2024/03/11 のログ
影時 > ――偶にはこういう仕事も良いのか、悪いのか。

純粋に悪い、とは言い難い。仕事があるのは良いことだ。そしてその仕事を選り好みできる身でも何でもない。
仕事上の先約、雇用主の観点での優先度は自分の中で設けていても、オファーがかかった仕事を断れる立場にはない。
ただ、如何によっては退屈な時間を過ごしかねない。殊に護衛、警邏と言う仕事は特にその傾向が強い。

王城で貴族、資産家を交えて不定期に開催される仮面舞踏会。
集まりの護衛に駆り出されるのは、王城に詰める兵士や騎士だけではない。それぞれお抱えの私兵、子飼い、あるいは冒険者だ。
その一番最後の対象で、冒険者ギルドから指名される側は名誉どころではないことが多い。詰まる所、だ。

「……面倒が過ぎる上に、退屈なんだよなァ……」

楽団が調べを奏で、様々な仮面をつけた老若男女が飲み食いし、踊る。あるいは如何わしい行為に耽る。
王城の一角に位置する広間の一つの隅で、胸の前で腕組みしながら見遣る姿が一つある。
白い狐の面で顔を隠した、羽織袴姿の男だ。
面に穿たれた覗き穴より視線を巡らせ、異常なーし、と零しては溜息をつきたげに肩を上下させる。
実際に面倒だ。人が入り乱れる中、害意を成そうとする姿を見つけ阻めというのは、経験があっても実に面倒だ。

「取り敢えず、契約の時間まではあと少しとは思うが……ン?」

契約内容として、定められた時刻を過ぎれば交代が来る。引き継いだ後は自由になれる。
それを思い返していれば、ちょろちょろと肩に登ってくる小さな姿がある。
シマリスとモモンガだ。ただ、彼らの姿は普段と大きく違う。
白地に青色のストライプが入ったシャツと短ズボンを着込み、ケープまでつけて、金細工の冠を被ったシマリスと。
そして、相方のモモンガは黒いマントと耳を出す切り欠きがついたハットを被ったうえに、モノクルを模した金細工までつけている。
親分たる飼い主以上に、妙に堂に入った仮装姿が肩上に二匹上り、ふー、とばかりに息を吐く仕草をしてみせる。

影時 > 「なンだ、お前らよう。着せろ着せろと出掛ける時にせがんだ癖に、すっかり気疲れしてるじゃねえか」

イケてる毛玉は空気を読める、とばかりに、二匹は飼い主の仕事に引っ付いていく際に着替えを強請ってきた。
飼い主たる親分の手持ちで一番高価で、なおかつ他人の前に出ても恥ずかしくない服の手持ちは多くない。
だが、小動物たちは違う。生まれたままの毛皮でも事足りても、場所の雰囲気を予感したのだろう。
その結果がこれだ。普段着と同じ加護に加え、小物が落ちない一揃いとしてエンチャントされた特注品は、まさにぴったりだった。
とはいえ、おしゃれな小動物がちょろちょろと闊歩していたら、それだけで注目を浴びたらしい。
どこか草臥れた風情で、飼い主の肩上でくつろぐ姿に袖の中を漁る。指先に触れる小さな袋を取り出して、

「怪しいのでも目についたか? ン?」

予め殻を剥き、細かく割った胡桃の欠片をそれぞれに与えつつ、尋ねてみよう。
左肩にモモンガ、右肩にシマリスという位置取りで一休みしたげな二匹が、受け取るものにぱぁぁ、と喜色を示す。
すぐさま齧り出しながら、やや遅れて問いかけに小首を傾げ、尻尾をぱたつかせてみせる。
いまいちハッキリしないのは、目につかなかったというよりは、どこもかしこも怪しい匂い、雰囲気ばかりだったと云いたいのだろうか。

(……――だよなー)

その様子に内心で苦笑を浮かべつつ、おかわりをせがむ姿に追加で胡桃の欠片を与えよう。

影時 > 「……っと、すまんね。もう時間かい?」

両肩、または頭の上に毛玉たちを遊ばせたりしているうちに、時間となったらしい。
交代を呼び掛けてくる同業者の到来に、あいよと片手を挙げて応え、一旦広間の外に出よう。
然るべき手続等を済ませれば、控室で休むとしよう――。

ご案内:「王都マグメール 王城【イベント開催中】」から影時さんが去りました。