族には都合がいい。
それよりは、あの聖女がまことしやかに語っっていた「かみさま」について調べるべきだった。
彼女の言うことが虚言であったとしても、調べる価値はある。
ヤルダバオートに何かしらの邪悪なるものを見出したなどと放言すれば、自らの身を滅ぼしかねない。
ナルラート朝のことを思えば、そのような危険を犯す意味は薄い。あの女の奸計という可能性もあるだろう。
しかし、アダンに埋め込まれた芽は確かに彼を動かしていた。危険ではあるに違いないが、意味があるものだとこれまでの経験が告げている。
故に、アダンは王城の資料室に足を運んでいた。
■アダン >
「ふん、やはりこんなものか」
王国の歴史、信仰史、神話の類……それらを眺める。
しかし、ここで大した情報が得られるはずもないということも、アダンは理解していた。
一般に閲覧できる資料で、ヤルダバオートの何かしらの秘密を知ることはできるはずもない。
案の定、ヤルダバオートの栄光を称えるような文言はあれど、ヤルダバオート信仰への疑いを抱かせるような記述は見つけられなかった。
となれば、次に集めるべきはミレー族に関する情報だろう。
ヤルダバオートを偽の神と呼ぶ彼らの戯言が、万一真実を含んでいるのであれば……そこから手繰り寄せられるものもあるだろう。
ミレー族について熱心に調べているなどとなれば、それはそれで余計な疑いを呼びそうであるが、ことアダンに関してはそれが善行につながるものであるはずもなく、ある意味では問題がないはずだ。
そんなことを思案しながら、開いていた本を閉じ、アダンは王城の書庫の椅子に腰を下ろした。
目の前の机にはいくつかの書物が置かれている。歴史、信仰、神話に関するものだ。
アダンの裏の顔を知るものであれば、急に向学心や信心などに目覚めたのかと訝しむだろう。
あるいは、また何かしらの悪行のための情報を集めているのか、と。
■アダン >
しばらく調べ物をした後、単純な調査では求める情報には至らぬとアダンは判断した。
次の策を講じるため、閲覧していた資料を片付けた後、資料庫を後にした。
ご案内:「王都マグメール 王城 資料室」からアダンさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 王城 資料室」にボスさんが現れました。
■ボス > 神は人間の意思に応える。
それが正であれ負であれ、思いの強さはすなわち力。
ただ、少しばかり時間軸の調整を誤ったようだ。
黒衣の男が現出した際には、そこは無人であった。
「加護を与えるに足るものがいるかと思ったのだが……うまくいかんものだ」
書架を眺める。ほとんどが己を賛美するものだが、根拠のある物は皆無に等しい。
著者のどれも名に覚えがない――人間の名を覚える神などいない、と言ってしまえばそれまでだが。
手持ち無沙汰に右手の指先が空を切る。
紙巻煙草をここで使うのはよろしくない。火そのものはもちろん、煙も本には厳禁だ。
神への意識が強い者がここに再び訪れる可能性を減らしたくはなかった。
指先でくるくるとバトンのように紙巻煙草を回す姿はさも滑稽に見えることだろう。
■ボス > 「ふーむ……」
廊下はせわしなく人が行き交っているが、この資料室に足を踏み入れる者はいないようだ。
足元を見てみれば一人分の足跡がくっきりと残っている。
もしかしたら半ば忘れ去られた場所なのかもしれない。多くの書物の上にも埃が被っている。
適当に一冊抜いてページをめくる。
「イオンももう少し信徒を信じれば良かったのになぁ。今ではこのザマか。
なんというか……報われんものだ」
黒眼鏡の奥で目を細める。
書物に記されているのは当事者が見たら腹を抱えて笑うような内容だ。
だがこの書物を執筆した者は大真面目に書いたのだろう。
歴史は勝者が記すというが、ちょっと行き過ぎではないか――そう、男は思う。
■ボス > 「……ふむ」
いくつか書物に目を通したが、やはり気を引くものはなかった。
時を告げる鐘が鳴る。これからどこへ行ったものか、あてもないまま男は扉へと向かい――煙のように消えてしまった。
ご案内:「王都マグメール 王城 資料室」からボスさんが去りました。